◆ 1999年2月中旬 ◆

2/11〜20
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2/20(日)……夢之反魂旅行

 プロフィールのところに、ウルトラジャンプの藤原カムイ「福神町綺譚」で俺が登場したときの画像を貼り付けておく。雑誌掲載時はモノクロだったが、ウルトラジャンプの「福神町綺譚」のホームページにはカラーで貼ってあるのだ。

【雑誌】ウルトラジャンプ 3/25 No.27 集英社 B5平
 桜瀬琥姫の新シリーズ「Tir・na・n'g」がスタート。飲んだくれたサラリーマンの男が、町中で突如9月だというのに雪が降っている一角に迷い込む。そこで雪をやり過ごすために入り込んだアンティークショップの少女と話をする内に、失語症の娘を抱えているという自分の悩みにどう向かっていったらいいのかを見出していくというお話。キュートではあるが、骨組みのしっかりした絵柄と、ファンタジックで心暖まる物語がなかなか良かった。大暮維人「天上天下」。前号はお休みだったが、今号はちゃんと掲載。これまであまりいいところのなかったボブ牧原が今回は活躍、というか中心のお話。最初のころは学園バトルものでちょっと安っぽいかなと思っていたのだが、回を重ねるごとにキャラクターもつかめてきて絵のうまさがいい方向に作用してきた。つまりは面白くなってきているということだ。
 松本嵩春「アガルタ」。相変わらず全貌は見えないが、絵が見事にかっこいい。藤原カムイ「福神町綺譚」は、今回はちょっとギャグっぽいミステリもの仕立て。しかも、「さて犯人は誰でしょう」と読者に挑戦して以下次号なのだ。ちなみに今回出てきた容疑者の一人、羆正宗は実際の読者の人。俺もオフでお会いしたことがある。最初からうたわれていた読者参加が、最近どんどん進みつつある。冒頭で書いたように前号では俺も出たし。

【単行本】「夢之香港旅行」 逆柱いみり 販売元:有限會社DANボ 編集:ゆとり文化研究所愚童學舎
 逆柱いみりの限定500部、超豪華単行本。なんといってもパッケージングがすごい。菓子折りのような紙箱の中に、スタンプやら絵はがきやらのおまけと本が入っており、その本もB5と大判。しかも糸で和綴じにしてあるのだ。わら半紙のような紙を一枚一枚半分に折って製本された装丁は手作りの味にあふれている。半分に折っているということは紙の厚みはページ数の2倍分になるので、4cm近いぶ厚さになっている。さらに付録で音楽CDが付いているらしいのだが、俺の買ったパッケージにはなぜか入ってなかった。今度、製作している会社に問い合わせてみるつもり。うう、聞きたかったなあ。で、それだけ手間暇かかっているものだけに、お値段も張る。なんと税込みで1万500円である。でも買わなかったら絶対後悔する。そんなわけで兄貴も予約しようとしていたのだが「販売元から連絡がない」とかいっていたので、ダブリ買いの危険も感じつつ購入する。案の定、その後兄貴も申し込んだばかりだったのでダブリになるところだった。
 内容に関しては素晴らしいの一語。復刊ガロに掲載された「マーマーフーフー」を禅話収録し描き下ろしが追加されているのをはじめ、「夢之香港旅行記」など描き下ろし作品がいくつも。スミベタが黒々としていつつ力の抜けた、混沌としながらのんびりとした画風で紡ぎ出される奇想の数々に圧倒される。夢の世界をふらふらあてどなく散歩するようなその作風は恐ろしいほど独創的。それでいながら読んでいて心が安らぐ、不思議な懐かしさも持っている。手作りな印刷や装丁もその雰囲気に実によくマッチしている。
 値段は安くない。でも買うべし。今なら神保町の高岡書店では売っているはずだ。

【単行本】「SPEED KING」3巻 間部正志 講談社 新書判
 「ノーホシTHEルーザー」の間部正志が、月刊少年マガジンで連載している陸上漫画の第3巻。バカで不良だが、めちゃくちゃに脚の速い末藤「タイガー」が、ライバルの前に一敗地にまみれて本気で陸上に取り組むようになる。今回はかわいい不良娘のエミが出てこないのが残念だが、激しい疾走シーンはなかなか痛快。「ノーホシTHEルーザー」とは違う路線だが、けっこう面白いのだ。でもこの人にはもっと邪悪な空気を発散させた熱い作品を描いてほしくもある。

【単行本】「ねこぢるうどん」2巻 ねこぢる 文藝春秋 A5
 元の青林堂版に、山野一がねこぢるの夢日記を元にして描き下ろした20ページの新作「へんないえ」と追加して再版されたもの。読み返してみて、やっぱり「ねこぢるうどん」は1巻のころの作品が一番話がヒドくて面白いと思う。2巻の時点でテンションは少し落ちている。「やまのかみさま」のころぺた号は好きだけど。ちなみに「やまのかみさま」では、青林堂版で「ユダヤのブタめ」となっていたセリフが、「ブタめ」と変えられている。文藝春秋だとさすがにマルコ・ポーロ事件とかもあったことだし、元のままでは出せなかったのだろう。

【単行本】「悟空道」3巻 山口貴由 秋田書店 新書判
 気づいてなかったのだが、どうも買い洩らしていたらしい。続刊は買っていたのに。このころのお話は透孩児編が終了して、艶天大聖編へ移行するあたり。毎週連載で読んでいるため、1巻飛ばして次の巻読んでも話は分かっているので、案外違和感がなく気がつかなかった模様。


2/19(金)……ナタデココの夜

 神保町でオフ。ウチの兄貴がNIFTYに開設しているパティオのメンバー4人で集まって、神保町駅ビル内岩波ホール下のタイすきレストラン「ムアン・タイ・なべ」にてタイすきを食いまくる。俺と兄が原稿を描いている同人誌の主宰である南研一さん(というかヒタカヒロフミさん)と、おもちゃや漫画などやたら濃い丸止さん、それから兄と俺が参加。以前、テレビで「チューボーですよ!」を見ていたら、タイすきの作り方をやっていて、それを見てタイすきが食いたくて仕方なくなった俺たち兄弟が提案し主催した。ちなみにナタデココは、「なあタイなべ屋で食おう食おう」の略だ。
 タイすきはむっちりもっちりした魚のすり身や、エビを薄い皮で巻いた春巻状のものなどをぐつぐつ煮込んで、辛い汁をかけて食べる。店全体にニョクマムの生臭い香りが漂っていたが、なべは辛すっぱくてたいへんおいしかった。ビバ!タイすき!その後、洋酒系の店で語りつつグイグイとウイスキー系の酒を飲む。集まった面々がオタク的にとても濃いメンツだったこともあり、話がびよんびよん弾みまくり。すごく楽しかった。今年はこういう小規模で突発的なオフをこまめに開催していきたいなあとか思う。
 オフといえば、前からこのホームページの掲示板でアクティブに発言してくれる人と酒でも飲みつつ語り合いたいとは思っているのだが(いろいろとお会いしてみたい人もいるし)、どのくらいの人数になっちゃうんだか全然予想がつかず、告知とかをする気になれないでいる。書き込んでくれる人数からするとけっこうなものなのだが、俺の人徳から考えるとそんなに集まるとも考えにくい。俺としてはオフに限らず、人とお話するような集まりをするときは6人までが限界かなと思っている。それ以上の人数になると、居酒屋とかで座っているとき、対角線の端と端にいる人同士で声が届きにくく、話題が分裂しちゃってあんまり好ましくない。せっかく会うんだから、集まった人たち全員とみっちり話し合いたいのだ。だから10人を超えちゃうなんて場合は、まとめる自信が全然ない。まあ、なんかイベントとか面白い機会があったらやりたいとは思っているのだけど。

【雑誌】モーニング 3/4 No.12 講談社 B5中
 いやー、やっぱりこの雑誌はなんだかんだで面白い。捨て所があんまりないのだ。リバイバルものが多いけど、それも読んでみると面白かったりするし。
 まず井上雄彦「バガボンド」が巻頭カラーで新展開。武蔵が名前を「宮本武蔵」と変え、京の都で心機一転。さっそく名門、吉岡道場へ試合に赴くが……。剣客たちとの壮絶な闘いの幕開けとなりそうで期待が高まる。本宮ひろ志「旅の途中」。これもまた最近面白いのだ。男っぽい、多数の読者を背負って立てるようなデカい面白さがある。なんだかんだで本宮ひろ志はすごい漫画家だと思う。山下和美「天才柳沢教授の生活」。今回もとてもいい話だった。柳沢教授の部屋に古本目当てで忍び込んだ泥棒が、柳沢教授に見つかり話を聞くうちに少し心を入れ換えるというお話。本はやはり読まれてこそ本。高く取り引きされていようが、読まれない本なんてあんまり意味がないのだ。なんとも鮮やかなストーリー展開と締めくくり。うまい。
 ヒラマツ・ミノル「ヨリが跳ぶ」ではVリーグが開幕。リカコが復活し、ヒロコから力を得たヨリを要するオグリ・ポピンズの力が爆発。ボールをぶったたく描写がなんとも痛快で気持ちいい。そしてしばらく休んでいた榎本俊二「えの素」は今週から再開。あと、プレゼントコーナーのイラスト担当がこうの史代になっていたのが、俺としてはすごくうれしかった。こうの史代のカケアミ多用でトーンを使わない柔らかく暖かい画風はすごく好きだ。ときどきハッとするような一枚絵を見せてくれる。

【雑誌】COMICアリスくらぶ Vol.10 コアマガジン A5平
 トウタ「ソレハチョット」。妹を犯してしまった兄。妹は自分が好きだから兄は自分を抱いたのだといってほしいのだが、兄は彼女の身体を欲していただけで「好き」ということができない。妹の切ない気持ちの描写がなかなか。絵もわりといい。「春が来るまえに」(ほしのふうた)。この人は、なんか幼年向け漫画にでもありそうな、子供っぽく楽しそうな絵柄が気に入っている。読んでいてもとても楽しい。キャラクターたちの表情が可愛らしく、それからポーズがコミカルなのもいい。馴染しん「おとなのあかし」。絵がたいへんに良い。ロリ心をくすぐる。鼻を省略するのは俺はあんまり好きではないのだけど、それが気にならないほど魅力的な絵柄だと思う。もりしげ「おちんこなす外伝」は、いつもほどの毒がなく、その点はちょっと残念。眼鏡っ娘が、眼鏡っ娘であるという理由だけで謎の巨人にさらわれるというお話。
 ナヲコ「明日」。2年くらい口もきいていなかった幼馴染みの少年と少女が、日直日誌が見つからなかったため通学バスの最終を乗り逃がす。親の迎えを待つ間に二人で話をするのだが……というお話。ナヲコはやっぱり絵がとてもうまい。男も女も。たった6ページの短編なのだけど、それだけで少年と少女の想いが伝わってくる完成度の高い短編。鎌やん「猫と狼〜クラスのトモダチ〜」は、いつものように理屈っぽいお話。絵はかわいいのだけど、メッセージ性は強い。少し鼻につくところもあるのだが、業の深さはやはり興味深い。タカハシマコ「Pure Child」。この人は硬質な線で、スッキリとした少女漫画系の非常に達者な絵柄をしている。ショタ系描かせてもうまそうだ。

【雑誌】パイク vol.18 弥生 ふゅーじょんぷろだくと A5平
 TAGRO「BUNNY HIGH」が巻頭カラー。今は無敵であるバニーさんの、悲惨な少女時代に話は遡る。ブタ小屋で拾われ残飯で育ち、少女のころから客をとらされ、うつろな目つきで生きていたかつてのバニーさんの姿が痛々しい。このエピソードは4月16日発売の増刊で続きが掲載されるとのこと。もそっと早く読みたいところだが……。いつきこうすけ「恋の体温」は、津田雅美「彼氏彼女の事情」のエロパロ。スクリーントーンやベタの入っていない画面は未完成っぽいが、橘セブンに少し似たようなペンタッチが綺麗で、学校のSEX授業で男たちにさんざんいじくり回される宮川の姿もいやらしくて良かった。ちなみに、キャラクターの名前が「宮川」「有田」になっているのは編集部による対策なんだろうか。背景の書き文字ではちゃんと「有馬」になっている部分もあったりするのだが。うらまっく「いつかみたそら」は新連載の模様。娘との近親相姦が妻にバレ、それが原因で娘が自殺した男が、町で出会った少女を拉致してくる……という出だし。なんか陰鬱な感じの雰囲気が漂う。どんな話でも手堅くまとめてくるうらまっくだが、長編作品はあんまりなかったので、ここらで一発ドカンとくるような作品をものにしてもらいたい。そういう意味でも期待。あめかすり「ひぐらしの恋人」。ちょっとペンタッチが変わったかなという感じ。今までの細い線の中に、太い線を混ぜるようになってきている。こちらも続き物の模様。

【単行本】「親愛なるMへ」1巻 六田登 集英社 B6
 自分の彼女の父親を殺害した前歴のある少年・大東と、彼を担当することになった保護司の物語。彼女の父親は、彼女に性的関係を強要するような人間であり、大東は彼を生きている価値がないと判断して殺害した。その行為に関して大東はまったく正しいことであるという信念を持っており、罪悪感は抱いていない。そして保護司のほうは、自分の息子を別の殺人犯の手によって失っている。保護司は大東の姿を監察することにより、人はなぜ人を殺すのかという問いに答えを出そうとするが……。
 ストーリーの要約は以上のような感じだが、そこから見ても、かなり内省的で陰鬱な雰囲気を持った作品である。六田登はほっとくといつのまにか、人間の暗黒面を描き出すダークな作風になってしまうのだが、この作品は最初からかなり薄暗い雰囲気になっている。そして六田登の作品は陰鬱で生臭いもののほうが好きだ。そういったわけでこの作品には期待している。人間の心の暗闇を描き出す奥深い作品になりそうだ。

【単行本】「普通じゃダメなの…」 木工用ボンド 一水社 B6
 巨乳人妻系を得意とする木工用ボンドの単行本。絵はわりとベタッとした感じのステロタイプでよくあるようなものだし、乳首なんぞの描写も野暮ったい部分はある。でも、乳のデカい女性がズンズン貫かれて感じまくるさまはエロ魂にあふれていてけっこう実用的。ストーリーはそんなに面白くはないが、実用目的に割り切った作風はそれなりに潔い。というかまあ、俺は巨乳人妻が好きなのでその好みにフィットしちゃったわけなのだ。時にこういう安いエロスが欲しくなるときもある。ただ、エロシーンのページ数がもうちょっと多いとうれしい。一編一編の見せ場の部分が短くて少しもの足りないところがある。


2/18(木)……1年ハングライダー

 このホームページを開設したのが1997年の8月18日だから、ちょうどこの2月18日で開設1年半になる。とか思ったのだが、よく考えてみると2月17日こそまる1年半なのでは、という気もする。さらに1年が365日であるから、1年の半分は365÷2=182.5日。面倒なので計算しないけど、8月18日に182.5日を足すとたぶん2月の17日でも18日でもない日になると思う。しかしここで0.5日という単位が出てくるということは、正確に定めようとするなら開設日の開設時間もきちんと確定すべきなのではあるまいか!
 ……どうでもいいや。

【雑誌】ヤングマガジン増刊赤BUTA 3/4 No.22 講談社 B5中
 絵がうまい人はほとんどいないのだが、パワーだけは人一倍という新人が集まる赤/青BUTA増刊は毎回すごく楽しみにしている。今号はわりと安心感のある作品が多いが、「これ描いてる奴大丈夫か?」と読んでいるほうが不安になってしまうような作品を、こんだけ載せる雑誌ってそうあるもんじゃない。ヤンマガスピリットを陰で支える増刊といえる。
 巻頭で小田原ドラゴンの特集がある。「おやすみなさい。」の特別編は「漫画のキャラクターは本を閉じている間は別のことをしているのではないか」という、SF的なモチーフを描いている。それから描き下ろし読切「スーパーモデル」は、高校のたいこ部からスーパーモデルが出現するまでのたいこ部員のどこか間の抜けた友情を描いた作品。そしてすごいのが、小田原ドラゴン特製アイドルランキングベスト150。150人知っているだけでもなんだかすごいと思うが、その顔ぶれ、順列にも深い味わいがありそう(俺はアイドルは全然知らないので、十二分に楽しめてはいないけど)。こういうなんの役にも立ちそうにないことに血道をあげる姿は、不様だがかっこいい。
 松崎寿一「先生とアタシはPinkよオレンジオレンジ」は、生徒の恭子が好きで好きでたまらず、勝てば彼女とヤレるというジャンケン大会にまで出場した先生が、彼女への愛を強く訴え結ばれる。歪んでいるような気もするけど、二人の間ではあまりにも強固で幸せな愛の形が、たいへん馬鹿なパワーに満ちていて楽しかった。絵はまだそんなうまくないけど、けっこう好きな作品。石川雅之「カタリベ」は赤/青BUTA増刊では珍しい安心して読める。ペンで細かく描き込まれた安定感のある絵柄、それから起伏に富んだストーリー、一筋縄ではいかない展開で面白い。
 藤本青心「ツキと狼」。日がな一日パチンコをやり続けている男の、地味な日常を描いた作品。サバサバした絵柄と、淡々と進むストーリーがパチンコジャンキーの日常を感じさせてなかなか味わい深い。それから今回すごく気になった作品が大川トモユキ「碧い太陽」。日本代表に天才MF少女が入ってきて活躍するという話なのだが、キャラクターが非常に濃い。「裸のふたり」のカイトモアキが描くキャラクターの、眼の血走りをちょっとだけ抑えた感じなのだ。バランスを欠いた作風がなんだかものすごく印象的。負傷により鼻マスクを付けた、準主役の哲学的思考を持つストライカー、郷もなんだかムチャクチャ。キャラクターたちの表情もすごくテンパっている。ちょっと怖いサッカー漫画である。こういう濃厚なのはとても好きだ。

【雑誌】ヤングサンデー 3/4 No.12 小学館 B5中
 佐藤秀峰「海猿」では、大輔が密輸現場を抑えようと張り込むが、そこに美晴が現れてちょっとした騒動に。よっぱらった美晴の目つきがあぶなっかしく可愛らしい。次号からはたぶん海上編に戻るのだと思うが、闇雲に暴れまくるパワーが最近の若手では珍しく、骨太な面白さ。河合単「芳香物語」が今号と次号で前後編掲載。バイト先の出版社で主人公の女の子が調香師の取材を任されるが、相手は人間の身体から漂うフェロモンの香りまでかぎつけてしまう男で……という感じの前編。少し安い感じはするのだが、まあそれなりに読める。古谷兎丸「ショートカッツ」がついに最終回。ふわーっと消えていくような、なんだか感動的なラストシーンだった。描かれていることがそんなにすごく感動的なわけではない。でも表現が感動的なのだ。ラストの1ページ前の見開きの描き込みは、描かれているもの自体はコミカルなものなのだけど、全体としてものすごいパワーを持っておりガツンと来る。古谷兎丸の見開きの力はものすごいのだ。実に面白かった。次回作の予定もありとのことなので、再登場を強く希望する。新井英樹「ザ・ワールド・イズ・マイン」は、ヒグマドンが通過した後の圧倒的な惨状を描き出す。内臓をぶちまけていたり、身体中にガラスの破片を無数に突き刺していたりと、その死の描写は異様なまでの力を持っている。そして、その死が実に当たり前のようにそこら中に散乱している。やはりすごい。

【雑誌】ヤングジャンプ 3/4 No.12 集英社 B5中
 高橋ツトム「ALIVE」第3話め。出口のない部屋に「自由」を与えられながら幽閉された二人の元死刑囚の前に、窓を隔てて魅惑的な女性が現れる。彼女は相手を殺したほうの男と会うと語るが……。一気に話が動きそうな気配。それにしても高橋ツトムの描く女性は、暗い目つきが色っぽく魅力的だ。それから作:夢枕獏+画:くつぎけんいち+脚本:生田正「怪男児」はなかなか面白い。絵もうまいし、バケモノのような体力を持つわりにSEXは結婚相手としかしないという主義で、風変わりなまでにストイックな性格の持ち主である主人公・出雲のキャラクターもいい。

【雑誌】週刊少年チャンピオン 3/4 No.13 秋田書店 B5平
 板垣恵介「グラップラー刃牙」は、ジャック・ハンマーの出生に関するエピソードがいったん終わり、また刃牙との試合に戻る。ジャックの連打が続くが、さすがに刃牙も一歩も退かない。闘いの歓びを燃え上がらせる、激しい展開を期待する。おおひなたごう「おやつ」では、おやつくんたちが闇なべに挑戦。なべに入っているものが尋常でなく奇抜だが、それを当たり前のように描写するところが実にクール。能田達規「おまかせ!ピース電器店」。ピースパパに浮気疑惑が出てきて、その調査にアイちゃんが乗り出すという展開。いやー、やっぱりアイちゃんはええわ。ケンタローによっかかって眠るあたりがなんとも。田口雅之「バロン・ゴング・バトル」。形成逆転してバロンはボコボコ。でもくじけない。っていうかくじけるとかいうくそ思考回路がくそバロンにはくそない。無駄なくらいに力入ってて面白い。

【単行本】「BLOW UP!」 細野不二彦 小学館 B6
 ワイド版コミックスによる再版本。かつて出ていたバージョンには収録されていなかった話が4編収録。まあ以前のバージョンでは収録されていなかっただけあって、物語上そんなに大きな役割を持っている部分ではないので旧版を持っている人は無理して買うこともないかもしれない。
「BLOW UP!」は、ジャズミュージシャンを目指して名門S大学を中退した男・菊池オサムが、さまざまな人々との出会いを通じ、ときに挫折しときに脇道にそれながら、一歩一歩自分の求める音楽に近づいていくというお話。菊池の演奏する楽器はサックス。掲載はビッグコミックスペリオールで昭和63年(1988年)〜平成元年(1989年)にかけて連載された。初出からすでに10年以上が経過している作品なのだが、今読み返してみても鳥肌が立つ。そのクオリティはいささかも古びていない。迷いながら成長していく菊池オサムの姿は大変青臭い。しかしそれだけに闇雲な情熱にあふれている。この作品を読むと、なんだかものすごくポジティブな情熱が沸き上がってくる。何かをやらなくてはいけないという気分になってくる。
 細野不二彦は現在ではずいぶん落ち着いて、コンスタントにハズレなく作品を描いているが、その分クールさが目立つ。それはそれで評価できるし、漫画家が漫画を描き続けて生きていくためには大切なことだと思う。そしてその中でしっかりとしたクオリティを保っているところはまさに職人芸といっていい。しかし、「BLOW UP!」が持つ熱は現在の作品とは別の次元で激しく心を打つ。魂を揺さぶる。何度となく読み返してきた作品だけど、やっぱり傑作である。細野不二彦作品の中で最も好きだ。


2/17(水)……インデアン落ち着かない

「餅つかない」はログインの馬鹿記事であるが。

【雑誌】ZetuMan 3月号 笠倉出版社 B5中
 そこそこ上品っぽい誌面を作りつつ、実用的にも案外イケるというバランスがいい。今月号も充実している。新人さんもわりとよく出てくるし、最近のエロ漫画雑誌の中ではかなり楽しみにしている雑誌の一つ。
 巻頭カラー、かんとり・ふぁーむ「MILK IMPACT2」は全編フルカラーのCG漫画。4ページと短いが、でっかくて柔らかそうなおっぱいの質感がとても良かった。美和美和「STEEL-BWITCH」は深田拓士にちょいと近めな作風(ちなみに今号には深田拓士も登場)。深田拓士よりは線が硬くなく滑らかな質感。未来が舞台で女格闘家が、裏では観客に身体を売っているというストーリーなのだが、みっちりと隙間なく描き込まれた画面で、体液バリバリぐっちょんぐっちょんの輪姦シーンが展開される。画面は整理されてなくて読みやすいとはいえないが、この濃厚さとパワフルなエロスは買い。加藤茶吉「CHERISH LOVE」は、人気制服デザイナーを兄に持つお兄ちゃん好き好き少女が、制服フェチの兄をまともにしようとして身体を差し出すが……という話。かわいい絵柄、制服とロリ風味、適度なスピード感でなかなか楽しい作品。
 咲香里「太陽が落ちてくる」。前号で結ばれた二人が甘ったるいラブラブ気分に浸る中、きっちり次の不吉な展開への伏線も張ってある。エロ漫画雑誌としては珍しい長期連載だが、タッチが鮮やかな絵の完成度、それから話作りなども含めてよくできてるなあと思う。そしてZERRY藤尾「扉をコジあけて」シリーズ第4話め「さらにコジあけて」。生徒会副会長の菱見さんの家庭を、生徒会長にしてSEXマシーンの村松が食い物にする。菱見さんに続いてそのお母さん、妹も食っちゃって、父にも女をあっせんするという鬼畜ぶり。ねっとりとしていやらしいSEXシーン、それに鬼畜ぶりが楽しい村松らキャラクターの立ち具合、テンポのいい展開などとてもうまい。

【雑誌】ヤングマガジンUppers 3/3 No.5 講談社 B5中
 毎度おなじみおっぱいイラスト「E-Oppers」は寺田克也。
 まずは玉置勉強「恋人プレイ」が最終回。物語は前回から2年が過ぎ、それぞれの登場人物がそれぞれの居場所を見つけて暮らしていく。全員が自分にとって一番幸福な道を選んだというわけでもないとは思うけど、最後にステージの上から奥野と佐伯が目線を合わせて微笑むあたりは、いろいろな思いが交錯しつつも爽やかで後味の良いラストだった。20話と、玉置勉強としては長い連載になったが、連載されている間はきっちりと楽しめた。今までの玉置勉強作品の中では一番好きだ。これ一作だけで判断するのは性急だけど、やっぱり長編のほうが向いているような気がするなあ(何度もいってることだけど)。短編だと俺にはちょっと食い足りない感じが残ってしまうのだ。玉置勉強の絵は勃つというタイプではないんだけど、気怠いエロスが漂っていてやっぱり目をひく。キャラクター、とくに女の子たちの表情もいい。これからメジャー系の雑誌でやるのか、マイナー系でやるのかよく知らないけど、どっちにしろ面白ければどの雑誌に載っていようと読むし、つまらなかったら無視する。だからどっちでもいい。
 村枝賢一「RED」。レッドが体験したインディアン虐殺の、血塗られた悲しい過去が語られる。なんかどんどんテンションが高くなってきていて、期待も高まる。サガノヘルマー「SATELLITEぢゅにゃ」。蓄膿症の殺し屋、エガシラが不潔で変質的でいい味を出している。キャラクターとか描写がいちいち濃厚なのが頼もしい。

【雑誌】週刊少年サンデー 3/3 No.12 小学館 B5中
 満田拓也「MAJOR」では、吾郎が特訓の成果を見せつける。しかし適性テストの結果のほうはなんか芳しくない。予想された結果ともいえるが、それにしても特訓やら、黒目のない鬼コーチなど、たいへんアナクロな少年漫画らしい展開がたまらない。正統派すぎるくらい正統派の面白さ。河合克敏「モンキーターン」。0コンマ何秒といったスタートのタイミングなど、すごく微妙な部分での奥深い駆け引きが面白い。そういった地味な部分で勝負の恐ろしさを見せつけながら、レースの描写は痛快。ながいけん「神聖モテモテ王国」。ファーザー作の作中内漫画「供えガイ」は前号で終わりかと思いきや、またさらに新しい展開を見せる。アヴァンギャルドだ。「供えガイ」シリーズ、別枠で連載してみてはどうだろうか。俺は読みたい。

【雑誌】週刊少年マガジン 3/3 No.12 講談社 B5中
 森川ジョージ「はじめの一歩」。今号から日本タイトル防衛戦、島袋戦がスタート。ハードパンチャー同士の壮絶なぶったたき合いになりそうだ。次号以降の展開が楽しみ。塀内夏子「Jドリーム完全燃焼編」は、先週、残り時間がちょっと不吉かなと思ったのだが、意外とアッサリと終了。とりあえず日本代表もだいぶ闘う形が整った感じ。関係ないが、現実の日本代表に元グランパス&ベルマーレ・森山泰行と横浜Fマリノス・三浦淳宏を入れてほしいなあ。そういえば今週号のビッグコミックスピリッツには、森山のインタビューが掲載されててうれしかった。

【雑誌】メロディ 3月号 白泉社 B5平
 雁須磨子「どいつもこいつも」。もう自衛隊であることなんかどうでもよくなってきている感あり。完全にほのぼのコメディである。こののんびりした雰囲気、そしてポロポロと崩れていく絵柄が楽しい。酒井美羽「下北沢でサンバサンバ」。年ごろのおねーちゃんコンビ2人が、ゴミ捨て場で美少年を拾ってきてしばらく世話する。ガチャガチャと雑然とした展開が楽しい。絵柄は唇がもったりした感じで少々クセはあるけど、それだけに目を惹く。我孫子三和「楽園へ行こう!」。三角関係まっただなかで、リキが力強くすぐりに対する愛を叫ぶ。こっぱずかしい展開ではあるが、その幸せぶりと絵柄の可愛さがなんとも楽しい。
 次号では読切で今市子が登場の予定。ファンは買うべし。


2/16(火)……ソシオが二人を抱いたまま

「横浜フリューゲルスを存続させる会」の公式ホームページから、横浜FC「ソシオ・フリエスタ」の申し込みをしてきた。ソシオというのは要するに市民が会員となり、金銭、運営の両面からスポーツクラブを支えるというシステムだ。詳しくは上記ページでの説明を読んでみてほしい。お金を出すことへの報酬はメンバー限定のサービスやイベント参加といったものもあるが、何より「愛するチームが強くなること」、そして「チームを支えるメンバーとしての『誇り』と『喜び』」という点にあるというところがかっこいい。金額自体は年間シート付き会員権で5万円、会員権のみで3万円とちょっと痛い額ではある。でも、今こういう試みに協力しないで横浜FCまで消えてしまったらきっと後悔することになる。後悔は金では取り除けない。だから今、自分ができることをできる形でやらなくては。それは横浜FCの一件に限ったことではない。

【雑誌】ビジネスジャンプ 3/1 No.6 集英社 B5中
 駅のごみ箱からゲット。塩崎雄二「ハッピーマン」。江川達也「GOLDEN BOY」系のスーパーマン的お話。「Karen」もそうだったけど、この人の描く女の子はなかなかかわいい。適度な色気もあるし。村生ミオ「Women Specialセックスレス」。バリバリに濃い女ストーカーものを描いたかと思えば、こういうヘナチョコなお色気系も描く。その開き直りっぷりはけっこうすごい。

【雑誌】コットンコミック 3月号 東京三世社 B5中
 表紙での扱いはすごく小さいが、やはり目玉は駕籠真太郎。今回のタイトルは「駅前防火」。あまりにも火事が少ないため、欲求不満になった消防士が暴走するのを抑えようと、わざわざ一月に一度、くじ引きでいずれかの家に放火するというならわしのある町のお話。今回はなんかやけに普通の話。もちろん死んだ魚のような腐った目つきのキャラクターたちはいつもながらにいいし、お話のテンポもリズミカルだが、もっともっと毒があってこそ駕籠真太郎。今回はイマイチテンションが低かった。渡辺ヒデユキ、サセマンシリーズ「復讐の肉棒」。なんとも志の低いナンセンスな展開で、読んでいて心が和む。

【雑誌】ヤングキング臨時増刊 3/8「イケてる2人」特集号 少年画報社 B5平
「イケてる2人」の描き下ろし新作1本と、佐野タカシの単行本未収録作品4編、を収録した増刊。TVアニメも放映中だが、それにしてもここのところの佐野タカシは絶好調。すっかり少年画報社の看板となった感がある。ヤングキング系全誌で連載を持っているし。ノッてるなあ。
「イケてる2人」の描き下ろし分はいつもと同じ調子。アクシデントで小泉のパンツを覗いた佐次がぶっとばされてケガをするのだが、小泉が心配して佐次の家に付き沿って……というアツアツな展開。これ以外の分は最初のころの話が収録されているのだが、そのころと比べて小泉の表情とかが本当に柔らかくなったなという印象。それから未収録だった「女子高生発信講座」シリーズ3編は、ケータイを山ほど持ってヤリ手女として活躍する女子高生・桂さんを中心としたコメディ。サービス豊富なコギャルもの。まあ気楽に読むべし。「Die to Flight」は佐野タカシが少年画報社で仕事をするようになって初めてのカラー作品。アンラッキーが続くため思い余って飛び降り自殺しようとした少年が、死神のおねーさんに触ったことで運が逆転し、いきなりラッキーになってしまうが……といった感じのドタバタ。こちらはそんなにエロ系のシーンが多くない爽やかな一編。
 単行本未収録作品もあることだし、「イケてる2人」が好きな人は買ってもまあ損はしないかなという感じ。判型が大きいため、単行本で読むより読みやすいというのもメリット。

【雑誌】漫画サンデーフォアマン 2/26 No.4 実業之日本社 B5中
 カサギヒロシ「クマロボ」が巻頭カラー。この人の作品はテンポ良く話が展開されていき、あさっての方向へ向かうかと思いきや、きっちりとラストへ向かっていく。泥臭い男キャラと、色っぽい女性キャラのコントラストも心地いい。いまいち作風は地味なのだけど、読めばきっちり面白い。高橋のぼる「チェリー」。ちょっとイカれた女子プロレスもの。野暮ったい絵柄で、ちょっと奇妙な世界を形成している。全身きぐるみの敵レスラーとか、どこ見てるんだか分からないヒロインとか、なんだか不思議な味わい。作:田中誠一+画:秋月めぐる「清志朗の蹴り!」。うだつの上がらないサラリーマンがムエタイに出会い、その魅力にどんどん目覚めていく。秋月めぐるは、昔は坂口尚に似たタッチだったが、今は山田貴敏が混じってきたような印象。とりあえずいつかまたサッカー漫画を描く日まで牙を研いでおいてもらいたい、というのは俺の勝手な希望。やはりこの人のサッカー漫画が読みたいのだ。東陽片岡「東陽片岡裏町劇場」は、しみったれたおっさん労働者が寮を追い出されて町をぶらぶら。暴走族の前に立ちはだかって何をいうかと思えば、単車のエンジンを触って暖まらせてくれといった具合。この力の抜ける展開が何とも味があっていい。底辺的人生をあっけらかんと描かせたら日本一だ。

【アンソロジー】妖精日記 第6号 心交社 A5平
 ロリータ系アンソロジー。DAPHNIA町田ひらく町野変丸、みかりんとくれば買わぬわけにはいかないかなと思って購入。でもいまいち業の深さがなく、いずれの作品もお仕事的に描かれている感じでテンションは低い。
 まずDAPHNIA「イ犬(ひといぬ)」。人間型のイヌと彼女を調教する博士のお話。4色カラー8ページというのはうれしいのだけど、いつもほどの業の深さが感じられなかったのは残念。町野変丸「ロリータゆみこちゃん」はいつもと変わらぬノリだがちょっと大人しいか。珍しくツルペタなゆみこちゃんはかわいいんだけど。町田ひらく「CASH!」は現金20万円で、少女が犯されるところを生で見物する男たちの話。無力に淡々と犯されていく少女の姿がシニカルに描かれており、オチも皮肉な感じ。ただ、意外性やパンチはいまいち足りない。みかりん「トイレット・ペイパー」(後編)。この人の作風はいつも楽しそうで、かつ生々しくていいなあ。アットーテキとクリスティがなくなったので心配していたが、堅調に仕事をしているようでちょっと安心。


2/15(月)……ミスター象夏ハ病

【雑誌】ヤングマガジン 3/1 No.11 講談社 B5中
 こしばてつや「天然少女萬」は、「美想少年・百夜編」が最終回の一話前。カッコつけてるようで案外と子供っぽい萬と百夜の会話が小気味よい。加治屋の登場も久々でちょっとうれしかった。地下沢中也「創立100年ギンザ小学校」。今回は存在自体が謎という少年、謎彦の秘密をさぐる話。最近どんどんお話があさっての方向に向かっている感じで、テンションが上がってきたような感じがする。すぎむらしんいち「超・学校法人スタア學園」。今回はコキジ、仲本、太田原のコント。コントのネタそのものが面白くてかなり笑った。スピード感あふれるギャグ、そしてテンポの良さ。いやー、面白い。平本アキラ「アゴなしゲンとオレ物語」。恐ろしいことに今回は2色カラー。交通安全のために立てられている怪しい石像「石田石造」を壊した犯人を探すため、ゲンさんが石像に化ける。それにしてもゲンさんの体毛、ヒゲは邪悪だ。福本伸行「カイジ」。カイジ勝利後も無理矢理お話を盛り上げる力技に感服。強制土下座機とか、もうムチャクチャ。前川かずお「DEI48」は、各キャラクターの行動がいちいちマヌケてて毎回笑わせてくれる。ミミガーズの馬鹿っぷりも頼もしいが、今回印象に残ったのはなんといっても人肉を食い荒らす室内犬のブラン。ああ、馬鹿だ。小田原ドラゴン「おやすみなさい。」では、ドーテーズ再び。オドオドしつつも心根が優しすぎる鉄郎の小心者っぷりがたまらん。

【雑誌】モーニング新マグナム増刊 3/3 No.7 講談社 B5中
 う〜ん、ものすごい充実ぶり。たいへん面白かった。満足。
 三山のぼる「ネオデビルマン」。一見地味な作風ながら、がっちりと描かれたお話は底力を感じさせる。本編にはまったく登場しなかった、一人の政治家とデーモンの姿を描く。想像以上に面白かった。加藤伸吉「バカとゴッホ」。ゴッホたち3人の、つましいながらも暖かかった生活もついに一つの散開の時期を迎える。突っ走りながらも、なかなか思い通りに行かない青臭い青春模様をしっかりと描いている。鶴田謙二「Forget-me-not」は今回は8ページのみの掲載。最近マジメに仕事をしている感があった鶴田謙二だが、そろそろ元のペースに戻りつつあるのか。そうでないことを祈る。慣れてはいるけど。松田洋子「PAINT IT BLUE」。町工場で働く男達のしみったれた青春を描くこの作品、今回はいつにも増してヘヴィ。先が見えずその日その日をコソコソと生きていく姿は、みっともなくもいじましく、そして強さを持っている。
 小田扉「キッチン」。母を亡くし、父が出奔した家庭の、兄妹3人の日常を描く。淡々とした絵柄で、飄々と差し挟まれるギャグがいい味を出している。平然とした顔でごく普通の顔でヘンなことをいうような、そんなさりげなさがある。ストーリーのテンポも良く、適度に力が抜けているところがとても気持ちいい。清田聡「ミキ命!」。ミキが同僚の作業員に乳をもまれたことから起こるトラブル。シャンとしたミキの姿もかっこいいし、波風の犬みたいなしっぽの振り方も変態的で楽しい。そして黒田硫黄「象夏」。黒々とした絵にますます風格が出てきてすごくかっこいい。力の入った作品なのに、それを感じさせない飄々ぶり。男に逃げられた女(名前は幸南。「天狗党」に出てきた女の子と関係があるのだろうか)の隣の部屋は、実は象が住んでいて、女はその象が妙に気に入ってしまう。外に出ることを夢見、ものをいわない象に幸南はどんどん惹かれていく。不条理な状況を実に平然と描く瀟洒さがすごくかっこいい。画面構成も気持ちが良く、やはりモノが違うということを痛感する。すごく面白かった。これを読めたってだけで、漫画読んでてよかったなあと思える作品。

【雑誌】ビッグコミックスピリッツ 3/1 No.11 小学館 B5中
 浦沢直樹「Happy!」。ニコリッチと幸の試合が盛り上がっていて面白い。もっと試合のシーンを見たいのだけど……。柴門ふみ「ブックエンド」は今回で最終回。完全に心は結ばれていたかに思えるサオとヨッチの関係を転がし転がししてこねくり回す展開が一筋縄ではいかない感じで良かった。ラストも泣かせて、かつ爽やか。青山広美「ダイヤモンド」は、種田が打席に入り、何を待っていたかと思えば月。月に向かって打つらしい。豪快な勝負を期待したい。吉田戦車「学活!!つやつや担任」は4回めだが、じょじょにつやつや先生の歪んだ人格が発揮されてきて面白みが増してきた。今後もさらにパワーアップしてもらいたい。榎本ナリコ「センチメントの季節」はバレンタインデーネタだが、この人が描くとそれも簡単には終わらない。一人称の「あたし」の使い方もうまいと思う。「わたし」「あたし」「わたくし」ではだいぶ印象が違うからなあ。江川達也「東京大学物語」は、最近けっこう面白い。読めないときは徹底的に読めない漫画なのだが、ときおりぶり返したように読ませる展開を持ってくる。そこらへんのコントロールはとてもうまいと思う。作:坂田信弘+画:中原裕「奈緒子」。いよいよレースも最終局面を迎えつつある。ヒートアップする一方の展開が過剰なくらいで、迫力があってとても面白い。

【雑誌】ビッグコミックスペリオール 3/1 No5 小学館 B5中
 高田靖彦「演歌の達」。恋をしつつも自分の信念は曲げられない。そんな不器用な生き方に男を感じる。達だけでなく、天野史郎も男の意地を見せるし、彼らを支える女性たちの姿もイキイキしている。一本筋の通ったストーリー展開がとても読みごたえがある。六田登「シネマ」は、「古田京介」シリーズがクライマックス。殺人犯を映像の中で追い詰めていくこのシリーズ、これからどう決着をつけていくのか、楽しみだ。


2/14(日)……先祖の呪い

 コミティアに行ってきた。と、書ければよかったのだが、今日は祖父の二十七回忌とやらがあり泣く泣く断念。二十何年も経っているんだから、もういい加減やめちゃえばいいのに……とか思うんだけど、欠席は許されず。東京で開催されるコミティアに行かないのは、けっこう久しぶりなのだが、それが俺が生まれる前に死んだ人のためだと考えると釈然としないものもある。この借りは5月コミティアできっと返す! でも誰に返せばいいんだかよくわからない。

【雑誌】別冊マーガレット 3月号 集英社 B5平
 いくえみ綾「バラ色の明日」。母が死に、父が行方不明になって母の実家に引き取られた女の子・柚子と、柚子を子供の時にかっさらっていた謎の男のお話の一連のシリーズも今回でたぶんおしまい。最近のいくえみ綾の絵、表現の洗練ぶりは大したもの。センシティブな描写でありながら、ゆったりとしたコマ割り、画面使いで読みやすいのもいい。読者の中でふわーっ拡散していくような透明さが素晴らしい。藤井明美「放課後のウソツキ」は70ページの長編読切。浅田さんという女の子に、別の女の子宛てのラブレターを拾われて、それをネタに脅されて浅田さんの恋の手伝いをさせられていた男・高原が、しだいに浅田さんのほうにひかれていき……というラブコメ。とくに珍しい話でもないのだが、さっぱりとした絵で青くて他愛ない話を楽しく読ませる。永田正実「恋愛カタログ」。スポーツジムのインストラクターの美男の移り気な行動に振り回される笹錦/郷右近さん。きっとやせたら美人になるという展開なのではないかと見た。多田かおる「イタズラなKiss」。琴子がおめでたか?と思ったら、次号はお休み。さてどうなる。くにゃくにゃっとした柔らかい描線で楽しげで幸せな雰囲気が気持ちいい。

【雑誌】ネムキ 3月号 朝日ソノラマ A5平
 今月号は少しテンション低めに感じたが……。
 諸星大二郎「栞と紙魚子」シリーズ「ゼノ奥さん」は、ちょっと不気味でいながらほのぼのとした雰囲気が地味だけど楽しい。平然とバケモノ的キャラが跳梁跋扈しているのんきさがいい味だ。今市子「百鬼夜行抄」。絵もうまいし話作りもいいと思う。ただ前にも書いたことだけど、この人の場合、短いページ数に情報量をつめ込みすぎなのではないかと思う。1ページのセリフの量も多いし、コマ割りもゴチャゴチャと変則的で読みにくい。それがプラスに出る作風の人もいるが、今市子の場合はもっとスッキリ読ませる工夫をしたほうが気持ちよく読めるようになると思う。ますむらひろし「ギルドマ」は今回で最終回。破天荒だが底抜けにポジティブなヒデヨシの姿は力強い。ラストもファンタジックで爽快だった。

【雑誌】弥勒 3月号 平和出版 B5中
 表紙でおなじみの、ことが巻頭カラー4ページ。快楽天のYUG、ZiPのあるまじろうに続いてウサ耳系のコスチュームを着た女の子のお話。かわいく柔らかい絵柄ながら、やることはやっている。カラーで画面がきれいなのと、女の子の乳がデカいのが印象的。しかし、なんでこんなにウサ耳が立て続けに……とか思ったが、よく考えてみると今年はうさぎ年だった。年末年始を過ぎると干支ってけっこう忘れがちなものだなあ。たぶんここらへんの漫画は執筆時期が年末年始に近い時期だったのだろう。小林少年「ぼく、いもむし君」は女の子みたいにかわいく、肉体改造で大きな乳もつけられた巨大いもむし=ちんちんを持つ美少年が、その二人の姉におもちゃにされるというお話。細くてけっこう上品な線なのに、ちんちんの描写がしっかりしていて体液も多めで実用的なのは立派。伊駒一平の新連載「少年エロス」は、「頭いくて大人だけどちょっぴり狂っている」のと「浮浪児でくちきけない」美少年二人の物語。欄外など端々の細かいツッコミやちょっと間抜けなディティール、アイテムなど、エロの間に差し挟まれる飄々としたツッコミ的ギャグがいつもながらにいい味を出している。美少年二人が両方とも頭弱い感じで、少しあぶない雰囲気。そこらへんの毒の使い方と力の抜き方のバランスが絶妙。

【単行本】「BORN 2 DIE」 井上三太 太田出版 B6
 地元の不良グループの中のイジメられっこ、通称「バイブ」が警官から拳銃を盗みコンビニに立て籠もる。といっても大騒ぎになるわけではなく、あくまでそのコンビニ内で事件は進行。一夜明けるとコンビニ内には9人の男女の死体が転がっていた。まず最初に結果が呈示され、その後じょじょに事件の経過が描かれていくというお話。
 けして垢抜けた絵柄ではないんだけど、妙にダサカッコいい井上三太の絵柄と軽妙なテンポで進むストーリーが小気味いい。生な形で同時代的な風物を描く嗅覚は井上三太独特のもの。カッコつけているのだけど、周りから見ると別にカッコよくないし、むしろ泥臭い。そんなナウなヤング感がソソられる。ただ、スカし系の匂いはやはり気になってしまう。とくに巻末3ページ、文字びっしりの後書きはうっとうしい。俺は説教されたくないのだ。


2/13(土)……ブラフマンと兄マン

 半年ぶりにあの男が帰ってきた。っていうか本田健、つまり俺の兄が植民地経営を再開したのだ。まあ最初は小手調べということで、軽くいましろたかしページを更新。半年ぶりの更新で改めて自分のページを見返してみた兄は、過去の文章のダメさ加減に辟易した様子。俺もホームページ開設当初に作ったコンテンツとか読み返すと、「こんなの説明になってねえじゃん」とか「こんなんでその漫画の面白さを伝えられると思っていたのか、貴様(俺)は」って感じの文章ばかりで、読んでいると消えてしまいたくなる。昔の文章って我ながらあまりに下手くそであるため恐ろしくて読み返したくない。今も自分で納得がいくほど文章がうまくはないけど、まだ読み返すことはできる。そう考えると少しはマシになりつつあるのかもしれんという気分になり、ちょっとだけ救われたような気持ちになる。でもまだまだこんな文章で安住するわけには行かぬ。安住とずしうおおおおおっ!!!

【雑誌】ミスターマガジン 2/24 No.4 講談社 B5中
「オフィス北極星」の中山昌亮が新連載。タイトルは「突破者 太陽傳」(原作:宮崎学)。ベトナム戦争が終結したころの日本が舞台。広域組織のヤクザにからまれた小さな組が、大きな組に属すことも喧嘩をすることも肯んぜず、スパッと解散する。その組の跡取り息子でサラリーマンをしている主人公は、残された構成員を食わせると啖呵を切るが……という出だし。「オフィス北極星」同様、スパッとした切れ味が心地よい絵と作風。組を解散したヤクザがカタギの道でのしあがっていくという物語のようだが、かなり大風呂敷な感じの痛快なお話になりそう。安彦良和「王道の狗」は骨太な歴史モノで安心して読める。安彦良和は歴史モノが性に合っているのか、そっち方面に移ってから漫画家としての技量がだいぶアップしたように思う。画:野々村秀樹+作:宮塢さなえ「それゆけまりんちゃん」はかなり割り切ったお色気作品。カメ一杯分の精子を搾り取るために鬼ヶ島組へまりんちゃんが赴くという馬鹿馬鹿しい展開が楽しい。それにしてもこの作品、何よりの驚きは原作付きであるということだ。

【雑誌】スーパージャンプ 2/24 No.5 集英社 B5中
 徳弘正也「狂四郎2030」が毎回面白い。八木の動物ぶり、狂気が恐ろしく、ところどころにある息抜きギャグも下らなくていい。高見まこ「ロマンス」は、なかなか思うような仕事ができない吾郎にイライラが募る。女を食い物にしているようでいて、女にすがらないと生きていけない吾郎のダメっぷりがいい。最近は玉緒と結婚して一人の女に夢中なので、あの妖艶さ、いやらしさがちょっと薄いのは残念ではあるが。小谷憲一「DESIRE」。今回のテーマはなんと女相撲である。たいへん馬鹿馬鹿しくて楽しかった。

【単行本】「オママゴト」 あめかすり ふゅーじょんぷろだくと A5
 あめかすりの初単行本。パイクくらいでしか見れない人なので知名度はまだ高くないけど、その実力はマニア筋の注目を集めている。
 少女漫画のような、という表現は安易なのであまり使いたくないし、実際にあめかすりみたいな画風の人は少女漫画でもあんまり見ないのだが、細くて硬質であっさりした線を集めた繊細な画風はエロ漫画系の雑誌では珍しい。そしてストーリーも、ふわふわと定まらない感性の流れを映し出したセンシティブで不思議な感触である。17ヶ月妊娠していて性器から病院の匂いが漂うようになった少女とその恋人のお話「17箇月」や、ブレーキが破壊され停止できなくなった銀座線の中で少年と少女がからみあう「銀座線が通過中」など、一見不条理に見えるような状況を実に平然と、ファンタジックさと静かな狂気を漂わせながら描き出すその作風は非常に個性的。新しい感覚を持った才能の萌芽を感じさせる作品集。先物買いが好きな人、上品でスピリチュアルなエロ漫画が好きな人はぜひ買っておくべし。表紙もかわいらしく上品なので、周囲の目が気になる人にも買いやすいはず。
 それにしても単行本の中表紙とかの紙質が悪いのはちょっと残念。


2/12(金)……営利のアン

【雑誌】ヤングアニマル 2/26 No.4 白泉社 B5中
 二宮ひかる「ナイーヴ」は、別居していて今は病身の父への見舞いを控えて妙にハシャぎまくる麻衣子の姿がなんとなく痛々しい。そんな麻衣子を田崎はしっかりと受け止めるが……。で、このままスンナリ結婚しちゃうんだろうか。それは今後のお楽しみー。馬場民雄「ご馳走さま!」。ラーメン屋さんに迷い込んできた男がひょんなことから、その店の主人に代わってラーメン勝負に出ることに……というお話。お店の子供の描き方が妙に「あずきちゃん」なのが気になる。主人公の男がスープのアク取りに熱中していたのを見て、この前福神町のオフで鍋を食ったとき妙にアク取りにご執心だった藤原カムイの姿をつい思い出した。アク取り好きはある種の男の子の共通的性質らしい。山口よしのぶ「名物!たびてつ友の会」。とにかく飯を食いまくる女の子と昭彦の珍道中。飯をうまそうに食う女性は魅力的で見ていて楽しい。逆にマズそうに飯を食うヤツはぶんなぐりたくなる俺だ。柴田ヨクサル「エアマスター」。闘いが済んだと思ったら、マキに救出された美奈が情欲に衝き動かされて暴走。意味のない展開が素晴らしい。高橋雄一郎「EKIDEN野郎!!」は今回で最終回。地味だったけど堅実に読める作品でけっこう好きだったのだが。まあ爽やかに終わったので、これはこれでいいんじゃなかろうか。

【雑誌】ビッグコミックオリジナル 3月増刊号 3/12 小学館 B5中
 花輪和一「一寸法師」。ああ、やっぱり花輪先生は素晴らしい。一寸法師は金属ともなんとも判然としないものでできた不気味な小生命体。一見して宇宙人である。それを拾った下働きの子供が「ああ…いいのが拾えてよかった……」と呟くシーンはまさに花輪節。細部まで執念深く描き込まれた濃厚な絵柄と、不気味な一寸法師、爽やかでなく浅ましい登場人物たちの表情。人情話でありながらどこまでも濃いそのミスマッチぶりがたまらない。井浦秀夫「AV烈伝」。今回は監督高槻彰の後編。表現的に図抜けているわけではないのだけど、元ネタの勝利。業の深い世界をじっくり描き込んでいて根のしっかりした面白さ。読ませる。「球鬼Z」の連載が終了した藤澤勇希が登場。タイトルは「拝啓己様」。ガンコ一徹、野菜を愛する八百屋のオヤジの気合いの入りまくった日常を描いた作品。人情味があっていい話なんだけど、表現は無用な力強さがある。といっても「球鬼Z」とか「演神」よりはだいぶ力が抜けているけど。東陽片岡「シアワセのシビン」。不況でリストラされ、シビンをデザインすることになったデザイナーの、しみったれていながらもあっけらかんとしたぼやきを描く。どんなどん底っぽい人生も、実に飄々となんでもないさとばかりに受け止めてしまうその懐の深さが粋である。雑っぽく見えるが、実は細部まで実にきっちり描き込まれた画風も味わい深い。

【雑誌】近代麻雀オリジナル 3月号 竹書房 B5中
 比古地朔弥の久々の連載「崖っぷちギャンブラー」がスタート。身重の妻を抱えていながら就職活動中の元サラリーマンが、しみったれた金額の勝負に異様なまでの気迫を込めて生活費を得るために勝負を挑むというお話。コミカルで生活臭のある作品になりそう。「神様ゆるして」みたいな陰鬱で粘着質な作品にはならないかも。そういう妖艶なのもまた読んでみたいところだが。そっちは同人誌の「けだもののように」のほうに期待すべきか。片山まさゆき「ミリオンシャンテンさだめだ!!」。敵役の大学の名前が素晴らしい。「死体農場大学」、どんな活動しているのか知りたい。内野文吾「トリぷるHONEY」。なんかすごいイカサマやってる……。まさに宇宙レベル。

【単行本】「エイリアン9」1巻 富沢ひとし 秋田書店 B6
 ヤングチャンピオン連載作品。時は近未来、舞台は小学校。小学校6年生になったばかりの大谷ゆりは、皆が激しく嫌がる役どころ「エイリアン対策係」を押しつけられて困惑する。エイリアン対策係とは、学校を襲う異界の生物、エイリアンを退治する係でその作業には危険を伴う。しかも途中で辞めることは許されていないのだ。毎日エイリアンに怯えながら、防護用エイリアン「ボウグ」、そして同じ係の川村くみ、遠峰かすみと協力しつつ苦闘の日々が続いていく……というお話。
 ローラーブレードにスパッツ、体操服と、ロリ系のキャラクターが活躍する物語でありながら、内容はけっこうハード。小学生の少女たちが異様な異生物や自らの恐怖によって追い詰められていく。キャッチーでキュートな絵柄なのに、今どき珍しいくらいハードなSFであったりする。絵柄自体はスッキリしておりのどかなシーンもけっこうあるのだが、読みごたえはかなりのもの。
 欠点も指摘しようと思えば指摘できる。キャラクターの表情やポーズがいまいちぎこちないし、バリエーションもそんなに豊富でない。そしてコマ割りを含めた物語進行のテンポもいまいちリズムが良くないように感じられる。独特のテンポともいえるのだが、案外サラリと読めない(その分雑誌の中では目を惹いたりもする)。しかし、そんな欠点は吹き飛ばすほどの魅力、ポテンシャルを持った作品であることは確か。確信犯的な扉絵などにもセンスを感じる。逆に欠点を持っていながらこれだけ読ませるのだから、もっと描き慣れてくればさらに面白くなることが期待できる。要注目の作品だ。


2/11(木)……巻き舌 in Deep

 コミックビームのメールサービスでビーム編集長・奥村氏が触れていたので、そろそろここで書いちゃってもかまわないだろう。コミックビンゴ(文藝春秋)が休刊するそうだ(ビームはまだまだ大丈夫らしいので安心せよ!)。比古地朔弥「神様ゆるして」の連載が終わってあたりからだいぶイキが悪くなってきていたため、ウチでも買っていなかった。最近は読んでなかったので内容についてはなんともいえないが、雑誌が消えていくときは、こうやって誰もが無関心になっていきいつの間にかなくなっているものだ。
 漫画バブルもついに弾けてこれから冬の時代が来るといわれているが、とりあえず読んでいる人はいまだに多いわけだし滅ぶってことはなかろう。ただ、読む人の裾野が狭まっていることは確かだと思うのだ。前からいっているように書店の単行本ビニールかけなんかもそれを加速していると思うし、雑誌数が多すぎるというのもその一因だ。
 1998年、一番元気に感じられた雑誌はウルトラジャンプとヤングキングアワーズ、それからヤングアニマル、あとはエロ漫画雑誌やCUTiE comicといったところだった。ここらへんの雑誌はたしかに頑張っていると思う。でも、内容的にはどう考えたってマニア向けだ。こういう雑誌ばかり目立つというのは、漫画がよりマニアのものとなってきたことを示しているようにも感じられる。
 だからといってそれが悪いってわけでもない。昔のように百万読者の期待を背負って立つようなデッカい漫画は確かになくなってきている。その代わり10年前では考えられなかったほどの洗練された作品が出てきているのもまた確かだ。今の漫画が面白くないとはけして思わない。っていうか、そういうふうに大ざっぱにくくっちゃうのはなんかイヤだ。とりあえず今漫画業界にできるのは、基礎体力をつけること、それから次代のメイン読者層である若年層に対して裾野を広げることくらいだと思う。それにはやっぱりより分かりやすくデッカいお話を描ける人を育成して、あとは漫画を手にとりやすい状況を作ることだろうなあ。なんにせよ小手先で実現できることではない。

【雑誌】コミックビーム 3月号 アスペクト B5平
 掲載作品はコミックビームのページ参照。
 馬頭ちーめい「BREAK-AGE」は最終回。あんまりきちんと読んでいなかったのだけど最終回は楽しそうな雰囲気でよろし。ちょっと最後のほうは慌ただしかった印象もあるが。永野のりこ「電波オデッセイ」。キタモリたちは受験シーズン突入。野川さんはどうなってしまうのか。気になる。しりあがり寿「弥次喜多 in Deep」。今回は道端にずっと、ただ生えている「ヤマモクさん」のお話。ずっと生えているのに、自分が何なのか、世界が何なのか、まったく分からず役に立つこともない。そんな存在が無性にいとおしく感じられてくる。余計な部分を切り捨てコアの部分だけで勝負する作風は毎度のことながら驚嘆。
 すがわらくにゆき「魔術っ子!海堂くん!!」は写植が落ちてヘロヘロに。大丈夫か? それはともかく今月発売のすがわらくにゆき日記漫画の単行本のタイトルは「おれさま!ギニャーズ」に決定。上野顕太郎「夜は千の眼を持つ」では、いろいろな漫画の食事シーンをつなぎ合わせて一話を構成している。全ての元ネタが分かる人はけっこういるだろうけど、全ての作品を所有している人はちょっと珍しいかも。勝川克志、山川直人まで入っているのはちょっとすごい。
 園山二美「蠢動」。今回も流麗な線でうまい。男と女の虚虚実実を鮮やかに描写。羽生生純「恋の門」は逆に男と女のドロドロを暑苦しく描写。志村貴子「敷居の住人」はどんどんキャラクターがイキイキしてきている感じ。女の子たちがとても魅力的。いましろたかし「釣れんボーイ」は、このやる気なさげな人生を淡々と描くダメさ加減がたまらない。なんでもない生活をあまりにも赤裸々に、かつミニマルに描く作風がすごい。今回も「ナナハン買って高速かっとんで釣りに行くんだよ!」と叫んだ次のコマで、ゴロゴロしながら「とかいいつつ人のまんが読んだりして」「あっこれまねしよう」などという志の低さが俺のハートを直撃。すごいや。桃吐マキル+福実未ノアル「大美空のテーマ」は「森繁ダイナミック」のようなハチャメチャにとっちらかった漫画。ちなみに福実未ノアルは、福耳ノボル→福耳ノアルがまた名前を変えての登場
 次号では近藤るるるが読切で久々登場。「ミラクル高僧チベットちゃん」の続編とのこと。なお、次号から表紙がリニューアル。今まではずっと寺田克也だったが、次号から連載作家の持ち回りになる。第1弾は桜玉吉。

【雑誌】ヤングジャンプ 2/25 No.11 集英社 B5中
 高橋ツトム「ALIVE」。前回、死刑から免れた主人公・八代ともう一人の死刑囚はナゾの部屋に連れ込まれ、時間も分からない無機質な部屋の中で「自由」を与えられる。今のところまだ先が見えない謎めいた展開。今後も要注目。今号は月イチ連載、山本康人「打撃天使ルリ」が掲載。いつものように胸がすく打撃っぷり。「打撃人間」は自然に発生するものらしい。踊りながら殴る姿はヘンテコでかつ痛快。

【雑誌】週刊少年チャンピオン 2/25 No.12 秋田書店 B5平
 浜岡賢次「浦安鉄筋家族」も能田達規「おまかせ!ピース電器店」も、うういずみ「2×2」もバレンタインデーネタだったが、1999年のバレンタインデーは日曜日なのだ。しかし、物語世界が1999年なのかは分からないので、これはこれでいいような気もする。田口雅之「バロン・ゴング・バトル」もバレンタインデー。バロンに手作りチョコを渡して抱いてもらおうとするシンディだが、バロンはくそチョコレートをくそ頬張るだけで……というのはもちろんウソ。今週も初っぱなからバロンがすごい顔。ゴードンがあっという間に形勢逆転。さて、バロンの次の一手は?ってところで以下次号。


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