◆ ごはん系のススメ ◆


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What's 「ごはん系」?

 いきなり「ごはん系」などという言葉を出してきても分かる人はたぶんいないだろう。なんといっても、俺が作った言葉だし。では、ごはん系の漫画というのはどういうものか。
 一言でいえば「中堅クラスの漫画」ということになる。要するに常に安定してある一定レベルの面白さを保持しているが、それほどに大ヒットしない。でもマイナーってわけでもない。はずれはないが、逆に大当たりもない。そんな作品群だ。
 どんな漫画がごはん系に当たるかというと、例えば最近の吉田聡や石渡治、原秀則、山田貴敏といった中堅クラスで、いつもコンスタントに作品を作ってくる人たちだ(吉田聡「湘爆」はちと例外的作品)。食事に例えれば、常に食卓に出ていて、それほど意識するわけではない「ごはん」に当たる漫画である。

 こういった作品は、オタク受けはあんまりしないし、熱狂的なファンもそれほどつかない。でも、コンスタントに力を発揮しているし、みんな一回は読む。単行本を買うというところまでいく人はさほど多くないので、一回読んだら終わり、といった感じのものが多い。だいたいがソツなくまとめてはいるが、ある人にとって「最も好きな漫画」とはなりえない。


その力

 ごはん系漫画に対して、おかず系漫画というものもある(というか俺があると思っているだけだが)。例えばトンカツだのハンバーグだのはたしかにおいしい。そして、「一番好きな食べ物は?」と聞かれたときに真っ先に挙がってくるのは、ごはんではなくおかずのほうだろう。いわば食卓の花、雑誌の主役だ。おかず系漫画は単行本も、みんなきっちり押さえる。
 しかし、こういったおかずはいつもいつも最高の出来ではないことがあるし、自分の体調によってはあんまり食べたくないということもある。そういったインパクトの強いおかず系漫画のかげで、常に雑誌をコンスタントにある一定のレベルで読ませることができるようにしているのが、ごはん系漫画だ。誰もその雑誌の中で一番には挙げないものの、誰にとっても上から4分の1程度くらいには入ってくる。

 漫画雑誌というものは、こういったおかず系の漫画とごはん系の漫画がバランスよく存在しないとトータルとして面白くないと俺は思っている。おかず系の漫画ばかり集めてしまうとゲップが出るし、よりオタクライクな出来上がりになってしまうため、漫画マニア以外の人には受けが悪くなる。同じ傾向の漫画ばかりではやはりだめなのだ。同じ傾向の漫画ばかり集めて失敗した例として「COMIC CUE Vol.1」がある(Vol.2以降はいいと思う)。スカシ系の漫画ばかり集めたため、全体的にみずみずしさが感じられない、パサパサに乾燥した雑誌という印象になってしまった。一つ一つの漫画は、見るべきものも多いのだが、やはり通しで読むとツライ。
 時によって、また読む人によって、当たり外れの大きいおかず系の漫画を前面に押し立てつつ、その陰でごはん系の人たちが常にある程度読ませる、というのが大事なことなのだと思う。今、わりと売れている雑誌を見ても、たしかにヒット作はあるものの、こういったごはん系の作品も同時に存在していることを忘れてはならない。ジャンプでいえば「こち亀」がそうだし、マガジンでいえば塀内夏子の漫画あたりがそれに当たるだろう。


ごはん系に愛を

 以上のように雑誌において重要な役割を持っているごはん系漫画(および作家)なのだが、その実力の割りに書評などで取り上げられることは少ないし、ほうっておくと忘れられてしまうことが多い。「マイナー誌の中でメジャーな漫画」「メジャー誌の中でマイナーな漫画」というのは意外と固定ファンがつきやすい。「メジャー誌の中でメジャーな漫画」はいうに及ばない。だが、「メジャー誌の中の真ん中へんの漫画」というものは、あまり意識されないものなのだ。
 でも、常に読ませてくれるその力は、もっともっと正当に評価されてもいいのではないだろうか。そんなわけで、この文章を書いてみた。

 数ある中堅「ごはん系」漫画の中で、俺がとくにオススメするのが原秀則の作品。原秀則は実にソツなく、どの作品もある一定のレベルにまとめてくる。手慣れた技で、中盤をきっちり盛り上げ、最後はきちんと泣かせて締めるという職人技も見せてくれる。ここに貼っつけてあるのは「いつでも夢を」(小学館、全6巻)の最終巻の表紙。これなんかも実に面白く読ませてくれる。オススメだ。
 あと、最近では吉田聡「走れ!!天馬」(小学館)なんかも面白かった。ラストはちょっと尻切れって感じだったけど。細野不二彦は、自ら「ホームランよりも3割バッターを目指す」というように、コンスタントさを狙っているようだが、ごはん系にしては熱烈なファンも多いような気がする。