なかいま強
Tsuyoshi Nakaima
こんこんちきち
1巻〜(小学館)
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月刊少年ジャンプの長寿連載「わたるがぴゅん!」で有名な、なかいま強の作品。元気で派手な「わたるがぴゅん!」に比べると、この「こんこんちきち」はいかにも地味な作品だ。テーマも落語と、大向こう受けするものでもない。でも、これが地味ながらすごく面白いのだ。
主人公は寄席でまだ前座、ようするにペーペーの噺家の道楽亭呑太(どうらくてい・のんた)。この呑太は自分の落語が客に受けると気持ちよくなる、それも股間がという特異な体質の持ち主。学生時代、文化祭で全校生徒の前で落語をして大受けだったときに、生まれて初めてイっちゃった(ようするに射精ですな)というくらい。
しかし、真打ちともなれば客も入るがさすがに前座では客の入りが悪く、ウケることによる快感を求めて落語家になった呑太としては欲求不満の日々が続く。そんなとき、兄弟子が漫才なども引っくるめた演芸コンクールに出場することが決まる。ここで呑太は若者の落語離れという厳しい現実をつきつけられる。漫才のときなどでは満員だった客席が、落語が始まったとたん聞きもしないうちにガラガラになってしまうのだ。
この厳しい現実を前に、落語のため、自分のため、呑太は立ち上がる。寄席で待っていても客は来ない。それなら自分が客の中に入っていこう。飲み屋で落語の流しをしたり、渋谷のセンター街に陣取って通行人相手に一席ぶとうとする呑太だが……。
という感じの話。どんなに自分が頑張ったって、人は振り向いてはくれないかもしれない。頑張っても頑張っても、若者はなかなか落語を聞いてさえくれない。でも、あきらめない。やらずにはいられない。伝統芸能だからでもない、落語界を守るためでもない。本当に落語が好きだから、人を笑わせるのが好きだから。ただ自分の満足のために、遮二無二突っ走る呑太の姿がひょうひょうとしているものの、熱くてかっこいいのだ。人のためじゃない。自分のためにやる。献身も素晴らしいものだけど、こういう利己的な突っ走り方というのも俺は憧れるところなのだ。
そんな感じでキャラクターの作り方、話の進め方、盛り上げ方、親しみやすい絵など、実によくできた漫画である。下品になりすぎず、かといって上品に構えているわけでもない。わりと誰にでも幅広くオススメできる作品といえるだろう。
いちおう第一集ということになってるが、続きはたしか掲載されていなかったはず。たぶん、これで完結なんじゃないだろうか。初版が96年の夏だからまだ入手はそんなに難しくないと思う。
なかいま強はこの作品以外にも、現在サンデーで連載中の「ゲイン」もじわじわ面白くなってきたし、「うっちゃれ五所瓦」「わたるがぴゅん!」など、どの作品もコンスタントに面白い。すごく目立つタイプではないが、ぜひ注目していってほしい漫画家の一人だ。
●単行本データ
「こんこんちきち」 小学館 YS COMICS 判型:B5
巻数 | ISBNコード | 初版発行 | 価格 |
1 | ISBN4-09-151791-9 C9979 | 96/08/05 | 500円 |