谷口ジロー
Jiro Taniguchi
犬を飼う
全1巻 小学館
ビッグコミックススペシャル BCS3711 A5・2色カラー含む 価格:850円(本体825円)
初版発行:92年11月20日 ISBN4-09-183711-5 C0379
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谷口ジローの短編集。なんといっても表題作の「犬を飼う」が素晴らしい。ほかの作品も面白いのだが、「犬を飼う」の圧倒的な感動にはさすがに及ばない。
なんといってもたった1回、読切で掲載されただけの作品なのに異様な反響を呼び、第37回小学館漫画賞の審査員特別賞を受賞してしまったほどだ。もちろん、賞をもらったからといってその作品がスゴイと証明されたわけじゃない。でも、この作品は掛け値なしに素晴らしいのだ。
ストーリーは、平凡な夫婦の愛犬でありすでに老いたタムタムが死ぬまでを描いたもの。
動物の死を描いた作品はほかにもいろいろとあるが、相手が言葉の喋れない犬であるだけに、よりその哀切さが深く染みとおってくる。そして、特筆すべきは谷口ジローの描写だ。
この「犬を飼う」には過剰な演出など一切ない。ただただ、淡々と犬が衰えていくさまを描いている。脂っ気の全くない緻密な画風で事象を静かに丹念に描いている。それだけに読者に自然に訴えかけてくるものがあり、深い感動が呼ぶ。「泣かせよう泣かせよう」と仕掛けてくるお涙頂戴的作品などは問題にならない高みに谷口ジローは達している。
とくに、空き地でタムタムと日なたぼっこをしているところに、老婆が話しかけてくるところなど絶品である。「早く死んであげなきゃだめじゃないかね。」「でもね、死ねないんだよ……なかなかね……死ねないもんだよ。」と語る老婆。何度読んでも涙が出てくる。
また、タムタムが死に向かう数日間の記録も胸を打つ。生物はなぜここまでして生きるのか。生きなければならないのか。深く、そして清浄な感動が心の底から沸き上がってくる大傑作。実は、この文章を書くために読み返してみたのだが、また泣けてきてしまった。とにかく素晴らしいので、読んでみてほしい。犬を飼っている人にも飼っていない人にも、絶対にオススメだ。
収録作品 | 初出 |
犬を飼う | ビッグコミック91年6月25日号 |
そして…猫を飼う | ビッグコミック91年12月25日号 |
庭の眺め | ビッグコミック92年4月10日号 |
三人の日々 | ビッグコミック92年9月25日号 |
約束の地 | ビッグコミック92年7月25日号 |