バロン吉元
Baron Yoshimoto

小さな巨人

講談社・アフタヌーンKC全5巻
判型:B6

オスマントップページに戻る
「小さな巨人」

 アフタヌーン(講談社)にて連載された作品。嘉納治五郎の開いた講道館で四天王と呼ばれ、必殺技「山嵐」で名高い西郷四郎の青春物語。物語は西郷四郎が17歳にして、星雲の志を抱き上京してきたところから始まる。身の丈5尺(150cm程度)と小柄ながら、敏捷な動きとバネで他を寄せつけぬ圧倒的な強さを誇る。と、ここまで聞くと西郷四郎を主人公とした、柔道モノかと思うかもしれないがそうではない。柔道という競技でのし上がっていく姿ではなく、ここでは一人の青年として悩んだり、楽しんだり、怒ったり、もがいたりする西郷四郎の青春が生々しく描かれているのである。

 この作品の特徴はなんといっても、バロン吉元の圧倒的に濃い絵だ。力が入りまくってギットギトに脂っこい。例えるならコールタールか何かのような、力強くどっしり重たいものがある。キャラクターの表情も、わざとではないのだろうが必要以上に邪悪。メインキャラクターたちは、なんだかどれも悪いことでも企んでいるようにしか見えない目つきをしてて、実に怪しい。とくに西郷四郎をつけ狙う、スキンヘッドでマッチョなホモ男、錦妖介が気持ち悪くてええ感じである。脇役キャラのステロタイプで力の抜けた描写とのコントラストがなかなかに激しい。

 伝説的な柔道の鬼である西郷四郎ではあるが、この作品の中では強くはあれどしょっちゅう迷うし、立身出世にあくせくし、恋に悩み、肉欲に打ち勝てず遊郭に通ってしまう精神的弱さも併せ持った、実に人間味のある身近な青年として描かれている。酒をかっくらっては失敗し、書生を勤めている家のお嬢さんの着がえを偶然覗いてしまった後はそれを想いだしてオナニーするなど、匂ってくるような生臭さがたまらない。でも、もちろん決めるときは決める。大東流合気武術に講道館柔道を取り入れ、さらに生来の野性味でバッタバッタと悪者をなぎ倒していくさまは痛快。それでいながら、全体の雰囲気はなんとなくほのぼのしているところもバロン吉元ならではの味だ。
 もう絵柄だけで敬遠してしまう人もいるだろうが、そこは一つ我慢して読んでもらいたい。実際に読んでみると絵柄には慣れるし、案外気軽に読めてしまうのだ。

巻数初版発行ISBNコード価格
194/01/22ISBN4-06-314075-X C0379定価500円(本体485円)
294/05/23ISBN4-06-314081-4 C9979定価500円(本体485円)
394/10/21ISBN4-06-314093-8 C9979定価520円(本体505円)
495/02/23ISBN4-06-314105-5 C9979定価520円(本体505円)
595/05/23ISBN4-06-314112-8 C9979定価520円(本体505円)