永野数馬
Kazuma Nagano
劣等25%
講談社・ヤンマガKC 763
ISBN:ISBN4-06-336763-0 C9979
価格:本体505円
初版発行:98/10/06
判型:B6
オスマントップページに戻る
青臭い。死ぬほど青臭い作品である。ヤングマガジンで連載された作品なのだが、ヤンマガらしく絵はあんまりうまくない、というかこぎれいでない。ストーリー展開も非常に奇矯でアナーキーだ。ただパワーは不必要なくらいある。こういう絶対に売れるわけなさそうな若手の作品を掲載するチャレンジングなところが、ヤンマガの魅力だ。この作品は断言するが売れないだろう。それだけに再版されることもまずないはずだ。欲しい人は早めに買っておくことをオススメする。
物語は主人公・健太が薄情な友人に裏切られて高校を退学になるところから始まる。学校をやめて、とくに目的もなくぶらぶらしていた健太に、親友・まーくんは一人暮らしを勧める。その勧めに従い健太は、まーくんのおじさんがやっている下宿「めぞんめぞん」に入居する。ところが、このめぞんめぞんはまさに奇人の巣窟。ドアを開けるとちょんまげを結った武士姿の男が突っ立っている。引き返そうとすると、プロレスラーのようなマスクをかぶった男に殴られる。部屋に入ると押し入れにはパーカーを着た男が。彼がいきなりギターを弾き始め、ブルーハーツの「リンダリンダ」を歌い出したと思ったら、ドアをけ破り、天井の板を外し、窓をぶち破り、乱入してきた男たちが歌に合わせて踊り出すといった具合。
最初の数話は、こういったスジもへったくれもないような展開で、アブないキャラクターたちの意味も脈絡もない行動に健太は圧倒され続ける。ここらへんの、唐突で突拍子のない展開がこの作品の第一の魅力である。めぞんめぞんの住人どもは、どう見てもちょいと頭がイカれているとしか思えないような変人ばかりでまともな奴は一人もいない。「このお話どうなっちゃうんだろう」と読者を不安にさせずにはおかない。「めぞん一刻」的な安心して見ていられる変人たちではなく、精神的なバランスや安定感というものがまったく欠落した奴らなのである。
後半になると物語は一変し、異常なまでの青臭いお話になる。ヘンであるから、人と違うから、いわゆる「一般人」どもに彼らは蔑まれる。弱い者たちが自分よりさらに弱い者を作り、そして叩く。そんな中、めぞんめぞんの住人の一人、日がな一日絵を描いてばかりいる少年・サトシが周囲の人々によってリンチされる。絵を描いて生きるという彼の夢を、近隣の人は笑う。「どーせ無駄な夢なんだろ!?」と。そしてある日、めぞんめぞんの中でも最も謎な男、福田真也の手により、サトシに暴行を加えた高校生が殺害され、周囲の住人の弾圧はピークに達する。「殺せ!」と口々に叫びながら、めぞんめぞんを群衆が取り囲む。「ちったぁ俺らのために地球回ってくれてもいーじゃねーか」。健太は呟く。ここらへんはこのセリフに代表されるような、青臭い言葉のオンパレードである。「何で俺達はいつも……ひとりぼっちなんだよ……」などなど。
いわゆる一般人を名乗る、自分が普通であることを信じて疑わない、そして自分ではモノを考えようともしない、そんな連中に対するいかにも若僧らしい、反発の叫びがこの作品の後半を埋め尽くしている。作品のあちこちに散見される「甲本ヒロト」といった落書きを見れば分かるとおり、その雰囲気、キャラクターの造形などは、実にブルーハーツ的だ。ステロタイプとさえいえるかもしれない。だからブルーハーツ的、青臭いパンクの「作り上げられたかのようなガムシャラさ」を嫌う人にはオススメしない。でも、この奇矯なノリと、ムチャクチャに熱くて力強い叫びは、一度は味わってみてほしいところだ。好みに合わなかったら、それはそれでそっとしておいてやってほしい。不器用にしか生きられない彼らのために。