「カラーメイル」 藤原カムイ
Kamui Fujiwara

「カラーメイル」
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 なんとも凝りに凝った単行本である。
 藤原カムイといえば、近年は「ロトの紋章」「雷火」の2作品が名高いが、これらは両方とも原作モノだった。どちらも大河物語であり、これはこれで堂々とした面白さがあったのだが、かつての「CHOCOLATE PANIC」やら何やらの実験的な作品が好きだった人には少々もの足りない気持ちがあったのも事実。
 しかし、この2大作も完結し藤原カムイ自身にも時間的な余裕ができてきたせいか、最近はウルトラジャンプで連載されている「福神町綺譚」を筆頭に、今まではあまり表に出せなかった遊び心のあふれる作品が増えてきている。そして、その極めつけともいえる作品がこの「カラーメイル」だ。

「カラーメイル」のキーワードは「色」だ。
 物語の舞台はいつの時代ともつかないファンタジックな世界。人々はそこで、自然の恵みによって平凡ながらも平和な生活を送っていた。しかしそんなある日、突如現れた黒い太陽によって、世界から色という色が盗まれてしまう。色を失った世界は同時に輝きを失い、人々は呪いによって石となって固まってしまう。その中で唯一、石とならなかった主人公の少女・アイは、人間の形に姿を変えた動物たちの助けを得ながら、色の神官アッシュ・グレイの導きに従って、世界に色を取り戻す冒険の旅に出る。

「カラーメイル」は全編フルカラーである。最初は世界は完全に着色されているのだが、冒頭で色を盗まれ、印刷もモノクロになってしまう。主人公のアイが冒険を進めるに従って、色を一色ずつ取り戻していくのだが、それにしたがってまた漫画の画面にも色が増えていくという構造になっている。最初は赤、そして橙、黄……と順々に色が増えていき、ラストではまたフルカラーに戻る。
 本来あるべきところに色が欠落していて、それがどんどん元に戻っていく。その過程がなんとも楽しく美しい。最初のほうなど、カラー用の印刷なのにあえてモノクロで全編、話を進めてしまったりするあたりは心憎い。それからストーリーは基本的にドタバタコメディなのだが、下らないギャグを織り混ぜ、色の精霊を集めて戦隊モノのような決めポーズをさせるとか、各所に遊び心が満ちていてとても楽しい。

 単行本の作りも実に凝り凝り。フルカラーなのはもちろんなのだけど、物語の場面やキャラクターを交通標識みたいに図案化した表紙、それから色水の入ったフラスコをデザイン化した目次などもポップでとてもオシャレ。
 ストーリーから絵から、藤原カムイらしい手の込んだ遊びがちりばめられている。時間をかけて遊ばせると藤原カムイはさすがにとんでもなく凝ったことをやってくる。こういう細かいのをコチコチ作るのが大好きな人なのだ。やっぱりタダモノではない。なお、この単行本、聞いた話によると刷り部数はあんまり多くないらしい。オールカラーなので原価がかかるのであんまり刷れないのだそうだ。そんなわけで見かけたら早めにゲットしておくことをオススメする。値段は1800円とちょっと張るが、それだけの値打ちはある本だ。