「ナイショのひみこさん」 魚戸おさむ
Osamu Uoto

「ナイショのひみこさん」
オスマントップページに戻る

巻数ISBNコード初版年月日価格KC No.
1ISBN4-06-328538-3 C99791997/08/22530円(本体505円)538
2ISBN4-06-328596-0 C99791998/08/21600円(本体571円)596

 モーニングに連載された、一風変わった雰囲気を持つ怪作である。
 主人公は小学校教師を勤める是又福助(30歳)と、その妻・姫密子(ひみこ。24歳)。188cmと長身で美人、超巨乳でダイナマイト的肉体を持つひみこさんと、157cmの短躯、腹は出ていて顔も野暮ったいちんちくりんな福助の夫婦では近所でも評判。彼らの幸せで、かつおかしな夫婦生活を描く。

 ひみこさんは名古屋の巨大な旧家、駄我家(だがや)家の出。名古屋というわけで例のトラック3台分の嫁入り道具を持って嫁いできたひみこさんなのだが、最愛の夫・福助にもその中身はけして触らせない。実は駄我家家には、代々伝わるナイショの家宝があり、その荷物には生活においてさまざまに役立つ道具の数々が入っているのだ。足の裏のツボを刺激して歩くのがとても楽しくなる「痛快ウキウキシューズ」やら、腰の痛みが取れる「フタコブラクダ印ギックーリ腰巻き」、股間のどんなアクシデントも装着すれば1時間で元どおりになるふんどし「又の玉三郎」などなど。さながらドラえもんか何かのような、魔法のようなアイテムの数々が掘り起こされてくる。しかし、その詳細を尋ねると返ってくる答えはつねに「ナイショですよ」(そのうち「ナイショぴょん」に進化する)の一言。どうやらナイショらしいのだ。
 そして駄我家家には数々の変わった風習がある。城のような超大豪邸に住まう駄我家家は、代々女性が相続する決まりになっているのだが、女児を生ませるための珍妙な儀式がいくつも執り行われる。ひみこさんは長女ではないので福助は助かっているのだが、家長の婿は女の子が生まれるまで何度も子作りをしなくてはならず、その過程はとてもハードである。雪山や千尋の谷を乗り越えて七つの秘湯を回り、その途中の山小屋で子作りに挑む。なぜ千尋の谷を渡らなければならないのか。それはナイショだ。
 駄我家家の蔵には、ひみこさんの嫁入り道具など氷山の一角に過ぎないほどの数々のナイショの道具が眠っていて、こういった奇妙な風習に利用されている。これらはどこから来て誰が作ったものなのか。もちろんナイショなのである。

 物語は終始、奇妙なほのぼのさを保ちながらナンセンスに進む。絵は非常に脂っこくて野暮ったいので、読者を選ぶところはある。だが、これが読み進めてみるとなんとも馬鹿馬鹿しく面白いのだ。ナイショの道具「全身黒子タイツ」を着て雪の降る町を37歳にして童貞の男・網走健の黒子としてスケートで駆け巡ったり、福助とひみこさんの子供が生まれるときには「サンバのリズムで産婆の三婆」がやってきたりするなど、やることがいちいち奇妙。これが脂っこい絵と相まって、得も言われぬ不思議な味わいを醸し出す。そしてそれらの奇妙な行動が、すべて「ナイショぴょん」という一言で軽やかに、ぴょろ〜んとはぐらかされてしまう。物語のテンポが普通とは完全にズレている独特の世界が展開されている。そしてその面白さの秘密は、詰まるところナイショなのだ。
 なんとなく手の出しづらいおかしなノリの作品だが、馬鹿馬鹿しくくだらなくて、かつほのぼのとして心暖まる。力勝負の豪速球もいいが、こういうチェンジアップのような人を食った作品も、これはこれでまた面白いのである。