「プロファイリング師 朕集院犬清」 石井達哉
Tatsuya Ishii

「プロファイリング師 朕集院犬清」
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 主にビッグコミックスピリッツの増刊枠に掲載され、ときどき本誌にも登場する作品である。作品内容を説明するためにまずは「プロファイリング」についての解説を単行本裏表紙から引用する(斜体部引用)。
プロファイリングとは犯行現場の状況を心理学的に、行動学的に分析し、その犯人像を浮かび上がらせるFBIの捜査技術である。
 この物語の主人公、朕集院犬清(ちんじゅういん・いぬきよ)はプロファイリングの天才的専門家(自称)である。犯行現場に残された手掛かりに対して、行動学的・心理学的見地から意味付けをして、そのような手掛かりを残すのはどういったタイプの人物なのかを割り出していく。それがプロファイリング師の仕事だ。というと、なんだかシリアスな刑事ドラマか何かのように思うかもしれない。だが、そんなことは全然ない。「プロファイリング師 朕集院犬清」の持ち味は下品で強引で猛烈に下らない展開にある。

 朕集院犬清のファッションを見てもこのお話にキワモノぶりは容易に想像がつく。トンガリ帽子に、ズボンや袖の裾は広がりマントまで付いた珍妙な背広を着用。人間の顔の形をした奇妙なバッグを常に携帯している。そしてそのプロファイリングぶりも見た目そのままにキテレツ。依頼者だけでなく、依頼もしてきてない女性のハートをゲットするため、状況証拠だけから我田引水、自分に都合のいい推理をポンポンと連発する。金をもらえば相手に都合のいいようにプロファイリングをねじ曲げるのも辞さない。

 例えば美人が経営する喫茶店の前の薄暗い路地にあった立ち小便の跡。その美人を立ちションの犯人に仕立て上げるため、「男は立ちションを単なる放尿作業と考えているので、するとしたらより開放的な場所を選ぶ」→「すなわち犯人は女」とか、横にあった大きな糞塊を見て「美人は太らないように繊維中心の食事をする」「排泄を我慢しがち」→「犯人は美人」などと強引に理屈をつける。なんだかんだ傍証を挙げて、全然脈絡のないところから犯人をこじつけ、自分の都合のいいほうに結論を持っていく推理っぷりがとてもおかしいのである。自分勝手で、決めつけで、うさん臭くて、アテにならない。実際ほとんどの推理はハズレている(偶然当ってしまうのもある)。

 それから、犬清の推理を聞く周囲の人々の呼吸のいい加減さも笑える。犬清の、とても合理的とはいえないような強引な推理を「一理ある」というだけでなんとなく納得してしまう。一理あればいいってもんでもなかろうに、細かいところはまったく無視の大ざっぱさがステキなのである。

 おおむね推理はたいへんに下品だし、ギャグもかなりベタだ。ギクシャクと直線的で、奇妙にバランスの狂った絵柄は大変にクセがある。クマドリしたような犬清の目つきもなんだか邪悪だ。女性のキャラクターも妙にのっぺりした顔つきで、まるでダッチワイフのような感じさえする。しかし、そんなクセの強い作品だからこそまとまったときに珍妙な味わいを醸し出している。下品さと絵のクセというハンデを乗り越えられる人はチャレンジしてみてもらいたい。その下らなさに思わず笑ってしまうはずだ。


巻数ISBNコード初版年月日価格
1ISBN4-09-185131-2 C99791998/10/01510円(本体486円)
ISBN4-09-185132-0 C99792000/08/01505円+税