オススメ漫画レビュー
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■著者名:おおひなたごう
■出版社:秋田書店
■シリーズ:少年チャンピオンコミックス
■巻数:全5巻
■判型:新書判
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週刊少年チャンピオン連載作品(1999/05/13現在)。本筋としては、三度の飯よりもおやつが大好きな小学生、おやつくんの活躍を描くギャグ漫画、だと思う。とはいえ、1巻の途中までおやつくんはほとんど登場しなかったりもするし、話が大きく逸脱することもしばしば。
おおひなたごうのギャグは、一見地味である。絵柄は特徴的だが荒々しくはないし下品でもない。かといって枯れているというわけでもなく、あくまでもアッサリとしたものだ。驚くほど肩に力が入ってない描線であるが、骨がないってわけではない。そしてそれは作風にもいえる。たしかにウケを取ることは狙っているのだろう。ギャグ漫画だから当然のことだが。しかし、それがまったくガツガツとしていない。「笑わんかいコラ」というような押しつけがましさもなければ、「笑ってください」という卑屈さもない。ブラックジョークでもないし、風刺でもない。照れも気負いもない。しかも「ここで笑ってくれ」というサインも、本当にさりげなくしか出さない。「笑ってくれないんなら笑ってくれなくても全然構わない」といった感じで、とことん透明でかつクールなのだ。そしてそれがキザになっていない。読者を意識してはいても、それはまったく表に出さない。ポーカーフェイスで汗一つかかずに、まるで独り言のように淡々とギャグを連発する。それがおおひなたごうだ。
ギャグ漫画はギャグ漫画でもいろいろなタイプがあるが、おおひなたごうの作風はほかに似たような人をあまり見ない。実験的というわけでもなく、力押しというわけでもない。クールで理知的なのだが、しかしそれをなんでもないオブラートで包む。ギャグのスタイルとしては、基本はひねりとくり返し。ここらへんはオーソドックスといえばオーソドックスなのだが、目立たないけどまず普通の人は気づかない方向に話をひねる。鮮やかにひねって一回転してしまったような感じさえする。
言葉使いの巧みさという面では吉田戦車的なものも感じるが、もっともっと乾燥した感じである。例えば2巻収録の「ノック」ではおやつくんがいろいろな人に道を尋ねられる。最初は普通(といっても行き先は秘宝館なのだが)に道筋を聞かれて教え、次は「リアス式海岸にはどういったらいいのか」と聞かれる。ここでちょっとだけひねっているわけだ。その回答は「あのポストをなめまわすように横目で見ながら次の信号をですね……」とまた少しひねってくる。次は「この道はアスファルトですかね」と道の材質について聞かれ、さらには人生の道について……とちょっとずつ繰り返し繰り返しひねりが積み重ねられていく。一つ一つのひねり自体は小さくても、全体として見ると大きなボルテージとなっている。
似たようなパターンは、脇役キャラの一人「おやつ神さま」がある。この神様のお腹の部分には「一生涯神」とか「神っぷり」とかいう文字が書かれているのだが、これが一話ごとにさりげなく変化している。ある一話だけ読んだ場合は気がつかないが、通しで読むとその変遷ぶりが妙に楽しい。さらに書かれている文字も、なかなかセンスがある。
で、そうやって積み重ねていくギャグの中でも、傑作なのは「パワーホライズン」である(2巻参照)。これは高校野球の決勝が行われているグラウンドの中で、選手たちのアクションをまったく別の解釈で利用して競われる競技である。このお話ではおやつ君とその友達のモンブランが勝負する。試合は野球と同じように、9イニングあってイニングの合計点数で勝敗を決める。その試合の模様がものすごく異様。例えば、高校野球のキャッチャーがキャッチャーフライを捕ろうとするときにマスクを脱ぎ捨てる。そのマスクをダイレクトでキャッチする技「マスクキャッチ」で3点。バッターがバントの構えをとった瞬間、その真横からバットの先端部にダーツを投げつける「地獄ダーツ」(30点)といった具合。その技の見事さによって得点は変わるのだが、高校野球をバックにそれが淡々と行われる。そして野球そっちのけで人々が盛り上がるのだ。野球選手も疑問を持たずに、自分たちの野球を続ける。そんなよく分からない競技を一話やるだけでもすごいのに、おおひなたごうはこれに5話も費やす。しかも、淡々と。競技の前提がすでにイカれていて、それをスタート地点としてどんどんひねりを加えていくので、最終的な到達レベルは果てしなく高い。それなのに、おおひなたごうはあくまでそれを強調するでなく、淡々とクールに描き出す。
一話一話のページ数も短いし、気を抜くと読み飛ばしてしまいがちな目立たない作品なんだけど、きちんと読むとそのギャグの奥の深さに驚くこと必至。クセモノである。
(以上1999/05/13)
巻数 | ISBNコード | 初版年月日 | 価格 |
---|---|---|---|
1 | ISBN4-253-04387-9 C9979 | 1998/06/15 | 410円(本体390円) |
2 | ISBN4-253-04388-7 C9979 | 1999/06/05 | 410円(本体390円) |
3 | ISBN4-253-04459-X C9979 | 2000/07/10 | 本体390円+税 |
4 | ISBN4-253-04460-3 C9979 | 2001/04/10 | 本体390円+税 |
5 | ISBN4-253-04525-1 C9979 | 2002/02/28 | 本体390円+税 |