オス単:2002年8月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。

 日記形式だと、どうしても日にちが過ぎてしまうと大量の過去ログの中に個々の作品が埋もれてしまうため、このコーナーではダイジェスト的にまとめてみました。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則としてしませんので、普段日記を読んでくださっている方にとっては読む意味がないかもしれません。手抜きといえば手抜きなんですが、まあその点はご容赦ください。

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でもどんどん入れていきます。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、わりと省略しがちです。


★とくに強くオススメ

【単行本】「裸のふたり」 カイトモアキ 河出書房新社 A5 [bk1][Amzn]

 素晴らしい! この単行本が出るのをずっとずっと待ってたんだよお〜。この物語は、女教師・景子と彼女を好いてしまった男子生徒・倉井の波瀾万丈のラブストーリーである……などと書いたけど、こんなんじゃこの物語の持つ桁外れの熱量は一つも伝わらないと思う。

 まずいきなり出だしからして凄いのだ。ある朝、景子が登校すると運動場を掘り返して描かれた巨大な「景子」の文字が。愕然とする景子に対し、倉井が話しかける。「僕がやったんですよ」と。彼は夜中に学校に侵入し、グラウンドを素手で掘り返してその巨大文字を描いたのだ。手の皮はべろべろにむけてその下の筋肉さえも露出。涙を流す目つきのテンパりぶりは尋常でない。告白シーンでは自ら顔にペンを突き立てしまいには女教師の顔に嘔吐さえする。彼は色白で一見気の弱そうな普通の少年だが、先天的に自分の感情を抑えることができない体質で、激情に駆られると豹変する。目を血走らせ身体中の血管をビキビキに浮き立たせ、血を吹き出しながら絶叫し怪力を発揮する。そしてその自分の体質を持て余し、抑えつけようと苦悩している。

 強烈な好意を向けられた景子も、その想いに耐えきれず錯乱していく。男も女もどちらも不器用で真面目なのだが、それだけに怖い。ドス黒く得体の知れないパワーがこもった作画も強烈。これほどに狂おしく激しい愛の物語は滅多にない。帯には「新時代のアダムとイヴ!」と書いてあるけれども、むしろ旧時代、いやこの想念のぶつかり合いには原始人もかくやと思わせるパワーがある。まさに愛の塊。生ヌルさなどどこにもない。ハッキリいってこの作品を「気持ち悪い」と受け止める人もいると思う。劇薬だ。それだけにもの凄く刺激的で効果は強烈。シビれた。やっぱり個人的には萌えよりもこっちだ。単行本を出してくれた河出書房新社に感謝。そのうち「白い少年」の単行本未収録分も出してください。あとツギノツギオ「サルハンター」もお願いします。

【単行本】「そらトびタマシイ」 五十嵐大介 講談社 A5 [bk1][Amzn]

 アフタヌーン四季賞が生み出した最良の果実の一つであろうと思われる五十嵐大介による待望の短編集。非常に細かく慎重に引かれた線を集めて作られた画面、そして描き出されるファンタジーの数々は問答無用の説得力を持っている。例えば「le pain et le chat」で、万引き少女の目を見つめていたパン職人の男がその潤んだ瞳に引き込まれていき眼球の中の海をじゃぶじゃぶ渡るシーンなどは、もちろん現実にはあり得ないけれどそのイメージの豊かさに圧倒される。とくに自然や生物の描写については見事の一語。この人のファンタジーはまじりっけがない。教訓とか説教とか主張だとか、そういうモノにファンタジーを利用するといったところがまったくない。あるのはただただイメージ。そしてそれを美しく描く切るだけの画力。父母の喧嘩に嫌気がさした少女が、体から砂が出るという特異体質の女性と似顔絵描きの男性の部屋に居候をするという「すなかけ」なんかはストーリー面もきっちりしたいいお話なんだけど、だからといって何かを読者に押しつけるわけではない。でも心に残る。素晴らしい作品集なのでぜひ手にとってみていただきたい。

【収録作品】「産土」「そらトびタマシイ」「熊殺し神盗み太郎の涙」「すなかけ」「le pain et le chat」「未だ冬」

【単行本】「そっと好かれる」 小田扉 太田出版 A5 [bk1][Amzn]

 出てくれてすごくうれしい。「こさめちゃん」に続く、小田扉2冊めの単行本。今回は商業誌、同人誌合わせて各所で小田扉が描いた短編を集めた単行本となっている。すごく面白いんだけど、どのように面白いかというとなかなか説明しづらいのが小田扉。絶妙の呼吸で飄々と繰り出されけしてうるさくなることのないギャグ、そしてときにはそういったギャグをやりつつも読み終わった後でちょっと切ない気持ちが残る作品も描いちゃったりするあたり素晴らしい。絵もいい。別にガリガリ描き込んでいるわけではなく、シンプルでいい加減っぽい線なんだけど、得もいわれぬ味があってなんだかずっと見ていたくなるような心地よさがある。人間の表情なんか最高だ。このさりげなさ、肩の力の抜けっぷりは天性のもんだと思う。

 窃視癖があって課長のことが大好きなOLの野木さんの日々を描いた「そっと好かれる」とかはほのかにおかしくていいし、サイボーグ4人がファミレスで自分たちの能力について下らない話をする「サイボーグ大作戦」なんかは純粋に馬鹿馬鹿しくてイカしている。まだ小学生な子供たちの日常を描いた「子供で雪の子」あたりはしみじみとした味わいがあるし、同人作品の「放送塔」は何かヤバいヤマを抱えた4人の会話を淡々と描いて何やらもの悲しい読後感を残す。どの作品も小田扉ならではの味が十分発揮されててたいへんに面白い。独自のリズムを持った人だから何を描いても小田扉らしくなる。こういう人は強い。

【収録作品】「そっと好かれる」「学び舎大戦争」「高枝さん」「古野さんのワールド・カップ」「サイボーグ大作戦」「子供で雪の子」「マシンガンでぶっ放せ」「お知らせ怖し」「飽きの来ない」「バルコニー知らんぷり」「世界一周スクール☆ウォーズ」「ロングT」「エレクトロねえさん」「大江戸君」「宇宙温泉」「革むくじゃら」「放送塔」

【単行本】「クローン5」1〜2巻 すぎむらしんいち(相談:いとうせいこう) 講談社 B6 [bk1][Amzn:1巻/2巻

 アッパーズで連載中のすぎむらしんいち最新作。さすが。面白い。一つの受精卵を四つに分けて生まれた4人の子供たち。彼らは20歳になると死ぬようにプログラムされていたが、余命あと半年というところになって新たな人間として生まれ変わるべく一つところに集められる。そのうちの一人が主人公・忠次。それから元アイドルのアキ。引きこもりのデブオタ・たけしともう一人。集められる過程で妨害が入ったり、さまざまなトラブル続出であれよあれよと事態はごろごろ転げ回る。単行本でまとめて読むとその効き目は倍増。息もつかせぬエンターテインメントの連続といった感じで大変に面白い。とくにデブオタたけしが絡んできてから本当にいい。暴君として振る舞うたけしと、彼に使役される母親の姿は、やることが極端で笑える。この人はオタクを描かせると本当にうまいなあと思う。「スタア學園」の仲本も最高だったし。まだまだいっぱい波瀾がありそうで、今後もすごく楽しみ。

【単行本】「少年エスパーねじめ」1巻 尾玉なみえ 集英社 新書判 [bk1][Amzn]

 はた迷惑な超能力の持ち主である白エスパーねじめが、気の弱そうな少年るきじの家に住みついてさまざまなトラブルを巻き起こすというギャグ漫画。ねじめが戦う相手は自動販売機から押してもいないおしるこが出るような混沌として世界を望む黒エスパーとか。別に戦わなくてもいいような気もするし、そのおかげでるきじは迷惑かけられっぱなしなのだが、はたから見てるとその様子が楽しくて仕方がない。るきじの頭に縦笛が生えたり、ヘンなロボットのお腹の引き出しに収納されてボロボロになったり。とかいう事象だけ説明しても、この作品の面白さはたぶん伝わらない。尾玉なみえのクセのある絵、セリフ回し、リズム感あってこそのギャグという気がするから。すごく妙でほのぼのとしているようでもあるヘンな漫画。オススメ。あとおまけページの自虐ネタなども気が利いてていい。「純情パイン」の読切バージョンが収録されているのもうれしい限りだ。

【単行本】「いちご100%」1巻 河下水希 集英社 新書判 [bk1][Amzn]

 ある日少年は、いちごパンツの美少女に一目惚れした……というところから、地味だけど眼鏡を外すとむちゃくちゃ美人でなおかつ主人公のことを好いている東城綾さん、それから快活で奔放な美少女で主人公が勘違いして告ってしまった西野つかささん。二人の女の子に挟まれて主人公の真中くんがドキドキしまくる学園ラブコメ。というと普通のラブコメでしかないだろうし、実際普通のラブコメでもあるわけだが、この作品は非常にいい。何より女の子が二人とも可愛いし華がある。今どきこんなラブコメでしかないラブコメなんて珍しいし、胸がキューンとなる甘ったるさも格別。パンチラとかも重要だが、それよりも読者をぐにゃぐにゃにするラブコメ空間の濃密さがいい。なんといっても東城さんがいいコすぎてなあ……。もうたまらんです。

【単行本】「ハチミツとクローバー」1〜2巻 羽海野チカ 集英社 新書判 [bk1:1巻/2巻][Amzn:1巻/2巻

 現代日本の漫画市場における需要と供給のアンバランスを示す一例!……というほど大げさなもんでもないかもしれないが、どうやらけっこう刷り部数が少なかったらしく、とくに第1巻は入手できなかったという人がちらほらと。bk1でも1巻はお取り寄せになっており、Amazonは現在注文ができない状態。まあそのうち増刷されると思うのでとりあえず注文だけしといて気長に待つのが吉と見た。

 という前置きはさておき、CUTiE comicなき後YOUNG YOUに移籍し、なかなか単行本が出てくれずやきもきさせられた「ハチミツとクローバー」がついに登場。待っておりました。今さらながらに陳腐な言葉にて説明すると、この作品は美大に通う学生たちと彼らの恋愛を中心とした青春ストーリーということになる。主な登場人物を適当に挙げると以下のとおり。

森田(♂):畸人かつ天才。どうでもいいことと金儲けに才能を注ぎ込みまったく他人のいうことを聞かない男。はぐのことをたいへん気に入っている。
花本はぐ(♀):背はむちゃくちゃ小さいけれども天才。森田いわく「コロボックル」。
竹本(♂):忠犬気質の真面目な青年。森田の後輩。はぐちゃん大好き。純真。
真山(♂):マイペースだけど寂しがり屋。年上の未亡人に報われない恋心を抱く。
山田(♀):強力な蹴りと美乳・美脚の持ち主。真山に恋しているがその想い届かず。

 この5人と周囲の人を交えた楽しく、そして切ない人間関係が描かれていくわけだがこれが実に素晴らしい。学生ならではの馬鹿話で楽しく笑わせてくれたと思ったら、非常に切ない恋愛模様を描いて胸を締め付ける。そのバランスが絶妙。作画も非常に美しい。美麗なタッチ、ギャグタッチを器用に使い分け、きれいでもありかわいくもあり。ギャグもセンチメンタルなラブストーリーもともにうまい。1〜2巻を通しで読むと最初のほうはわりとギャグっぽい展開が多いんだけど、回が進むにつれて心にしみるような切ないお話が増えてくる。とくに「鉄人」と呼ばれる山田さんの乙女心の切なさときたらもうたまらない。でもセンチメンタル一辺倒にならず、一話一話、それこそ笑いあり涙ありできちんとまとめてくる腕前は本当に大したもの。非常に高いレベルで完成された、足りないものを見つけるのがちょっと難しいような作品。それだけにできればもう少しデカい判型で出してほしかった……。

【単行本】「エマ」1巻 森薫 エンターブレイン B6 [bk1][Amzn]

 祝発売。19世紀末のロンドンを舞台に繰り広げられる、メイドのエマと貴族のジェームスを中心としたロマンス。エマは、昔ジェームスの家庭教師をしていたケリーの家に勤めるメイド。物静かで慎ましやか、知性を感じさせるもの柔らかな美貌の持ち主。この作品を語る場合、「メイド」という言葉がどうしても出てしまうのだけど、じゃあ「メイド萌え〜」な作品かというと、まあそうでないとはいわないがそれだけじゃないと思う。何よりいいのが全体に漂う均整のとれた優しいムード。絢爛というのではなく、いかにもイギリス〜という感じの紳士的、淑女的な雰囲気が醸し出せている。しかもそれが全然嫌味じゃない。それから登場人物たちの精神性も気持ちがいい。高潔で上品。気も利いている。

 エマについては、メイドというのもものすごく重要な要素ではあるんだけど、メイドという属性がなくとも好きになれるタイプであることは間違いない。そういえばメイド服も、装飾過剰なひらひらしたものではなく家事をきちんとこなせそうな実用的なデザインだ。眼鏡はかけているけど、「眼鏡っ娘萌え〜」とかいうのともちと違う。個人的にはメイド属性はほとんどない。衣装はいいと思うけど、基本的にメイドはご主人様のいうことに従順なのであんまり面白いと思えないでいた。でもエマの場合は、いわゆる「ドジで健気でご主人様のいうことはなんでも聞く」というタイプのステロタイプなメイドではない。ちゃんと自分でものを考え動く、騒がないけれども知的な良い娘として描かれているのがすごくいいと思う。考えてみるとこういう目立たなさげなヒロイン像というのも珍しいかもしれない。そういう娘さんだからこそ、その気持ちが表面に出たときの奥床しい態度に興をそそられる。彼女に想いを寄せるジェームスも基本的にいいヤツで、二人が並んでいるショットは微笑ましいし、彼らを優しく包み込むように見守るケリー奥様もこれまたいい人だ。そういう人たちであるだけに「幸せになってほしいなあ」と素直に思える。

 きゃーきゃー騒ぎ立てたり、萌え萌えいうような作品では本来ないような気がする。でもこの作品はしみじみいい。読んでて気持ちが良く、好ましい雰囲気に満ちている。エマだけでなく、物語世界全体に惚れる。

【単行本】「大人になる呪文」1巻 パニックアタック FOX出版/文苑堂 B6 [bk1]

 待ってましたー! コミックヒメクリで連載中の萌え萌え☆ぼんばぁ〜「大人になる呪文」がついに単行本化。このお話は、ロリロリな妹が大好きで大好きでたまらないお兄ちゃんが、これまたお兄ちゃんが大好きで大好きでたまらなくってお兄ちゃんのお嫁さんになるために早く大人になろうと魔女っ娘の修行をしている妹・未由たんを、可愛がり甘やかしHないたずらをし戯れるという作品だ。もう最初ッから最後まで、徹頭徹尾それしかやっていない作品だといってもよく、何かの間違いではないかと思うほどに妹萌え純度が高すぎる。そして兄萌えの純度もこれまた高いのだ。

 パニックアタックは、この作品において未由たんという妹が繰り出す、さまざまな可愛らしさを描きつけることに全精力を注いでいる。別に可愛いファッションや猫耳やら、そんなパーツが可愛いだけじゃない。例えば呪文を唱えようとしてお兄ちゃんの前でくるくる回転→勢い余って机の角に手をぶつけて手をふうふうする。例えばストローをT字型につなげて息を吹いて窓のさんのホコリを吹き飛ばすみたいなどうでもいい豆知識を、いかにも誇らしげにお兄ちゃんに披露する。両手で口のはしを引っ張って「い〜っだ」といってスネる。その仕草がとにかく無邪気すぎて無防備すぎて、造形+アクションの可愛さはもう∞。思わず頭をなでたりお小遣いあげたくなっちゃったりする。

 この気持ちはたぶん恋だけでなく、小動物を溺愛する気持ちに近いものが加わっているのかもしれない。実際この作品でも、未由たんが呪文を間違って唱えて10cmくらいのちっちゃさになっちゃって、それをいとおしむという回がある。胸のポケットに入れて持ち歩き、ときどき取り出して見つめてはニヤニヤしたいという願望の具現化だ。そういう感情に基づいた作品であるがゆえに、個人的にはエロはまったくなしでもいいとさえ思う。まあ実際、回を重ねるにつれHな描写は減って来ているような気もする。とにかく未由たんを日がな一日観察して、頭をなでなでして、一緒におゆうぎでもやれればそれでいい。それほどにピュアな溺愛感情を沸き立たせてくれる。こういう作品を読んでいると、たとえ児ポ法とかが施行されても僕らはやっていけるかもしれないとか思う。服を脱がさくても、Hをしなくてもやっていけるじゃないかと思う。イエーイ。


▼一般

【単行本】「アフター0」1〜2巻 岡崎二郎 小学館 B6 [bk1][Amzn:1巻/2巻

 祝発売。長らく絶版になっていた岡崎二郎の傑作SFショートショート、「アフター0」が完璧版として復活。今回は旧版には未収録だった短編も収録されるなど内容は充実。全8巻にて刊行予定らしい。科学や化学その他もろもろのうんちくをエッセンスとして活用し、ときには人情モノのドラマ、ときにはミステリ、ときには冒険モノと、いろいろな味付けをして読者の前に気の利いた作品として呈示してくる手際は今読んでも実に鮮やか。旧版を買い逃していた人も持っている人も、この機会にぜひどうぞ。できればこの勢いで「トワイライト・ミュージアム」とかも復刻してくれないかなあ。初収録作品等、詳しいデータは「アフター0」ページを参照のこと。

【単行本】「カラコカコ〜ン」1巻 こうのこうじ 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 いかにもヤンマガらしい、暑苦しい絵柄の新鋭の初単行本。それまでどんな仕事をやっても続いたことがなくフラフラしていた男が、ボウリング場の店員となって賭けボウリングをしている奴らと出会い、ボウリングの持つ魅力に目覚め自身も賭けに参加させられるようになっていく……というお話。熱血といえば熱血なんだけど、しょせん地方の一ボウリング場が舞台ということもあってどこかのんびりウダウダやっているように映る。ここらへんもヤンマガ風味。暑苦しいパワーを持った描き手は好きなので、今後大きくハジけてくれることに期待したい。

【単行本】「ふわふわカタログ」 石田敦子 少年画報社 B5 [bk1][Amzn]

 ホビージャパンにて1回につき見開き2ページという形式で連載された作品。ファンタジーっぽい街でハーブ屋をしながら暮らしているアニメ好きの女の子・ココアを主人公に、彼女の熱中していることや恋などについて描いていくお話。最初は2ページというページの少なさもあって画面がゴチャゴチャしてるな〜という印象があった。とくに手書き文字によるセリフなんかがそうで、ファンタジーっぽい世界のわりに丸くかわいい文字でなく、わりと不揃いなボールペン習字的な字だったこともあって、よりガチャついて見えた。でもそれは読み込んでいくうちにあんまり気にならなくなったし、ココアみたいないかにも真面目で一生懸命生きている女の子っぽい字だなと思えるようになった。ストーリーについては、好きな人との趣味の相違などに傷つきながら、ココアが一歩一歩成長していくポジティブな物語になっていて面白かった。ココアも可憐な文系乙女という風情のいい娘さん。好感が持てた。

【単行本】「オッス!トン子ちゃん」 タナカカツキ アジール・デザイン B6

 太ってはいるけどどこかキュート、岡本太郎に憧れ、「〜ダス」という語尾のしゃべり方と繊細な乙女心の持ち主、トン子ちゃんの生活を描く。この作品の来歴自体はよく知らなかったのだが、兄・本田健のページを見ると音楽専門のCSチャンネル、スペースシャワーTVのCMとかに登場していたらしい。で、これを実際にまとめて読んだところ、これがなかなか面白かった。ベタな古典少女漫画ラブコメチックな恋模様、カッコイイ喫茶店のマスターへの憧れといったモノと、岡本太郎のアートに対して抱く得体の知れぬ根源的な情熱などなどのミスマッチを、飄々と描いていくいけしゃあしゃあとした作風がなかなか快感。素直に楽しめた。限定3000部のボックスらしいけどまだ買えるんだろうか。いちおう入手先であるカエルカフェにリンク。

【単行本】「神罰」 田中圭一 イースト・プレス A5 [bk1][Amzn]

 「神罰」の神は「漫画の神様」の神。手塚治虫や本宮ひろ志といった大御所漫画家のタッチを真似て、下品なギャグをやりまくった作品集。とくに手塚タッチの習得ぶりはお見事。個人的に一番ヒットしたのはカバー裏漫画。和登さんを攻略するギャルゲー。うおー、それはちょっとやりたすぎる。それにしてもこういうのを見るにつけ、手塚治虫のペンタッチの色っぽさを痛感する。いつか全集揃えなきゃ……。

【単行本】「FADE OUT」1巻 いけだたかし 小学館 B6 [bk1]

 この世でただ一人の、霊界と物質界を行き来することのできる「幽霊族」に属する14歳の少女・こかげが、その体質のおかげで出会うさまざまな出来事を描いていくというお話。優しい絵柄で丁寧に描かれた物語は、暖かい思いやりに満ちていて気持ち良いお話となっている。とくに第一話で、霊界に行ったまま元に戻れなくなりそうになったこかげを、彼女の幼なじみであるトシアキが飛びついて引き戻すシーンなんかはとくにいい。この作品を契機に、けっこういっぱいある未収録の短編とかも単行本にまとまってくれると非常にありがたい。

【単行本】「パンテオン」1巻 榛野なな恵 集英社 新書判 [bk1][Amzn]

 「Papa told me」がしばらくお休みになって始まった連載作品。これは個人的にはかなり楽しみにしている。物語の中心人物は高校生4人。

芹沢彰子:親の都合で離れ離れになっていた兄・遼一を恋慕う少女。高校入学とともに兄と母の住む家に越してくる
芹沢遼一:彰子の兄。一見性格は軽そうだが意外とちゃんとしたところもあるモテ男子。
御倉弥生子:遼一の先輩で彼女。才色兼備の優等生だが、その仮面を維持しつつ遼一との性交渉を持つしたたかな面も。
重富桃子:成金の娘で演劇部。将来への目標をしっかり持ったポジティブな少女。外部の中学からやってきた彰子に惹かれるものを感じている。

 第一話は桃子視点で語られる部分が多いので彼女が主役なのかと思っていたら、その後は彰子の兄に対する切ない恋心を描くのがメインとなっている。美少女の口に出してはならない秘められた想い。なんとも切ないし、榛野なな恵の上品な作画が独特の美しい緊張感を作り出している。個人的には「Papa told me」は、甘口なキャラ設定と榛野なな恵が描きたいのであろう厳しい主張がすでに乖離しちゃっているという印象を受けてたんで、別口の連載に挑んだというのはこの人が作家として新しいステップを踏み出すためにも非常にいいことだと思っている。この作品についてはまず滑り出しは好調。次は桃子のキャラがもう少し生きてくるといいなー。

【単行本】「不思議庭園の魔物」 大越孝太郎 河出書房新社 A5 [Amzn]

 猟奇的な雰囲気の作品に絞った短編集。この人の特徴であるシャープかつ耽美的な艶めかしい線の魅力が、ちょっとエロティックなイメージのからむお話によくマッチしている。この人の場合、最初のころの作品については絵はうまいけどお話的にはちょっと足りないかなーといったものが多かったように記憶しているんだけど、猟奇という方向に目覚めてからはすごく良くなっていると思う。そしてそれが現在もガロで連載中の「天国に結ぶ戀」へ、非常にいい形でつながっていっている。この作品集の中では、人形のような女しか愛せない男が出会った天職の物語「人形姫」がとくに面白かった。この人の確かなゆるぎない線は、人形を描写するのにすごく適していると思う。

【収録作品】「転生術綺譚」「青空少年」「膨張のトルーソー」「猟奇刑事マルサイ」「ピータンの壺」「夜の漁」「伍右衛門屋敷」「ベトナムチーム」「サルベージ」「ミステリーチャットタイム」「猟奇探訪小説(文:和嶋慎二)」「人形姫」

【単行本】「復讐のように」 二宮ひかる 白泉社 B5 [bk1][Amzn]

 短編集。かなり昔の作品から最近のものまで幅広くカバー。描かれているのはおおむね、セックスを分かちがたく含むいろいろな形の恋愛模様。「友達と恋人の中間くらい」とか「恋愛とそうでないものの中間くらい」とか、微妙かつ越えがたいラインでの押し引きを描く呼吸はやはり絶妙。昔の短編は今のものと比べると若干青さが伺えるが、これはこれでまたいい味。しなやかに艶がある良い本。作品の出来自体は多少バラツキはあるけれども、どの作品もちゃんと自分ならではの雰囲気、空気で満たすことができているので納得できる。

【収録作品】「ニ番目の男」「乱れる」「ラブレター」「寄生MIND」「のら」「Beige−べーじゅ−」「あしたの女王」「復讐のように」「みじかいお別れ」


▼エロ系

【単行本】「Load of Trash」 A-10 ビブロス A5 [Amzn]

 カラフル萬福星に連載された作品。龍もいる中世ファンタジー世界を舞台に、小国の王子と彼につき従う愉快なパーティの道中を描くというお話。前半は孤児を性奴隷として売りさばいている修道院との対決といったシリアスな展開もあるけれども、後半は非常にお気楽。この作品の特徴はなんといってもすんごいうまい絵。カラフル萬福星はCG系のうまい描き手が揃っていた雑誌だったけれども、この人はその中でも作画的には最上の部類に属する一人。お話的には楽しいんだけどまとまってはいないかなというところはあるものの、表面の質感の美しい作画はやはり一見の価値あり。

【単行本】「ラブ装填☆電動ファイター」 西川魯介 ワニマガジン B6 [bk1][Amzn]

 「ラブ装填」と書いて「ラブコメ」と読む。電動式の模型を使ってモデラーたちが闘う、いってみれば「プラレス三四郎」みたいなモノをネタにした漫画。とはいってもそれよりも重要なくらいの要素として、ショタおよびめがねっ娘のHシーンがあるわけだが。主人公格である非常に元気で可愛い少年・準、それから最強のモデル・駆逐姫ダーシェンカの使い手でめがねっ娘でいつも準とHなことをしまくっている柚乃の二人を中心として、準に惚れちゃったボーイッシュな女の子・真琴ちゃんらが織り成す恋愛模様を描いていく。モデルファイトというオタクなエッセンスと、かわいい少年が身悶えるのが見どころの案外エロいHシーンなどなど、非常に楽しい。なんといっても真琴ちゃんの切ない恋模様が可愛らしゅうて。ラブコメとしてよくできてるのが何よりよろしいかと。

【単行本】「おんなのこ」 加賀美ふみを 平和出版 A5 [Amzn]

【単行本】「かわいいね」 加賀美ふみを 平和出版 A5 [Amzn]

【単行本】「だいすき」 加賀美ふみを 平和出版 A5 [Amzn]

 「だいすき」が発売されたので、ついでに既刊の単行本をざざーっと購入。毒気のないたいへんにかわいらしい絵柄で、ほのぼのとしたラブラブH系の作品を描く日と。最初のころから絵はかわいかったんだけど、回数を重ねるにつれてそれがさらに愛くるしくなってきて臨界点を超えたので、そろそろ手を出そうと思ったしだい。

 この人の作品は最初に述べたように非常にほのぼのとしている。そんでもって微笑ましい。ショートカットでちんまりした女の子さんたちが思わず頭をなでなでして慈しみたくなるくらいいかにもかわいらしいというのはもちろんなんだけど、この人の作品の場合、恋人たちが男女セットでなんとも微笑ましい構図を作っている。3冊全部に登場する「Song」シリーズのケンちゃんとユカのカップル、それから「だいすき」に登場する地方の学校の幼なじみカップルまあちゃんとかよちゃんあたりはとくにいい。今どきこんな純なカップルがおるんかーと思うほどに純で、片方が自分を好いてる様子を見てもう片方が顔を赤らめ、その様子を見てもう片方も頬を染め、嬉しい気持ちと嬉しい気持ちが共鳴しあってほのぼのアツアツな空間を作り出していく様子がたまらない。Hのほうもやることはやってるんだけど、本当に「愛のあるH」となってて甘〜い。いつまでも初恋。いい。羨ましい。

【単行本】「アストロメイド」 榊原薫奈緒子 笠倉出版社 A5 [Amzn]

 「アストロメイド」全話と「おきらく仮天使エンジェルR」シリーズ3話を収録。「アストロメイド」は強化メイド服を着た女の子が、世界を征服せんとする宇宙人たちと闘うというお話。天使のようにかわいい絵柄ながら、細部にどかどかとブラックなネタを突っ込みまくる作風がこの人の持ち味。「アストロメイド」も「おきらく仮天使エンジェルR」も、本来の目的を忘れているわけではないんだけど、そのブラックな出来事なんかのおかげでお話が取り返しのつかない方向にばかりごろごろ転がっていくさまが楽しい。個人的にはけっこうエロ方面の実用度もけっこう高いと思う。そのやたらかわいい絵柄とかについては、本人のWebを見ていただくと手っ取り早い。絵もそうだしブラックなネタのセレクション、調理などすごくセンスがいい。全体にすごく細かいところまでこだわり抜く人であるなと思う。ただ「アストロメイド」については、連載間隔がわりと空きがちだったこともあって、各話のつながりはいまいち良くない。ゴチャゴチャとネタ満載なので読みにくくもある。そんなわけで、細部のネタをほじくりながらわりとのんびり読んでいくのがいいんではないかと思います。


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