オス単:2003年3月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。

 日記形式だと、どうしても日にちが過ぎてしまうと大量の過去ログの中に個々の作品が埋もれてしまうため、このコーナーではダイジェスト的にまとめてみました。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則としてしませんので、普段日記を読んでくださっている方にとっては読む意味がないかもしれません。手抜きといえば手抜きなんですが、まあその点はご容赦ください。

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でもどんどん入れていきます。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、わりと省略しがちです。


▼強くオススメ

【単行本】「晴れた日に絶望が見える」 あびゅうきょ 幻冬舎コミックス B6 [bk1][Amzn]

 さてさてどう対処したらいいものやら、という本だ。圧倒的に緻密で美しい背景描写、純粋で可憐で汚れない少女たち。そんなものたちが一コマ一コマ、一枚絵のイラストとしても通用しそうなくらいのクオリティで呈示されているのに、内容は恐ろしく暗黒。主人公の影男は38歳独身、アニメや同人誌の世界のみで生きてきて、親にもなれなければ男としても通用しない。真っ黒いベールを頭からすっぽりかぶってその外形さえ分からない社会的に不要な人間、ダメ男。そんな行き場のない存在である男に、少女たちはある一つの方向、日本の男が男と死ねる唯一の道を指し示す。ドーン。

 あびゅうきょによると、現代日本は邪教の洗脳により、大和撫子たるべき女子は邪教徒どもに股を開き母性を失った存在。そして男は守るべき女子を失い、アニメやフィギュアなどのヴァーチャルな存在にしか魂の行き場を見出せなくなったゴミ。日本人が日本人として生きるためには、邪教徒を排斥するべくお国のために戦うしかない。背景にちりばめられた「八紘一宇」「愛国」などの文字、靖国神社や菊の御紋の神々しいイメージがそういったムードを盛り上げる。でもその担い手である男子は、アニメや漫画で骨抜きのぐにゃぐにゃになっている。どうしたらいいんだ。絶望。ドドーン。

 といった絶望的な内容に対して、受け手たる、アニメや漫画に浸りきった30歳独身男子の自分はいったいどうしたらいいのか。あびゅうきょがこれを本気の本気でやっているのか、それともネタでやっているのか、そこらへんでまず判断に迷う。本気でやっているとしたら、これを笑って読むのは失礼なような気もするけど、それを真に受けた行動をするのはいささかクレイジー。ネタでやっているとしたら、手離しで褒め上げ真に受けるのは馬鹿だし、しかし今の日本男子、ひいては自分の状況を考えるとむげに笑ってしまうのもどうかという気がする。ただ単純に絵の美しさを愛でたり、時折描かれているテーマの過激な刺激にシビれる程度に押さえておくのが一番賢いのだろうけど、それもちとクールすぎるしちとイヤな奴っぽすぎる。

 というわけでどんなスタンスをとるべきか、対処に迷うというわけだ。でも内容的には不思議なくらい面白いと思う。なぜか読んでいて非常に気持ち良かったりもするのだ。美少女にダメ男のダメさ加減をビシビシ容赦なく指摘していただく快感というのもあるのかもしれない。何にせよものすごく刺激的な一冊であることは間違いない。

【単行本】「武富智短編集 A SCENE」 武富智 集英社 A5 [bk1][Amzn]

【単行本】「武富智短編集 B SCENE」 武富智 集英社 A5 [bk1][Amzn]

 いや〜、やっと出ましたな。武富智としては初の短編集。初連載だった「キャラメラ」のほうは出来としてはイマイチだったけど、短編はどれも光ってる。甘く切なくほろ苦く、でも爽快感のあるお話が、キレのある端整な絵と絶妙にマッチ。この中ではとくに、いつも一緒にいた幼なじみ3人組のそれぞれの成長を描く「3ペイジ」、病弱な少年と寂しい少女の一時の心の触れ合いを鮮やかに描いた「ピノキオの♪と」あたりが個人的には強く印象に残っている。あとこの人の名前を初めて意識することになった「若奥様のオナ日記」も。まあなんといっても美しい漫画が好きな人で、この絵が嫌いな人はあんまりいないんじゃないかなーと思わせる絵。それから少年少女の繊細な心を鮮やかに描き出す、叙情的なストーリー回しも素晴らしい。ほとんどの作品が、雑誌初出時と比べると大きく手が入れられていて、中にはタッチが相当変わっちゃった作品もある。個人的には旧版の作画もかなり好きなのだが、まずとりあえずは、単行本になって多くの人の目に触れる機会が増えたことを喜びたい。

▼「A SCENE」収録作品
「WAFFLE BUNNY」、「嬉悔しい影ノ介」、「3ペイジ」前後編、「アイニーデュ」、「あきらとめぐり会って」
▼「B SCENE」収録作品
「いつか忘れてしまうけど」、「若奥様のオナ日記」、「ひととき全て」、「bazaar」、「夜の朝顔」、「ピノキオの♪と」

【単行本】「Big Hearts ジョーのいない時代に生まれて」1〜2巻 林明輝 講談社 B6 [bk1][Amzn:1巻/2巻

 現在、モーニングで連載中のモーニング漫画。広告代理店の営業マンだった主人公・保谷栄一が、30億のかかったプレゼンの最中に緊張の余り嘔吐するという失態を犯してしまったことを契機に脱サラ。プロボクサーとして生きていくという物語。この作品を読んでまず感じるのは、絵が非常に地味であるということ。デッサンはすごくしっかりしてるんだけど乾いた描線はパッと見目立たない。でもコレが面白いんですな。キャラクターの心情描写がしっかりしているし、地味な画風がかえって「普通の人間だった主人公が、着々と努力を積み重ねて強くなっていく」というストーリーによくマッチしている。スポーツ漫画のわりに人間離れしたところがない。大人の常識の範囲内であるところに、等身大な魅力がある。

 あと人情の機微の描き方もシッカリしている。作者自身、新人とはいえ40歳で広告代理店を退職したという経験のある人らしいのだが、なるほどそれも頷ける。人生経験がしっかり作品の中に生きてて、それぞれのキャラに深みがある。あと主人公の栄一の試合と、その恋人的な存在である女性歌手の売り込みの様子を同時並行で進行させて見せたりとか、構成の妙も光っている。今後の展開も楽しみ。

【単行本】「私家版鳥類図譜」 諸星大二郎 講談社 A5 [bk1][Amzn]

 鳥をモチーフに、文字通り想像力の翼を自由にはためかせた連作を集めた単行本。例えば長い間、外界を見ることなく地下の廃墟の中で暮らしていた人々が、行商人が持ち込んだ鳥を初めて見てさまざまな想像を巡らせる「鳥を売る人」。例えば「虚空」と呼ばれる空間にそびえ立つ無限に続くかと思われる塔の世界の中で暮らす人々と、外の世界に魅入られてしまった青年の物語「塔に飛ぶ鳥」。いずれもスケールの大きい舞台設定、想像力の自由さ、そこに封じ込められたロマンにしびれる想い。さすが諸星大二郎、センス・オブ・ワンダーばりばりですなあと感心する1冊。

【単行本】「緑の黙示録」 岡崎二郎 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 木と話すことができる特殊能力を持った少女が、その能力が縁でさまざまな事件に遭遇していくという物語。岡崎二郎としては初めてアフタヌーンで掲載された作品だが、内容はいつも通りの岡崎節。植物学の知識をさまざまに織り込みながら、ミステリー仕立てのお話を組み立てている。

 この作品における植物についての描写でキーとなっているのが、「植物も動物たちと同じように、なんらかの手段でお互いに意志を伝え合っているのではないか」という命題。そしてその伝達力により、人間たちともさまざまに関わりを持ってくる。動物を使って自然の素晴らしさみたいなものを描く作品はけっこうあるが、植物についてこういう、一歩踏み込んだアイデアを持ち込んだ作品はなかなか珍しい。安易に「植物! エコロジイ〜」ってな感じで安易に結論づけるような一発ネタで終わることはなく、回数を重ねるにつれて内容も深めてきている。しかもお話としてもちゃんと読ませるものにまとめ上げているあたり、その腕前にはさすがとうならざるを得ない。「1巻」」という表示がないのでこれで終わっちゃうかもしれないけど、植物というテーマはこれからも掘り下げていってくれるとうれしい。

【単行本】「α アルファ」上下巻 くらもちふさこ 集英社 A5 [bk1][Amzn:上巻/下巻

 いやあ、これは参った。面白いですわ。本当によく出来てる。この作品は「α」という短編連作シリーズ全6話と、男女4人の役者によるドラマ「+α」全6話が、1話ずつ交互に掲載されるという構成になっている。「α」のほうはファンタジーあり、現代劇ありのそれぞれ独立した完成度の高い短編としても読めるのだが、「+α」では「α」の内容が4人の役者たちが演ずる連作テレビドラマの内容として扱われる。

 個人的には雑誌(コーラス)掲載時はいまいちピンと来てなかった。非常に申し訳ないのだが言い訳したい点もあって、実はこの作品、まず「α」6作が連続して掲載され、その後しばらく置いてから「+α」6作が掲載される……という形で連載されていたからだ。雑誌で読む場合は、まず「α」のほうを完全に独立した短編シリーズとして楽しみ、「+α」を役者青年たちの青春ストーリーを楽しむという形だった。それが単行本で順番を入れ替えることによって、「点」であった劇中劇が、「線」である役者青年たちのドラマによってつながれていき、雑誌で読んだときより点も線も鮮やかに目に飛び込んで来る。この物凄い技巧の冴えには正直感動した。もちろん単行本だけ読んでもむちゃくちゃ面白いのだが、雑誌で読んでいた人にとっては感慨がひとしおであることは疑いない。

 個人的には、単行本で読む場合はまず「α」だけまとめて読み、その後「α」「+α」を通読していく……という2回読みをするのがオススメ。「α」だけ拾って読むと冴えた短編であり、次に「+α」を合わせて読んでいくと劇中劇の回数が進むにつれ、主役格の三神妃子の演技力の向上、精神面での成長といった側面も見えてくる。つまり「+α」を読むことによって、短編であった「α」の内容にさらに別の側面も加わって深みが出てくるのだ。漫画的な技巧も素晴らしくて、作画・コマ割りともに洗練されている上に新しい。大したもんです。個人的には、とくに週刊の男性向け漫画は短期間で才能を完全燃焼というイメージが強いのに対し、少女漫画は長いことかけて作風を洗練させ磨いていく……という印象がある。実際に少女漫画でスゲエなあと心を揺り動かされるのはむしろベテラン作家のほうが多い。そしてこの作品についてもベテランの底力というものを強く感じた。

【単行本】「6番目の世界」 福島聡 エンターブレイン B6 [bk1][Amzn]

【単行本】「空飛ぶアオイ」 福島聡 エンターブレイン B6 [bk1][Amzn]

【単行本】「少年少女」2巻 福島聡 エンターブレイン B6 [bk1][Amzn]

 福島聡祭り。というわけで3冊同時発売。現在コミックビームで連載中の「少年少女」の2巻に加え、短編集「6番目の世界」、それから昔の連載「空飛ぶアオイ」がいっぺんに。この3冊を通しで読むと、福島聡ほどの人でもじょじょにうまくなっていったんだなあということが分かる。とくに「6番目の世界」は、この人が初めて描いた漫画から「少年少女」直前のころの近作まで入っていて、ズンズンうまくなっていく様子が伝わってくる。「空飛ぶアオイ」はその中間点くらい。

 いちおう続き物ということで一番書きやすいので「空飛ぶアオイ」についてから書くが、このお話はただ普通に暮らしているだけで身の周りに不思議な出来事を次々呼び寄せてしまう女の子・アオイさんの日常を描いた作品。このころの絵は今より丸い感じで、普通に癒し系なテイスト。ドタバタ劇を楽しく描いているけど、若干コマが小さいかな? なんとなく今ほどのメリハリがなくて天真爛漫なお話なわりに、ストーリーが意外と頭に入ってきにくいような。それから「6番目の世界」。こちらは先に書いたように、年代バラバラで味わいの異なる6本の短編を収録。キレのいい構成は昔の作品からもありありと感じる。途中演劇方面に走ったとのことで、漫画についてはブランクが何年かあったそうだが、なるほどそれも分かる。3話めの「一日の楽天」と4話めの「もう半分」の間で、絵柄がガラリと変化している。

 で、現在の作品「少年少女」。これはもう素晴らしい。とにかく絵がうまいし、構成も絶妙。甘かったり苦かったり微笑ましかったり……と、いろいろな少年少女たちのシーンを鮮やかに切り出している。漫画力の高さは歴然。今回の収録作品の中では、後に世界中に広がる新種のウイルス病にかかってしまった人気アイドル・リンコと、彼女の病気の診断を下した医者の息子の姿を描いた「リンコ、ふたたび。」が一番好きかな。医者の息子が抱く、夢中になったアイドルに対する憧れという甘味と、その彼女を利用するような形になってしまった苦味、二つがないまぜになった複雑な味わいをつぶさに描写。あとリンコ側の気持ちも考えるといろいろ想いは巡り、深い余韻を残す。あとヨシコ&ゴローシリーズ「微睡」はやっぱり好感度が高い。これ読んでたら、またそのうち長編も描いて欲しいなあという気持ちがふつふつと沸き立ってきた。今のこの人だったらどんな物語、どんなキャラクターを作るのか興味をそそられるものがある。

【単行本】「武侠さるかに合戦」天の巻 吉田戦車 エンターブレイン A5 [bk1][Amzn]

 吉田戦車には珍しいストーリーモノなんだけど、これが面白い。タイトルどおり「さるかに合戦」をモチーフにしたお話なので、カニが猿に対して仇を討とうとするというストーリーは元ネタどおり。しかしキャラクターはそれぞれ非常にクセがある。いらん知恵ばかりある狡猾な猿、針武術の達人である元女王ハチ候補のハチ、主人公であるカニの娘、それから嫌な目つきをした弟カニなど(ちなみにたいていのキャラクターは人間的な造形をしている)。あと股間にイガイガをつけた栗の親分の登場シーンは、何度見ても爆笑してしまう。猿のイヤったらしい表情とかも最高。

 ところがストーリーのほうは、意外なくらい骨太。オーソドックスとさえいえるかもしれない。任侠モノ的なテイストでけっこう力が入っていたりするし、途中の展開も波瀾万丈。それが吉田戦車らしい味のある造形のキャラクターによって演じられることで、得も言われぬ面白さを発揮している。なんだか吉田戦車の新しい側面を見ているような感じ。この人全然枯れてないよ。改めてその才能に感心することしきり。今後の展開も楽しみ。


▼一般

【単行本】「おうどうもん」1巻 せきやてつじ 竹書房 B6 [bk1][Amzn]

 モーニングで「ジャンゴ!」をやっていたせきやてつじが麻雀漫画に挑戦。小倉では敵なしだった天才麻雀野郎のケンタだったが、実はタダのいい加減なヒモだと思っていた自分の親父が、かつては伝説とまでいわれた雀士であったことを知る。東京からやってきたヤクザが、歌舞伎町の支配権を争う中国マフィアとの麻雀勝負に親父を駆り出そうとしていたのだ。その勝負の渦にケンタは否が応でも巻き込まれていく……というストーリー。

 麻雀漫画は、その性質上バストアップが基本。顔の表情と手、それからタバコなどの上半身で扱うアイテムを駆使したアクションで見せなければいけないジャンル。そういうふうに条件が限定されている分、演出力が問われるんだけど、せきやてつじはこの点すごく強力。とくに人間の顔というものを、ものすごい迫力で描けるというのが強い。なんだかものすごく直球、そして剛球。力任せなんだけど、本当に漫画で力任せをやるには高い技量が必要。痛快至極でカッコイイと思います。

【単行本】「モッちゃん 不動直立編」 尾上龍太郎 白夜書房 B6 [bk1][Amzn]

 なんだか得体の知れない面白さ。パチンコ/パチスロものではあるんだけど、主人公がとてもヘン。いつもパチンコ屋さんの前に突っ立っている「モッちゃん」と呼ばれる男。上半身はランニングいっちょ、しかもすそが片方出ていて、下のほうもサンダル履き。直立不動だが、ヒゲダンスみたいに手首を直角に曲げて、手の平を地面と水平に向けている。でも顔はゴルゴみたな感じの眼光の鋭さ。彼はパチンコ屋でさまざまな事情でハマっている人間を見つけると「俺が打とう、お前の金で。」のセリフと共に代打ちを申し出る。そこらへんの展開は人情モノっぽいんだけど、モッちゃんの格好は前述のような浮浪者然としたもの。渋いようなヘンなような、妙な読後感を残す。こういうヘンな漫画を描く人は好きだ。

【単行本】「ちくちくウニウニ 全」 吉田戦車 B6 [bk1][Amzn]

 「ちくちくウニウニ」「超ちくちくウニウニ」を1冊にまとめたもの。海の中のウニ学校に通うウニのこどもたち、それから彼らの親、そして先生たちの姿を面白おかしく描いた作品。吉田戦車としては唯一の少年誌連載。ウニ先生の身勝手な独白がこの作品の最大の目玉。それから海の生き物たちの妙な行動も見ていて楽しい。少年誌向けという意識もいい方向に働いていて、たいへん下らなくも面白い作品になっている。

 個人的な話になって申し訳ないのだが,この作品、というかこの作品の登場人物のウニ先生には、これまでの人生において多大な影響を受けている。もともと他人の話を全然聞いちゃいない人間である自分としては、ウニ先生の「私だけが幸せになれ」という哲学には感動したし、自分に都合のいい願望を口に出すときの彼の悪びれることなき態度にも敬意を覚えた。あと「自分だけ良ければいい」といいつつ、悪いことはしないのもいい。せいぜい天女の羽衣を盗んだりするくらいで、罪はあんまりない。でもまあ実際には、彼そのまんまな生き方が得かといえばそうでもなかったりする。まったく自分の都合だけ優先すると他人から憎まれたりするので、まわり回って損になる。そのようなリスクは最小限に抑え、自分には都合のいいように持っていこう。そんなことを信条に生きていたので友達は少ない。当然モテないので30歳を過ぎても独身である。やっぱりあんまり得してない。でもまあいいかとも思っている。

【単行本】「ななか6/17+ 〜八神健傑作集」 八神健 秋田書店 新書判 [bk1][Amzn]

 ななか関連単行本2冊同時発売。まずはいつもの「ななか6/17」10巻。もう一つ「ななか6/17+」はサブタイトルにもあるように八神健傑作集。要するに本連載が始まる前に読切で掲載されたバージョンの「ななか6/17」と、同人誌掲載作品を含めた短編を集めた本。短編のほうは「鏡の国のジェニファー」「フォーチュンブレイカー」「よい子悪い子」「私のゾンたん」が収録。ホラー雑誌に掲載されたミステリアスな話あり、ちょっとHっぽい話もありだが、いずれも後味は良い。とくに他人の身体に触ると相手の過去や未来が見えてしまう男と、彼を励ます後輩の女の子を描いた「フォーチュンブレイカー」あたりは完成度が高いと思う。読切版の「ななか6/17」は、現在の「ななか」とはちょっとキャラの造形が違った感じで初々しい。コンパクトでよくまとまった短編となっている。まああと全般にいえることだけど、八神健の描く女の子たちはみんな健気で可愛くていいですな。

 そういえばアニメ版の「ななか6/17」も最新の第10回「七華からななかへ」まで見た。原作に忠実に、ちゃんと作ってあるアニメ化だと思うけど、ここ数回は画面があんまり動いてなくて残念。5話くらいまでは動きは少ないなりに作画の乱れもなく、うまく作ってあったと思うんだけど、ちょっと息切れしてきた感がある。優れた原作のある漫画をアニメ化する場合、物語を味わいたいなら原作読んじゃったほうが手っ取り早いんで、期待されるのはやっぱり「このキャラが動いているところを見たい」ってことだと思う。物語に独自の味付けをしないのであればなおさら。てなわけで残り2話については、ラストスパートを期待したい。

【単行本】「OBRIGADO」 加藤伸吉 太田出版 A5 [bk1][Amzn]

 加藤伸吉としては初短編集。デビュー作まで含めて多彩な作品を収録しており、そのいずれもが個性的。まあ近作の短編はちとスカシ気味なところもあるのだが、愛あり浪漫ありな「ベビーシッターベイベー」や「友達に会いに」あたりを見ると、やっぱり大した才能の持ち主だなと思う。ただやはり「国民クイズ」「流浪青年シシオ」などの強烈な輝きをすでに目にして来ているので、この人にはもっとエモーショナルで、読む者をぶっ飛ばしてしまうような作品を期待してしまったりもする。もっと高く、もっと遠くへ、といった感じです。

▼収録作品
「トショカン」「ぶらりざんばら街」「ベビイシッターベイベー」「ダメなオヤジ」「ミドリに…」「スキ姫」「ブミギリ」「嗚呼!うげげ人生」「友達に会いに」

【単行本】「ヘヴンズドア」 小池桂一 エンターブレイン A5 [bk1][Amzn]

【単行本】「G」 小池桂一 エンターブレイン A5 [bk1][Amzn]

 小池桂一が一挙2冊発売。しかもオンラインビームによると4月13日に、青山ブックセンターでサイン会もやるらしい。そういう場に出てくる人というイメージはなかったので、これはちょっと驚き。

 で、まず「ヘヴンズドア」は著者初の短編集。1983年に米国で発表された「LANDED」から、2001年発表の近作まで幅広く収録した1冊。これを見ると小池桂一は昔っからムチャクチャうまいってことがよく分かるが、近年に至ってもそれがさらに洗練され続けているのが驚き。この作品集の中でとくに印象に残ったのは「ルーパ」。何をやらせてもトロい少年が河原で一匹の亀を拾い、それに夢中になる。しかし心ない学友がその亀をオモチャにして教室の窓から落としてしまったショックで、彼の意識は不思議なゾーンにハマり込む。ただでさえ遅い彼の思考はさらにスピードを落とし、周囲のすべてのものが超高速で動いているような感覚にとらわれる。脳内の思考がぐんにゃりと歪み、周囲が一斉にスピードアップする瞬間の描写が素晴らしい。

 「G」はコミックバーガーに連載され、1988年にスコラから単行本が刊行された作品の復刻。マウナイ族というインディオの一部族の青年・トマクが、「死の草」と呼ばれる強烈な幻覚作用を及ぼす草の力により外の世界と結びつく。深い密林の中での呪術的な要素に、宇宙船の幻影といったSF的イメージをからめた展開は非常に壮大で、そのジャンプ力の高さに驚かされる。ただお話としてはもう少し大きな展開が用意されていたのかもしれない。

 どちらの本についても、小池桂一の克明・緻密・超写実的な描写が、ドラッギーな世界観に抜群の説得力を持たせている。幻覚の描写は多いが、画面については細部までピッチリと、まったく曖昧な部分なく描かれており「現実」と大差ない存在感を持っている。こういうリアルな画風だからこそ、幻覚描写も映える。そういえば最近、こういうすごく写実的な描写で勝負する人ってあんまり見なくなったような気がするなあ。まあ小池桂一レベルの人については、漫画史を通してもそう何人もいるわけじゃないとは思うけど。

【単行本】「野蛮の園」 西川魯介 白泉社 A5 [bk1][Amzn]

 高大一貫の工業高等専門学校、「高専」における野郎どものムンムンとした日常を、途中から編入してきた金子くんというまだその文化に染まりきってない少年の目から語っていくというお話。まあ要するに男が圧倒的な割合を占める学舎での、大馬鹿魂あふれる学園モノといった感じ。とはいっても全員が全員男ってわけじゃなくって、女の子もいる。そして西川魯介だけに、その希少な女人たちのほとんどがめがねっ娘だー。オタク的な知識をひけらかすというのでなく、隠し味として盛り込みながら展開されるドタバタ学園ライフは、勢いがあって楽しい。あとHシーンにもついてもそんな多くないながら十分にエロかったりして、いい具合にバランスとれてるよなーと感心する。キャラクターでは、一見ヒロインっぽいんだけど実は高専的文化に染まっちゃっててむしろ精神的に男側に属するクラスメートの江刺さんと、金子くんをHな行為にずるずる引きずり込む大姐A先輩がいいですな。

【単行本】「魔女レーナマジョりーな完全版」 石田敦子 大都社 B6 [bk1][Amzn]

 エースネクスト休刊に伴って結局2巻が出ないままだった「魔女レーナマジョりーな」がようやく1冊にまとまった。クラスメートの二ツ木さんが、かつて見た夢の中に出てきた少女じゃないかとずっと気になっていた空太。でもそれは夢なんかじゃなくって実は本当で、しかも二ツ木さんは魔女であったことが判明。彼女は不幸な境遇にあった自分の母親のようにはなるまいと黒魔女を志すが、空太は彼女の中にある優しい部分を信じ続ける。

 この作品も石田敦子らしく、見かけはパッと華やかな魔女っ娘っぽくはあっても、お話としてはかなりシリアス。空太は二ツ木さんに白魔女の道を歩んでほしいと願うが、彼女はそれを「自分にとって都合のいい理想の押しつけ」であるとして拒む。白も黒も彼女が元から持っていた部分であり、その両方を引っくるめて受け容れることができるかということを空太は問われるわけだ。このあたり単純に終わらせないで、難しい問題に向かっていくあたりに作者の真摯な姿勢を感じる。それだけに休刊に伴って急いでお話を端折って終了させざるを得なかった点は惜しまれるところではある。

【単行本】「ファンシージゴロペル」1巻 水野純子 エンターブレイン A5 [bk1][Amzn]

 カワイイ女の子型の宇宙人が住んでいる桃色惑星「姫コトブキ」。その中で一人だけもこもこ毛むくじゃらでファンシーなぬいぐるみのような形をしたペルが、自分の出生の秘密を聞いて絶望し、地球へ旅立つ。彼はそこで理想の女性を求めて、あちらこちらをさまよう……という物語。ペルや出てくる女の子たちのキュートな外見とは裏腹に、物語はけっこうシリアス。愛を探して幾千里……というお話になっていてけっこう読みごたえがある。基本的には出だしと終わりさえしっかりしていれば、途中の展開はいかようにも作れるタイプの作品だと思うので、意外と長いお話になる可能性もあるかも。

【単行本】「キス」 橋本ライカ 河出書房新社 A5 [bk1][Amzn]

 今はなきCUTiE comicでちょくちょく描いてて、けっこう注目していた作家だった橋本ライカの初単行本がやっと出た。基本的には女子高生など、若い女の子の恋を描いたキュートなお話が中心。これが青くてまっすぐでいいんですな。なんとも可愛い。絵柄的には桜沢エリカとかに近いかな。どの話も清々しく好感が持てる。とはいえここに収められた作品は1997〜1999年のもの。CUTiE comic休刊とともに、あんまり見かけなくなっちゃったのは残念。とか思って作者Web日記を見たところ、近々もう1冊、「LOVE HOUSE」も単行本が出るようだ。これを機会にもっといろいろ活動範囲が広がってくれるとうれしいんだけど。

【単行本】「想うということ」 犬上すくね エンターブレイン B6 [bk1][Amzn]

 いろいろな恋愛の局面を独自の視点から鮮やかに切り取った素敵な短編集。なんといっても単行本に降られているキャッチフレーズが「純愛作品集」である。柔らかく包み込むような絵柄でありつつ、ときにドキッとするような鋭い視点も見せてくれる。この中でとくに好きなのは一話めの「おくびにもだせない」。好きになるとほかのものが見えなくなる……という「恋は盲目」状態を、そのまんま形にして描いてしまったストーリーは着想としても面白い。あと「Love experience」での、一方的な恋の告白に対する「言葉のピンポンダッシュ」とか、言語表現もいい感じ。基本的には現代モノが中心だけど、巻末の「空も飛べるはず」は、中世ヨーロッパ的な世界を舞台に空を飛べる能力を持った種族の少年少女の恋模様、成長模様を描いたファンタジーテイストな作品。こちらも優しい読後感を残す良いお話。何よりこの人の作品は、ベルベットのようななめらかな手触りがよろしいと思います。

【単行本】「迷宮書架」 ひらのあゆ 雑草社 A5 [bk1][Amzn]

 活字倶楽部のレビューコーナー・扉ページに掲載された4コマ漫画を集めたモノ。実はぶっちゃけた話、4コマ漫画はまとめて読むのがけっこう面倒なのであまり得意なジャンルではないんだけど、これは読んでみたら面白かった。掲載誌が掲載誌だけに、小説などの活字本をネタにしているのだが、ネタのヒネり方がうまい。本好きなら納得できるし、意外と痛いところをチクッと突いてたり、本を楽しんでいる人ならではの視点が感じられて面白く読めた。とくに純文学やSF、ミステリについてとか、ジャンルについての言及は、楽しい4コマ仕立てなんだけど何気に鋭い。「純文学とは何ぞや?」という問いに対する「実は『その他』なのでは?」という言葉には妙に納得。

【単行本】「短編集」 魚喃キリコ 飛鳥新社 A5 [Amzn]

 いろいろなところで描かれた19本の短編を集めた単行本。素っ気ないタイトルがいかにも魚喃キリコらしい。どの作品も、主に恋に悩んでいたりするおねえちゃんたちの気持ちをすくい取って、シンプルだけれども風情のある線で漫画の中に封じ込めている。透明感のある表現はそのときどきのウキウキする気持ち、苦しい泣きたくなるような気持ちなどなどを、読む者に手に取るように伝えてくる。まあ残念ながら、こんなかっこ良さげな恋愛模様にはあまり縁のない人間ではあったりするのだが、そんな人間が読んでも面白く感じられます。


▼エロ漫画

【単行本】「閉暗所愛好会」 掘骨砕三 三和出版 A5 [Amzn]

 いやーこれはスゴイ。まず表紙からしてキている。一見、地面の穴ぼこに女の人が落ちている……というだけなんだけど、内容を知っている人から見るとうわっとくるインパクトばりばり。人物がの可愛さに騙されると大変なことになる作品である。ストーリーのほうは、暗くて狭いところが大好きな人が集まる秘密クラブみたいなところに勤める従業員の青年が、会員の皆様のお世話をするというもの。例えば部屋いっぱいを土で満たして巣穴みたいなものを作っている人、天井から吊るした袋の中に住まう人……と会員はヘンな人揃い。彼女たちはなぜかプロフィールを見ると、外見に比べると異常に年齢を重ねているのだが、そこには秘密がある。まあ主人公の青年はそこらへんはあまり詮索しないで勤めているわけだが、だんだん会員たちの影響を受けて自分自身も変わっていく。思いもよらない方向へと……。

 で、まあ読み始める前にこれだけは覚悟しておいてほしいんだけど、正直なところこの作品ではうんこがもりもり出てくる。絵柄はすごくかわいいのに、ここらへんはまったく容赦なしだ。もともと舞台は特殊、やっていることも異常、そしてそこからお話はさらにビックリするような展開を見せていく。なんかもう当たり前のごとくサラッと人体改造系のネタも出てくるし、驚愕のうんこプレイもあり。読んでいる間中、ビリビリしびれっぱなしで本当に楽しかった! 別に自分はスカトロ好きじゃないけど、これだけやってくれると刺激的すぎてワクワクしてくる。最終回のネタも良かったな。特殊であるけれどすごく幸せそうだ。これは愛です、愛。そしてファンタジー。素晴らしい。

【単行本】「あたしたちのこと」 ほりほねさいぞう 東京三世社 A5 [Amzn]

 「あしたもおいでよ」に収録された「TV OZシリーズ」と同一の世界で展開される「OZシリーズII」を中心とした単行本。「オズの魔法使い」を演じる劇団に集う少女たちの、どんどんエスカレートしていく性戯を描いていく。まあスカトロくらいは多少あるものの、ほりほねさいぞうにしたらわりと軽いほう。ちっちゃい女の子がみんな可愛くて、滑らかな感触のキュートな絵柄が威力を発揮している。みんな無邪気にエッチを楽しんでるって感じが良いですな。

 そのほかでは「おっきいね」「きょうはたのしい」「フロルとタダ」の短編3本が同時収録。この3本の中では「おっきいね」がいいと思う。身体が巨大になってしまう病気になってしまった少女と、彼女の世話を焼くお兄ちゃんのラブラブストーリー。といっても状況はかなり異常であったりするわけだけど。この人の作品は度肝を抜くようなことをしばしばやるけど、それでも核となる部分には愛が色濃く存在するのがいいです。

【単行本】「ANNE FRIENDS」 町田ひらく コアマガジン A5 [bk1][Amzn]

 約1年ぶりの単行本。成年マーク付きだけど珍しくbk1でも取り扱っている。まあ確かに、外国の絵本の表紙か何かのような性的なものを感じさせない表紙は成年コミックっぽくない。女性に人気があるみたいな話を聞いたことがあるけどそれも頷ける。実際内容のほうも、通常の美少女漫画とは一線を画している。

 今回収録されたのは短編が10本。詳しい収録作品リストは町田ひらくコミックスリストのほうを参照していただきたいが、いかにも町田ひらくらしい、大人の男たちもしくはその他の要因によってもたらされた過酷な運命の中で生きる少女たちの姿を描いた物語が揃う。シニカルで、よもぎのような苦い味を残す作風は、甘いラブコメやストレートなハードコアエロスが主流を占める美少女漫画界において、強烈な異彩を放っている。そういえば出てくる人物たちが、全員日本人ではないというのも最近の町田ひらく漫画の特徴なところ。舶来品の人形のような気高さ、美しさを独特の硬質な線で描き出している。

 舞台としてはヨーロッパ系が中心だが、いくつかの作品ではその他の国籍の少女たちも描かれる。とくに印象的なのは「スケアクロウ」。ベトナム戦争中の出来事を描いた物語で、米国の負傷兵を助けた現地の少女を描いた作品。町田ひらく作品では運命に打ちひしがれている少女が描かれることが多いが、ここに登場するファンという少女は、若いながらも水田を自分で守り、時には銃をとり狙撃もする。大柄な米兵がこの少女に助けられ、守られるということの喜びを体験するというエピソードはなかなかに興味深い。また「Chocolate Adam」は、南の島の、褐色の肌を持つ少年少女の物語。少女は少年を慕うが、彼は肌の白い人魚に憧れ、そこから悲劇が生まれる。このほかの作品も完成度が高く、鋭利に研ぎ澄まされた語り口が絶妙な冴えを見せている。非常にクールな作風だが、例えば天文描写など、ロマンチックな事物が必ずひそめられているのも少女たちの可憐さを際立たせる要因になっていると思う。

【単行本】「健康の設計」 駕籠真太郎 東京三世社 A5 [bk1][Amzn]

 最近の駕籠真太郎は小粋ではあるが、ちょっと刺激については以前より抑えめな作品が多くなってきているように思うのだが、この本は昔の作品が多めなので不穏なギャグがバリバリだ。とくに好きなのが「凸凹ニンフォマニア」に収録されていた「動力工場」シリーズに通じるところのある「健康の設計」。人体の一部を利用した機械を利用した日常生活という、「家畜人ヤプー」的なネタは今見てもやはりクールで面白い。あとレーザー砲によって、感覚自体はつながったまま身体を左右に真っ二つにされてしまった女性が繰り広げる、ブラックなギャグ的状況を描いた「快楽の断面的横滑り」なんかは奇想のヒネり具合、事態のエスカレートさせ方が非常にいい。この時期の駕籠真太郎は人体断面図ネタが多いけれど、やっぱり基本はあくまでギャグ。なんでもかんでも笑い倒してしまえという姿勢が頼もしい。

【単行本】「家族の禁断肖像」 海明寺裕 桜桃書房 A5 [Amzn]

 雑誌はなくなっても単行本はちゃんと出してくれるあたり偉いです、桜桃書房。この単行本ではお得意のわんこ系の作品を中心として、短編を8本収録。なんてことなかったはずの日常を非日常が侵食していき、最後にはそれが完全に逆転してしまう、その過程をねちっこく描く手際はやっぱりうまい。収録作品の中では、自分がご主人様に調教されるというエロ妄想を綴ったホームページを作っていた女子高生が、弟にそれを発見されて本当に調教されていく「おねえちゃんのひみつ日記」あたりが個人的には好み。作中でIP Messengerとか使っているのがいかにもそれらしいとか、そういう細かディティールに興味を惹かれるというのもある。

 最近のエロ漫画雑誌は、ストレートなエロか萌えの二者択一という感じであまりヘンな作品は載らなくなってきているという印象があるんだけど、こういうちょっと変わった作品を描ける場も残しておいてほしいもんです。個人的には、この人ならではの妄想力、想像力の風呂敷を広げることのできる長編作品がまた読みたいところなんだけど。非エロでもいいかも。

【単行本】「泡姫伝」 あわじひめじ 司書房 A5 [Amzn]

 元気が良く、かつ和む味わいのある絵柄が気になっていたあわじひめじの最新刊。このところ線のほうもきれいになっててうまくなっていると思う。それ以上になんか作品の内容がこのところずいぶん悪ノリしてて面白い。というかもう凄い勢いでアニパロ、ゲームパロのネタを入れて来ている。あるときは拉麺男、あるときは鉄人、あるときはプロゴルファー猿……とまあいろいろやりまくり。そんでもって明るく楽しくHを展開。といってもオタクくさいというよりも、コミカルで勢いのある楽しさを満喫……という感じになることが多い。それが最も強く発揮されているのは「ピクチン」かなあ。霊のミュージックの替え歌に乗って、チンコ方をした生物ピクチンたちと、彼らが住む星に不時着した姉妹がまぐわる様子は非常にユーモラス。あと「ちんぽこハメ太郎」も笑った。もうタイトル通りなベタな内容なんだけど、ハメ太郎にやられちゃう4匹が何かに似ていて可愛い。

 余談になるけど、作者あとがきに「ネットで批評して下さったらしい『OHP』というサイト」という記述があったりしてすごくびっくり。


▼非新刊

【単行本】「護法童子」全2巻 花輪和一 双葉社 A5

 古本でゲットした作品。今はなき月刊スーパーアクションの1983年10月号〜1986年1月号に掲載された作品で、巻之一が1985年6月2日発行、巻之ニが1986年5月24日発行。たぶん現在入手しようと思ったら、古本を根気よく探すしかないと思う。

 内容のほうは、一見アホ面をしているようだが合体すると大日如来の姿となる一組の童子童女の足跡を追いながら、人間たちの業深き姿を描いていくというモノ。と書くとこの護法童子たちが世直し的なことをする物語を想像するかもしれないが実はけっこうそうでもない。なんか事件が勝手に起こって勝手に解決していっちゃうようなパターンも多いし、童子たちも仲良く旅しているように見えて内心ではけっこういがみあってたりと、なんだかいろいろ展開は意外で面白い。そして何より魅力的なのは、登場人物たちの奇怪さ。お得意の金色ペカペカな宇宙人やら、気色悪い人魚や海人たち、ガマみたいな顔をした男などなど。でもこれらのキャラにはグロテスクなんだけど愛敬もあったりするから不思議。いろんな刺激に満ちていてすごく面白い。

【単行本】「コロポックル」 花輪和一 講談社 A5

 こちらも古本で初版は1990年12月18日。コロポックルの少年に導かれ、蒸気機関車に乗って旅に出ることになった少女の物語。その道中は数々の不思議な出来事に満ちている。一つ一つの事物が花輪和一の精密なタッチで丁寧に描写していて、一級のファンタジー作品となっている。とくに機関車に対する憧憬は随所に感じられて、ノスタルジックな感情を刺激する。巻末に収録されたコミックエッセー「原始の峠の美しいモノ」にもそれは色濃く現れていて、北海道の山中を走る機関車を見つめる少年の、「ああっ!美しい美しい こんな美しいものがこの世にあっていいのか!」「いつまでもあって欲しい」という叫びは、何やら魂に響くものがある。「コロポックル」本編で描かれる、伝説の機関車「北土星号」の復活シーンも実にいい。大きく美しいモノを見たときの率直な感動というものが、ありありと描かれた作品。ちなみにこの作品の掲載誌は、モーニングパーティー増刊とモーニング本誌。今のアフタヌーンにもこういう作品が欲しい、としみじみ思った。


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