OHPトップ > オスマントップ > 2003年12月の日記より
このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。
日記形式だと、どうしても日にちが過ぎてしまうと大量の過去ログの中に個々の作品が埋もれてしまうため、このコーナーではダイジェスト的にまとめてみました。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則としてしませんので、普段日記を読んでくださっている方にとっては読む意味がないかもしれません。手抜きといえば手抜きなんですが、まあその点はご容赦ください。
なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でもどんどん入れていきます。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、わりと省略しがちです。
▼強くオススメ
【単行本】「愛しのアイリーン」全2巻 新井英樹 大都社 B6 [bk1][Amzn:1巻/2巻]
魂震える一作。この作品は新井英樹が「宮本から君へ」の後に、ビッグコミックスピリッツで連載したもので、かつて小学館から全6巻で出ていたものの新装版。「宮本から君へ」は希代の暑苦しさを誇る嫌漫画の傑作で、賛否両論物議を醸した。当時、嫌う人はもう鬼のように嫌っていた作品だ。そして「愛しのアイリーン」はそれをさらに激しくしている。以前コミック・ファンで作者インタビューをさせていただいたとき、「読者に嫌がらせをしてやろうという気持ちで描いてた」「当時のビッグコミクスピリッツが持ってた雰囲気を壊してやろう、読むのをジャマしてやろう」としていたのことだったけど、それだけにもう悪意バリバリ。1ページ1ページが読者に襲いかかってくるかのようで、ボコボコぶん殴られているみたいなインパクトがある。
物語の主人公は北国の田舎町に住むパチンコ店の従業員・岩男。40歳を越えていながら独身で、彼を溺愛する老母とボケた老父と共に暮らしている。岩男は熊のごとき巨体の持ち主で、ブ男、口下手とモテる要素は一つもない。老母はそんな彼を結婚させようと画策するが、昔気質の彼女は中途半端な嫁を家に入れることを肯んじない。愚直な岩男は周囲の状況に対するいらだちと、たぎる性欲から強烈に伴侶を求め、謎の不在期間ののち連れてきたのがフィリピン出身の女性・アイリーンだった……。
ここからの展開はまさに疾風怒濤。日本人でさえ身元不確かな女性は毛嫌いする老母のこと、外国人などを認めるはずもなく、猟銃を振り回して烈火のごとく怒る。処女であり岩男の巨大な男根を受け入れられずセックスを拒否するアイリーンに対し、岩男は「オマンゴー!!」と絶叫して暴れる。アイリーンはアイリーンでタガログ語と英語しかしゃべれないから、岩男や母とも満足に会話できず、最初はただギャハギャハはしゃぐ明るいだけの馬鹿なねーちゃんにしか見えない。もうすべての人物がそれぞれのエゴ丸出しで、てんでばらばらに動きまくるから手に負えない。しかも外見的に好感度の高い人物さえほとんど出てこず、猛烈な嫌展開が延々続いていく。現在連載中の作品だと、福本伸行の「最強伝説黒沢」の黒沢が、岩男と立場的には似ている。でもどこか愛敬のある黒沢に対し、岩男は生理的な嫌悪感さえ催しかねないヤバげな風貌をしている。黒沢は笑えるけど、岩男はとてもじゃないが笑えない。ちょっと近寄りたくない。それが「宮本から君へ」以上の暑苦しい姿を見せるのだから、その激しさは筆舌に尽くしがたい。
正直なところ、肌合いの粗いモノ、乱暴なモノ、醜いモノ、ドロドロしたもの、汚いモノ、暑苦しいモノ……等々、読むのがつらくなるようなモノが苦手という人にはオススメしません。これは最上級の嫌漫画だから。1話読むだけでも本当にヘビータスク。とにかく濃厚。でもそれだけに、ひとたび向かい合ったら心をわしづかみにされるし、ぶんぶん振り回される。物語は本当に波瀾万丈。息苦しい展開が続きます。それを乗り越えて、すべてが終わった後にアイリーンが見せる包み込むような笑顔。これには感動します。久し振りに通読したけど、その激しさ、濃さにすっかりやられてしまった。長々と書いてしまったけど、何か感じるモノがあったらぜひ読んでみてくだされ。
【単行本】「ミヨリの森」 小田ひで次 秋田書店 B6 [bk1][Amzn]
ちゃんと単行本化されて祝着至極。「拡散」「クーの世界」で知られる小田ひで次がミステリーボニータにて連載した自然派ファンタジー。主人公のミヨリは、母親が男と一緒に逃げたことをきっかけに、東京を離れて父の実家に預けられることになった女の子。そこは東京とは打って変わった過疎の村。しかし大きな森を中心に、自然に囲まれた暖かい場所だった。ミヨリは祖父母が所有する森でさまざまな森の精霊らと出会い、優しい心とバイタリティを持った女の子へと変わっていく。
「拡散」や「クーの世界」と比べるとずいぶんおとなしくてまとまった作品ではあるけれど、森の地面に生えた苔のようなふんわりとした触感を思わせる、もこもこ柔らかいペンタッチで描かれた自然はとても美しい。そしてお話も全体にすごく優しい。小田ひで次に「拡散」的な過剰なモノを求める向きにはちと物足りないところもあろうけれども、これはこれで一つの優しいファンタジー譚としてしっかり完成されている。間口的にはむしろこちらのほうが広いかもしれませんな。
【単行本】「未開の惑星」上下巻 松本次郎 太田出版 B6 [bk1][Amzn:上/下]
マンガ・エロティクスFで連載された作品が単行本化。この作品は、未開の惑星に生まれた幼なじみの少年少女、コロ、クッキー、ナオミの3人の青春を描いた物語。絵を描く才能はあるが頭が鈍くて現実逃避の妄想にひたるコロ、踊り子をしながら身体を売って男たちとつるみのし上がっていこうとするクッキー、コロに執着する気持ちが空回りし身を持ち崩していくナオミと、その生き方は三者三様。なんというか一言で「こうだ」といえるような明快なストーリーじゃないんだけど、世界全体が怪しい狂気をはらんでいてミステリアス。この3人はどうなっていっちゃうんだ〜と気になって、ずんずん世界に引き込まれていってしまう。松本次郎の作品は、ざらざらした絵柄、のたくるような物語どちらも非常に混沌としているのが魅力。雑誌で読むと各話が全体の中でどんな役割を果たしているのかつかみづらくて読みにくいところもあるけど、単行本で一気にまとめて読むとたいへん興味深い。個人的にはコロが妄想し続けているロケットの乗組員、ポゾノフとプリン隊員の物語がなんだかとても好き。
【単行本】「アイドル地獄変」 尾玉なみえ 集英社 B6 [bk1][Amzn]
消えたわけでもないのに帯に「早すぎた奇才」とか書かれる人も珍しいな……。というわけでビジネスジャンプに連載されて、スパッと打ち切りをくらった妙ちきりんアイドル漫画がめでたく単行本化。主人公の海ひろ子16歳はアイドル志望の女の子。ドジでマヌケで頭がちとおかしい。熱意だけはある。そんな彼女をアイドル仕掛人の紅がよせばいいのに拾ってしまったもんだから周囲の人たちはいい迷惑。そんなわけでひろ子が奇矯な行動をし、周囲の人が扱いに困るという内容です。
まあそんなわけで、尾玉なみえらしいヘンなギャグがいろいろ炸裂しまくるこの漫画。おかしな話が多くて個人的にはけっこうお気に入り。とくに終盤は、ひろ子が雄パンダの性欲を刺激すべく演技する話とか、どんどんアイドルとかそういうのを完全に無視した展開にいっちゃってて面白かった。回を重ねるごとにうれしい逸脱ぶりを見せてくれている。まあ打ち切りかもしんないけどさー、打ち切り漫画でないと出てこないようなねっちょりした味わいがあってええんでないかなーと思いますよ。
【単行本】「のらみみ」1巻 原一雄 小学館 B6 [bk1][Amzn]
これは面白いです。ドラえもん、Qちゃんみたいな居候キャラクターが世の中にあふれかえり、彼らをご家庭に派遣する業務がビジネスとして成立している時代。そんな中、分かりにくいパーソナリティのせいか、受け入れ先がなかなか決まらないで派遣会社に居着いている主役キャラの「のらみみ」くんが、さまざまなキャラの生き様を見つめていくというストーリー。シンプルだけど味のある絵柄同様、ストーリーのほうも噛めば噛むほど……という感じになってる。各キャラの、キャラ人生の機微をちゃんと描いてて味わい深い。
このキャラクターたちがパッと見、そんなに分かりやすい媚びるようなかわいさではなく、なんか愛着の持てるルックスをしているのがいい。愛玩動物という感じではなく、身近にいて楽しくやれる友達という感じがよく出ている。これ見てると本当に一家に一キャラ、欲しくなったりします。こういうキャラたちがいたら楽しいだろうなー。あとお子様にめぐまれないご家庭にもよろしいと思います。実際、ウチも息子がいつまで経っても嫁や孫を連れてこないことでお嘆きの親御様に、キャラクターの一人もプレゼントしてあげたいところでありますよ……いかん、暗い話になってしまった。作品のほうはそんな重いことはやってないので、安心して読める。IKKI掲載作品の中では珍しく「IKKI育ち」という雰囲気の強い作家さんでけっこう期待してます。
【単行本】「すてきな奥さん」 一條裕子 フリースタイル A5 [bk1][Amzn]
これは面白うございますなー。この単行本は、アフタヌーンに掲載された「俺について来い。」「蔵野夫人」に、描き下ろしの「すてきな奥さん」を追加したもの。いずれも平凡(?)なご家庭が舞台になっていて一見淡々としているのだけど、実は巧妙な仕掛けが施されている。
「俺について来い。」はかわりばえのしない日常に退屈した奥様が、義父を相手に会社ごっこをするというお話。自分のことを「吉田家総務部家事事業課」の吉田と位置づけ、義父は課長役をこなす。夕食のメニューの企画書を作成して課長にプレゼンするなど、徹底したヒマつぶしを敢行するというお話。それから「蔵野夫人」は、ひとたび捕まるや四角四面な夫についての何の益にもならないような話を延々続ける困ったお隣さん・蔵野夫人に悩まされる、ある主婦のお話。ユーモラスな作品でありながら、蔵野夫人の得体の知れなさはちょっと怖くもあったり。どちらの作品もからめ手からじわじわと攻めてくるような、周到で回りくどいようにも見える、でもツッコミを入れられないままズルズル読む者を引き込んでくるような呼吸が絶妙。そして描き下ろしの「すてきな奥さん」は、ごく普通の老人の世間話を描いた作品かなーと思ったら、最後にビックリなしかけが。読者を鮮やかに煙に巻く巧妙な語り口が素晴らしい。1冊の本として、見事に完成しております。
【単行本】「生きるススメ」 戸田誠二 宙出版 A5 [bk1][Amzn]
作者のWeb「COMPLEX POOL」で公開されたショートコミックを中心に、描き下ろし2本を加えた全30本の短編集。以前Web漫画をいろいろ漁っていた人にこの人の作品は何度か見たことがあって、印象に残ってはいた。でも全部詳細に読んだことはなかったんで、こうしてまとまってくれたのはうれしい。
で、紙の本でまとめて読んでみたけど、これはなかなか面白いです。絵柄は素朴ながら味があるし、訥々とした語り口も読者に訴えかけてくるものがある。ページ数は1〜8ページ程度と短いながら、時折泣けてくるようなお話もあるし。とくに人の命を扱ったお話がいいと思う。収録作品の中では「小さな死」「2009年の決断」「花」あたりがとくにジーンときた。描き下ろし作品を除いては、作者Webあるいはこのあたりで読むことができる。こういうふうになってると、くだくだしく説明しないでも「まあまずは読んでみろ」といえるから楽でいいです。
【単行本】「カワイコちゃんを2度見る」 福満しげゆき 青林工藝舎 A5 [bk1][Amzn]
まさか1年の間に福満しげゆきの単行本が2冊も出ようとは……。うれしいじゃあないですか。いかにも味のある短編がてんこ盛りでとてもよろしーです。なんか自信なさげな顔つきの頼りない主人公少年が、いろいろ考え込んでみたり妄想にふけってみたり。福満しげゆき漫画の主人公は、いかにも気が弱そうでオドオドしてるんだけど、ときどき妙に大胆な行動をしだして驚かされる。まったく冴えない風体なんだけど、小心者でいろいろなことを気にして生活している。基本的に他人に迷惑をかけないよう振る舞っているあたり憎めない。あと女の子キャラが妙に肉感的でHっぽかったりするのも良いし、おっさんキャラに哀愁が漂ってていい味出しているのも好き。作画もストーリーもとても個性的。この人の漫画は読んでてなんか気持ちいい。肌にしっくり来る触感あり。
【単行本】「武侠さるかに合戦」地の巻 吉田戦車 エンターブレイン A5 [bk1][Amzn]
完結。個人的にはすごく楽しんだ。いや〜面白い。「さるかに合戦」を任侠モノっぽく仕立てるという着想自体はほかの作家でもあり得ると思うけど、このシリアスさとマヌケさが渾然一体となった独特の味わいはほかの人では出せない。栗の親分を筆頭に、カニ弟や牛の糞、臼など各登場人物……いや、登場事物といったほうがいいかな、それぞれがみんなユーモラスでクセがあって笑わせてもらった。とくに栗の親分の登場シーンでは爆笑させられてしまったし。しかも任侠モノとしても案外ちゃんと完成してて、吉田戦車ってやっぱうまいなーとしみじみ。やはりこの人は天才だと思う。自分の中ではオールタイムベスト作家の一人。
【単行本】「花縄」1巻 作:小池一夫+画:森秀樹 小学館 B6 [bk1][Amzn]
とても面白い。とある事件がきっかけで生きる意欲を失い、うらぶれた生活を送っていた元力士・花太郎。彼が入水自殺をしようとしていたところ、火付盗賊改方・長谷川平蔵に拾われる。かつては「鬼平」と呼ばれていた平蔵も、現在は不治の病に蝕まれ、いつ死ぬか分からぬ身体になっていた。そこで平蔵は花太郎を自分の跡を継げる人材と目をつけ、新たな捕物帳が記されていく。
というわけで、森秀樹が作画をやってるという時点でもう渋みたっぷりなんだけど、お話のほうもしっかり。ガッシリと骨太な作画、それから人情味を漂わせたシブいストーリーなど、隙がなく読みごたえはばっちり。鬼平はもともとキャラが立っているけど、さらにその鬼平の晩年の描写や、花太郎の一本気な男心もからませて見事な物語に仕立て上げている。義理人情を重んじ、人としての筋を通していこうとする二人の主人公の姿がたいへんカッコイイ。
【単行本】「鬼虫」1巻 柏木ハルコ 小学館 B6 [bk1][Amzn]
時は平安中期。しかしこの物語の舞台となる絶海の孤島は、そんな年号などというものが存在することなど露知らず、外界から隔離された地。原始的な生活を続けるその島に、かつて海に流されて死んだその島の娘とよく似た女性が流れ着いたことを契機に、その中で完結していた島の暮らしに異変が起こり始める。
柏木ハルコは「花園メリーゴーランド」でも、現代日本から隔離された独自の性風俗を持つ村を舞台にした民俗学っぽいエッセンスをふんだんに含んだ作品を描いていたけど、今回はそれをさらにググッと押し進めてきた。日本であるけれども日本でない、孤立した本格的な架空社会を舞台にした物語を作っている。舞台設定は奇抜ながらも、奇手は用いず、一歩一歩着々とお話を進めている。その足取りの確かさからは作者の本気をビシビシ感じるし、絵のほうも気合いが入った骨太なものとなっている。まだ物語がどういう方向に行くかは見えてない部分も多いのだけど、ワクワクさせられるものは十分。期待してます。
▼一般
【単行本】「あの月の光のように」 内田雄駿 河出書房新社 A5 [bk1][Amzn]
九龍で連載された作品。頭脳明晰、スポーツ万能の少年が抱えてしまった秘密。それは母親が、ひきこもりとなった実の兄を殺害してしまったこと。彼はそれを隠蔽するために兄の死体をバラバラに解体するが、罪悪感は日に日に彼の精神を蝕んでいく。ストーリーは非常にシリアスな雰囲気のまま展開。その中で苦悩する青春を描き出していく視点はなかなかに鋭くて、読みごたえもあった。
まあそんなわけで面白い作品であることは確かだし、内田雄駿という作家の力量もかなりのものがあるとは思う。でも帯とか巻末の解説の言葉は、ちょっと身内誉めしすぎかなあという気もしてしまう。帯は売るためにつけるものだから、多少オーバーに書いてもいいとは思うんだけど……。九龍は雑誌内でもそんな実績のない作家さんをやたら持ち上げるようなインタビューをしたりすることが多いし、そういうところはちと鼻につくところはある。
【単行本】「やまとの羽根」1巻 咲香里 講談社 新書判 [bk1][Amzn]
長きにわたった恋愛漫画「春よ、来い」が終わった後、咲香里が挑んだのは前作とは打って変わって熱血バドミントン漫画。作者自身かなりバドミントンには入れ込んでいるようで、かなり力の入った作品となっている。主人公の少年・鳥羽大和は中学1年生。妹の練習につきあってバドミントンをやってみるが、そこで出会った同年代のものすごくうまいヤツ、沢本翔に刺激を受けてバドミントンを始める。そしてその奥深い魅力にずんずんのめり込んでいく。この巻ではまったくの素人からスタートした大和が、バドミントンで頭が一杯になって練習しまくり、どんどんうまくなっていく過程が描かれる。やればやるほどうまくなるという成長の手応えが感じられる作品となっていて、けっこう面白い。やぱり若いモンが一つのことに入れ込んで努力を重ねていくさまは、見ていて頼もしいモノ。メキメキ実力をつけていく様子にはカタルシスがあるし、バドミントンのプレー自体もいい感じに描けていると思う。最近ではビッグコミックスピリッツでイワシタシゲユキが「バドフライ」を連載しているけれども、なんだかバドがちとアツくなっているんでしょうか。
【単行本】「バドフライ」1巻 イワシタシゲユキ 小学館 B6 [bk1][Amzn]
ヤンマガUppersでやってる咲香里「やまとの羽根」といい、最近バドミントンものの漫画がちとアツい。こちらはビッグコミックスピリッツ連載。一見変人っぽいけど一本気で凄い才能を秘めた少年・如月茂一が、上級生の鈴森明菜に一目惚れしてバドミントン部に入部。明菜と付き合うためと始めたバドだったが、茂一はしだいにその競技の魅力に目覚めていくといったお話。イワシタシゲユキといえば、おそらくそらみみくろすけと同一人物。個人的には「放課後戦隊ゴタッキー」がかなり好きだったので、スピリッツで活躍しているというのはうれしい限り。作品の内容自体も、技術的な描写自体は多少大ざっぱな気もするけれども、展開は熱血していてけっこう楽しめる。主人公が本気になって練習しメキメキ力をつけていく姿には胸のすくものがある。あと普段はクールな明菜が顔を赤らめる姿がかわいかったり。いやー、頑張ってほしいものです。
【単行本】「遺伝子レベル剣」 おおひなたごう イースト・プレス A5 [bk1][Amzn]
おおひなたごうがいろんなところで描いた作品を集めた単行本。内容は本当にさまざまなんだけど、あの飄々としたギャグテイストはどの作品でも一貫してて楽しく読める。そういえば今回も帯にゆらゆら帝国の坂本慎太郎、それから宮藤官九郎がコメントを寄せているけど、おおひなたごうほど有名人ウケするギャグ漫画家も珍しい。それもそんなに漫画を読んでなさそうな人にもウケる。漫画マニア層の人からもチェックされている。それだけ活動のフィールドが広いってこともあるけど、独特ながらも実は汎用性の高い作風なんでしょうな。個人的にこの作品の中で一番ウケたのは、ピッチャーが投げたボールがキャッチャーミットに収まるときの擬音が「ダ・パーンプ」だったり「デキャーンタ」だったりするところ。こういう細かいところがツボにハマります。
【単行本】「占い刑事」 桑澤篤夫 集英社 B6 [bk1][Amzn]
「世界のクワサワ」の本領発揮。すげーくだらねー。死ぬほどくだらないっすよ、この作品は。主人公の城戸我宝は東新宿署の刑事。そして占いの名人である。その彼が占いを駆使して事件を解決……するようなしないような。このようにあいまいな書き方をするのは、城戸が披露する占いの知識は、主に「人相や手相などから女性のアソコの具合を当てる」ためのものだから。収録されている話でこの作品を象徴しているのが第5話「名器の耳」。最初はいちおう殺人事件の捜査会議から始まるんだけど、そのうち会議は人相から犯罪者を見分ける方法へ話題がシフトしていき、さらには人相により性器の形状を当てる方法へと進んでいく。そして会議は白熱し、城戸の申し出により「事件が行き詰まった時は行ってみるか」とかいって、捜査陣全員でソープに繰り出す。そしてみんなで名器の女の子を見つけて「占いの力って本当に凄い!最高だ!!」とサッパリ。ちなみに事件は最後の2コマで何の前触れもなく突然解決いたします。占いする必然性なんてまったくないじゃん……。というわけでもう本当に骨の髄までいいかげん。でもそこがいい。あまりの下らなさに脱力しまくり。いやー、桑澤篤夫って、よくこんな漫画描くよなー。こんなくだらない漫画はこの人じゃなければ描けない、っていうかフツー描かない。このどうしようもなさが、とても好きだ。クワサワ漫画についてはいつか極めてみたいような気もする。
【単行本】「BRII ブリッツ・ロワイアル」1巻 富沢ひとし 秋田書店 新書判 [bk1][Amzn]
田口版、深作版、高見版とも違う「バトル・ロワイアル」……といったことが帯に書かれている富沢版BR。これまでの「バトル・ロワイアル」が陸軍におけるプログラムであったという設定のもと、今回は生徒たちが海軍の作ったプログラムのもと殺し合いをさせられることに。というかまだ生徒同士の殺し合いになるのかは分かってなくて、修学旅行の最中に連れ去られた中学生たちが、海軍の課したカリキュラムに参加させられて戦争を学ばされている状態。主人公の少女・橋本真恋人(はしもと・まこと)は、生まれついての自分の不幸さを気に病んでいたが、今度の不幸はハンパじゃない。進むことも逃げることもかなわぬ状況で、デス・ゲームは続いていく。
この設定のもとではウネウネした異世界の生物とか出しようがないし、富沢ひとしらしさがちゃんと出るかなーとか最初は思っていたけど、お話としてはなかなかしっかり読ませる。キャラクターは例のぷにぷにした顔つきをしているだけに、「ああ、ヒドい目に遭ってるなあ」というのがよりヒシヒシと伝わってくる。「バトル・ロワイアル」のシリーズは、たしかに少年少女が人殺しをするんだけど、その過程での感情の動きや各人の背景、その先にあるものをけっこうちゃんと描写している。そのせいかけっこう感触としてはウェットで、殺伐としたことをしているわりに読後感は殺伐とした感じにはあんまりならない。そういうところはいいと思う。
【単行本】「ちょこっとSister」1巻 作:雑破業+画:竹内桜 白泉社 B6 [bk1][Amzn]
サンタさんに願い事をすると妹がもらえてしまう。そして妹は裸エプロン。さらに妹ができたあたりから、主人公は巨乳めがねっ娘さんとかにモテモテ。と書くと冗談のようだが、普通にそういうお話なのがこの作品。基本的にはよくある萌え系の妄想ストーリーであります。でもまあ竹内桜の絵がたいへんうまいんで……。竹内桜といえば、「ぼくのマリー」で名が売れて、「特命高校生」ではちとパッとしない印象だったのだが、この作品はいいんじゃないかと思う。すごくストレート、すごくベタベタな萌えラブコメに徹したおかげで竹内桜の最大の特徴である、可愛い女の子絵が存分に生きている。今のところドラマチックなところはとくにないので、今後どうお話を発展させていくかは課題となってくるだろうけれども。
【単行本】「モト子せんせいの場合」 さべあのま メディアファクトリー 文庫 [bk1][Amzn]
全6巻、毎月1巻ずつで刊行が始まったさべあのま全集の第1弾。この巻は短編集ではなく、まるごと「モト子せんせいの場合」。周囲の友達が続々結婚するお年頃になったけど、仕事一本で生きている少女漫画家モト子せんせいには浮いた話の一つもなし。そんなモト子せんせいに周りはやきもきし、本人も忸怩たる想いであったが、そのときに出会った若手編集者が彼女と学生時代に縁のあった人で……。妙齢の女性の心の浮き沈みを丁寧に描いてて、チャーミングなラブストーリーになってると思う。旧版の単行本は1982年だそうだけど、この人の絵は古びてないなあ。シャレていて暖かみがあっていいです。ところでモト子せんせいって年齢的には23〜24歳なんで、結婚せっつかれるには今の基準だとまだ若いような気もするんだけど、ここらへんは時代ですかね。
【単行本】「なつめヴルダラーク!」 西川魯介 角川書店 B6 [bk1][Amzn]
楽しい作品でありました。人狼の血を引く女の子・狼川(おいぬがわ)さんと、彼女が狼の習性を抑えるために人の血を吸うのに協力する平凡な少年・鹿淵くん、めがねっ娘の玉澤さんの3人を中心とした学園ドタバタストーリー。血を吸ったりはするけど別に陰惨なムードとかは全然なくって、ちょっとHっぽい描写も織り交ぜながら、ラブコメチックな学園生活が楽しく展開されていく。彼らの真ん中にいるのは狼川さんなんであり、主人公は悶々少年の鹿淵くんなんだろうけど、めがねっ娘の玉澤さんにかかるウエートがどんどん大きくなってくるのは風雲めがねっ娘マスターである西川魯介らしいところ。なんだかんだで鹿淵くんと玉澤さんがちょっといいムードになっちゃうあたりとか、読んでてすげー楽しい。恋愛感情に照れ隠しが常につきまとってくるあたりに和んじゃったりする。
【単行本】「ぼくは、おんなのこ」 志村貴子 エンターブレイン B6 [bk1][Amzn]
これまで単行本からこぼれていた短編を集めた単行本。描き下ろし3本を除くと1997〜2001年の作品。スマートな絵柄で、ちょっと甘くくすぐるような雰囲気があって面白く読める良い本。でも一通り読んでみると、昔の作品もいいけど、今のほうがずいぶんうまくなってるんだなあと思った。絵は若干、演出はかなりの進歩を遂げていると思う。2003年の志村貴子はあちこちで描いてて、そのどれもがしっかり面白かった。個人的な2003年MVP作家の有力候補の一人。
【収録作品】「ぼくは、おんなのこ」(アスキーコミック1997年2月号)、「楽園に行こう」(まんがタイムナチュラル 2000年4月)、「少年の娘」(まんがタイムDash! 2001年4月)、「アケミのテーマ テルオ編」(まんライフオリジナル 2001年9月号)、「アケミのテーマ ヨシオ編/ハルオ編」(描き下ろし)、「花」(まんがタイムDash! 2001年11月),「sweet16」(描き下ろし)
【単行本】「この世の終りへの旅」 西岡兄妹 青林工藝舎 A5 [bk1][Amzn]
西岡兄妹としては初の長編。主人公の青年がいつもと同じように会社に行こうとするが、扉を空けるとそこはいつもと微妙に違う風景。そして道を進むうちに、まるでガリバーのような、不思議極まりない旅路をたどっていくことになる。西岡兄妹の不思議な感触の絵柄が相変わらず印象的。そして今回は通して読むとストーリー性がけっこうあって、展開面での興味も掻き立てられる。西岡兄妹の描く人物は、どこにも属せないような存在であることが多く、他に煩わされないことに対する満足と、他に受け入れられない寂しさを常に抱えている。それだけに旅人という位置づけは非常に似合っている。いつもよりもさらに読みごたえがあって、満足しました。
▼エロ漫画
【単行本】「A wish たった一つの…を込めて」 奴隷ジャッキー エンジェル出版 A5 [Amzn]
いいよいいよー。作者自身はこの作品について「純情直球ラブメキストーリー」と書いているけど、もう本当に直球すぎて、パワーが暴発して孫六ボールみたいに暴れまくっているという感じ。出だしからして、主人公の森崎くんが、初めて見たときから憧れていた美少女・霧島さんが初詣の人混みの中で痴漢されててそこから輪姦へ……という情景を目撃するところからスタート。そのままお話は紆余曲折を重ね、最終的に二人が劇的に結ばれるところまで猛烈な勢いで突っ走る。
正直なところお話としてはけっこうメチャクチャではある。そもそも出だしからしてそうだし、二人が惹かれ合っていく必然性もよく分からんところはある。でも最終回あたりまで行くと、そういうのはもうどうでも良くなる。超早漏の森崎くんが、血が出るまで霧島さんに身体をこすりつけものすごい回数の失敗の後、ようやく初めてのSEXに至るシーンには感動さえしてしまう。汗とよだれと鼻水にまみれ、さらに鼻血を噴き出しお互いの身体をめり込ませ合うようにして交合するその熱さ、激しさにクラクラする。これを「奴隷ジャッキー作品においては異色なホドにキレイ着地を遂げた」と語る作者は、やっぱり独特の感性をしていると思う。アクは強い。読者を選ぶとも思う。でもこういうのを描ける人はほかにいないと思うし、個人的にはすごく気に入っております。
【単行本】「大変ルポライター」 天崎かんな 司書房 A5 [Amzn]
天崎かんなの描く作品はなんか好きだなあ。内容的にはまあごく普通のエロ漫画。表題作の「大変ルポライター」も、ルポライターをやってる女の子のコッコちゃんが、ヘルスに体験取材に行ってそこで店長さんとHなことをしちゃうとか、まあそんな感じでストーリー的なもの珍しさはなかったりする。そのような短編が続くんだけど、どれもなんかHなことをやりつつほんわかした味わい。なんか気のいい、愛敬のあるキャラが多い。お話のほうも陰惨なレイプとかなくて、基本的に明るい。天然なうっかりさん風味とでもいいますか。狙いすぎたあざとさとかないし、いい意味でB級C級な味があると思う。あと女体描写もあんまり洗練されているわけではないんだけど、それだけに肉感的だったり。トンガった最先端の作家さんにはないまろやかさがあって、個人的にはけっこう癒されたりします。