オス単:2005年2月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則として行っていません

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でも入ってくることがあります。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、取り上げないことが多いです。


▼強くオススメ

【単行本】「リンガフランカ」 滝沢麻耶 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 2004年のアフタヌーンは、若手連載陣で収穫が多くて楽しませてくれたが、これもそのうちの一つ。

 主人公の笑太は、有名落語家の長男として生まれながらもサムいギャグしかいえず、ピンとしては全然売れないでいた若手お笑い芸人。父親の葬儀から逃げ出した笑太は、ファミレスで一人の男と出会い、それがきっかけで彼と漫才コンビを組むことになり、秘められた才能を発揮していく。つまり若手漫才師二人がサクセスをつかもうとあがいていく青春物語という感じだが、これがなかなかに面白い。

 まず二人の会話のテンポがとても良い。ボケとツッコミをサクサク展開。お笑い系をネタにした漫画の場合、漫才をそのまま漫画にしたところでさほど面白くはならないという宿命がある。この作品についてもそれについてはさほど変わらないものの、オドオドした笑太とマイペースな岸部の掛け合いは見ていてなかなか楽しい。この二人なら、きっと面白い掛け合いするだろうし、実際に目の前にいたらすごく面白いだろうなと納得できる。また二人が、いろいろな挫折ののち最終的に、パートナーとして出会うまでの心境の変化がきちんと描かれており、青春物語としてかなり気持ち良く楽しめる。作画は、技術的にむちゃくちゃうまいというタイプではないが、泥臭いようなスッキリとしたような独特の味があって印象に残るタイプ。アフタヌーンでの連載は今のところ終わっているけれども、もし続きを描くことがあるようなら、また読んでみたいという気分にさせてくれた。

【単行本】「not simple」1巻 オノ・ナツメ ぺんぎん書房 A5 [bk1][Amzn]

 オノ・ナツメ2冊めの単行本。Web上の漫画雑誌COMIC SEED!にて連載されている作品。この人の、イタリアンテイストでオシャレな絵柄と、人間ドラマを深く掘り下げていく物語力は同人誌時代からずっと注目していたが、この作品も面白くなりそうな気配がぷんぷん。お話のほうは、ヤバい仕事をしている父を持つ娘・アイリーンが、とある町で浮浪者風の男・イアンと出会い、それがきっかけとなってアイリーンの母らも関わったイアンの数奇な人生が語られていく……といったところ。まずこの巻ではアイリーンとイアンの不幸な形での出会い、そしてイアンの少年時代の情景が描かれていく。すごくシンプルながらもスタイリッシュな描線、それから登場人物たちの気持ちを探り、それを丁寧に描き出していくオノ・ナツメならではの作風は健在。最近ではキャラクターの見分けが以前よりしやすくなってきたし、この人はもうきっと良い作品を描いてくるだろうと安心してます。今後どのような展開をしていくのか、とても楽しみ。

【単行本】「監督不行届」 安野モヨコ 祥伝社 A5 [bk1:通常版/特装版][Amzn:通常版/特装版

 安野モヨコと庵野秀明というビッグオタクカップルの夫婦生活を描いていく日常エッセイ漫画。いかにも面白げな二人が主人公であるだけに、漫画のほうもとても良かった。何よりいいのは庵野カントクのキャラ。骨の髄までオタクなカントクの奇行は見てておかしいし、多少一般寄りだったヨメをずるずるとオタクワールドに引き込んでいく過程もユーモラス。そしてカントクがやたらかわいく愉快に描けている。天然な奇人っぷりを観察していくのはなんとも面白い。いやーオタクだったらこんな結婚してみてぇ〜と思うでしょうな。むしろ庵野カントクのヨメになりたいとさえ。でもまあ現物見てそう感じるとは思えませんが……。

 で、たいへん面白いのだが、この作品は1巻分でスパッと終わる。もうちょっと庵野&安野の日常を見ていたいという気持ちもあるけれども、個人的にはこのくらいの分量でちょうどいいかなとも思う。もし夫婦仲が今後悪くなったりするようなことがあったら見ててツラいし、あとなんといっても安野モヨコほどの才能を持った人が、いつまでも夫観察漫画を描いているというのももったいない気がするんで。もちろんそっちも面白いんだけど、安野モヨコはもっとデッカいフィクション作れる人だし、そういう人は貴重だから今はそっちのほうを優先したほうがええじゃろな〜と思います。


▼一般

【単行本】「となりのメガネ君。」 ふじもとゆうき 白泉社 新書判 [bk1][Amzn]

 血のつながらない同い年のきょうだいである秋山栗子さんと美波くん。この二人がお互いを好きだということを意識して、おつき合いを始めていく様子を描いた初々しいラブコメ。明るくのびのびした絵柄で、微笑ましい暖かいお話を描いてて気持ちいい。タイトルに「メガネ君」とあるのは美波くんのこと。彼は父親の形見であるメガネをかけている美少年で、学校内では「メガネ連」と呼ばれるファンクラブができちゃうほどの人気者。でもそんな周りの女の子には目もくれず、美波くんは栗子さん一筋。栗子さんのほうも最初はそういった雰囲気ではなかったんだけど、だんだん美波くんへの想いを意識するようになってくる。そこらへんの過程が、爽やかで甘ったるくてなんともええ感じなのですな。こっぱずかしいほどにラブな空気にあふれてて、しかも読み心地はフレッシュで。ぴちぴちとイキが良くて読んでて楽しい。あと(というか真っ先に挙げるべきポイントであろうかとは思いますが)メガネ君の美波くんも、かっこよくかつかわいくて、メガネ君好きな人にアッピールするところは大きいんじゃないでしょうか。メガネ君と、甘くて爽やかなラブコメが好きという人にオススメしたい作品。

 ところでこの単行本には花とゆめに短期集中で連載された分は収録されてないな〜。読切版のほうが出来自体は良かったと思うけれども、いずれ機会があったらそちらのほうもなんらかの形でまとめてもらいたい。

【単行本】「こっこさん」 こうの史代 宙出版 A5 [bk1][Amzn]

 あー、ようやく単行本化されましたなあ。本作品はまんがタイムジャンボにて1999年〜2001年にわたって連載されたもの。平凡な小学生の女の子やよいちゃんと、彼女が拾った目つきの悪いニワトリ「こっこさん」の生活をほのぼのと描いた作品。4コマ誌掲載だけど、この作品は非4コマ。まあ基本的になんてことのない日常生活を描いていく作品なので「夕凪の街」とかみたいな強いインパクトはないものの、こうの史代の暖かみのある美しい作画は、やはり見ててしみじみくるものがある。とくにいいのが、時折パッと入ってくる大ゴマ。印象的な構図取り、丁寧なカケアミを駆使した自然などの描写がなんとも美しい。ギッチギチにリアルに描き込んであるわけではないのだけど、とても良い絵です。こういうふうに一枚絵でパーンと魅せられる人ってやっぱりいいなあ。

【単行本】「駅前の歩き方」 森田信吾 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 美味いものには目がない小説家の花房が、編集者とともに取材先の地でメシを食らうという作品。この作品のコンセプトとして面白いのが、「その土地ならではの食べ物」=「常食」を食うというのを主眼に置いている点。「その土地ならではの食べ物」というと、観光ガイドブックとかに載っているようなその地方の名産品とかを想像しがちだが、この作品で描かれるのはそういうものではない。その土地の大衆食堂とかではなじみのあるメニューでみんなとくに意識しないで食べてるけど、ほかの土地ではあまり見かけないような、地方ローカルな一般料理といったもの。実際にこれが料理としてものすごく美味そうかというとそれほどでもないのが、なんか妙に食いたくなってくるような説得力はある。そういう点では谷口ジロー+久住昌之の「孤独のグルメ」に似た路線といえるかもしれない。カテゴライズとしてはグルメ漫画、料理漫画に入ってくるのかもしれないけれど、料理勝負や通常のうまいもん紹介漫画とは一風変わった味わいのある作品。

【単行本】「P.I.P プリズナー・イン・プノンペン」 作:沢井鯨+画:深谷陽 新潮社 A5 [bk1][Amzn]

 カンボジアの地で現地の人間にこっぴどくだまされ、冤罪により牢獄に入れられた日本人青年イザワが、その地獄のような牢獄から脱出するべく苦闘するという物語。この作品では、金さえあれば白いものでも黒にしてしまう警察、狡猾な現地の悪党らによって、どんどんイザワがどん底に突き落とされていくのだが、その過程の描写がいかにもリアリティがあって手に汗握るものがある(もちろんそういう場所や人ばかりではないということは承知してますが)。深谷陽自身、もともと東南アジアの現地の空気を感じさせる作品を描くのは抜群にうまい人だが、今回はさらに実際にプノンペンの拘置所に入れられた経験がある沢井鯨が原作を担当。よりハードで物語性の強い作品に仕上がっている。雑誌掲載時はちょっとバタバタ終わっちゃったかなという印象があったのだが、単行本化に当たって63ページの描き下ろしが加えられたこともあり、お話の説得力はより増したように思う。ラストの着地もきれいに決まった。なかなか読みごたえのある一作だった。

【単行本】「御緩漫玉日記」1巻 桜玉吉 エンターブレイン A5 [bk1][Amzn]

 おなじみ日記漫画の定番の新シリーズ。最初は桜玉吉が伊豆に家を買うエピソードから始まり、その後は桜玉吉職場にやってきた女性アシスタント・トク子ちゃんのエピソードを中心にお話はつらつらと進行。やはりなんといってもこの巻の見どころは、トク子ちゃんの艶っぽさ。巨乳めがねっ娘で身体の線が浮き出たセーターを来て、頬を赤らめたりしているさまは、なんともたまらない色香があってグッとくる。ルックス的にもオタク男子キラーな感じでいやはやなんとも。別に乳を出したり身体をまさぐったりするわけでもないのに、このエロっぽさはただごとではない。桜玉吉って脱がさないでエロさを醸し出すのうまいよなーと感心します。日記漫画としての存在感も随一。さすがに面白い。


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