foreign movie vol.10


I Racconti Di Canterbury
カンタベリー物語
I Racconti Di Canterbury


監督・脚本 / ピエル・パオロ・パゾリーニ
製作 / アルベルト・グリマルディ
原作 / ジェフリー・ショーサー
撮影 / トニーノ・デリ・コリ
音楽 / エンニオ・モリコーネ
美術 / ダンテ・フェレッティ
出演 / ニネット・ダヴォリ、マイケル・バルフォア、ヒュー・グリフィス、フランコ・チッティ、ジョセフィン・チャップリン、ラウラ・ベッティ 他
1971年 / イタリア、フランス


劇中にあふれるセックス描写。人間の快楽、享楽、食欲、決して美しくない部分について狂気じみた描き方をされるとモラルはどこかへ忘れてくる。他のエログロ・パゾリーニ作品に較べると人間の滑稽さのほうが浮かび上がり見やすい作品。「語る楽しみのために書かれた物語、ここに終わる」というラストにファンタジーから引き戻される。


Persona
仮面/ペルソナ
Persona


監督・製作・脚本 / イングマール・ベルイマン
撮影 / スヴェン・ニクヴィスト
音楽 / ラーシュ・ヨハン・ワーレ
出演 / ビビ・アンデショーン、リヴ・ウルマン、マルガレータ・クルーク、グンナール・ビヨルンストランド 他
1966年 / スウェーデン


リヴ・ウルマンの初主演作。夢と現実と倒錯と錯覚と狂気の境目。唐突に猥雑な映像が挿入されるときショックを受けるのは、誰かになりたいと願い夢から覚める衝撃か、誰かになった後引き戻される衝撃か。アルマのセックス体験談を静かに聞くエリザベートは誰になりたいと願っていたのか。今隠れている場所にはすき間がある。不安、挫折した夢、残虐性、恐怖、絶望と無言の認識。存在とは何か。


La Lettre
クレーヴの奥方
La Lettre


監督・脚本 / マノエル・デ・オリヴェイラ
製作 / パウロ・ブランコ
撮影 / エマニュエル・マシュエル
出演 / キアラ・マストロヤンニ、アントワーヌ・シャピー、フランソワーズ・ファビアン、ペドロ・アブルニョーザ、スタニスラス・メラール 他
1999年 / ポルトガル、フランス、スペイン


オリヴェイラのフランス古典文学の映画化と聞いたら見たくなる。オリヴェイラの友人だったマルチェロ・マストロヤンニとカトリーヌ・ドヌーヴの娘キアラ・マストロヤンニ主演。父親似であり母親似である彼女は美しい。この映画は単なるメロドラマ的な男女の関係の物語ではなく寡黙ななかの精神的な情事であり、女とは、男とは、婦人とは、結婚とは、フランスの倫理観を静かに語る美しい物語。苦しみは耐えても決して軽減することはない。


A Short Film about Killing
殺人に関する短いフィルム
A Short Film about Killing


監督・脚本 / クシシュトフ・キェシロフスキ
脚本 / クシシュトフ・ピェシェヴィチ
製作 / リシャルト・フトコフスキ
撮影 / スワヴォミール・イジャック
音楽 / ズビグニエフ・プレイスネル
出演 / ミロスワフ・バカ、クシシュトフ・グロビシュ、ヤン・テサシ  他
1987年 / ポーランド


様々なこま切れのシーンから構成される人々の日常の風景。孤独や歓喜や落胆や退屈、人々の感情が糸をつむいでいくようにひとつの方向へ向かっていく。あまりに淡々と描かれる物語。寡黙ななかに見出すことが出来るのは、あらゆる連鎖の上に成り立つ避けられなかった殺人、ということだけ。『殺人に関する短いフィルム』とはまさにその通りで、たとえそこに物語性があってもそれをクローズアップすることはなく、安っぽいお涙頂戴モノにしない。


A Short Film about Love
愛に関する短いフィルム
A Short Film about Love


監督・脚本 / クシシュトフ・キェシロフスキ
脚本 / クシシュトフ・ピェシェヴィチ
製作 / リシャルト・フトコフスキ
撮影 / ヴィトルド・アダメク
音楽 / ズビグニエフ・プレイスネル
美術 / ハリナ・ドブロヴォルスカ
出演 / グラジナ・シャポウォフスカ、オラフ・ルバシェンコ、ステファニア・イヴィンスカ  他
1988年 / ポーランド


覗き見プラトニックラブな映画は多い。そして私はそういったセックスではなく思い込みの激しい想いのみで成り立つ偏屈な屈折した純情が、その格差が好き。セックスから産まれるものより孤独な思い込みから産まれるものの方に興味がある。「何がほしいの?」「何も」というセリフは響く。パトリス・ルコントより分かりにくいかもしれない。『仕立て屋の恋(Monsieur Hire)』(フランス/1989)の中年男ミシェル・ブランには涙し、この作品の若い主人公トメクには切なさと痛々しさが入り混じる。


Fanfan la Tulipe
花咲ける騎士道
Fanfan la Tulipe


監督 / クリスチャン=ジャック
脚本 / クリスチャン=ジャック
撮影 / クリスチャン・マトラ
音楽 / ジョルジュ・ヴァン・パリス
出演 / ジェラール・フィリップ、ジーナ・ロロブリジーダ、ノエル・ロクヴェール、オリヴィエ・ユスノー、マルセル・エラン、ジャン・パレデス、ジャン=マルク・テンベール  他
1952年 / フランス、イタリア


ジェラール・フィリップ主演の白黒活劇。美形ジェラール・フィリップは日本でいうところの阪東妻三郎かなと思ったけれどどちらもあまり知らない。ジーナ・ロロブリジーダはきれいなのにうるさいイメージがつきまとい、童顔ジェラール・フィリップの相手役としてはいまいち。しかし話としてはテンポもよく楽しく、何よりジェラール・フィリップのチャンバラは身軽でとてもアイドルらしい。


Jeanne la Pucelle Les Prisons
ジャンヌ 薔薇の十字架
Jeanne la Pucelle Les Prisons


監督 / ジャック・リヴェット
製作 / マルティーヌ・マリニャック
脚本 / クリスティン・ローラン、パスカル・ボニツェール
撮影 / ウィリアム・ルブチャンスキー
音楽 / ジョーディ・サヴォール
出演 / サンドリーヌ・ボネール、アンドレ・マルコン、マルセル・ボゾネ、フィリップ ・モリエ=ジュヌー、ヤン・コレット、エディット・スコブ、ミシェル・ベルト  他
1994年 / フランス


ジャンヌ・ダルクの生涯を綴った2部構成の作品で前編「ジャンヌ 愛と自由の天使」に続く後編。囚われの身のジャンヌが火刑台にかけられるまでの物語。強くあろうとし男になりきろうとする「ジャンヌ 愛と自由の天使」から、女であるがゆえの苦悩や苦痛に満ちた2部。鏡に映る自分、恐怖。男であろうとした女の半生は決して男にはなれない女の半生に変わる。イエス様、と絶叫するラスト。英雄ではなく、ひとりの女としてジャンヌを描くこと。


毛糸のお話
毛糸のお話

監督 / ヘルミーナ・ティールロヴァー
脚本 / ミラン・パヴリーク
美術 / ルドゥヴィーク・カドレチェク、ヴァーツラフ・ドヴロヴォルニー
撮影 / アントニーン・ホラーク
音楽 / ズデニェク・リシュカ
アニメーション / ヤン・ドゥデシェク、ヴァーツラフ・ドブロヴォルニー
制作 / ドゥシャン・スハフェル
製作 / ゴットヴァルドフスタジオ
1964年 / チェコ


『雪だるま』同様毛糸を使ったアニメーション。緑の物体がとてもかわいい。


迷子の人形
迷子の人形

監督 / (実写)ヨゼフ・ピンカヴァ、(アニメーション)ヘルミーナ・ティールロヴァー
原案・脚本 / ヨゼフ・イロウシュ、ヘルミーナ・ティールロヴァー、ヨゼフ・ピンカヴァ
美術 / ルドゥヴィーク・カドレチェク、ヴァーツラフ・ドヴロヴォルニー
撮影 / アントニーン・ホラーク、イジー・コリーン
音楽 / ズデニェク・リシュカ
製作 / ゴットヴァルドフスタジオ
1959年 / チェコ


私は人形遊びが好きだった。そしていまも好き。人形に対する感情というのは子供でも大人でも私にとってはそれほど大差はない。人形が汚れてきたら洗ってあげようと思うし、手元にある人形はずっと大切にしようと思う。


雪だるま
雪だるま

原案・脚本・監督 / ヘルミーナ・ティールロヴァー
美術 / ルドゥヴィーク・カドレチェク、ヴァーツラフ・ドヴロヴォルニー
撮影 / アントニーン・ホラーク
音楽 / ズデニェク・リシュカ
製作 / ゴットヴァルドフスタジオ
1966年 / チェコ


毛糸を使ったアニメーション。毛糸であんなにもかわいく面白い動きができることに驚いた。とても愛らしいティールロヴァーらしさがあらわれた作品。


豚飼い王子
豚飼い王子

監督 / ヘルミーナ・ティールロヴァー
原作 / アンデルセン
脚本 / イジー・ツィルクル
美術 / ルドゥヴィーク・カドレチェク
撮影 / ミーラ・ブラーニーコヴァー、イジー・コリーン
音楽 / ズデニェク・リシュカ
語り / カレル・ヘーゲル
製作 / ゴットヴァルドフスタジオ
1958年 / チェコ


チェコアニメーションの王道。けれどやはりこういう質感は大好きで、ティールロヴァーの人形たちの顔はどれもやさしく表情豊かだ。


玉


原案・監督 / ヘルミーナ・ティールロヴァー
脚本 / ヘルミーナ・ティールロヴァー、ミラン・シメク
美術 / ルドゥヴィーク・カドレチェク、ヴァーツラフ・ドヴロヴォルニー
撮影 / アントニーン・ホラーク
音楽 / エヴジェン・イリーン
製作 / ゴットヴァルドフスタジオ
1963年 / チェコ


ティールロヴァーはこういうアニメーションがとても上手。チェコのアニメーションの面白さはこういうところにあることをティールロヴァーはもともと知っていたのかもしれない。動きの面白さ、カラフルな見た目の面白さ。私はこの作品がだいすき。


卑怯者、出てこい
卑怯者、出てこい

監督・アニメーション / ガリク・セコ
原案・脚本 / イヴァン・ウルバン
美術 / ルツィエ・ドヴォジャーコヴァー、ダニエル・ドヴォジャーク
撮影 / ミロスラフ・シュパーラ
編集 / ヴェラ・ベネショヴァー
音響 / イヴォ・シュパリィ
音楽 / イジー・コラファ
制作 / ヴェラ・シャシュコヴァー
製作 / トルンカスタジオ
声 / ラドヴァン・ルカフスキー、ヴァーツラフ・ポストラーネツキー、ヨゼフ・ソムル
1988年 / チェコ


チェコのアニメにはクマちゃんが多いような気がするのは気のせい?愛らしく薄汚れたクマちゃんが目覚まし時計くんと奮闘するアニメーション。ガリク・セコのこういう王道の質感はとても好き。


Stanno tutti Bene
みんな元気
Stanno tutti Bene


監督・脚本 / ジュゼッペ・トルナトーレ
脚本 / トニーノ・グエッラ
撮影 / ブラスコ・ジュラート
音楽 / エンニオ・モリコーネ
出演 / マルチェロ・マストロヤンニ、サルヴァトーレ・カシオ、ミシェル・モルガン  他
1990年 / イタリア、フランス


シチリアから、孫のお土産をかかえてスーツケース片手にイタリア各地へ散らばった5人の子供たちに会いに行くのはマルチェロ・マストロヤンニ演じる老人マッテオ。とても上品で上質なロードムービー。老人の夢見た理想は現実とあまりに違い、切ない。イタリアは思ったよりいいところじゃなかった、遠くから見ればなんでも美しく見えるんだ、きれいに見えるんだよ、というマッテオの言葉は重く、みんな元気だった、と亡き妻のお墓に語りかける優しさに涙する。マルチェロ・マストロヤンニが素晴らしい。いつまでも私の胸に残る。


Children of Nature
春にして君を想う
Children of Nature


監督・脚本 / フリドリック・トール・フリドリクソン
脚本 / エイナル・マオル・グドゥムンソン
撮影 / アリ・クリスティンソン
音楽 / ヒルマル・オルン・ヒルマルソン
美術 / ゲイル・オッタル・ゲイルソン、アオルニ・パオッル・ヨハンソン
出演 / ギスリ・ハルドルソン、シグリドゥル・ハーガリン、ブルーノ・ガンツ、ルーリック・ハラルドソン 他
1991年 / フィンランド、ドイツ、フランス


フリドリクソンの映画の質感はいいと思うけれど、あまりにファンタジー的になると少し好みでなくなる。しかしこの作品のラストだけで私はこの映画が好き。テオ・アンゲロプロス『シテール島への船出』(1984/ギリシャ、イタリア、フランス)と同様、決して逃げたわけではなく、自分の思い描く自分の理想の居場所に行こうとしているだけ。歳をとればとるほど孤独や不安または生と死について寡黙に考えるのかもしれない。その寡黙さが私にはずしりと重く、理想の居場所とは何だろうと考える。


Mies vailla mennisyyta
過去のない男 new!!
Mies vailla mennisyyta

監督・脚本・製作 / アキ・カウリスマキ
撮影 / ティモ・サルミネン
編集 / ティモ・リンナサロ
照明 / オル・ヴァリア/カッレ・ペンッティラ
美術 / マルック・ペティレ/ユッカ・サルミ
衣装 / オウティ・ハルユパタナ
出演 / マルック・ペルトラ、カティ・オウティネン、ユハニ・ニエメラ、アンニッキ・タハティー 他
2002年 / フィンランド、ドイツ、フランス


まったく過去にとらわれない人間なんてきっといない。思い出は誰にでもあるし過去の経験の蓄積が今に繋がるのかもしれない。けれどすべて忘れてしまったことに何の苦痛も感じない、これが痛快。現実にもしあわせはある。すべてを失ってた人間にも。カティ・オウティネンの静かな情熱がかわいい。日本酒と寿司を食べるところでクレイジーケンバンドの曲が使われているのがなんだかうれしい。フィンランドの風景はきれいだ。田舎も街も空気も色もきれい。ほんの少しのトイレのシーン、トイレが超機能美モダン。静かでじんわりくる作品。


SWEET SIXTEEN
SWEET SIXTEEN

監督 / ケン・ローチ
脚本 / ポール・ラヴァティ
編集 / ジョナサン・モリス
撮影 / バリー・エイクロイド
音楽 / ジョージ・フェントン
出演 / マーティン・コムストン、ウィリアム・ルアン、アンマリー・フルトン、ミシェル・アバークロンビー 他
2002年 / イギリス、ドイツ、スペイン


夢や希望を誰かが叶えてくれるわけではなく、自力で勝ち取るものだとおそらく幼い頃から思っているリアムやリアムの住む社会のリアルさは正直分からない。すべてを語らないケン・ローチの映画がなぜ痛烈か考える。幼いこと、生き抜く知恵。姉に肩をかして泣かせてやることは出来るくらいの男にはなれる。ラストの姉からの電話。背伸びしすぎたリアムは本物の16歳になっただろうか。土星の一日は10時間と14分、彼の一日はどのくらいだっただろう。


Matrimonio all'italiana
あゝ結婚
Matrimonio all'italiana


監督 / ヴィットリオ・デ・シーカ
製作 / カルロ・ポンティ
原作 / エドゥアルド・デ・フィリッポ
脚色 / レナート・カステラーニ、ピエロ・デ・ベルナルデ、トニーノ・グエッラ、レオ・ベンヴェヌーティ
撮影 / ロベルト・ジェラルディ
音楽 / アルマンド・トロバヨーリ
出演 / ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ、アルド・プリージ、マリル・トロ、ジョヴァンニ・リドルフィ  他
1964年 / アメリカ、イタリア


金持ち男と娼婦の女の結婚とその後。昼メロみたいな話なのに思い切り昼メロにならないのはソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニだからで、ソフィア・ローレン演じる娼婦姿は怪しい魅力で惹きつけられ、女の意地に感服する。壮絶なドロドロ恋愛物語なのに見終わった後には心のなかに何か小さな感情が残りふと笑ってしまえるのはヴィットリオ・デ・シーカのうまさ。


The Tales of Hoffman
ホフマン物語
The Tales of Hoffman


監督・脚本・製作 / マイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガー
撮影 / クリストファー・チャリス
美術 / ハイン・ヘックロート
音楽 / ジャック・オッフェンバック
衣装 / ハイン・ヘックロート
演奏 / ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団
出演 / ロバート・ラウンズヴィル、パメラ・ブラウン、モニカ・シンクレア(コントラルト)、ロバート・ヘルプマン、モイラ・シアラー、フィリップ・リーヴァー 他
1961年 / アメリカ


ホフマンの三つの恋の物語。なんといっても最もバレエ要素の高い一話目「コッペリア」が好き。モイラ・シアラー演じる人形オリンピアの愛らしさ。私にとっての映画の楽しさはこうした幻想的な、現実からかけ離れたものに集約され、終わりのない夢のような世界の映画に魅かれる。2004年3月23日に他界したリュドミラ・チェリーナは二話目「ジュリエッタの物語」で妖艶な踊りで登場。


West Side Story
ウエスト・サイド物語
West Side Story


監督 / ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス
製作 / ソール・チャップリン、ロバート・ワイズ
脚本 / アーネスト・レーマン
原作 / ジェローム・ロビンス、ロバート・E・グリフィス、ハロルド・プリンツ、アーサー・ローレンツ
撮影 / ダニエル・L・ファップ
音楽 / レナード・バーンスタイン
衣装 / アイリーン・シャラフ
出演 / ナタリー・ウッド、リチャード・ベイマー、ジョージ・チャキリス、リタ・モレノ 他
1961年 / アメリカ


ミュージカルが室内から屋外へと可能性を示し、ハッピーエンドしかあり得なかったミュージカル映画の常識を覆した歴史的作品。ダンスホールのダンスシーンの躍動感、屋外でのダンスの迫力、時を経ても色あせないミュージカル。見ていてとても楽しく切なく充実した作品。私はミュージカルが大好き。人間の身体が美しく動くのを見るのは大好き。


Lola Montes
歴史は女で作られる
Lola Montes


監督 / マックス・オフュルス
原作 / セシル・サン・ローラン
脚色 / マックス・オフュルス、アネット・ワドマン
台詞 / ジャック・ナタンソン
撮影 / クリスチャン・マトラ
音楽 / ジョルジュ・オーリック
出演 / マルティーヌ・キャロル、ピーター・ユスティノフ、アントン・ウォルブルック、イヴァン・デニ 他
1956年 / フランス


19世紀のパリに実在した美貌の踊り子ローラ・モンテスの恋物語。豪華で幻想的なサーカスのシーンから夢の中にいるような感覚。フェリーニの『8 1/2』(1963)を思い出す。カメラの前の障害物を動かさずにわざと人物にかぶせ、私は目の前の映像に目を凝らす。妄想と夢と現実の曖昧な境界線上で物語が進行する。私が映画に求めるのはこういう感覚なんだと改めて思った。驚くほど豪華なセットの中で夢のような女性が見世物になるという落差。たった1ドルで夢を買えるなら喜んで夢の中へいこう。


Joan of Arc La Passion de Jeanne d'Arc
裁かるるジャンヌ
Joan of Arc La Passion de Jeanne d'Arc


監督・脚本・編集 / カール・ドライヤー
撮影 / ルドルフ・マテ
舞台美術 / ヘアマン・ヴァルム、ジャン・ユーゴー
衣装 / ヴァレンティヌ・ユーゴー
時代考証 / ピエール・シャンピオン
出演 / ルネ・ファルコネッティ、ウジェーヌ・シルヴァン、モーリス・シュッツ、ルイ・ラヴェ 他
1927年 / フランス


数ヶ月間にわたって続いた裁判をジャンヌ・ダルクが処刑された1431年5月30日の1日に凝縮したもの。有名なファルコネッティのアップのシーン、人間の顔を長いことスクリーンサイズで見続けているのは不思議に怖いと思った。必死に見ようとするとそれ以上のものが返ってくるような気がする。ドライヤーの映画は頭のなかで言葉が響き、群集の暴動では割れんばかりの声が聞こえるようで、『ヴァンパイア』(1932)とはまた色の違う作品だと思った。


Alphaville
アルファヴィル
Alphaville,une Etrange aventure de Lemmy Caution


監督・脚本 / ジャン=リュック・ゴダール
製作 / アンドレ・ミシュラン
撮影: ラウール・クタール
音楽: ポール・ミスラキ
出演: エディ・コンスタンティーヌ、アンナ・カリーナ、ラズロ・サボ、エイキム・タミロフ 他
1965年 / フランス


SF、ハードボイルドを用いた近未来のストーリー。言葉の否定・記号化・個人の抑圧、つまり共産主義への批判をしながら愛の言葉が世界を救うと説く、愛とか脱出はおいておいてもゴダールぽい映画。ただ共産主義自体を私は正直それほど理解してないし、その無気味さに何か特別強く疑問を持っているわけでもなく、しかしそういうスタンスで見ていても当時最先端の建築デザインが多く出てくるのは楽しかったし、モノクロのアンナ・カリーナはかわいくて、プールで処刑されその後水着の女性がシンクロをするシーンはのん気で面白かった。


Va Savoir
恋ごころ
Va Savoir


監督 / ジャック・リベット
脚本 / エルゲイ・ミハルコフ
撮影 / ティー・ブニモヴィチ
美術 / レオニード・シュワルツマン
2001年 / フランス、イタリア、ドイツ


自分の元恋人に会いたくなったり関係を復活・持続させたりそういう世界共通後ろ向き人間たちは意外と多い気がする。「悲しいの。本気でもなくて毎晩一緒の人がいる」というドの言葉は素直でこの映画のなかで一番まともな人物。これは映画であり物語であり、こういう子供みたいな大人の恋の軽快さ面白さは現実にはないかもしれないという舞台でのラストは軽快でありポップでありフランス人でありリベットのコメディーだと思った。


now printing!
ママ
Mama


監督 / ロマン・カチャーノフ
脚本 / エルゲイ・ミハルコフ
撮影 / ティー・ブニモヴィチ
美術 / レオニード・シュワルツマン
1972年 / ソ連


買い物してる間に家に置いてきた息子を心配するママの空想物語。心配して急いで帰ってきたママは息子を見て涙をホロリと流す。カチャーノフの作品はやさしい。寡黙ななかのやさしさはとても切なくさせる。


now printing!
レター
Pismo / The Letter


監督 / ロマン・カチャーノフ
脚本 / ジャンナ・ヴィッテンソン
美術 / レオニド・シュワルツマン
1970年 / ソ連


海軍で働くパパからの手紙を待つママと息子。でもある日手紙が届かなくなってママは落ち込んでゆく。息子のやさしさと空想。目に見えないものを見えるものとして上手に作品化するカチャーノフのすごさ。


Varezhka / The Mitten
ミトン
Varezhka / The Mitten


監督 / ロマン・カチャーノフ
原作・脚本 / セルゲイ・ミハルコフ
脚本 / ジャンナ・ヴィッテンゾン
美術 / レオニード・シュワルツマン
1968年 / ソ連


子犬が欲しい少女アーニャは自分のピンクのミトンを犬のように連れて歩くとミトンが子犬に・・・。パペットのかわいさが抜群なうえストーリーも抜群。少女の子どもならではの想像力と行動にいつしか自分が通ってきた忘れてしまった道を思い出して涙が出る。たった10分の作品でこれだけ感動できる。


Rocco E I Suoi Fratelli
若者のすべて
Rocco E I Suoi Fratelli


監督 / ルキノ・ヴィスコンティ
製作 / ゴッフリード・ロンバルド
原作 / ジョヴァンニ・テストーリ
原案 / ルキノ・ヴィスコンティ、ヴァスコ・プラトリーニ
脚本 / ルキノ・ヴィスコンティ、スーゾ・チェッキ・ダミーコ 他
撮影 / ジュゼッペ・ロトゥンノ
音楽 / ニーノ・ロータ
出演 / アラン・ドロン、アニー・ジラルド、レナート・サルヴァトーリ、クラウディア・カルディナーレ、カティーナ・パクシヌー 他
1960年 / イタリア


南部から北部の大都市ミラノに移住してきた大家族パンロディー家。ロッコ役、若きアラン・ドロンは心身ともに男前ですいこまれるような目でカメラを見つめる。ロッコの心中にうずまく言葉にならない怒りや悲しみや憤り、様々な思いが瞳の中にあった。ロッコの目の前で堕ちたシモーネが彼女を犯してしまうシーンはとても残酷で惨い。「故郷」とは何だろう。誰もいない土地になぜ帰ろうとするのか。末っ子のルーカは、兄弟が誰も戻れなかった故郷に帰れたのかもしれない、と思わせるラストシーンはとてもいい終わり方で、故郷に対する郷愁もしくはノスタルジー、多くの人に分かるであろうそういった感情は少し感傷的にさせた。