foreign movie vol.11


Trilogy:The Weeping Meadow
エレニの旅
Trilogy:The Weeping Meadow


監督・脚本 / テオ・アンゲロプロス
製作 / フィービー・エコノモプロス
撮影 / アンドレアス・シナノス
音楽 / エレニ・カラインドルー
出演 / アレクサンドラ・アイディニ、ニコス・プルサニディス、ヨルゴス・アルメニス 他
2004年 / ギリシャ、フランス、イタリア、ドイツ


『永遠と一日』から6年ぶり。2時間50分の長丁場。時間の流れ、人物の名前すらもはや意味をなさない、ワンシーンワンカットでつづる「水」を軸にした大きな詩。出発、別れ、人生は水のように、難民のエレニは運命に流される。ギリシャ現代史を下敷きにしたシーンひとつひとつの意味を理解できないもどかしさ。吊り下げられた羊を見て『アレクサンダー大王』を思い出し、船での出発は『シテール島の船出』を思い出す、そういう行為自体に意味はなくてもアンゲロプロスの大きな流れに身をゆだねる面白さ。「いつか君と河のはじまりを探しに行こう」


Elephant
エレファント
Elephant


監督・脚本・編集 / ガス・ヴァン・サント
製作 / ダニー・ウルフ
製作総指揮 / ダイアン・キートン、ビル・ロビンソン
撮影 / ハリス・サヴィデス
出演 / アレックス・フロスト、エリック・デューレン、ジョン・ロビンソン、イライアス・マッコネル、ジョーダン・テイラー、キャリー・フィンクリー、ニコル・ジョージ 他
2003年 / アメリカ


2003年カンヌ国際映画祭で史上初のパルムドール&監督賞を受賞した、コロンバイン高校の銃乱射事件をもとに、高校生からの視点から撮った作品。すべての出演者が高校生で、かつアドリブの多用をしていることで自然と生まれるスクールライフのリアリティ。音を排除して、または誇張することで伝わる個人の感覚。でもこうやって作品の手法についての分析はだれでもできるけれど、この作品の答えは簡単には出ない。解決策がどこにあるか(そもそも"解決"なんてあるのか)、物事の本質がどこにあるかの説明なんて、誰にできるだろう。物語のように「完結」しない対話が続く。


Histoires Extraordinaires
世にも怪奇な物語
Histoires Extraordinaires


監督 / ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニ
原作 / エドガー・アラン・ポー
脚色 / ロジェ・ヴァディム、パスカル・カズン、ダニエル・ブーランジェ、ルイ・マル、 ダニエル・ブーランジェ、クレマン・ビドル・ウッド、フェデリコ・フェリーニ、ベルナルディーノ・ザッポーニ
撮影 / クロード・ルノワール、トニーノ・デリ・コリ、ジュゼッペ・ロトゥンノ
音楽 / ジャン・プロドロミデス、ディエゴ・マッソン、ニーノ・ロータ
出演 / ジェーン・フォンダ、ピーター・フォンダ、カルラ・マルリエ、アラン・ドロン、ブリジット・バルドー、テレンス・スタンプ、サルヴォ・ランドーネ 他
1967年 / フランス


エドガー・アラン・ポーの原作をもとにした三部作。監督も豪華なら出演者もジェーン・フォンダ、ピーター・フォンダ、アラン・ドロン、ブリジット・バルドーと超豪華。3作それぞれがそれぞれの監督らしい作品。特にフェリーニの3作目、テレンス・スタンプ出演の「悪魔の首飾り」の映像は強烈。時代を超越したフェリーニの悪魔的演出はすごい。


North by Northwest
北北西に進路を取れ
North by Northwest


監督・製作 / アルフレッド・ヒッチコック
脚本 / アーネスト・レーマン
撮影 / ロバート・バークス
音楽 / バーナード・ハーマン
タイトルデザイン / ソウル・バス
出演 / ケイリー・グラント、エヴァ・マリー・セイント、ジェームズ・メイソン、ジェシー・ロイス・ランディス、マーティン・ランドー、レオ・G・キャロル 他
1959年 / アメリカ


万人向けの面白さを持つ娯楽的サスペンス映画。国際的な陰謀とひとりの男の奮闘とそれに関わる密偵の女との恋。クラッシックな車とケイリー・グラントが登場するサスペンス、それだけで映画は楽しくなる。この要素こそが「映画」で、映画らしい映画になるんだと思った。スリリングなラシュモアの岩山でのシーン。無駄のないすっぱりしたラスト。誰もが楽しい映画が楽しいと普通に感じることはとても大事。


L'Homme du train
列車に乗った男
L'Homme du train


監督 / パトリス・ルコント
原作 / クロード・クロッツ
製作 / フィリップ・カルカッソンヌ
脚本 / クロード・クロッツ
撮影 / ジャン=マリー・ドルージュ
音楽 / パスカル・エスティーヴ
出演 / ジャン・ロシュフォール、ジョニー・アリディ 他
2002年 / フランス、ドイツ、イギリス、スイス


変化のない老教師の日常に現れた一人の男との交流。ふたりの笑い顔はなぜか寂しい。人生はやりなおせない。ぽつんと家に残された老教師、ラストのふたりの夢に涙が出そうになる。静かなトーンで孤独を表現する。列車は進む。かなわない終着駅。


Funny Face
パリの恋人
Funny Face


監督 / スタンリー・ドーネン
製作 / ロジャー・イーデンス
原作 / レオナード・ガーシュ
音楽 / ジョージ・ガーシュウィン、アイラ・ガーシュウィン
振り付け / ユージン・ローリング、フレッド・アステア
出演 / オードリー・ヘップバーン、フレッド・アステア、ケイ・トムスン、ミシェル・オークレール、ロバート・フレミング 他
1957年 / アメリカ


Bonjour, Paris! オードリー・ヘップバーンがお姫様になる楽しいミュージカル映画。フレッド・アステアと一緒に踊り歌うオードリーはとてもステキ。くるくる変わる衣装、パリの風景の美しさ、そして歌と踊りで魅了する。


Dogville
ドッグヴィル
Dogville


監督・脚本 / ラース・フォン・トリアー
製作 / ヴィベク・ウィンドレフ
撮影 / アントニー・ドッド・マントル
音楽 / ペール・ストライト
出演 / ニコール・キッドマン、ポール・ベタニー、クロエ・セヴィニー、ローレン・バコール、ジェームズ・カーン、ベン・ギャザラ、パトリシア・クラークソン 他
2003年 / デンマーク


ニコール・キッドマンがとても美しくて消えそうに白くて偽善者で傲慢であまりにかわいそうで辛い。閉鎖された世界はおとぎ話でまさに枠の中の物語。丁寧なナレーション。そこだけのルール、そこでの正義ですべてが完結する。欲望、嫉妬、暴力、権力、集団。直後に見た『メイキング・オブ・ドッグヴィル〜告白〜』(サミ・マーティン・サイフ/2003/デンマーク)は見ないほうが良かった。


CAPA in Love & War
CAPA in Love & War
Robert Capa: In Love And War


監督・脚本 / アン・メークピース
製作総指揮 / スーザン・レイシー
音楽 / ジョエル・グッドマン
出演・声の出演 / ロバート・キャパ、イザベラ・ロッセリーニ、スティーヴン・スピルバーグ、アンリ・カルティエ=ブレッソ、コーネル・キャパ 他
2003年 / アメリカ


報道写真家ロバート・キャパのドキュメンタリー。弾丸が飛び交うなか、軍服を着て、銃ではなくカメラを構える。銃は応戦できるがカメラでは手ぶらに等しい。けれど最前線で極限まで近づいて死の瞬間を撮る。誰にも撮れない瞬間を撮る。ライカを持ったまま死んだキャパは41歳だった。写真自体がやらせだという話もあるけれど、当時の状況下でそういった演出をしてまでも、キャパの写真が様々な意味を包括し偉大であり、写真を知らない私ですら写真の意味を考えたという事実。


Elsker dig for evigt
しあわせな孤独
Elsker dig for evigt


監督 / スザンネ・ビエール
脚本 / アナス・トーマス・イェンセン
原作 / スザンネ・ビエール
出演 / ソニア・リクター、マッソ・ミケルセン、ニコライ・リー・カース、パプリカ・スティーン 他
2002年 / デンマーク


ドグマ95作品。原題の直訳は"永遠に君を愛す"。邦題の意味が不明。内容を見てももっといい邦題があったのにと思う。昼メロみたいなストーリーなのに妻帯者の夫にも不倫相手の女性にも、子供にも、あらゆる登場人物に感情移入してしまう不思議。テーマが重いとは思わない。誰もが経験しそうな不毛で他人から見ればどうでもいい話だからこそ描くセンスが光る。性的描写がそれほどあるわけではなく、映し出したりするわけでもないのにとてもエロティックに思えるのはドグマ手法だからこそ。挿入される音楽のダサさもわざとかと勘ぐる。


A divina Comedia
神曲
A divina Comedia


監督・脚本・台詞 / マノエル・デ・オリヴェイラ
出演 / マリア・デ・メディロス、ミゲル・ギリエルメ、ルイス・ミゲル・シントラ、マリオ・ビエガス、レオノール・シルヴェイラ 他
1991年 / フランス、ポルトガル


ドストエフスキーの小説の登場人物、キリスト、ユダ、アダムとイヴ、ニーチェ、こういう人物になりきった患者が集う豪華な精神病院。引用に引用を重ね、迫真の演技の寸劇とコラージュ。罪の意識と神の存在。許し。唐突に現れる"カチンコ"で映画が途切れるラストはまるで予想しない展開で、理解しようと見ていた者をあっという間に現実に引き戻す。『ノン、あるいは支配の虚しい栄光』(1990)同様とても分かりづらい。けれどどうしようもなく魅力的で精神病院を舞台にした数ある映画のなかでは圧倒的にナンバーワン。


ノン、あるいは支配の虚しい栄光
"Non" ou a Va Gloria de Mandar


監督・脚本・台詞 / マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影 / エルソ・ロク
音楽 / アレハンドロ・マッソ
出演 / ルイス・ミゲル・シントラ、ディオゴ・ドリア、ミゲル・ギレルメ、ルイス・スカス、レオノール・シルヴェイラ 他
1990年 / ポルトガル、フランス


オリヴェイラの描く一大歴史スペクタクル。様々な戦争の敗北の形。タイトルの「ノン、あるいは支配の虚しい栄光」がまさに主題。非常に分かりづらい作品で見ている最中に思い出したのはアンゲロプロス『アレキサンダー大王』。巨匠のあたためていた歴史モノというのは難解な映画になりがち。けれど生の隣に潜む死の存在、勝利と敗北、同列で明暗印象付ける作品はオリヴェイラの様々な作品にあり、たぶんこういう撮り方はオリヴェイラにしかできないから好きなんだと思った。


Vale Abraao
アブラハム渓谷
Vale Abraao


監督・脚本 / マノエル・ド・オリヴェイラ
原作 / アグシティナ・ベッサ=ルイーシュ
製作 / パウロ・ブランコ
撮影 / マリオ・バロッソ
出演 / レオノール・シルヴェイラ、セシル・サンス・デ・アルバ、ルイス・ミゲル・シントラ、ルイ・デ・カルヴァルホー、ルイス・リマ・バレト 他
1993年 / ポルトガル、フランス、スイス


フロベール『ボヴァリー夫人』を下地に現代を舞台にした作品。三時間余の長尺なのにオリヴェイラに対して文句の言えるショットはなく、人物を正面から据え、長い長い屋敷の外観をとらえたショット、すべて必要だと断言されている気がするオリヴェイラマジック。男の強さに対する女の弱さはしたたかさの裏返しでもあり、男の強さは時に滑稽だ。しかし意図しないしたたかさは破滅も招く。精神的肉体的に抑圧され耐えていたエマが花開いていく姿は単純ではない。あらゆる伏線や物語、ゆるやかに必然的にエマのもとに集まる大変な複雑さ。そしてその絡まりあった複雑さの上にある愛と死が美しいと思えるこれまたオリヴェイラマジック。マリアの「人生は美しい」という言葉は誰に対してだっただろうか。


O Principio da Incerteza
家宝
O Principio da Incerteza


監督・脚本 / マノエル・ド・オリヴェイラ
原作 / アグシティナ・ベッサ=ルイーシュ
製作 / パウロ・ブランコ
撮影 / レナート・ベルタ
美術 / マリア・ジョゼ・ブランコ
出演 / レオノール・バルダック、レオノール・シルヴェイラ、イザベル・ルト、リカルド・トレパ、イヴォ・カネラシュ、ルイーシュ・ミゲル・シントラ 他
2003年 / ポルトガル、フランス


家宝は自ら輝きを増す。美しいポルトの風景、ジャンヌ・ダルク像への祈り、ほとんど暗示のみで構成される言葉の数々に知らないうちに物語の糸に絡まっていく。人生はおとぎ話と同じ。勝者と敗者、光と影、生と死。従順で耐え忍ぶファム・ファタールの美貌。ラストのはにかむ姿に同性としてぞっとする。まったくの他者が存在することを想定しているオリヴェイラの物語の紡ぎ方はとても好みで面白い。


India Song
インディア・ソング
India Song


監督・原作・脚本 / マルグリット・デュラス
製作 / ステファーヌ・チャルガディエフ
撮影 / ブルーノ・ニュイッテン
音楽 / カルロス・ダレッシオ
出演 / デルフィーヌ・セイリグ、ミシェル・ロンズデール、マチュー・カリエール、クロード・マン  他
1974年 / フランス


1930年代のカルカッタ。美しいフランス大使夫人と取り巻きの男たち。詩のように物語が進行する。猛暑による怠惰、緩慢さ、死の誘惑、狂気する男。過去。第三者の言葉。椅子にもたれるデルフィーヌ・セイリグを中心に男達が周りを取り囲むシーンが美しくて忘れられない。デュラスの言葉がまさに映像になった作品。テーマ曲「インディア・ソング」はデュラスの葬儀でも流れたという。


Le Fils
息子のまなざし
Le Fils

監督・脚本 / ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
プロデューサー / ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ、デニス・フレイド
撮影監督 / アラン・マルコァン
カメラ / ブノワ・デルヴォー
録音 / ジャン=ピエール・デュレ
編集 / マリー=エレーヌ・ドゾ
美術 / イゴール・ガブリエル
衣裳 / モニク・パレール
出演 / オリヴィエ・・グルメ、モルガン・マリンヌ、イザベラ・スパール、レミー・ルノー、ナッシム・ハッサイーニ 他
2002年 / ベルギー、フランス


エンターテイメント性の皆無な、けれど無駄のない淡々とした繊細に計画されたこの作品の中にダルデンヌ兄弟が託した(それはメッセージなどではなく)ものはとても大きい。オリヴィエの後ろ姿を追う揺れるカメラの目線はそのままオリヴィエの視線となり、私の視線となる。言葉がなくてもオリヴィエの衝撃や葛藤、緊張、叫びが聞こえる。閉じた心から、人を許し受け入れるとはどういうことかと考える。


Le Dernier Metro
終電車
Le Dernier Metro


監督・製作・脚本 / フランソワ・トリュフォー
脚本 / フランソワ・トリュフォー、シュザンヌ・シフマン
撮影 / ネストール・アルメンドロス
音楽 / ジョルジュ・ドルリュー
美術 / ジャン・ピエール・コユ・スヴェルコ
出演 / カトリーヌ・ドヌーヴ、ジェラール・ドパルデュー、ジャン・ポワレ、ハインツ・ベネン、アンドレア・フェレオル 他
1981年 / フランス


トリュフォーはたまに良い。映画内映画と同様、映画内舞台、というスタイルはトリュフォーぽい。『隣の女』(1981)と違ってジェラール・ドパルデューがとてもいい。若さを通り越した妖艶さを持つカトリーヌ・ドヌーヴが美しい。ナチ占領下の混乱のパリで女ひとり劇場を守る物語。後半、実はベルナールに恋してたの、夫の「妻は君に夢中だ」という展開には唐突で驚く(それまでドヌーブの視線で描かれているわけではないので)けれど、まあそういうちょっとおかしくない?みたいなのもトリュフォーぽい。トリュフォーの単なる恋愛劇よりこういった作品のほうが好き。とか書いててやっぱり単なる不倫モノという気がしてきた。


Cybele ou les Dimanches de Ville d'Avray
シベールの日曜日
Cybele ou les Dimanches de Ville d'Avray


監督 / セルジュ・ブールギニョン
原作 / ベルナール・エシャスリオー
脚色 / セルジュ・ブールギニョン、アントワーヌ・チュダル
台詞 / セルジュ・ブールギニョン、ベルナール・エシャスリオー
撮影 / アンリ・ドカエ
音楽 / モーリス・ジャール
美術 / ベルナール・エヴァン
出演 / ハーディ・クリューガー、パトリシア・ゴッジ、ニコール・クールセル、ダニエ ル・イヴェルネル 他
1962年 / フランス


ロリコンから熱烈な支持を受けているという映画。戦争によって過去の記憶を失い心の傷を負う30男と家族から見捨てられた12歳の少女の純愛。寒々しい冬の枯れ木と湖の風景はとても美しく、純情で無垢な二人にうっとり、と言いたいところだけど、ピエールはどう考えてもロリコンそのもの。少女はとてもかわいく映画自体はたいへん美しいけれど、どうもロリコンピエールにそこまで入れ込めなかった。


Une aussi longue absence
かくも長き不在
Une aussi longue absence


監督 / アンリ・コルピ
脚本 / マルグリット・デュラス
台詞 / ジェラール・ジャルロ
撮影 / マルセル・ウェイス
音楽 / ジョルジュ・ドルリュー
出演 / アリダ・ヴァリ、ジョルジュ・ウィルソン、ジャック・アルダン、シャルル・ブラヴェット 他
1960年 / フランス


1961年カンヌ映画祭グランプリ受賞作品。大人の女性の心理描写。16年前にゲシュタポに捕えられたまま、消息を絶った夫。記憶喪失の夫。ただ、この映画の中では記憶喪失の浮浪者は夫だとは断言していない。不毛な会話。ささやかな幸福。一点の光、期待、オペラのレコード、ダンス、晩餐。女としての美しさの頂点を過ぎ、中年になり生々しくなった肉体。単純な物語のなかに複雑な想いが絡み合う。テレーズに投影された、独身デュラスが熟年にさしかかった心境。ラストの余韻。女はこうして美しくなる。「寒くなったら戻ってくるかもしれない。冬を待つんだわ」。


Lundi Matin
月曜日に乾杯!
Lundi Matin


監督・脚本 / オタール・イオセリアーニ
撮影 / ウィリアム・ルブチャンスキー
美術 / マニュ・ド・ショヴィニ
編集 / オタール・イオセリアーニ、エヴァ・レンキュヴィチュ
音楽 / ニコラ・ズラビシュヴィリ
出演 / ジャック・ビドウ、アンヌ・クラヴズ=タルナヴスキ、ナルダ・ブランシェ、ラズラフ・キンスキー 他
2002年 / フランス、イタリア


憂鬱な月曜日。いつもと変わらない日々。つかの間の自由を求めてひとりヴェニスへ旅に出る。イオセリアーニの映画は美しい。時間の流れが美しい。誰もが抱える孤独や憂鬱に暗さを与えず言葉を求めない。自由とは現実逃避をすることではない。けれど現実に直面することでもなく、日常のひとときの休息や仕草で解放される精神的な広がりが一瞬でもあればそれでいい。ささいな日常、何もない日常。憂鬱な月曜日は、ほんの少しで変わる。


Ladri di Biciclette
自転車泥棒
Ladri di Biciclette


監督・製作 / ヴィットリオ・デ・シーカ
脚本 / チェザーレ・ザヴァッティーニ
原作 / ルイジ・バルトリーニ
脚本 / チェザーレ・ザヴァッティーニ、スーゾ・チェッキ・ダミーコ
撮影 / カルロ・モンテュオリ
音楽 / アレッサンドロ・チコニーニ
出演 / ランベルト・マッジォラーニ、エンツォ・スタヨーラ 他
1948年 / イタリア


ネオ・リアリズモ。映像で認識できるすべてが当時のイタリアの現実ではない。けれど俳優らしからぬ素人俳優たちはその匿名性ゆえに個人ではなく全体を認識し、意識することができる。戦後の殺伐としたイタリア、やっと職を見つけた父親は仕事のために手に入れた自転車を盗まれる。悲惨な街、悲惨な生活、生きることという現実と真実。ロッセリーニ『無防備都市(ROMA, CITTA, APERTA)』(1945)、『ドイツ零年(Germania anno zero)』(1947)と同様の絶望感。こめられたメッセージ性よりも強い寂寥がある。


犬が住んでいました
犬が住んでいました

監督 / エドゥアルド・ナザーロフ
1982年 / ロシア


ナザーロフが国際的に高い評価を受けた作品。追い出された老犬のために、森で出会った老オオカミが家に戻れるよう手助けする友情の物語。ユーモアがあるのに胸が痛い。


愛しの青いワニ
愛しの青いワニ

監督 / ワジム・クルチェフスキー
アニメーター参加 / ユーリー・ノルシュテイン
1966年 / ロシア


醜いワニのけなげさと美しい牛のやりとりにときめいて切なくなる。ワニと牛の手触り感も好み。葉っぱがないからさようなら、と言われて、僕が葉っぱになるよ、と葉っぱになったワニ。これ以上のものを何かあげられる? 


fantomas
ファントマ
Fantomas
ファントマ対ジューヴ警部
Juve Contre Fantomas
ファントマ対ファントマ
Fantomas contre Fantomas

監督・脚本 / ルイ・フイヤード
出演 / ルネ・ナヴァール、M・ブレオン
1913-14年 / フランス


1910年代に製作された連作形式の連続活劇。ファントマと呼ばれる怪盗とファントマ逮捕に燃えるジューヴ警部。パリ市内で撮影されているシーンが多くあり、第一次大戦前のパリの様子や人々の様子、衣装、車、列車、古き良き時代の本物の映像は幻想的だとさえ思える。当時は家族で、友人で、近所の人たちと上映を楽しみにして見ていたのかな、なんて想像するだけで楽しくなる作品。


Prince & Princesses
プリンス&プリンセス
Prince & Princesses


監督・脚本 / ミッシェル・オスロ
製作 / ディディエ・ビュルネール、ジャン=フランソワ・ラギオニ
音楽 / クリスチャン・メイル
日本語吹替 / 原田知世、松尾貴史
1988年 / フランス


フランスのアニメの巨匠ミッシェル・オスロの切絵アニメ6編のオムニバス。ストーリー自体は面白く、怪物・変身というアニメーションらしい表現も多くあるけれど、果たしてこれが切絵アニメとして素晴らしいかといえばそうは思わない。切絵アニメ・影絵アニメの面白さが感じられないのはセルアニメのようなあまりに流暢な人形の動きもそのひとつ。そして切絵・影絵ひとつで表現できるものにあまりに余計なものがありすぎた。


Mysterious Island
SF 巨大生物の島
Mysterious Island


監督 / サイ・エンドフィールド
製作 / チャールズ・H・シニア
原作 / ジュール・ヴェルヌ
脚本 / ジョン・プレブル、ダニエル・ウルマン、クレイン・ウィルバー
特撮 / レイ・ハリーハウゼン
音楽 / バーナード・ハーマン
出演 / マイケル・クレイグ、ジョーン・グリーンウッド、マイケル・カラン、ゲイリー・メリル、ベス・ローガン、ハーバート・ロム  他
1961年 / イギリス


ジュール・ヴェルヌ『海底二万哩』の続編。ジュール・ベルヌとレイ・ハリーハウゼンが組むSF冒険ものはとても夢がある。酸素ボンベと称した貝殻を背負いやどかりそのものとなったネモ船長が登場するシーンは秀逸。本作品でもハリーハウゼンの作り出す巨大な牡蠣、巨大な蟹、巨大な鶏などのアニメーションが素晴らしい。微妙にいびつな動きに感動すら覚える。


Nicolas
ニコラ
Nicolas


監督 / クロード・ミレール
製作 / アニー・ミレール
原作 / エマニュエル・カレール(「冬の少年」河出書房刊)
脚本 / エマニュエル・カレール
撮影 / ギヨーム・シフマン
美術 / ジャン・ピエール・コユット=スヴェルコ
音楽 / アンリ・テクシエ
衣装 / ジャクリーヌ・ブシャール
出演 / クレモン・ヴァン・デン・ベルグ、ロックマン・ナルカカン、イヴ・ヴェローヴェン、エマニュエル・ベルコ 他
1998年 / フランス


不思議な感覚のズレのある映画で、物語自体は決して面白いわけでなく(現実と空想に揺れる妄想癖のある少年のありきたりな話)クロード・ミレールの映画の構成の仕方や見せ方が面白い。「ニコラ」と「ニコラの友人」と「先生」と「私(を含む映画を見る人々)」。結末に至るにつれ、誰が何を知っているのか、非常に曖昧になり、"曖昧になる"という不思議な状況に陥る。私にすら物語の結末はきちんと示されずに終わる。そして(物語が終わった時点での)主人公のニコラにも。フランス人らしいクロード・ミレールの作為的な映画。


O Megalexandros
アレクサンダー大王
O Megalexandros / Alexander the Great


監督 / テオ・アンゲロプロス
脚本 / テオ・アンゲロプロス、ペトロス・マルカリス
製作 / ニコラス・アンゲロプロス
撮影 / ヨルゴス・アルヴァニティス
音楽 / クリストドゥス・ハラリス
出演 / オメロ・アントヌッティ、エヴァ・コタマニドゥ、グリゴリス・エバンゲラトス 他
1980年 / ギリシャ、イタリア、西ドイツ


アレクサンダー大王の偶像性、社会主義、共産主義、アナーキスト。独裁と変貌した社会。革命後の理想社会であったコミューンの崩壊。アンゲロプロスの現代史には政治と神話が絡む。すべてをゆっくりと映し出す長回しは、独裁社会への否定・批判・糾弾であり、緩慢でありながら強烈な映像となる。神話=独裁(偶像)政治。この長いフィルムのなかの数少ない言葉には限りない叫びがある。


テディベアのルドヴィック
テディベアのルドヴィック
「雪の贈り物」「ワニのいる庭」「おじいちゃんの家」「空に浮かぶ魔法」


監督・アニメーション・撮影 / コ・ホードマン
脚本 / コ・ホードマン、マリー=フランシーヌ・エベール
製作 / テレーズ・デーカリ、ジャン=ジャック・ルデュック
パペット / リリアン・クリプ
音楽 / ダニエル・ラボア
文 / マリー=フランシーヌ・エベール
声 / ソニア・バール、ヨハンヌ・レベィエ
1998-2002年 / カナダ


ホードマンの作品は日常のほんの一瞬の出来事を丁寧にアニメにする。「自分の孫に見せたい作品」というだけあって毒のないストレートに思える作品な反面、子供に対する期待や希望の視線が過剰にテディベアに込められている気がしていまひとつ素直に観られなかった。『砂の城』(1977)を期待していると少し違うかも。