foreign movie vol.3


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親指トムの奇妙な冒険

監督・デザイン・脚本・編集 / デイヴ・ボースウィック
アニメーター / デイヴ・ボースウィック、ブレット・レイン、ヘレン・ヴェウズィ 他
美術・衣装・メイク / ザ・ボレックスブラザーズ 他
キャラクター・モデル / ジャスティン・エクスリー&ジャン・サンガー
1993年 / イギリス


ついに見ることが出来たこの作品は、期待以上に面白くて私を裏切らなかった。想像と少々違うストーリーだったけれどデイヴ・ボースウィックの熱の入れように惚れ込む。実写とパペットの作品なのだけど、人間の細かい動きもすべてアニメーション。たしかにグロテスクで子供受けはしないと思うけれど、それでもパペットがこれだけかわいらしいとかわいらしく思えてしまうもの。親指トムのかわいらしさといったらそれはそれは私のストライクゾーンど真ん中という感じで、声の演出もまたこれがかわいくて。危機一髪を乗り越える姿やトムの優しい性格が心に残る。トムの世界は危険がいっぱい。私はずっとずっとトムの味方よ。


Alice
アリス

監督・デザイン・脚本 / ヤン・シュワンクマイエル
原作 / ルイス・キャロル
製作 / ヤミロール・カリスタ
アニメ / ベトリフ・グラセル
撮影 / スバトプルク・マリー
録音 / イヴォ・シュパリ、ロベルト・ヤンサ
1988年 / スイス、西ドイツ、イギリス


シュワンクマイエル初の長編作品。いつものシュワンクマイエルのように舌とか肉の断片とか虫とかいやに生々しくてグロテスクなモノがやっぱり出てくるのだけど、すごくかわいらしくてユーモアたっぷりですごくすごく面白い。アリス役のクリスティーナ・コホウトヴァのかわいらいさもそれに一役。人形の動きがとても細かくて生きてるみたいで、人形の動いてる世界って不思議じゃなくて本当にあるのかもしれないと思う。原作のルイス・キャロル「アリス」とはテイストが全然違うけれど、人形アニメとしては絶妙な題材では。


Faust
ファウスト

監督・脚本 / ヤン・シュワンクマイエル
製作 / ヤミロール・カリスタ
撮影 / スバトプルク・マリー
声 / ピーター・セペック、アンドリュー・サックス 他
1994年 / チェコ他


シュワンクマイエル!という感じの作品。「悦楽共犯者」テイスト。どうしてこういう撮り方が出来るのかそれはすごく謎でもあるけれど面白い。やっぱり食べるシーンというのは絶対出てくるのだけど、人間の姿で一番醜いのは食べる姿だと聞いたのを思い出す。たとえば汚いものを汚いまま、あるいは誇張して写しだし、綺麗なものは綺麗なだけでは写さない。徹底的にそういう所だけを搾取して(あるいはある部分だけを完璧に削除して)るから強烈なのかもしれない。不思議な話を決してファンタジー作品という枠におさめない。私が見たシュワンクマイエルの作品の中で一番ラストが印象に残る。


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対話の可能性

監督 / ヤン・シュワンクマイエル
1982年 / チェコ


ものすごい皮肉。クレイは何もしゃべらない。ただそんな様子を刻々と映し出す。個性のある人間が他の個性のある人間と"対話"することによって、お互いかみ砕かれていく。それをずっと続けて、行き着く先はみんな同じ人間になってしまう。個性の消滅。類似した個性が集まると没個性となる。男女が"対話"する事によってささいな何かが生まれる。幸せで生まれたささいな物が、仲を引き裂く事もある。"対話"はお互いそれにあった自分の引き出しから出していかなければ成り立たない。かみ合わない会話をし続けるとお互いボロボロに。靴にバターをぬるような、不毛な会話。


Tma,svetlo,tma
闇・光・闇

監督 / ヤン・シュワンクマイエル
1989年 / チェコ


7分間の短篇。アニメ作家でなくシュルレアリストである、と自分で言うだけあって映像の中で気付いて欲しい事や分かって欲しい事はたくさんあるだろう。実際見てるだけでも面白いのだけど、そこから何か発見したりすると、とても強烈。不安や恐れを感じる。こういったアニメの中で異色とも思える脳味噌とか舌の質感、クエイを見た事あったらいかにこのシュワンクマイエルに影響されてるか、とても分かるような気がする。チェコアニメの中で新しい方向に行けたシュワンクマイエル。特別好きではないけれど、やっぱりすごい人。


邪眼
邪眼

監督 / パキート・ポリノ、キャロリーヌ・シュリー、ルラン
助監督 / パルエ
製作 / アクセル・ギヨ
映像 / C.プフォル
アニメ技術 / M.ドリュエ
音楽 / パキート・ポリノ、フランク・ド・ケンゴ、マルセル・ペラン
1997年 / フランス


フランスのアーティスト集団ル・デルニエ・クリの製作するオムニバス形式のアニメーション。最初から最後まで全力疾走。観念的で極個人的で断片的なイメージの洪水は、目の前でめまぐるしく様相を変える。ただ、これは、見ている自分は映像自体についていかなくてもよくて、記憶に残らなくてもよくて、今見てるこの瞬間、頭や視界がバチバチしてればいいのだと思う。面白いから映像をすべて記憶してるわけじゃない。すべて記憶してるから面白いわけじゃない。いっぱいいっぱい色んな技術を駆使して試して、そこには攻撃的な要素や怒りや悲しみなども見え隠れして、内気なオタクが頭の中でイメージしてたものを作りました的作品。


Il Vangelo secondo Matteo
奇跡の丘

監督・脚本 / ピエル・パオロ・パゾリーニ
撮影 / トニーノ・デリ・コリ
音楽 / ルイス・エンリケス・バカロフ
出演 / エンリケ・イラソキ、マルゲリータ・カルーソ、スザンナ・パゾリーニ 他
1964年 / イタリア、フランス


キリストの誕生から裏切り、死、復活までの様子の恐ろしいくらい客観的な映像。主人公こそ違うものの、ロベルト・ロッセリーニ「神の道化師 フランチェスコ」を想像させ、パゾリーニとロッセリーニの関連性が浮かび上がった事に私は正直驚いた。ただ、この映画がパゾリーニではないみたいだと言ってるわけではなく、限りなくパゾリーニなのだけどパゾリーニ的でない。私はキリスト教徒ではないし、キリスト教についての知識はほぼ皆無。「マタイによる福音書」をほぼ正確に再現したと言われても分からない。けれど、あらゆるものを排除したかのような映像のそのものに感銘を受けた。


Il Grido
さすらい

監督・脚本 / ミケランジェロ・アントニオーニ
脚本 / エリオ・バルトリーニ、エンニオ・コンチーニ
撮影 / ジャンニ・ディ・ベナンツィオ
音楽 / ジョバンニ・フスコ
出演 / スティーブ・コクラン、アリダ・バリ、ドリアン・グレイ 他
1957年 / イタリア


何か素敵な出来事を描くわけでもなく、日常の小さな幸せが垣間見えたりするわけでもなく、ただ、男や女のなぜだか分からない徒労感が感じられる。同棲していた女に別れを告げられ(その女の別れる理由が確信的というわりにその確信が感覚によるもので共感出来る)二人の間の小さな女の子と一緒にどこに向かうわけでもなくさまようのだけど、感覚情景その他がとてもリアル。怠惰な感じを怠惰に撮り続けるその効果に気づけば面白く感じられるかもしれない。ラストにびっくりさせられるけど、それがメインじゃない。映画全体で物語っているような気がする。


Conte D'hiver
冬物語

監督・脚本 / エリック・ロメール
撮影 / リュック・バジェス
編集 / マリー・ステファン
録音 / パスカル・リビエ
出演 / シャルロット・ヴェリー、フレデリック・ヴァン・ドリーシュ、ミシェル・ヴォレッティ 他
1991年 / フランス


春も夏も秋もピンとこなくてタルかった。でもこの冬。<四季の物語>の中で私は一番好き。会話に共感出来なければ何も面白くない映画かもしれない。いい映画とはえいないかもしれない。でも、私はその会話に、女の行動に、何も疑問点を抱かないほどに素直に共感する。女は身勝手かもしれない。でも素直。感覚で生きる女の姿、博学にならなくてもいい、むしろ望んでいない。しあわせな結末が待っているに違いないよ。それは決して悪い事ではないから。彼女の希望、そして私の希望。


Dog Star Man
Dog Star Man

監督 / スタン・ブラッケージ
1961-64年 / アメリカ


小賢しい事が格好良く見える時もあって、でも、私はそういう言葉で話せないから、やっぱりとても簡単でまどろっこしい言葉で繰り返し表現する事しか出来ないけれど、それでも感じたり受け取ったりする事は、後付の言葉じゃないと思いたい。ね、綺麗ね、とても綺麗。雪山を登る男と犬。何も話さないし、何もしゃべろうとしない。色んなモノが、とてもはっきりとしていて、はっきりと見えてきて(見えてくるような気がして)、本当にとても美しいと思う。赤ん坊の目には何が写る?私達はもう覚えていないモノかしら。忘れてしまったモノかしら。


Normal Love
Normal Love

監督 / ジャック・スミス
音楽 / トニー・コンラッド、アンガス・マクライス、ロバート・アーナー
出演 / マリオ・モンテッツ、ジョン・ヴァッカロ、ダイアン・デプリマ 他
1963年 / アメリカ


Jack Smithの映画というだけでワクワクしてしまうのに、音楽を担当する名前の並びに思わず言い様のないトキメキ感。発色のいいエメラルド・グリーンがかった画面がより幻想的な世界を思わせる(画像はモノクロで失礼)。幻想と言っても大人の見る幻想で、ポスターカラーみたいなエメラルド・グリーンの葉っぱなんて、気持ち悪いでしょう、でも、その気持ち悪さ・ウソ臭さが逆に「大人の幻想」を強烈に感じさせる。絵の具を混ぜただけのような水色やピンク色の飲み物、これは、全部、嘘。嘘なのが問題じゃない、そういう事じゃない。


Flaming Creatures
Flaming Creatures

監督 / ジャック・スミス
1961年 / アメリカ


今まで観た映画、映像が全部ふっとんでしまうくらいの衝撃。ふっとんで、これだけ記憶に残ってもいいくらい。初めてJack Smithの映像を見て、CDだけじゃ体験出来ない色んなモノを感じた。何か言葉があるわけではない、叫び声すら猛烈に素晴らしく聞こえる。挑戦的?攻撃的?音楽や音楽と呼べないかもしれない音もお手上げなくらいカッコよく思えた。余所事を考える暇なんか与えてくれない、考えるな、「Flaming Creatures」を見ろ。大興奮。こんなにカッコイイの、見た事なかった。


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The Queen of Sheeba Meets Atom Man

監督 / ロン・ライス
音楽 / タイラー・メッド
出演 / タイラー・メッド、ウィニフレッド・ブライアン、ジュリアン・ベック 他
1963年 / アメリカ


この映像に意味があるかなんて事は私にはどうでもよくて、ストーリーがどうのこうのなんて事もどうでもよくて、センスの良し悪しも、関係ない。ただ、ものすごく格好良く感じて、音楽を担当したTaylor Meadの選曲の絶妙さに感動して、こんなに面白く、普通にショパンの曲が使えるのだと思った。キャストのクレジットを見て舞い上がる。Jonas MekasにEd SandersにJack Smithの名も。私はこういうのを見てとても喜ぶし、こんなにうれしくなってしまう。"階段を半分降りたところに あたしの坐る場所があるの"と大好きなA.A.ミルンが言った。上でもない、下でもない、階段半分降りた、この居場所が、好きなんだ。


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Chumlum

監督 / ロン・ライス
音楽 / アンガス・マクライス
1964年 / アメリカ


Angus MacliseのLPに「これは『Chumlum』のサウンドトラック」と書いてあった事から、この映画がどうしても見たかった。映像と映像の重なり合い、色と色の重なり合い、後で色をつけたと思われる妙な色具合。Ron Riceが映像を作ってからAngus Macliseが音をつけたのか、Angus Macliseの音を聞いてRon Riceが映像を考えたのかは分からないけれど、音と映像でトリップ出来るとはこの事。


Minnie&Moskwilz
ミニー&モスコウィッチ

監督・脚本 / ジョン・カサヴェテス
撮影 / アーサー・オーニッツ、アルリック・エデンズ、マイケル・マーグリーズ
編集 / フレッド・ナトソン
音楽監修 / ボー・ハーウッド
出演 / シーモア・カッセル、ジーナ・ローランズ、ヴァル・エイバリー、ジョン・カサヴェテス 他
1971年 / アメリカ


可笑しくて、涙が出るくらいの純粋さや一生懸命さがこの映画の中にはある。カサヴェテスのジーナ・ローランズへの想いがモスコウィッチの言葉に託されているのかもと思う台詞が随所に。君の事を考えると夜も眠れないくらい愛している事をこんなに素直に率直に表現されたらまいっちゃうよね。モスコウィッチがミニーに本気である事を表現するために、おどけながら髭を切り落とすシーンに涙が出た。男にとっての髭はどんな価値があるだろう。例えば私のために誰かがこんな事をしてくれるほど愛してくれるだろうか。こんなに一生懸命愛してくれるだろうか。ラストのハッピーな家族の映像が忘れられない。


Husbands
ハズバンズ

監督・脚本 / ジョン・カサヴェテス
制作 / アル・ルーバン、サム・ショウ
撮影 / ヴィクター・J・ケンパー
編集 / ピーター・タナー
美術 / レネ・ドリアック
出演 / ベン・ギャザラ、ピーター・フォーク、ジョン・カサヴェテス 他
1970年 / アメリカ


男4人仲間の一人が死んで、残りの中年3人が少年のように悪ふざけしたり夜通し吐くまで飲んだりバスケに夢中になったりする最初のだらだらと長い映像。見てゆくうちにこれが3人のイライラした心情を語っているのだと分かってくる。自分のしあわせ、他者のしあわせ、既存のしあわせ、取捨選択するのは自分自身で、どれがしあわせかなんて自分にしか分からない(時には自分自身も分からないけれど)。どんな事でも自分の選んだ道ならば自分の責任で、幸せ不幸せあって、それぞれの道(生き方)があって当然の事。みんなと一緒の道を選択する事、どの道を選ぶかは問題じゃない。無駄に思うような長い、選ぶ過程、苦悩する時間。しかしこれを見て男の友情が羨ましいとかは全く思わない。


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嘆きのテレーズ

監督・脚本 / マルセル・カルネ
原作 / エミール・ゾラ
脚本 / シャルル・スパーク
音楽 / モーリス・ティエリ
撮影 / ロジェ・ユベール
出演 / シモーヌ・シニョレ、ラフ・バローネ、ジャック・デュビ 他
1953年 / フランス、イタリア


病弱なマザコン旦那とそのマザコン旦那をかわいがる姑に日々不満をつのらせて生活するテレーズ(シモーヌ・シニョレ)。人生って何だろう、義理と恩で縛られてるのは当然な事なのかしら。ダンスも知らないし、自分の楽しみなんてない。そんなテレーズの前に旦那とは正反対の粗野な男が現れて、自分を好いてくれてると知ったら、どんな気分?ずっとどこかに連れていって欲しいと思っていた。ずっと自分を外に出して欲しいと思っていた。そこで全てを捨てる事に割り切れない苦しみもあるのが女。旦那が死んで口の聞けない姑がテレーズを見る目つきが恐ろしい。ラストがすごくてびっくりした。そういう終わり方もあり?この映画では美しいシモーヌ・シニョレが後年ぶくぶく太ってゆく姿は想像出来ない。


Wait Until Dark
暗くなるまで待って

監督 / テレンス・ヤング
原作 / フレデリック・ノット
制作 / メル・ファーラー
撮影 / チァールズ・ラング
出演 / オードリー・ヘップバーン、アラン・アーキン、リチャード・クレンナ 他
1967年 / アメリカ


盲目の人妻が思わぬ所で麻薬入りの人形を預かり売人に狙われるというストーリー。勘が良くて、機転が利いて、正しくて、強くて、賢い女性のスージーはなんとも素敵。でも正直怖くて「サム、サム」と夫の名前を呼ぶスージー(オードリー)がとてもいじらしくてかわいらしい。トリックや小道具に思わず感心してしまう場面もいくつか。ハラハラドキドキ、でも最後には泣かせてくれるスリラーの傑作。私は、こういう映画大好き。


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夜の騎士道

監督・脚本 / ルネ・クレール
音楽 / ジョルジュ・バン・パリス
撮影 / ロベール・ルフェーブル、ルネ・ジュイヤール
出演 / ジェラール・フィリップ、ミシェール・モルガン、ジャン・ドザイ、ブリジッド・バルドー 他
1955年 / フランス


恋はいつでもゲームだが、ゲームで始まった恋はゲームでなくなる。コメディ作品になっているが、そんな枠ではおさまらない。ジェラール・フィリップのそれはそれは色男の似合う事。女の顎を指でするりと撫でる自然なその仕草にその気にならない女なんかいないのでは。そんな色男が一日千秋の思いで、生涯でただひとり愛した彼女の手紙を待つ。最初には何もない、最後にも何もない、この二つの無益な無の中には何があるだろう。女は真実を話さない。すべてを話さない。それですべてが終わる。


The Palm Beach Story
結婚五年目

監督・脚本 / プレストン・スタージェス
音楽 / ビクター・ヤング
撮影 / ビクター・ミルナー
出演 / クローデット・コルベール、ジョエル・マクリー、メアリー・アスター 他
1942年 / アメリカ


プレストンの映画で、この「結婚五年目」はあまりいい評判を聞いた事がなかったけれど、私はこの映画が好き。倦怠期の夫婦の話。ロッセリーニの「イタリア旅行」とは全く別の方向に向かってる。怒ってる奥さんを旦那さんが膝の上に乗せて「いい感じじゃない?」なんて、いい感じじゃない?怒ったり、嫉妬したり、でも思いやったり。エルンスト・ルビッチの映画も好きだけど、この映画はもっとフフ、と笑ってしまうような感じ。幸せにならなくちゃ。幸せな結末でなくちゃ。そして二人はしあわせに暮らしました、とさ?


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階段通りの人々

監督・脚本 / マノエル・デ・オリヴェイラ
制作 / プリスタ・モンテイロ
撮影 / マリオ・バロッソ
出演 / ルイス・ミゲル・シントラ、ベアトリス・バタルダ、フィリッペ・コショフェルン 他
1994年 / ポルトガル、フランス


これはお伽話でミュージカルだという事を冒頭に説明する。でもそんな事忘れてしまうくらい映画の中の話はリスボンの階段通りに住む貧しい人々の生活を映し出す。妬みや嫌味、リアルかどうかは分からないけれど、そこには貧しくても清いなんて美しいことは存在しなくてそれが逆にリアルにみえる。途中バレリーナが階段通りを舞台にして踊るシーンにこれがリアルではない(お伽話だという)事を思い出す。「私も悲惨な身の上が欲しいわ」。見終わってからじわじわくる映画だった。


リュミエール・ザ・フィルム
リュミエール・ザ・フィルム

制作 / フランス・テレビジョン
1995年 / フランス


これは映画じゃないけれど、フランス・テレビジョンがリュミエール兄弟の残したシネマトグラフを100本以上紹介した約1時間30分の番組。リュミエール兄弟の短い映画の数々がものすごく面白くて楽しい。これは映画の原点。100年以上も前の映画を見て幸せになれる。映画を見ておかしくて笑ったり出来るのは本当に素敵。リュミエールの娘と猫を撮った作品、ダンスを踊る男と女がダンスの最後でキスをする作品(これはリュミエールの映画の中で唯一唇と唇が触れ合うキスなのだそう)。当時流行したスネークダンスを踊る女性の洋服に(よく見ると妙な)色彩をつけた作品の面白い事!身体中が幸せな気分でぱんぱんになる。映画が大好きで、映画に愛があって、それが分かって、なんてなんて素敵。


El sol del Membrillo
マルメロの陽光

監督・脚本 / ビクトル・エリセ
制作 / マルア・モレノ
撮影 / ハビエル・アギーレサロベ 他
音楽 / パスカル・ゲーニュ
出演 / アントニオ・ロペス・ガルシア、マリア・モレノ、エンリケ・グラン 他
1992年 / スペイン


マルメロの木がつけたたわわな実を画家のアントニオが描き続ける。太陽の光で一瞬の輝き見せるマルメロの実。しかしマルメロの実は時と共に変化し、美しい姿から、腐って、朽ちてゆく。アントニオは言う。「これは美しい」と。一瞬のすばらしさ、一瞬の美しさを見つけられるには、私にはまだ時間がかかるだろう。そして、そんな美しいものが、実はすごく近くにある事が分かるのも、私にはまだ分からないだろう。朽ちていくから美しいのかもしれない。世界が確実に動いているのは分かってる。もちろん自分も確実に時間を感じている。時間の速度を感じる事は重要だ。大好きな本が終わってしまうのが淋しくて、ゆっくりゆっくり読んでいくような、そんな素敵な映画。マルメロの実は、どんな味がするんだろう。


バルタザールどこへいく
バルタザールどこへいく

監督・脚本 / ロベール・ブレッソン
撮影 / ギスラン・クロケ
美術 / ピエール・シャルボニエ
出演 / アンヌ・ビアゼムスキー、フランソワ・ラファルジュ、フィリップ・アスラン 他
1966年 / フランス、スウェーデン


白黒映画。映画はやっぱり目に入ってくるもので目で見る部分が大きい。しかしそこでどうなっているのか、あえて映さない美学。全てを映して全てを見せるのは大した事じゃないのかもしれない。分かりやすい感動もない。けれど心が動かされる。何かを感じる。何かを見つける。バルタザールという名前のロバは何も言わない。バルタザールの周りの結局自分中心で言葉を言い過ぎる人間達。ピエール・クロソウスキーも出演。


Reminiscences of a Journey to Lithuania
リトアニアへの旅の追憶

監督・撮影・出演 / ジョナス・メカス
出演 / アドルファス・メカス、ペトラス・メカス、ペーター・クベルカ 他
1972年 / アメリカ


日記映画。私は映像手法だとかそういう事に疎いので、この作品がどういう撮り方をしているか簡単に説明する事が出来ない。ぱちぱちと映像がめまぐるしく変わって、断片的で、途中途中に画面の右上に長方形の絵が表示されたり、それはとてもあわただしい印象も受けるけれど、メカスの目に写るものはとても繊細で優しい。猫がたたずんでいたり、男がうろうろする何でもないシーンがひどく美しいと思えたり、牛が草を食べている光景でさえ、きれいだと思う。言葉じゃない。映画は視覚による所が大きい。言葉や話に頼ってるんじゃない。スクリーンに写る風景を見て泣けた。メカスみたいな感じ方をしたい。メカスみたいに世界を見たい。


The Red Shoes
赤い靴

監督・制作・脚本 / マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
音楽 / ブライアン・イースデール
撮影監督 / ジャック・カーディフ
美術 / アーサー・ローソン
出演 / アントン・ウォルブルック、マリウス・ゴーリング、モイラ・シアラー 他
1948年 / イギリス


『赤い靴』でスターになったヴィッキーは童話同様、赤い靴にとりつかれることになる。恋に生きるか踊るか。恋人か自分を大プリマにしてくれる男か。ヴィッキーの選択の末路は。すばらしいバレエ映画。こういう映画大好き。モイラ・シアラー最高。素敵。綺麗。バレエは知らないけれど、モイラ・シアラーの踊りがすばらしく魅力的なのは分かる。美しく可憐でトゥーシューズを履かせたら妖精のよう。映画がはじまってから「早くモイラ・シアラー踊らないかな」とソワソワしてたくらい好き。赤い靴に人生を変えられた少女の役を舞台の上でも映画の中でも見事に演じきった。


Peeping Tom
血を吸うカメラ

監督・制作 / マイケル・パウエル
編集 / ノーマン・アクランド
美術 / アーサー・ロウレンス、イヴォ・ベッドォス
撮影 / オットー・ヘラー
音楽 / ブライアン・イースデール
出演 / カール・ハインツ・ベーム、モイラ・シアラー、アンナ・マッシー 他
1960年 / イギリス


サイコスリラー。映画の中で殺人ドキュメンタリーを録るメタ映画。一番の驚きの表情は死ぬ恐怖のための表情。殺人といっても別に血がほどばしったり、えぐい映像自体はないので、正直怖くはない。でも音楽の効果が飽きなかったし、ドキドキさせてくれた。時折印象的なシーンがあって主人公がコートのポケットからペンを落とすシーン。これ自体の表現方法を何と言うのか知らないし今見ても新しくはないのだけど印象的。モイラ・シアラーが踊るシーンがあって、さすが上手。そこだけ楽しい気分に。


VIVRE SA VIE
女と男のいる舗道

監督・脚本 / ジャン=リュック・ゴダール
原案 / マルセル・サコット、エドガー・アラン・ポー
視覚効果 / ピエール・ブロンベルジェ
撮影 / ラウル・クタール
音楽 / ミシェル・ルグラン
出演 / アンナ・カリーナ、ディ・レポ、ブリス・パラン 他
1962年 / フランス


ゴダールが愛したアンナは色んな顔が出来て、色んな表情を持っている。ゴダールはそんなアンナを最高に美しく描く。アンナが喫茶店で自分の身長を足下から手の縮尺で計る姿、ビリヤード場で音楽とともに踊る姿がとても素敵。かわいい。なぜ人は話すか、話さなければならないか、表現するのか、苦悩するのか、考えるのか、という哲学的な場面がとても面白く感じた。「言葉と愛は同じだ それなしには生きられない」「なぜ表現するの」「必要だからだ」 カット割り、画面構成などこの映画ではあざとく感じられなかった。素直に格好いいと思えるし、素直にそれを受け止められる。「愛は唯一の真実であるべきじゃないかしら」ちょっとマイッタね。


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カラマーゾフの兄弟

監督 / イワン・プイリエフ
原作 / F.ドストエフスキー
撮影 / セルゲイ・ウロンスキー
出演 / ミハイル・ウリヤーノフ、マルク・プルードキン、リオネラ・プイリエワ 他
1968年 / ソ連


映画ってすごいなあ、なんて内容と関係ない事を感じた。なんか、こう、言葉にあらわしにくいけれど、スクリーンに写った映像を観て、いたく感動してしまった。手が全く届かないくらいの(身近でないという意味をこめて)映像に圧倒される。誰が誰を殺したか、すでに心理的問題にすり替わってくる。理由は言わないけれど、答えは明確にそこにある。誰と誰が最終的にくっつくのか。兄弟同士でドロドロに。後半、イワンがだんだん気が狂ってくる場面がとてもいい。ソ連(ロシア)なだけに冬の映像は死ぬほど寒そう。