foreign movie vol.4


Новый Гулливер
新ガリヴァー
Новый Гулливер


監督 / アレクサンドル・プトゥシコ
原作 / ジョナサン・スウィフト『ガリヴァー旅行記』
脚本 / グリゴーリー・ロシャリ、アレクサンドル・プトゥシコ
音楽 / レフ・シヴァルツ
撮影監督 / ニコライ・レンコフ
人形美術 / サラ・モキリ
出演 / V・コンスタンチノフ(ペーチャ・コンスタンチノフ=ガリヴァー)
1936年 / モスクワ映画工場作品


実写+人形アニメ。1500体の人形を駆使した作品で、人形達がずらっとガリヴァー(ペーチャ、本物の人間)を取り囲むシーンは圧巻。実写とアニメを融合したシーンの人形達の動きも、その時だけ機械仕掛けでそれを頭をひねって考えたと思える様子が実に愛らしい。ガリヴァーに歌を披露する人形の歌手の口の動きをどうやってやっているかというと、なんと各パーツ完全差し替え、のちのジョージ・パルの"パペトゥーン方式"の元祖だそう。そして私の好きなヘルミナ・ティルロヴァはこの作品を見て人形アニメをはじめたのだとか。話的にはそれほど創造的でないにしろ、1936年製作という事実がすごい。


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ソビエトのおもちゃ
Советские игрушки


監督 / ジガ・ヴェルトフ
1924年 / ゴスキノ映画宣伝部作品


ドキュメンタリー映画「キノプラウダ(映画真実)」(1922-1925) シリーズの為に作った、この作品(他に「ユモレスク」(1924))。ソ連初のアニメ映画の歴史はここに始まったと言われ、その情報のみでロシアアニメ映画祭で、私が最も見てみたかった作品。食欲、性欲、心の充足のイメージの羅列(もしくは連鎖)。カット・アウト手法によるこのアニメは、色もなければ、(イメージによるため)話らしい話もない。「キノプラウダ(映画真実)」を制作すると同時に芸術としての記録映画を探求する論文を次々と発表したヴェルトフ。彼の映画をそんな簡単に理解出来るとは思わないし、私が彼の映画を見てとても何か言えるとは思わない。アニメを通して彼が言いたかった事が、いつか理解出来る日が来るといいなと思う。


Месть кинематографического оператора
カメラマンの復讐
Месть кинематографического оператора


監督・脚本・美術・撮影 / ヴワディスワフ・スタレーヴィチ
1912年 / ハンジョンコフ作品


ロシア最初期の人形アニメ。そのアニメ史におけるパイオニア、スタレーヴィチの作品を見ると大変な昆虫好きで昆虫マニアなんだろうと思える。でもそれも彼は元々博物館に勤務していたという実話を聞くとなんとなく納得。この作品もカブトムシにトンボにキリギリスが登場。これってクレイでなく本物の昆虫? 色々なアニメを見てクレイアニメを知っている今だからこそそう思えるけれど、手足に金属を入れて動かせる事の出来る本物の昆虫を使っている。カブトムシの夫がトンボの女性と浮気をして、恋敵のキリギリスはその様子の一部始終をカメラに収める。軽快な動きをする昆虫達を見ていると、魂はないはずの昆虫に表情が宿っているように見える。


Снежная королёва
雪の女王
Снежная королёва


監督 / レフ・アタマーノフ
原作 / ハンス・クリスティアン・アンデルセン『雪の女王』
脚本 / ゲオルギー・グレブネル、レフ・アタマーノフ、ニコライ・エルドマン
詩 / ニコライ・ザボロツキー
歌詞 / M・スヴェトロフ
作曲 / A・アイヴァジヤン
美術監督 / アレクサンドル・ヴィノクロフ、I・シワルツマン
1957年 / 連邦動画撮影所作品


高畑勲や宮崎駿らに絶大な影響を与え、アニメの道に進む事を決定づけた作品と言われる(この作品を見た後、日本のアニメ史の金字塔「太陽の王子・ホルスの大冒険」が作られる)。お隣同士でいつも仲良し、花を愛するカイとゲルダ。互いにバラの花をプレゼントし、赤と白のそのバラを一緒の鉢に植える。いつも寄り添って、一緒にいようね、と。そのカイが雪の女王に連れ去られ、ゲルダはカイを助ける旅に出る。寒い寒い吹雪の中、ゲルダは優しく強い。雪の女王が何も言わずに消えてゆく最後のシーンが美しい。真っ直ぐで必死なゲルダの姿は、何十年何百年たっても色あせる事はない気持ち。


Конёк- Горбунок
イワンのこうま (旧邦題「せむしのこうま」)
Конёк- Горбунок


監督 / イワン・イワノフ=ワノー
原作 / ピョートル・エルショフ『せむしのこうま』
脚本 / エヴゲーニー・ポメシチコフ、ニコライ・ロシコフ
撮影 / ルヴォイノフ
美術監督 / L・ミリチン
音楽 / A・オランスキー
1947年 / 連邦動画撮影所作品


イワンが深夜、畑で出会うたてがみから光を解き放ち登場する白馬のシーンが最高に綺麗。このシーンを見るためにこの映画があるような気さえする。一瞬ディズニー作品のようだけれどそれは違う。手塚治虫はこの作品が大好きだった。この話の中には火の鳥も登場する。言うまでもなく手塚治虫「火の鳥」はこの作品をモデルにしている。「ファウスト」「青いブリンク」もこの「せむしのこうま」の影響大。イワン・イワノフ=ワノーが、一生懸命、愛を込めて制作したのがよく分かる。最高潮が映画の前半にあるのは少し残念だけれど、あのきらめく白馬はずっと心に残る。


Woman of the Year
女性 No.1

監督 / ジョージ・スティーブンス
脚本 / マイケル・カニン、リング・ラードナーJr.
音楽 / フランツ・ワックスマン
出演 / スペンサー・トレイシー、キャサリン・ヘプバーン、フェイ・ペインター 他
1942年 / アメリカ


テスがオルガンを弾き、父と花嫁エレンが腕を組み歩く姿は、どんな若いカップル以上に幸せそうで、その窓からのシーンは最高に美しい。自分がもらったキャリア・ウーマンNo.1の賞とは一体何なのか。一緒に気持ちを分かち合う相手がいる事、待ってくれている相手がいる事、思い合う相手がいる事はとても幸せな事。一人の幸せは二人の幸せ、一人の悲しみは二人の悲しみ。テスは涙を流す。サムの家に行き、慣れない料理をするテス。卵の白身と黄身を分けることもさっぱりで、やることなすこと失敗ばかり。でも、その姿はとてもかわいい、下手でも一生懸命サムの為に料理する姿はそつなく仕事をこなす彼女よりも人間らしさがあった。彼の為に何が出来るだろう、彼女の為に何が出来るだろう。


La Planete Sauvage
ファンタスティック・プラネット
La Planete Sauvage


監督・脚本 / ルネ・ラルー
製作 / S・ダミアーニ、A・ヴァリオ=キャバリオーネ
原作 / ステファン・ウル
作画 / ローラン・トポール
撮影 / ルボミル・レイタール、ボリス・バロミキン
音楽 / アラン・ゴルゲール
1973年 / フランス、チェコ


ルネ・ラルーが4年の歳月をかけて作った初の長編アニメ。フランスのSF作家ステファン・ウル原作。未知の動植物達をイメージするのは画家ローラン・トポール。1973年カンヌ映画祭にてアニメとしては初の審査員特別賞受賞。青い皮膚と赤い眼を持つ巨人族ドラーグ人にとって人間はとても小さくか弱くもろい、ペットのようなものでしかない。しかしその人間達の反抗・反逆。私が驚くのは想像力をかき立てるイメージの数々。私には想像も出来ないような彼らの形態。イメージの羅列で見ているものを翻弄するのは簡単かもしれない。けれどファンタスティック・プラネットは話がしっかりしている。幻想もここまでくると夢でないのかもしれない。


SUNNY SIDE UP
目玉焼き

監督 / ポール・ドリエッセン
1985年 / オランダ


一度見た時正直よく分からなかった。もう一度見直してなんとなく分かったような気がした。何を意味するかという事より、この作品はなんとも綺麗でおぼろげな感じがとても好き。同監督『生存競争』(1979)、『ダビデ』(1976)の方がきっと有名な作品。でも、じいっと画面を見つめて色んな方向から見て、悩んで、ああそうか、と一人で納得してしまうような感じ、綺麗な小さな小石をもらってそれを大事に、内緒にしておきたい感じ、そんな感覚。


THE DREAM OF A RIDICULOUS MAN
おかしな人間の夢

監督 / アレクサンダー・ペトロフ
原作 / F・ドストエフスキイ
1992年 / ロシア


ずっと強く印象に残っているのが、昔ほとんど何も知らないまま見たアレクサンダー・ペトロフ「雌牛」(1989/1990年広島国際アニメーション・フェスティバル グランプリ受賞作品)。アニメと呼ばれるものの、私の中の何かがざくざく切り取られて、ばらばらにされて、ほんの少し理解するのに時間がかかった。あ、すごい面白い、どきどきした。アレクサンダー・ペトロフの作品にはとてもロシアぽいにおいがする。寒くて広くて、何か大きい。本作品は自殺しようとする男の見た夢の物語。夢ってなんだ? 僕の人生こそが夢なんじゃないか。「雌牛」の感動を裏切らなかった。アレクサンダー・ペトロフの抜群のセンス。


SCREENPLAY
スクリーン・プレイ

監督 / バリー・パーヴス
1994年 / イギリス


1994年度アカデミー賞ノミネート作品の歌舞伎のパペットアニメ。同監督「ネクスト」(1991)を見た事があるけれど、それよりも面白いと思えた。バリー・パーヴスが歌舞伎を題材にしてどうかと思ったけれど、それがなかなか細かくて。幸せな結末のまま終わるかと思えば、ラストのラストの語り手まで巻き込んで、さらにそれの物語性(神秘性)を出すための、本の中(あるいは枠の中)に閉じこめる感じ、あっと思ううちに私の手のひらに「スクリーン・プレイ」が乗っていた。


LAND OF THE SNOWY MOUNTAINS
雪深い山国

監督 / ベルナール・パラッシオス
1989年 / フランス


チベットの山奥に住む男と、その男になついてくる不思議な生き物。その生き物の調査に中国人科学探検隊が訪ねてくる。本当に絵本のような作品で、絵としては特別上手なわけでもないし、誰でも分かりやすい話でもある。でもその不思議な生き物の「アッアッ」(フランス語ぽい)小さな鳴き声も本当にかわいらしいし、不思議な生き物の中国人科学探検隊に対する仕草も抜群にかわいらしい。綺麗、いろんな部分が。凝った技法も凝った演出もいらない。監督は世界最大のアヌシー・アニメフェスティバルの開催に協力している人。


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やすらぎのテーブル

監督 / ウェンディ・ティルビー
1986年 / カナダ


ガラスに描いた絵画によるアニメーション。ウェンディ・ティルビーのデビュー作品。雨の日のレストランが舞台。人々の様子を一人の老人が見つめる。湿った空気を思わせる重く暗い、または深い青の色合いが印象的で、そこにシューマンの曲がずっと流れる。きれいなきれいなシューマンの曲。きっと外はどんよりした雲でいっぱいなんだ。雨は何かを隠そうとしているのか。人が動く後にその人の魂が残るかのような手法は、ゆらゆら、見ているだけで音楽を聴いているような感じになる。


The Garden Great Fog
ふしぎな庭(霧の朝)

監督 / ブジェティスラフ・ポヤル
原作 / イジィ・トルンカ
1975年 / チェコ


トルンカ原作「ふしぎな庭」をもとにしたシリーズ第二弾。とはいえ私が見たのはこれ一本。ポヤルの作る涙がとても好き。大きな粒でビー玉のような涙。少年達が扉を開けるとそこには庭があり、そこで一匹の猫と会う。猫が大変ポヤルらしさにあふれていて、たとえば「ぼくらと遊ぼう」シリーズのくまちゃんと通じるものがあってそのかわいさが伝えきれないのが残念。画像は原作の絵本。


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小さな道化師ファンファロン

監督 / ブジェティスラフ・ポヤル
1968年 / チェコ


夜になり箱の中のおもちゃ達が飛び出して大はしゃぎ。こんな話は数あれど、こんな話がこんなに素晴らしく素敵な作品には出会った事がない。ファンファロンの曲芸やブロックの中の女の子の様子、こんな事思いついちゃうなんて! ポヤルの作品はツブ揃いですごい。すごくていつもいつも涙してして、なんでこういうしあわせ感あふれる話で泣いてるんだろうと思う。


ナイトエンジェル
ナイトエンジェル

原案・脚本・美術・監督 / ブジェチスラフ・ポヤル
音楽 / M.コツァーブ
撮影 / ヴラディミール・マリーク
1959年 / チェコ


妖精の美しいことったら、涙が出るほど。綺麗という言葉以上の言葉が見つからないのが悔しい。視力を失った青年は闇の中の世界に閉じこめられる。でも青年には妖精がいた。美しい妖精に恋をし、妖精の導きによって視力のない暗闇の世界でも一筋の光があった。妖精が実は何者かなどと邪推しても意味がない。真実の愛とはなにかということ。アヌシーアニメ祭長編部門で宮崎駿「紅の豚」と競い賞を逃したとか。


ライオンと歌
ライオンと歌

原案・脚本・監督 / ブジェチスラフ・ポヤル
美術 / ズデネェク・セイドゥル
音楽 / ウィリアム・ブコヴィー
撮影 / ヴラディミール・マリーク
1959年 / チェコ


トルンカの作品の中にはよく花が登場する(遺作「手」(1965)は花を愛する主人公アルルカンの話)。その花の中で彼が愛したのはバラ。そのトルンカの魂を受け継ぐポヤルの様子がこの作品でよく分かる。ミュージカル風で、若干トルンカの『草原の唄』(1949)を思い出す。死してなお、アコーディアン弾きはライオンの腹の中でアコーディオンを弾き続ける。それが音楽を一緒に楽しんだ動物達への愛情だったのか、それともアコーディアン弾きの情熱だったのか、定かではないけれど。ミュージカルのシーンがとても面白い。


ヒョウの話
「ぼくらと遊ぼう」シリーズ "ヒョウの話"

監督 / ブジェチスラフ・ポヤル
原案 / イヴァン・ウルバン
脚本 / イヴァン・ウルバン、ブジェチスラフ・ポヤル
美術 / ミロスラフ・シュテパーネク
音楽 / イジー・コラファ
撮影 / ヴラディミール・マリーク
1971年 / チェコ


腰をふりながら歩くヒョウがなまめかしくて楽しい。「耳の後ろをかいて」は殺し文句かも。くまちゃんの手がニョキニョキ伸びる。ヒョウが言えばバッファローにだってなっちゃう!


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「ぼくらと遊ぼう」シリーズ "冬眠の話"

監督 / ブジェチスラフ・ポヤル、ミロスラフ・シュテパーネク
原案 / イヴァン・ウルバン
脚本 / イヴァン・ウルバン、ブジェチスラフ・ポヤル
美術 / ミロスラフ・シュテパーネク
音楽 / ウィリアム・ブコヴィー
撮影 / ヴラディミール・マリーク
1967年 / チェコ


親友だから結婚しちゃうなんてちょっと泣けちゃう話じゃないですか。そんなくまちゃん達の敬語の使い方にもトキメキを。くまちゃんの形が変幻自在でアニメの面白さを引き出すポヤル。


電子頭脳おばあさん
電子頭脳おばあさん

脚本・美術・監督 / イジー・トルンカ
音楽 / ヤン・ノヴァーク
撮影 / イジー・シャファージュ
1962年 / チェコ


機械文明への批判という意味では「情熱」(1961)と同じ視点。やさしい女の子が、やさしいおばあさんからはなれて不在の両親の家に連れていかれると奇妙なマシーンが待ち受ける。大好きな大好きなおばあさんの写真をマシーンにかすめとられて「返して、返して」と走り回る様のかわいらしいこと。会っていないのであろうおとうさんの宇宙服に色んな想像をかきたてられ、その宇宙服の腕の部分を自分の胸に抱きしめる姿の愛らしいこと。トルンカは人間性の回復を訴えていた。トルンカのかわいい人形達の裏に潜んだメッセージをきちんと理解したい。「手」(1965)と同じくらい大好きな作品。


粘土
粘土

原案・脚本・美術・監督 / ヤロスラフ・ザフラドニーク
撮影 / ヴラディミール・マリーク
音楽 / ヴァーツラフ・ザフラドニーク
1972年 / チェコ


実写+粘土アニメ。粘土で女性の上半身を作っていく男。捨てられた粘土が動き出して、抗議する様がとてもかわいらしい。最後に女性のおっぱいになっちゃうあたり、すごくいい。粘土の形が若干シュワンクマイエル風。


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騎手・女・蛾
The Horseman,the Woman,and the Moth


監督 / スタン・ブラッケージ
1968年 / アメリカ


赤やオレンジや紫の配色の画面が目の前をちらちらする。真っ暗な劇場で見ていると赤やオレンジの色の間の真っ暗な映像が瞬きをしているような錯覚を覚える。パチパチした黒の画面も一定のリズムでなく、音楽のように飛んだりハネたりする。全くのイメージかと思えば、そのイメージの後ろには人の影が見えたりして、ストーリーのようなものも見える。無音なのに映像だけでこんなに色んな表情を見せてくれることにとても感動した。今、こうして見て感じている事がすごく大事な事に思えた。二重焼き付けをしたり、フィルムに色を直接塗ったり傷をつけたり、今となっては珍しくないさまざまな手法が新しく感じられる。今見ても全く古くない。なんでブラッケイジの作品はこんなに美しいんだろう。


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サガ・伝説
The Weir-Falcon Saga


監督 / スタン・ブラッケージ
1970年 / アメリカ


完全な無音によるこの作品は若干「DOG STAR MAN」(1961-1964、foreign movie vol.3参照)を連想させる。本当に、細切れな断片的な映像で、ストーリーを追う事すらままならないし、ストーリーというものが確立されているかも分からないだけれど、けれど。ブラッケイジの中ではストーリーがあるのだと思う。光量の強い画面の中に子供達が踊ったり、ブランコに乗ったり、ボールで遊んだり。映像はスローになったり、画面の色は反転したり、時間のスピード具合が絶妙に気持ちいい。子供の裸、大人の裸、それぞれに何の意味がこめられているのか。断片的な映像がランダムに頭に残る。何回も見たいと思うのはこういう映画。映像の美しさ、映像への遊び心、ストーリーは、本当はあってもなくても、見て感じる事が大事だと教えてくれる。


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クリエーション
Creation


監督 / スタン・ブラッケージ
1979年 / アメリカ


冬の山。水の上を同じ方向に流れるあらゆる形の氷。ただ漠然と写してるわけではないと思いつつ、漠然と美しいと感じ、単純すぎるほど単純な事象にガツンとやられる感じがする。音はなくても水の流れる音は聞こえる。吹雪の音も聞こえてくる。人間は見ている映像だけで音が想像出来る。自分の好きな音をつけられる。無駄な効果はブラッケイジの映画にはない。緑が綺麗。木漏れ日も綺麗。作られた美しさでないものをさらに美しく撮る。何がどう、と、言えなくても全然構わない、私はこの映画が好き。好きな理由を述べる事がどんなに意味がなくて、どんなに希薄な言い方にしかならないか、そんな事をちょっと考えてしまう。


Lucifer Rising
ルシファー・ライジング
Lucifer Rising


原案・監督・編集 / ケネス・アンガー
撮影 / ミカエル・クーパー
音楽 / ボビー・ボーソレイユ&フリーダム・オーケストラ
撮影地 / エジプト、イギリス、ドイツ、アメリカ 他
出演 / ミリアム・ギブリル、ドナルド・キャメル、ヘイデン・クーツ、ケネス・アンガー、マリアンヌ・フェイスフル
1980年 / アメリカ


魔術的神秘家アレイスター・クロウリーに捧げられた作品。音楽はマンソン一家の死刑囚ボビー・ボーソレイユにより刑務所で録音されたという。まともな精神状態でとても理解出来る作品だと思わないけれど、それが何を意味するか、何の表現なのか、一本一本線で結ぶことはとても困難で、ただイメージが鮮烈に頭の中に残り、理解出来ない悔しさが身体の中を駆けめぐる。ただ、理解した所でぽつんと何か残ってしまうのもまた怖い。マリアンヌ・フェイスフルが美しい。アンガーの作品には意外と月がよく出てくるような気がするけれど、それがロマンチックでうっとり、とかそいういう象徴でなく、深層心理でとても不思議で不安な感じがする。


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我が悪魔の兄弟の呪文
Invocation of My Damon Brother


原案・監督・撮影・編集 / ケネス・アンガー
音楽 / ミック・ジャガー
撮影地 / サンフランシスコ
出演 / スピード・ハッカー、レノール・キャンデル、ウィリアム・ボデル、ケネス・アンガー、ボビー・ボーソレイユ
1969年 / アメリカ


悪魔崇拝の儀式やベトナム戦争やゲイ・セックスなどのコラージュに混ざり、魔王ルシファーを呼び起こす映像。ミック・ジャガー自身が演奏する音楽が意外といい。たとえば悪魔崇拝の儀式に使われる衣装や小物やパフォーマンスが、アンガー以外の監督だったら吹き出してしまうかもしれない。けれどアンガーの作るそんな世界はとてもそんな風には思えなくて、内容だの何だのという前に是非作品を目にしてほしい。伝えられない、言葉に出来ないもどかしさと恐怖がここにある。この作品により魔術的なものに興味を持つのもおかしいとは思わない。


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人造の水
Eaux d'Artifice


原案・監督・編集 / ケネス・アンガー
音楽 / ビバルディ「四季」
撮影地 / チボリ(イタリア)
出演 / カーミラ・サルバトレリ
1953年 / アメリカ


ロココ調の衣装を着た女性がチボリ公園の噴水群の中を行き来し、その内水の中に溶け込んで行く。その様子とともに流れるビバルディ「四季」。水の美しさは形態の不確定さであり、確実に一定の形態を保たなくてもこんなにも美しい。各々の水が放物線を描き、流れ、落ちていく。光と闇を強調し、水の中にはサタンの顔が浮かぶ。理由もよく分からないまま映画を見ながら泣けてきた。アンガーの美しい美しい作品。


Inauguration Of The Pleasure Dome
快楽殿の創造
Inauguration Of The Pleasure Dome


原案・監督・編集 / ケネス・アンガー
音楽 / E.L.O.
撮影地 / ハリウッド
出演 / サムソン・ド・ブリエ、カメレオン、ジョアン・ホイットニー、アナイス・ニン 他
1954,1956,1958,1960,1978年 / アメリカ


繰り返し改訂がされ多数のヴァージョンがあるようだけど、見たのはアンガーがロサンゼルスに帰ってから作られた最終版。ドラッグを意識するようなサイケデリックな映像。アンガーの作品は思わず我を忘れて画面を見るような、そんな引き込み方をされる。複雑な画面の作り方にも圧倒。アンガーの映画はすごい。一生に一度でもこういう映像を見る事が出来て良かったと思える。


Scorpio Rising
スコピオ・ライジング
Scorpio Rising


原案・監督・編集 / ケネス・アンガー
音楽 / リトル・ペギー・マーチ 他
撮影地 / ブルックリン、マンハッタン
出演 / ブルース・バイロン、ジョニー・サビエンザ、フランク・カリーフィ 他
1963年 / アメリカ


アンガーの傑作と呼ばれる作品。スコピオ(皮ジャンのバイカー)、バイカー達のレースの様子、仲間のズボンをおろし、からしをぬりたくり騒ぎ立てる男達、そんな映像の間にヒトラー、ジェームス・ディーン、マーロン・ブランド、イエス・キリストの映像が挿入され、60年代の音楽が途切れる事なく流れる。音楽のセンスも抜群な上に、映像の素晴らしく格好いい事。当時、上映するのに多くの問題点があったことがよく分かる(キリストのシーンをキツイ映像を組み合わせたり)。ラストのシーンで、ナチのマークがばんばん出てナチ風な男が出てくる所が最高にしびれる。こんなに格好良い映像今まで見た事があっただろうか。


The Last of England
ラスト・オブ・イングランド
The Last of England


監督・撮影 / デレク・ジャーマン
撮影 / クリストファー・ヒューズ、ケリス・ウィン・エヴァンス 他
編集 / ジョン・メイブリィ
音楽 / サイモン・ターナー
出演 / ティルダ・スウィントン、スペンサー・レイ、ジョン・フィリップス 他
1987年 / イギリス


暗闇の中の炎、幻想と現実、生きる事と死ぬ事、静寂と騒音、群衆と孤立、太陽と闇、過去と未来、早送りと巻き戻し。裸の男性と、手袋に顔全体を覆うマスクにブーツという全身衣類で覆った男性との性的絡み合い。あらゆるものを対比させ、それは涙が出るくらい美しかったり、目をそむけたくなるくらいのものだったり。これはただのコラージュ作品ではない。大英帝国の消滅。映像の圧巻。本当の所この映画を私は理解していないと思う、しかし理解するしないという問題よりも、この映画には恐ろしいくらいの何かがある。


olympiabeautys
美の祭典
Olympia-beautys


総指揮・芸術構成 / レニ・リーフェンシュタール
製作指揮 / ワルター・トラウト、ワルター・グロスコフ
撮影 / ビリー・ジールケ、ハンス・エルトル 他
音楽 / ヘルベルト・ビント
1938年 / ドイツ


1938年ベルリンオリンピック大会のドキュメンタリー第二部。カメラを40台以上設置して完璧に選手達を映し出す。第一部が力強さを重視しているのならこちらは流動美といったところか。人間の本当の美しさってこういうものなんだろうなと思う。人間が、人間の肉体が、本当に本当に美しい。編集に2年かかったというショットの練りこみと情熱がものすごい迫力を産む。ドキュメンタリーがこんなにも面白いものだという事をリーフェンシュタールで知ったし、1938年の作品なのにこのリーフェンシュタールより美しくて面白いと思えるドキュメンタリーを、私は知らない。


olympianations
民族の祭典
Olympia-nations


総指揮・芸術構成 / レニ・リーフェンシュタール
製作指揮 / ワルター・トラウト、ワルター・グロスコフ
撮影 / ビリー・ジールケ、ハンス・エルトル 他
音楽 / ヘルベルト・ビント
1938年 / ドイツ


1938年ベルリンオリンピック大会のドキュメンタリー第一部。リーフェンシュタールがヒトラーから頼まれて作ったとか作らないとか。つまり莫大な国家予算で作られたリーフェンシュタールの作品ときたら向かうところ敵ナシでは。マラソンランナーの走ってる姿を真上から写したり、どうやって撮影したんだろうというアングルが随所にあり、選手達の筋肉の動き、躍動感、これが本当に美しいのは世界レベルのスポーツ選手が本気で最高の戦いをしてるからであって、心から素直に感動する。ただのドキュメンタリー映画なんて言えない。これは映画。すばらしい映画。