foreign movie vol.7


Dracula
魔人ドラキュラ
Dracula


監督 / トッド・ブラウニング
原作 / ブラム・ストーカー
脚本 / ギャレット・フォート
撮影 / カール・フロイント
出演 / ベラ・ルゴシ、ヘレン・チャンドラー、デビッド・マナーズ、ドワイト・フライ 他
1931年 / アメリカ


ドラキュラ映画といっても一滴の血も流れない映画。血を吸うシーンはすべて寸止め、心臓に杭を打ち込むラストのシーンも画面外。けれど、レンフィールドに向かう三人の女のシーンは美しさを感じるほど魅力的で恍惚としていて、ドラキュラ伯爵の不気味な笑いは照明効果のコントラストによってより不気味さを増し、静かな動きはより恐怖を感じさせる。レンフィールド役のドワイト・フライの狂人ぶり、豹変ぶりにも目をみはる。のちの吸血鬼のイメージはムルナウ『ノスフェラトゥ』(1922)の怪物的なものよりも、ベラ・ルゴシ演じる白いベストに黒いマント、上品で綺麗めというスタイルが定着する。


A la verticale de l'ete
夏至
A la verticale de l'ete


監督 / トラン・アン・ユン
製作 / クリストフ・ロシニョン
脚本 / トラン・アン・ユン
撮影 / リー・ピンビン
美術 / ブノワ・バルー
音楽 / トン・タ・ティエ
衣装 / スーザン・ルー
出演 / トラン・ヌー・イェン・ケー、グエン・ニュー・クイン、レ・カイン、ゴー・クアン・ハイ、アンクル・フン 他
2000年 / フランス、ベトナム


スオン、カイン、リエンの三姉妹とその兄弟ハイ。母の命日の祝宴の席であかされた母の初恋の物語。愛や恋にふりまわされて、それがおのおのの生活の中心であり潤いであり刺激になる。少女のような乙女のような三姉妹はすべてを分かち合うように見えるのに、それぞれ秘密を持っている。ラストのリエンのほほえましい勘違いの言葉にふと笑いと涙がこぼれる。女の髪を洗う姿は美しい。タルコフスキー『鏡』で母が髪を洗うシーンの回想があったがその美しさが耽美的だとしたら、三姉妹のつややかな黒髪を洗う姿はなんと瑞々しく美しく輝いているのだろう。彼女たちの人生は官能的だ。すばらしく繊細な映画。


Vampyr
ヴァンパイア
Vampyr


監督 / カール・テオドール・ドライエル
製作 / カール・テオドール・ドライエル、ジュリアン・ウェスト
原作 / シェリダン・レ・ファニュ
脚本 / カール・テオドール・ドライエル、クリステン・ジュル
撮影 / ルドルフ・マテ、ルイ・ネー
音楽 / ウォルフガング・ツェラー
出演 / ジュリアン・ウェスト、モーリス・シュッツ、レナ・マンデル、シビル・シュミッツ、アンリエット・ジェラール 他
1932年 / ドイツ、フランス


カラーよりモノクロのヴァンパイアが不気味に思えるのは空想の余地があるからだろうか。影と光で映画を構築している面白さ。女性のヴァンパイアはムルナウのヴァンパイアよりもエロティクスかもしれない。血を吸うという甘美・耽美さにモノクロの映像はなんてあうんだろうと思った。


НЕОКОНЧЕННАЯ ПЬЕСА ДЛЯ МЕХАНИЧЕСКОГО ПИАНИНО
機械じかけのピアノのための未完成の戯曲 new!!
НЕОКОНЧЕННАЯ ПЬЕСА ДЛЯ МЕХАНИЧЕСКОГО ПИАНИНО

監督 / ニキータ・ミハルコフ
原作 / アントン・チェーホフ『プラトーノフ』他
脚本 / アレクサンドル・アダバシャン、ニキータ・ミハルコフ
撮影 / パーヴェル・レベシェフ
美術 / アレクサンドル・アダバシャン、アレクサンドル・サムレキン
音楽 / エドゥアルド・アルテミエフ
出演 / アントニーナ・シュラーノワ、ユーリー・ボガトィリョフ、エレーナ・ソロヴェイ、アレクサンドル・カリャーギン、エヴゲーニヤ・グルーシェンコ 他
1977年 / ソ連


19世紀末のロシア。ある夏の日、亡きヴォィニーツェフ将軍の後妻アンナの館で、世間的にはすでに落ち目の貴族たちが繰り広げるパーティー。チェーホフの短編に基づいたミハルコフ監督初の文芸作品。単なるドラマではなく、個々の人間の際立たせ方が非常にうまい。そしていろんなエピソードがあっても細切れにはならず上手にストーリー化している。プラトーノフ、ソフィア、サーシャ、誰の気持ちも分かるような気がする。のどかな田園風景の中での人間模様。先のことなんて考えられない、今は、ただここを脱出したいと願うプラトーノフ。けれど人生はさまざま。私たちが仲良しだった頃に戻って、明るい未来を望めばきっとそうなる、一緒に歩いていこうと、涙を流して微笑んでくれる人がいたら何を言うことがあろうか。


СВОЙ СРЕДИ ЧУЖИХ. ЧУЖОЙ СРЕДИ СВОИХ
光と影のバラード
СВОЙ СРЕДИ ЧУЖИХ. ЧУЖОЙ СРЕДИ СВОИХ


監督 / ニキータ・ミハルコフ
脚本 / エドゥアルド・ヴォロダルスキー、ニキータ・ミハルコフ
撮影 / パーヴェル・レベシェフ
美術 / イリナ・シレテル、アレクサンドル・アダバシャン
出演 / ユーリー・ボガトィリョフ、アナトーリー・ソロニーツィン、セルゲイ・シャクーロフ、アレクサンドル・ポロホフシコフ、ニコライ・パストゥーホウ 他
1974年 / ソ連


1920年代初期、ロシア革命後の混乱を描いたミハルコフ監督の長篇1作目。友情と信頼で結び付けられた同志らが、勝利だ、自由だ、平和だ、平等だと叫び、喜びをかみしめながら草原を走るシーンからはじまる。新しい世界の幕開け。しかし現実は平和とはほど遠かった。金塊をめぐる仲間同士の裏切り、殺し合い、その中で再び友情や信頼を見出すことは難しい。アクション映画ともいえるこの作品は、力強さだけでなく、視覚的にもとても面白く、シーロフの過去を思い出すシーンの、白と黒を効果的に組み合わせた光の明滅は『フリッカー』を思い出す。ロシア革命の意味は何だったのか、ロシア革命で得たものは一体何だったのか、ミハルコフ監督は鋭く問いかける。


РАБА ЛЮБВИ
愛の奴隷
РАБА ЛЮБВИ


監督 / ニキータ・ミハルコフ
脚本 / アンドレイ・ミハルコフ=コンチャロフスキー、フリードリフ・ゴレンシュテイン
撮影 / パーヴェル・レベシェフ
美術 / アレクサンドル・アダバシャン、アレクサンドル・サムレキン
音楽 / エドゥアルド・アルテミエフ
出演 / エレナ・ソロヴェイ、ロジオン・ナハペトフ、アレクサンドル・カリャーギン、オレーグ・バシラシヴィリ、コンスタンチン・グリゴーリェフ 他
1976年 / ソ連


1918年、激動の時代を迎えているロシア。無声映画も新しい試みはされず、映画人たちは形式どおりの型にはまった作品を製作する。この時代のロシアは、政治や芸術、あらゆる分野に新しい思想が生まれ、壊され、再び生まれ、革命をもたらす。自分に酔うことのないミハルコフの作品は、しっかりしたストーリーがある。風景に頼らない描写感覚、祖国ロシアに対する愛、そしてタルコフスキーを思わせるロシア作家だと思わせる映像感覚。「私は普通の女です」オルガは叫ぶが、群衆は彼女をすでに偶像としてしか見ない。地平線に消えていくオルガの乗った列車。移り変わる世界を、どのように駆け抜けるか。


Shadows
アメリカの影
Shadows


監督 / ジョン・カサヴェテス
製作 / モーリス・マッケンドリー、セイモア・カッセル
撮影 / エリック・コルマー
音楽 / チャールズ・ミンガス
出演 / レリア・ゴルドーニ、ヒュー・ハード、ベン・カールザース、アンソニー・レイ、ルパート・クロセー 他
1960年 / アメリカ


カサヴェテスのデビュー作品。チャールズ・ミンガスの即興ジャズにカサヴェテスの即興演出で、デビューだけあって若さを思わせる作り方がとてもいい。16mmカメラで台本はない。ジャズを使った映画は数あれど、この作品はぴたりとはまり、かつそれが意図的さを感じさせず即興の面白さを倍増させる。そこに派手さはない、しかし多くの練りこまれた劇作品にはないリアル感と緊張感。カサヴェテスの、綿密かつ不完全さの残る作品だからこそ力強い感情の動きがある。カサヴェテスの映画の作り方、彼の映画に対する気持ち、彼の家族という対象の描き方が、好き。


L'arbre Le Maire Et La Mediatheque Ou Les Sept Hasards
木と市長と文化会館 または七つの偶然
L'arbre Le Maire Et La Mediatheque Ou Les Sept Hasards


監督 / エリック・ロメール
製作 / フランソワーズ・エチェガレー
脚本 / エリック・ロメール
撮影 / ディアーヌ・バラティエ
音楽 / セバスチャン・エルムス
出演 / パスカル・グレゴリー、アリエル・ドンバール、ファブリス・ルキーニ、クレマンティーヌ・アムルー、フランソワ・マリー・バリエ 他
1992年 / フランス


静かな田舎での大きな事件。物語は「もし」という7つのエピソードをもとに流れるように語られる。難しい問題も難しく語らない、要約しない、楽しんで観られるステキな映画。目にうつるのは偶然でありながら、もはや偶然とは思えない。各エピソードといっても物語はすべて結末につながる。私たちの日常はどうだろう。気づかぬ偶然のなかで生活していて、どんな結末が待っているだろう。四季シリーズよりも本作品や「レネットとミラベル 四つの冒険」などの作品のロメールが軽やかで面白い。


Metropolis
メトロポリス
Metropolis


監督 / フリッツ・ラング
原作 / ティア・フォン・ハルボウ
脚本 / フリッツ・ラング、ティア・フォン・ハルボウ
撮影 / カール・フロイント、ギュンター・リッタウ
特殊撮影 / オイゲン・シュフタン
美術 / オットー・フンテ、エーリッヒ・ケッテルフート
出演 / ブリギッデ・ヘルム、グスタフ・フレーリッヒ、アルフレート・アベル 他
1927年 / ドイツ


ドイツサイレント時代の近未来SF映画。当時のドイツの美術にはただただ圧巻され、どの建築物、装飾を見てもデザイン性が素晴らしい。飛行機の飛ぶ地上の都市の様子などそのまま写真集になりそうな構図。軟禁の際のマリアの刹那が聞こえそうな表情。人造人間を作る時の感動的ともいえるシーン。人造人間のお披露目で腰をくねらせ耽美な衣装で踊るシーン。誘惑の象徴、女性。群集の暴動。機械群。今、この映画がカルト映画やSF映画と言われてその種の人たちしか見ないのは非常にもったいない。ただひとつ思ったのは、私が観たのは再編集された93分版で、これはサイレント画面にピアノの楽曲がつけられているのだけど、音楽がない方が絶対に良かった。


Germania anno zero
ドイツ零年
Germania anno zero


監督 / ロベルト・ロッセリーニ
脚本 / ロベルト・ロッセリーニ、カルロ・リッツァーニ、マックス・コルペット
原作 / ロベルト・ロッセリーニ
撮影 / ロベール・ジュイヤール
音楽 / レンツォ・ロッセリーニ
出演 / エドムンド・メシュケ、エルンスト・ピットシャウ、インゲトラウト・ヒンツ、フランツ・グリューゲル 他
1947年 / イタリア


ロベルト・ロッセリーニの戦後3部作の第3作目。第二次大戦直後の廃墟と化したベルリン。瓦礫の山の本物の街。冷静なロッセリーニの視線が現実を現実としてとらえるすばらしい作品。少年エドモントが父親を毒殺してしまい、廃墟の街をさまようシーン、光が彼の顔に影をつくる。感受性の強い少年は心の底で何を考えていただろう。父親の棺が運ばれる時、少年はビルから飛び降りる。悲惨と言ってしまえば簡単。そんな言葉が白々しいくらいに、この映画は、忘れがたい印象を残す。


ROMA, CITTA, APERTA
無防備都市
ROMA, CITTA, APERTA


監督 / ロベルト・ロッセリーニ
原作 / セルジオ・アミディ
脚本 / セルジオ・アミディ、フェデリコ・フェリーニ
撮影 / ウバルド・アラータ
音楽 / レンツォ・ロッセリーニ
編集 / エラルド・ダ・ローマ
美術 / ロザリオ・マグナ
出演 / アルド・ファブリッツィ、アンナ・マニャーニ、マルチェロ・パリエーロ、マリア・ミーキ 他
1945年 / イタリア


ロベルト・ロッセリーニの戦後3部作の第1作目(他『戦火のかなた』『ドイツ零年』)にあたり、ネオ・レアリズモの誕生と言われる。この作品は元々記録映画だったものを劇映画に変更したという。1942年ローマ。フランチェスコとピーナの結婚式の日、フランチェスコはゲシュタポに捕らえられる。必死で追いかけるピーナを、護送車から「来るな、ピーナ来るな!」と叫ぶ声もむなしくピーナは撃ち殺される。無名の市民が、簡単に殺される。金網越しに処刑される司祭を見守る子供たち。銃声が響き渡り、子供たちは肩を落としてその場を去ってゆく。子供たちの瞳には、心には、何を残しただろう。銃口を向けたとき、正義に変わるその心理が恐ろしい。絶望、失望、恐怖、苦しみ、戦争とは何かと考える。イングリッド・バーグマンはこの映画を見て、ロッセリーニの許へ行く。


Nostalghia
ノスタルジア
Nostalghia


監督 / アンドレイ・タルコフスキー
製作 / アンドレイ・タルコフスキー
脚本 / アンドレイ・タルコフスキー、トニーノ・グエッラ
撮影 / ジュゼッペ・ランチ
美術 / アンドレア・クリザンティ
出演 / オレグ・ヤンコフスキー、エルランド・ヨセフソン、ドミツィアナ・ジョルダーノ、パトリツィア・テレーノ、ミレナ・ブコティッチ 他
1983年 / イタリア


ドアを開けるシーンひとつとってもすばらしく絵画的。とは誰もが思うこと。けれどなぜこんなにも心をゆさぶられるのか。水の音すら効果音ではなく、タルコフスキーの音楽にかわる。水や火や風がタルコフスキーの映画を構築する。イタリアに亡命したものの、ロシアに帰りたい、故郷に帰りたいという想いに葛藤・苦悩する男(これは亡命したタルコフスキー自身である)。ノスタルジアの風景に雪がふる。美しい廃墟の寺院に一面の雪。一滴に一滴を加えても一滴、大きな一滴になる。だれが泣くのか、何を誇るのか、運命に身をゆだね、死後も福音のように燃える。


Zerkalo

Zerkalo


監督 / アンドレイ・タルコフスキー
脚本 / アレクサンドル・ミシャーリン、アンドレイ・タルコフスキー
撮影 / ゲオルギー・レルベルグ
音楽 / エドゥアルド・アルテミエフ
出演 / マルガリータ・テレホワ、オレーグ・ヤンコフスキー、イグナート・ダニリツェフ、アナトリー・ソロニーツィン
詩 / アルセニー・タルコフスキー
詩の朗読 / アンドレイ・タルコフスキー
朗読 / インノケンティ・スモクトゥノフスキー
1975年 / ソ連


アンドレイ・タルコフスキー監督の自伝的映像詩。"私"の哀れだった母や別れた妻やその息子への思いを過去の映像と現在の映像、またソ連成層圏飛行、スペイン戦争、第二次世界大戦、中国の文化大革命など現実の映像を折り混ぜて綴ってゆく。この映画をスクリーンで見たかった、と思える久しぶりの作品で、母が髪を洗うシーン、印刷所から走り去るシーン、草原にうっそうと茂る木立、燃える家、幻想的かつ美しい水のある風景、すべてが感動的な映像美。たまらくて涙があふれた。君は鳥の羽より軽やかに、大胆に、ぬれそぼるライラックの中を抜け、鏡の向こう、君の世界へと。


Some Came Running
走り来る人々
Some Came Running


監督 / ビンセント・ミネリ
脚本 / ジョン・パトリック、アーサー・シークマン
原作 / ジェームズ・ジョーンズ
撮影 / ウィリアム・H・ダニエルズ
音楽 / エルマー・バーンスタイン
出演 / フランク・シナトラ、シャーリー・マクレイン、ディーン・マーティン、アーサー・ケネディ 他
1958年 / アメリカ


『巴里のアメリカ人』(1951)でビンセント・ミネリの作品をはじめて観て、なんて素敵な映画を撮る人だろうと思った。この作品では、頭の弱い酒場の女役シャーリー・マクレインがすごくかわいくていじらしい。くだらない小説家にメロメロで、彼に一生懸命自分をアピールする。彼が令嬢に熱をあげていても、自分はやっぱり彼が好きで、彼にしあわせになってほしいけれど、自分が愛されたらすごくうれしい!という楽天的思考が愛らしい。令嬢に会いに行った時のセリフ。「彼と結婚する気がある?ないのね、よかった、私がんばろう」そう思える前向きな彼女に元気づけられる。彼の難しい言葉でつづられる小説を読み聞かされる。「どう思った?」「よかったわ、むずかしい事は分からないけれど、私、その小説が好き」それで十分よね。みんな自分勝手に生きていた1950年代のアメリカン・ライフ。


Cronaca Familiare
家族日誌
Cronaca Familiare / Family Diary


監督 / バレリオ・ズルリーニ
製作 / ゴッフレード・ロンバルド
原作 / バスコ・プラトリーニ
脚本 / マリオ・ミッシローリ
撮影 / ジュゼッペ・ロトゥンノ
出演 / マルチェロ・マストロヤンニ、ジャック・ペラン、サルボ・ランドーネ 他
1962年 / フランス、イタリア


幼いエンリコと赤ん坊のロレンツィオの兄弟は母の死によって引き離される。引き取られ不自由なく暮らしていたロレンツィオとの再会。エンリコの感じる卑屈さ、ロレンツィオの節度と習慣と優雅さ。どこかで後ろめたさを感じるエンリコは病院でロレンツィオが手を握った時に、ロレンツィオが流した涙を見て涙を流したが、あれは本当に愛からの涙であっただろうか。ロレンツィオが亡くなった時、それは自分の中で思いのほか重い罪になったのではないか。静かで暗くのしかかってくるような映像。ベネチア映画祭金獅子賞受賞作品。若き日の花々は はかなくも色あせる。


ナーザの大暴れ
ナーザの大暴れ
Nazha Conquers the Dragon King


監督 / 王樹枕、巌定憲、徐景達
脚本 / 王往
美術 / 張亭
作画 / 林文肖、常光希 他
撮影 / 段孝萱、蒋友毅、金志成
1979年 / 中国(上海美術映画製作所)


中国を代表する長篇アニメーション。明代の古典神話「封神演義」の一挿話を題材にしたセルアニメ作品。陳塘関の将軍、李清の子供は蓮の花から産まれた男の子ナーザ。まさに京劇の躍動感。踊りや音楽、動きは軽やかでのびやかで画像を見ているだけで面白い。不思議な力を持つナーザは竜王の命令に逆らえない父親に殺されそうになる。ナーザはそこで剣をとり自害する。首から剣をつたって血が流れ落ちる。そのシーンがとても印象深く、ただの昔々のお話以上の話で、心の動きがあった。


古井戸
古井戸
老井


監督 / ウー・ティエンミン(呉天明)
撮影 / チェン・ワンツァイ(陳万才)、チャン・イーモウ(張芸謀)
出演 / チャン・イーモウ(張芸謀)、リャン・ユイチン(梁玉瑾)、ルー・リーピン(呂麗萍) 他
1987年 / 中国(西安映画製作所)


中国、山西省の山奥・老井村。村には水がない。人々は遠くまで水を汲みに行く。旺泉は村の若者で、都会で井戸の勉学をし、長年井戸を掘り続ける村で皆と水を探し求める。たったひとつ、井戸から水が出ることを祈って。小さな喜びを分かち合い、小さな幸せをかみしめ、苦しみや悲しみを覆い、不満も不平もある生活でもあっても、人々は生きている。村を出ようとする都会的な巧英と、村に住み続ける事を望み夫に従属する喜鳳、二人は対照的でありながら旺泉を愛する。旺泉と巧英は事故で崩れた井戸の中で結ばれるが、旺泉は村に残り井戸を掘り続けることを選び、そしてそれは妻である喜鳳を選ぶことだった。話の中心はほとんど人間ドラマで、体温や汗までも感じる作品。共感は出来ないけれど、人間ドラマは面白かった。


ロゴパグ
ロゴパグ
Rogopag


監督 / ロベルト・ロッセリーニ、ジャン・リュック・ゴダール、ピエル・パオロ・パゾリーニ、ウーゴ・グレゴレッティ
出演 / ロザンナ・スキャッフィーノ、アレクサンドラ・スチュアルト、オーソン・ウェルズ、ウーゴ・トニャッツィ 他
1963年 / フランス、イタリア


ジャン・リュック・ゴダール、ピエル・パオロ・パゾリーニ、ウーゴ・グレゴリッティ、ロベルト・ロッセリーニのそれぞれ4作品の豪華オムニバス。第三話パゾリーニ編ではオーソン・ウェルズ出演。「Rogopag」とは画像を見ると分かるように、監督の名前を繋ぎ合わせたもの。ゴダールもグレゴリッティもロッセリーニもそれなりに面白かったけれど、私の中ではパゾリーニの作品が群を抜いて秀逸。キリストの話を題材に搾取する者される者のあさましさを描き、猥雑さを描く。ゴリラの様な食いっぷりだと馬鹿にされ、政治家、俳優、雑誌記者の前で十字架に張り付けられて死ぬ男。天国で私を思いだしてください。死んではじめて生きていたと記憶に残る。キリスト教の冒涜だと批難され、修正を余儀なくされパゾリーニ自身も有罪判決を受けたという。


サンライズ
サンライズ
Sunrise


監督 / フリードリッヒ・ウィルヘルム・ムルナウ
製作 / ウィリアム・フォックス
脚本 / カール・マイヤー
原作 / ヘルマン・ズーデルマン
撮影 / チャールズ・ロシャー、カール・ストラス
美術 / ローカス・グリーズ
出演 / ジョージ・オブライエン、ジャネット・ゲイナー、マーガレット・リビングストン、ボディル・ロージング 他
1927年 / アメリカ


結婚して間もないしあわせいっぱいの田舎の夫婦。そんな夫は若さゆえ都会の女にそそのかされ、かわいい妻を殺害しようとする。かわいい妻の純粋さや素直さよりも、都会の女の悪魔的な魅力に翻弄され自分の気持ちが分からなくなる男の様子は、冒頭で言っているようにどこにでもありうる話かもしれない。けれど、ムルナウの映画はそれだけの映画に終わらせない。驚き、恐怖、絶望、喜び、そんな気持ちの描写が見ている私にとってすごく衝撃的。そして何よりすごく画面のきれいな映画。湖畔の美しさ、月の明かりの美しさ、楽しげな遊園地の様子、たまらなくきれい。


カビリアの夜
カビリアの夜
Le Notti di Cabiria


監督・脚本 / フェデリコ・フェリーニ
製作 / ディノ・デ・ラウレンティス
脚本 / エンニオ・フライアーノ、トゥリオ・ピネッリ
撮影 / アルド・トンティ
音楽 / ニーノ・ロータ
出演 / ジュリエッタ・マシーナ、フランソワ・ペリエ、アメディオ・ナザーリ、フランカ・マルツィ 他
1957年 / イタリア


小柄なジュリエッタ・マシーナの魅力がいっぱい。すぐ怒ってすぐケンカして、よく笑ってお人好しで素直で、マンボの踊りはすごく上手で、とってもチャーミング。かわいい女性の理想像。俳優の豪邸から帰される時、うろうろしながらガラスのドアにゴツンとぶつかるシーンのなんてかわいらしいこと。いつも辛く苦しい、という風に見えないあたりがポジティヴで好き。オスカーにだまされないで、だまされないで、と心の中で心配するくらいマシーナの無邪気な態度が苦しい。ねえ、私結婚するの、自分の家も家具も売るの、またねオルガ、新しい住所はすぐ教えるからね。カビリアをだます男はクソったれ。男なんてみんなクソったれ。でもラストで涙を流しながら微笑んでいるカリビアの純粋さや前向きさに救われる思いがした。


さよなら子供たち
さよなら子供たち
Au Revoir les Enfants


監督・製作・脚本 / ルイ・マル
撮影 / レナート・ベルタ
音楽 / シューベルト、サンサーンス
出演 / ガスパール・マネッス、ラファエル・フェジト、フランシーヌ・ラセット 他
1987年 / フランス、西ドイツ


1944年、フランスのカトリックの寄宿学校。ジュリアンは転校生ボネに興味を持ち、仲良くなる。ゲシュタポがユダヤ人を探すシーン、ジュリアンは思わずボネの方を振りかえってしまう。ゲシュタポはそれを見逃さなかった。友達を思ったゆえのあまりに悲しい残酷さ。ドイツ兵に連行されるボネ。なぜ、どうして、でも、もう二度と会えない、彼が死ぬこと、殺されてしまうことを予感する。声をかけることすら、さよならの一言も言えずにいるジュリアンの目の涙がたまらない。二度と忘れない、一生忘れられない出来事。こっそり一緒に読んだ『アラビアン・ナイト』。もう一度、会いたかった。アデュー、ではなく、オールヴォワール。


会議は踊る
会議は踊る
Der Kongress Tanzt


監督 / エリック・シャレル
製作 / エリッヒ・ポマー
脚本 / ノルベルト・ファルク、ロバート・リーブマン
撮影 / カール・ホフマン
音楽 / ベルナー・R・ハイマン
出演 / リリアン・ハーベイ、ウィリー・フリッシュ、オットー・ウァルバーグ、コンラート・ファイト、リル・ダゴファー、カール・ハインツ・シュロス、アルフレッド・アベル 他
1931年 / ドイツ


ナポレオン失脚後の1814年のウィーン会議。そんななかでの甘い夢のようなロマンス。普通の町の女の子が突然王子様(ここではロシア皇帝)と恋に落ちるという古典的なストーリー。けれど夢のようなおとぎ話のような映画は楽しい。馬車で歌を歌いながら屋敷に向かうシーンがステキ。二度と訪れぬ、夢のようにすばらしいひとときはまさに"夢"で終わるのがいちばんしあわせなのかも。奇跡が天から降り注いで、輝く黄金の光になって、そう、きっとこれは幻、一生に一度の贈り物。人生でただ一度きり、二度とない幸福の春。メッテルニヒ役が『カリガリ博士』のツェザーレ役と同一人物のコンラート・ファイトだと後から知った。映画ていいな、と思える良質の映画。


私を野球につれてって
私を野球につれてって
Take Me Out to the Ball Game


監督 / バズビー・バークレー
製作 / アーサー・フリード
原案 / ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン
撮影 / ジョージ・フォルシー
音楽 / ベティ・カムデン、アドルフ・グリーン、ロジャー・イーデンス
出演 / フランク・シナトラ、ジーン・ケリー、エスター・ウィリアムズ、ベティ・ギャレット、エドワード・アーノルド、ジュールス・マンシン 他
1949年 / アメリカ


楽しいミュージカル映画。ミュージカル映画には正直私はすごく甘い。でも、アメリカでは何でもあって何でも出来るんだ、なんて素晴らしいんだ、という当時のアメリカの期待を裏切らないしあわせいっぱい夢いっぱいさが満載で楽しめて、それでいいじゃないのと楽観的になれる作品。バスビー・バークレーの作品には過剰に期待している所があって、この作品の振り付けがバークレーなのかは分からないけれど、もっともっとみんなで踊ってほしかった感じ。難しいこと考えないで、ハッピーになれて、とても気分がいい鑑賞後。みんな知ってるけど、みんなそれぞれの宝物、そんな感じの映画。


黄金の馬車
黄金の馬車
Le Carrosse D'or


監督 / ジャン・ルノワール
脚本 / ジャン・ルノワール、ジャック・カークランド、レンツォ・アバンツォ、ジュリオ・マッキ、ジネット・ドワネル
原作 / プロスペル・メリメ
撮影 / クロード・ルノワール、ロナルド・ヒル
音楽 / アルカンジェロ・コレッリ、オリビエ・メトラ
出演 / アンナ・マニャーニ、オドアルド・スパダーロ、ポール・キャンベル、ナーダ・フィオレッリ
1953年 / フランス、イタリア


ルノワールの映画を見て、ルノワールは映画が好きだったのだろうな、と感じるのが心地よくて好き。絢爛豪華なこの作品。パウエル&プレスバーガーの色彩を思い出して、大好きなルノワールの「フレンチ・カンカン」を思い出して、いろんな楽しい素敵な映画を思い出して、私は楽しかった。なんて綺麗なんだろう。現実とフィクションの曖昧さ。舞台の終わりは、ほんの少し寂しくて辛い。夢を見よう。未来は思い出の中で輝く。


I Do Not Know What It Is I Am Like
I Do Not Know What It Is I Am Like
おのれとは如何なるものかを識らず


監督・撮影 / ビル・ヴィオラ
追加撮影・プロダクションアシスタント・スチール写真 / キラ・ペロフ
エンジニアリング / トム・ピグリン
制作 / AFL、CAT、ZDF 他
1986年 / アメリカ、ドイツ他


動物の目に映る自分の姿。ヒンドゥー教の儀式。ほとんど動きのない動物達の目に映るのは、果たして今の自分か、または遠い未来か過ぎ去った過去か。長回しのショットとミニマムな動きと抑制された映像。物語はない。淡々と映し出される映像に、美しさを思い、回想をする。繰り返すこと、寡黙なこと、目はカタチの余白を物語る。そこにあるのは現実。希望や真実はどこに向かう。


now printing!
Deserts
砂漠


監督・撮影 / ビル・ヴィオラ
音楽 / エドガー・ヴァレーズ
演奏 / アンサンブル・モデルン
制作 / ZDF
1994年 / アメリカ、ドイツ


現代音楽家エドガー・ヴァレーズ同曲の映像化。演奏はドイツのアンサンブル・モデルン。薄暗い部屋のなかの独りの男の様子。森林の火災。砂漠。水。死ぬこと生きること。死ぬことと生きることは両極のようで非常に近く、それでいて遠い。寸前、間際。いつか見た、見るだろう風景。ストイックさに酔うことはない。


Made in HongKong
メイド・イン・ホンコン
Made in Hongkong


監督・脚本 / フルーツ・チャン(陳果)
製作 / ドリス・ヤン(楊紫明)
撮影 / オー・シンプイ(柯星沛)、ラム・ワーチュン(林華全)
美術 / マ・カークワン(馬家軍)
音楽 / ラム・ワーチュン(林華全)
衣装 / ティム・ムッ(田木)
主演 / サム・リー(李燦森)、ネイキー・イム(厳栩慈)、ウェンバース・リー(李棟泉) 他
1997年 / 香港


小さな世界で精一杯正直に素直に生きようとする少年少女。誰もが小さな世界で生きていて、いろんな悩みがあって、いろんな人生があって、彼らのする行動が正しくないとは誰も言えない。雑踏に紛れてしまえば自分なんて誰だか分からなくなってしまうことが、怖い。誰も気づかないかもしれない。平気で嘘をつける大人になる前に。ずるい大人になる前に。人生を駆け抜けた彼らの人生は子供じみていたかもしれない。でも正直だった。跳んでしまえば怖くないなんて、誰でも言えること。


Les Amants Criminels
クリミナル・ラヴァーズ
Les Amants Criminels


監督・脚本 / フランソワ・オゾン
音楽 / フィリップ・ロンビ
撮影 / ピエール・ストウベール
出演 / ナターシャ・レニエ、ジェレミー・レニエ、ミキ・マノイロビッチ、サリム・ケシュシュ 他
1999年 / フランス、日本


オゾンの映画で何が好きかといえば、求める禁断がそこにあるから。サイードとキスする恋人のアリスを見ながら流す涙の純粋さ(だと思わなければ物語は進行しない)をふまえた上で物語を見る。アリスの狂気じみた愛、殺人、逃避、ゲーム感覚と快楽で殺人をしたにも関わらずウサギを殺したことにとまどうアリス、リュックを犬のように首輪をつけて監禁する男、その男に無言で犯されるリュック、アリスを愛する反面その男にも愛情を抱くこと。おそらく男もリュックに愛情があった。アリスは殺したサイードを愛していた。倒錯した愛情が絡み合う。「死ぬまで愛するわ」。生き残った者も、禁断の森から抜け出せない。おそらくずっと。


Viagem ao Principio do Mundo
世界の始まりへの旅
Viagem ao Principio do Mundo


監督・脚本 / マノエル・デ・オリヴェイラ
撮影 / レナート・ベルタ
美術 / マリア=ジョゼ・ブランコ
音楽 / エマヌエル・ヌネス
編集 / ヴァレリー・ロワズルー
出演 / マルチェロ・マストロヤンニ、ジャン=イブ・ゴーチェ、レオノール・シルヴェイラ、ディオゴ・ドリア、マノエル・デ・オリヴェイラ 他
1997年 / ポルトガル、フランス


車の前の道でなく、カメラは車の走った後の道を映す。車の中の会話。そこでもカメラは常に後ろ向きに固定されている。複数の「マノエル」が登場する。そこにはオリヴェイラ自身が投影されている。映画中に流れるポルトガル出身のエマニュエル・ヌネスの音楽はとても希望に満ちたものではないし、物語とは関係ない。過去は二度と戻らない。二度と戻らない日々。人はそうして過去を過去のまま受け止められず死んでゆく。けれど自分の中に流れる同じ血を確認して、伯母と甥は年月を超え抱き合う。普通のロードムービーとは一線を画した映画。マストロヤンニの遺作。