foreign movie vol.9


La Messa E` Finita
ジュリオの当惑
La Messa E` Finita


監督・脚本 / ナンニ・モレッティ
製作 / アキーレ・マンゾッティ
原作 / サンドロ・ペトラリア
脚本 / サンドロ・ペトラリア
撮影 / フランコ・ディ・ジャコモ
音楽 / ニコラ・ピオヴァーニ
出演 / ナンニ・モレッティ、フェルッチョ・デ・セレサ、エリンカ・マリア・モドゥーニョ、マルガリータ・ロサーノ、マルコ・メッセリ 他
1985年 / イタリア


小さな島からローマ近郊へ赴任してきた司祭ジュリオの奮闘。ジュリオ役は当然ナンニ・モレッティ。真面目なジュリオが戸惑うのは自分本位な人々の行動。悩みながら先へ進むジュリオを止めたのは母の自殺。人の話を聞き他人の欠点を愛嬌に変え孤独は決して自由ではないと二人で自由をつかむのが幸せだと。少し恥ずかしくて斜にかまえてしまうような問題を愛にあふれたユーモアで軽快に描く。教会の祭壇で「人生は素晴らしい」と涙を浮かべて話すジュリオと人々の幸せそうなダンスと音楽。そんなラストはとてもナンニ・モレッティらしくて彼の映画が好きな理由のひとつ。


Pohadky tisice a jedne noci
シンドバッドの冒険
Pohadky tisice a jedne noci


監督 / カレル・ゼマン
1974年 / チェコ


とてもいい。ゼマンの切り絵アニメ(+実写)は大好き。色彩感覚でも楽しくなる、ひとつのパレットに本当にいろんな赤色を使う。色彩感覚が優れているのはこの時代のせいか、ゼマンの感覚か。子供に教えてあげたいアニメ。


Cesta do praveku
前世紀探検
Cesta do praveku


監督 / カレル・ゼマン
1955年 / チェコ


実写+ダイナメーション。『カレル・ゼマンと子供たち』のなかの恐竜トリックの種明かしシーンを思い出して感激した。ゼマンとハリーハウゼンのダイナメーションは明らかに違う。芸がこまかいのは断然ハリーハウゼン。ゼマンはそういうオタク的な細かさはないけれど物語を豊かにするダイナメーション。どちらがいいのではなくどちらもよくてスタンスの違い。毛サイ同士の決闘はとても愛らしい。


Carodejuv ucen
クラバート
Carodejuv ucen


脚本・監督 / カレル・ゼマン
原作 / オトフリート・プロイスラー
美術 / カレル・ゼマン、ルドミラ・スパーレナー
アニメーション / アルノシュト・クプチーク、エウゲン・スパーレニー
撮影 / ポスフラフ・ピカルトゥ、ズデニェック・クルパ
編集 / イヴァン・マトウシュ
音楽 / フランチシェック・ベルフィーン
1977年 / チェコ


私は原作「クラバート」を読んだことはなく、「クラバート」がどんな話なのかも知らなかった。紙人形のアニメーションにところどころの実写。雨や雪のシーンの視覚的な美しさと面白さ。ストーリーもアニメーションも本当に素晴らしくて感激して、ゼーマンの世界は本当に動く絵本そのものだと思った。率直な愛の探求、自由への賛美、自覚、自己と他者と世界のつながり、愛はどんな魔法よりも強いという結末はあまりに美しい。


Pan Prokouk filmuje
プロコウク氏 映画製作の巻
Pan Prokouk filmuje


監督 / カレル・ゼマン
1947年 / チェコ


ゼーマンの社会批判・風刺のアニメーション。「上映中に席を立たないでください」という字幕にかぶってスクリーンに多くの人の影が出来るシーンでは一瞬ひっかかってしまうようなゼーマンのユーモア。私はゼーマンのこの面白さが大好き。大掛かりなことをするわけではない、けれど心に一瞬刻まれる印象はとても強い。


Vanocni sen
クリスマスの夢
Vanocni sen


監督 / カレル・ゼマン
1945年 / チェコ


クリスマスに新しい人形をもらった少女はとたんに古い布の人形に興味を失くす。古い人形は真夜中少女を楽しませるために踊ったり走り回ったりピアノを弾いたり。ゼーマンの人形の動きは丁寧に命が吹き込まれる。それが彼女の夢であっても彼女は朝目覚めたときに古い人形のことをいつものように大事に抱き上げるだろうと思うととても素敵な気分になれる。風をおこして壁にかけてある海が荒れるアニメーションが好き。ゼーマンのアニメ処女作にして1946年カンヌ国際映画祭・動画部門グランプリ受賞作品。


ムーミン パペット・アニメーション
ムーミン パペット・アニメーション

原作・監修 / 卜ーヴェ・ヤンソン
監督 / ルシアン・デムビンスキー、クリスティナ・クリシカ、ダリウス・ザビルスキ、ドビカ・グゼルスカ
アニメーション / スタニスラフ・ビチンスキー、卜一ヴェ・ヤンソン
撮影 / ヴァツワフ・フェダク、ヤドヴィガ・ザウデル、レシェク・ナルトフスキ
美術 / ボグダン・フジンスキ
音楽 / アンドレイ・ロキクキ、ユーゲン・イリン
声の出演 / 岸田今日子
1979年 / ポーランド、オーストリア


天才と言われる人形師ウラディスラフ・レニエビッチによるムーミン達はとてもあたたかくおだやかなパペット。厚紙にフェルト地で覆われた平べったいパペットはポヤルのクマちゃんに似ている。北欧の美しく短い夏、待ち遠しい春、そういった雰囲気がこのパペット版ムーミンにもあらわれていて、北欧という異国の幻想的な世界に酔う。岸田今日子の七変化の声はなかなかすごくて、岸田今日子はまったくムーミンの世界を壊すことなく溶け込んでいる。自分本位なスノークのおじょうさんも好きだけど、うつわの大きなムーミンママ大好き。ママのパンケーキは美味しそう。こういうなごめるパペットは大好き。


Eloge de l'amour
愛の世紀
Eloge de l'amour


監督 / ジャン・リュック・ゴダール
脚本 / ジャン・リュック・ゴダール
撮影 / クリストフ・ポロック、ュリアン・ハーシュ
出演 / ブルーノ・ピュッリュ、セシル・カンプ、ジャン・ダビー、フランソワーズ・ベルニー、クロード・ベニェール 他
2001年 / フランス、スイス


モノクロ映像とデジタル・ビデオによるカラーの二部構成からなる作品。モノクロの映像はカットがとても美しく、鮮烈なカラーの黄色い空や青い海が強く印象に残る。目で見て目で記憶するこの映画は難解ではない。愛と過去と歴史と幻想。はじまりと終わりの間になにがある?シャンゼリゼへ行こう、誰よりも多くの影を従えて。


Earth vs. the Flying Saucers
世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す
Earth vs. the Flying Saucers


監督 / フレッド・F・シアーズ
製作総指揮 / サム・カッツマン
製作 / チャールズ・H・シニア
脚本 / ジョージ・ワーシング・イエーツ、バーナード・ゴードン
原作 / カート・シオドマク
特撮 / レイ・ハリーハウゼン
音楽 / ミーシャ・バカライニコフ
出演 / ヒュー・マルロー、ジョーン・テイラー、ドナルド・カーティス、モーリス・アンクラム 他
1956年 / アメリカ


低予算で作られただけあって作りが雑。当時の円盤ブームに乗っかった作品。ハリーハウゼンはこの映画では生物のストップ・モーションではなく、崩れる建物などをアニメにしている。ハリーハウゼン、ハリーハウゼン、と思いながら映画を見ると少し辛い。どうしても男女のロマンスもストーリーに盛り込みたがるのが面白い。『地球へ2千万マイル』(ネイザン・ジュラン/1963)を思い出した。


The 3 Worlds of Gulliver
ガリバーの大冒険
The 3 Worlds of Gulliver


監督 / ジャック・シャー
製作 / チャールズ・H・シニア
原作 / ジョナサン・スウィフト
脚本 / アーサー・ロス、ジャック・シャー
特撮 / レイ・ハリーハウゼン
音楽 / バーナード・ハーマン
出演 / カーウィン・マシューズ、ジョー・モロー、ベイジル・シドニー、ジューン・ソルバーン 他
1963年 / イギリス


ハリーハウゼンのダイナメーションがいつ出てくるんだろうとわくわくしてこの映画を見ると少々退屈。リスやワニが出てくるシーンはかなり後半で、シーンはとても少ない。こういったファンタジーものはハリーハウゼンの本領発揮出来そうな気がするのにとても惜しい気がする。しかしハリーハウゼンの作るほんの少しのダイナメーションは印象深い。巨人の国で巨人の女の子がガリバーとエリザベスの小さなお城をのぞきこむシーンは、シュワンクマイエルの『アリス』(1988/スイス、西ドイツ、イギリス)を思い出した。


20 Million Miles to Earth
地球へ2千万マイル
20 Million Miles to Earth


監督 / ネイザン・ジュラン
製作 / チャールズ・H・シニア、レイ・ハリーハウゼン
原案 / レイ・ハリーハウゼン、シャーロット・ナイト
脚本 / ボブ・ウィリアムス、クリストファー・クノプス
特撮 / レイ・ハリーハウゼン
出演 / ウィリアム・ホッパー、ジョアン・テイラー、フランク・プーリア、トーマス・ブロウン・ヘンリー 他
1963年 / イギリス


ハリーハウゼンのモノクロ最後の作品。ぷにぷにしたゼリー状のものから金星竜イミーアが産まれ、目を開けるとまぶしそうにする姿にきゅんとする。芸がこまかい。像とイミーアが一騎打ちするダイナメーションはすごい。歴史的建造物であるローマのコロッセウムで大暴れ。人間達もバズーカ砲を打ちまくり。ハリーハウゼンがローマを舞台に恐竜を暴れさせたかったと思われる作品。意味のない大佐と女医のロマンスが間が抜けていてステキ。


Jason and the Argonauts
アルゴ探険隊の大冒険
Jason and the Argonauts


監督 / ドン・チャフィ
製作 / チャールズ・H・シニア、レイ・ハリーハウゼン
脚本 / ジャン・リード、ビバリー・クロス
特撮 / レイ・ハリーハウゼン
撮影 / ウィルキー・クーパー
音楽 / マリオ・ナシンベーネ、バーナード・ハーマン
出演 / トッド・アームストロング、ナンシー・コバック、ゲイリー・レイモンド、オナー・ブラックマン 他
1963年 / イギリス


ギリシア神話に登場する神々が人間界の様子を見ている。巨人タロスが動き出す姿に感動。そのほか鳥人間ハーピー、九頭の竜ヒドラ、手作り感覚のハリーハウゼンのダイナメーションはどきどきして楽しくなる。骸骨の剣士と人間の絡み合いはいったいどうやってるんだろうと思うし、いまいち恐ろしくない地獄の使者の愛らしさ。ハリーハウゼンの手法を活かすストーリー。CGのない時代の映画と今のCGを活用した映画。どちらがどうではないけれど、わくわくするのはハリーハウゼンの方。


Sinbad and the Eye of the Tiger
シンドバッド 虎の目大冒険
Sinbad and the Eye of the Tiger


監督 / サム・ワナメイカー
製作 / チャールズ・H・シニア、レイ・ハリーハウゼン
脚本 / ビバリー・クロス
原案 / レイ・ハリーハウゼン、ビバリー・クロス
特撮 / レイ・ハリーハウゼン
撮影 / テッド・ムーア
音楽 / ロイ・バッド
出演 / パトリック・ウェイン、タリン・パワー、マーガレット・ホワイティング、ジェーン・シーモアス 他
1977年 / イギリス


見ていてわくわくして楽しかった映画というのが久しぶりな気がした。技術とかそういうことよりも、たとえば『ピーターパン』(ハーバート・ブレノン/1924/アメリカ)のワイヤーが見えるピーターパンもそれはそれで問題ないように、レイ・ハリーハウゼンの特撮は私の中ではものすごく良かった。独特の猛獣の動きもすごく面白かった。レイ・ハリーハウゼンをいろいろ見てみようと思った作品。映画はすごく楽しいんだと素直に感じた。


To Vlemma Tou Odyssea
ユリシーズの瞳
To Vlemma Tou Odyssea


監督・脚本 / テオ・アンゲロプロス
製作 / エリック・ヒューマン、ジョルジオ・シルヴァーニ、フィービ・エコノモプロス
脚本 / トニーノ・グエッラ、ペトロス・マルカリス
撮影 / ジョルゴス・アルヴァニティス
音楽 / エレーニ・カラインドロウ
出演 / ハーヴェイ・カイテル、マヤ・モルゲンステルン、エルランド・ヨセフソン、タナシス・ヴェンゴス 他
1995年 / フランス、イタリア、ギリシャ


大好きな『旅芸人の記録』(1975/ギリシャ)ほどではないけれど、詩的に映るアンゲロプロス節はかなり好き。霧の中の見えない殺戮という悲劇に悲鳴をあげるシーンのハーヴェイ・カイテルはすごい。現実と幻想を行き来する主人公の妄想が入り込んでくる。後半の少々感情的なシーンはどうかと思うけれど、アンゲロプロスらしい映像に見入ってしまう。庭の隅のレモンの木のこと、月光の入る窓のことを話し、身体の印を見せよう、愛の印を。


Weekend
ウィークエンド
Weekend


監督・脚本 / ジャン・リュック・ゴダール
原作 / ジャン・リュック・ゴダール
撮影 / ラウール・クタール
音楽 / アントワーヌ・デュアメル
出演 / ミレーユ・ダルク、ジャン・ピエール・レオー、ジャン・イアンヌ 他
1967年 / フランス、イタリア


劇映画から離れ始めた頃のゴダール。夢物語は悪夢で終わるパリの週末の雑然さと倒錯と狂気と妄想。登場人物は叫び、泣き、怒り、走る。長い長いワンショットの渋滞シーン。ゴダールの演説。死体、銃弾、大量の血。森の緑と血の赤の対比が印象的。ヒステリックで猥雑で殺伐としたその様子に、「週末」から「終末」を連想させる。分断された映像で前後が分からなくなる。この映画はどこへ行くのか分からないという面白さ。本当は入らないくらいものをたくさん詰め込んでごった煮したようなこの作品。見終わった後にもう一度見ようと思った。


Les Cousins
いとこ同志
Les Cousins


監督・製作・脚本 / クロード・シャブロル
台詞 / ポール・ジェゴフ
撮影 / アンリ・ドカエ
音楽 / ポール・ミズラキ
出演 / ジェラール・ブラン、ジャン=クロード・ブリアリ、ジュリエット・メニエル 他
1959年 / フランス


クロード・シャブロルの初期代表作。いとこ同志ではあるが性格は正反対のシャルルとポール。要領の良さを武器に女も試験のパスも手に入れるポールとは逆にシャルルはいつまでも運が向かない。けれど誰が悪いわけでもなく、誰が正しいわけでもなく、シャルルが主人公ではあるが別の人物にも感情移入できる。教えを説いてくれるはずの教会も扉は閉ざしている。都会の生活が自分の身体に入り込んでくるシャルルのもやもやが真面目さと対決する。きっと誰もが若い頃に感じる努力が報われないという、世界の理不尽さと不合理さ。


Melody
小さな恋のメロディ
Melody


監督 / ワリス・フセイン
製作 / デビッド・パットナム
脚本 / アラン・パーカー
原作 / アラン・パーカー
撮影 / ピーター・サスチスキー
出演 / マーク・レスター、トレイシー・ハイド、ジャック・ワイルド、シーラ・スティーフル 他
1971年 / イギリス


あ、ちょっと心洗われてしまった。決して戻れないから美しい思い出になり、さらに美化されていく思い出。おそらく男の人が見たら過去に一瞬戻れるならこういう時期だとか思うのかも。ブランキーのベンジーが「小さな恋のメロディという映画を観たことがないなら早く観たほうがいいぜー」と歌ってたように、男性受けする映画だと思う。けれどダニー役マーク・レスターとオーンショー役ジャック・ワイルド。この二人の男の子のかわいさときたらまるでお人形。くらくらするほどかわいい。ここは女性受け。メルヘンな映画もたまにはよくて、映画自体にときめいたりはしないけれどほのぼのした。


Sommaren med Monika
不良少女モニカ new!!
Sommaren med Monika

監督・脚本 / イングマール・ベルイマン
原作 / ペール=アンデシュ・フーゲルストルム
撮影 / グンナール・フィッシェル
出演 / ハリエット・アンデション、ラルス・エクボルィ、ヨーン・ハリソン、ベント・エクルンド 他
1952年 / スウェーデン


ヌーヴェルヴァーグの作家たちに影響を与えた青春映画。モニカ役ハリエット・アンデションは『鏡の中にある如く』(1961)の時より魅力的。豊満な肉体と野性的で直感的な行動力。男をひきつけるモニカの魅力。男友達レッレと寝た後のモニカの顔のカメラ目線の長い長いショット、子供から大人への変貌。男より先に女は成長する。小悪魔から悪魔に。無意識から意識的に。北欧の短い夏。ストーリー自体はありがちな10代の恋愛話なのかもしれないけれど、水面に映る景色はやはり美しく、水辺のなんでもない建物はとても幻想的で、不安な音楽すら、行き着く先はモニカの魅力を引き出しているように思われた。モニカ(ハリエット・アンデション)全開の映画で、話をきちんとまとめるベルイマンもすごい。


Sasom I En Spegel
鏡の中にある如く new!!
Sasom I En Spegel

監督・脚本 / イングマール・ベルイマン
撮影 / スヴェン・ニクヴィスト
出演 / ハリエット・アンデション、ラーシュ・パスゴード、グンナール・ビョーンストランド、マックス・フォン・シドー 他
1961年 / スウェーデン


神は神でないというベルイマンの本作品。姉弟がシェークスピアの寸劇を演じるシーンがとてもいい。夢か現実かあやふやな瞬間、あるいは現実が自分の境界線をつきやぶって侵入してきたとき、人はどうなるか。女は現実を逃避して精神病と言われたわけではなく、現実があまりに自分に入り込んできたために陥った病ではなかったか。弟が父親に言った最後のセリフに不思議な感覚にとらわれて、現実が何なのか確信できなくなった。私も誰かが待っている扉の向こうへ行きたいと願った。夢と現実は鏡のようなものだろうかと冒頭のゆらゆらとゆらめく不確定な風景、そして美しい風景を思い出す。


Jungfrukallan
処女の泉
Jungfrukallan


監督 / イングマール・ベルイマン
原作・脚本 / ウルラ・イザクソン
撮影 / スヴェン・ニクヴィスト
音楽 / エリック・ノードグレーン
出演 / マックス・フォン・シドー、ビルギッタ・ペテルスン、グンネル・リンドブロム、ブリジッタ・ピーターソン 他
1959年 / スウェーデン


宗教的な意味の理解はさておいて抜群にすばらしい映画。恐怖と残酷性と愛と復讐。人間の業と苦悩。映像の美しさと陰鬱なイメージが同居し、究極の寓話世界をつくりだす。ベルイマンのなかの神と神との戦い。少女の死体の下から泉が湧き出てあらゆる憎悪感情が溶け合うかに見えた。無宗教でも宗教について考え、神について考える。どう言葉に表現していいか分からない映画というのは私のなかで印象強く残り、また見てみたいと思わせる。


Der Weisse Rauch
白銀の乱舞
Der Weisse Rauch


監督・脚本 / アーノルド・ファンク
撮影 / リハルト・アングスト
出演 / ハンス・シュナイダー、レニ・リーフェンシュタール、ギュッツィ・ランチナー 他
1931年 / ドイツ


レニ・リーフェンシュタール主演。レニが監督した『美の祭典』(1938)、『民族の祭典』(1938)ほどの躍動感のある記録映画だと思わないけれど、ゲレンデの白さ、澄んだ大気、山岳の美しさを感じる映画。ストーリー云々よりも画面をじっと見ているほうが楽しい。写真家としてレニ・リーフェンシュタールを知っていると、当時のレニのはしゃぎっぷりは新鮮。このレニが後にすばらしい活躍をしていくかと思うと興味深い。


Peter Pan
ピーターパン
Peter Pan


監督 / ハーバート・ブレノン
原作 / ジェームズ・M・バリー
脚本 / ウィリス・ゴールドベック
撮影 / ジェームズ・ウォン・ホウ
出演 / ベティ・ブロンソン、メアリー・ブライアン、アーネスト・トーレンス 他
1924年 / アメリカ


白黒・無声映画。無声映画時代の良質な映画は面白い。合成された小さな妖精も、ワイヤーが見える空を飛ぶシーンも、愛らしく思える。舞台劇を見ているような映画で、手作りが見える。ピーター・パンの舞台メイクはあまりかわいいとはいえないけれど、ベティ・ブロンソンはかわいい。「男20人より、女の子1人のほうが役にたつのさ!」というピーターのセリフにうれしくなる。『E.T.』に引用されているシーンもある。


Pad
落下
Pad


原案・脚本・編集・監督 / アウレル・クリムト(ダニイル・ハルムスの短篇小説を翻案)
美術 / ペトル・ポシュ
音響 / イヴォ・シュパリィ
撮影 / ズデニェク・ポスピーシル
アニメーション:アウレル・クリムト、ヤン・スムルチュカ、ダヴィット・スークップ
音楽 / ペトル・ソウデク
製作 / FAMU、チェコテレビ、クラートキーフィルム・プラハ
1999年 / チェコ


クレイアニメーション。大戦下のモスクワが舞台。屋根からずり落ちる老人を誰も助けることができない。向かいのアパートの窓から見ていた見物人たちが次々と落下して死んでゆく。けれど誰もそれには注目しない。クリムトのダークな心理状態はどこから来たのだろう。たとえばシュワンクマイエルよりアイロニーは分かりにくい。ほんの少しかたいでいる感じはバルダぽくもある。シニカルな笑いが印象を強める。


Prasavci
原始哺乳類
Prasavci


原案・脚本・美術・アニメーション・監督 / ミハル・ジャプカ
編集 / シャールカ・スクレナージョヴァー
音響 / ヤーヒム・ドゥスババ
撮影 / トマーシュ・スィセル
音楽 / オンドジェイ・ソウクプ
人形制作 / レンカ・シュムドラ・ミナジーコヴァー
製作 / FAMU、チェコテレビ、アニメーション・ピープル、ビオナウト、S.A.F
出演(声) / アンドレア・ミルトゥネロヴァー、イジー・ラーブス、ヤロスラヴァ・クレチュメロヴァー
2001年 / チェコ


クレイアニメーション。恐竜全盛期に暮らす哺乳類一家の過酷な日々。小さな哺乳類は大きな恐竜に脅えて暮らす。「家族が欲しい」と言ったお父さんは、お母さんのおっぱいを出すため、お母さんと小さな子供たちのためにつつましいエサを命がけでとってくる。ミハル・ジャプカのクレイアニメをはじめて見たけれど、ジャプカのクレイはとても愛嬌があってかわいらしい。このアニメはすごい、ということよりも、アニメって面白いな、ステキだなと思える感じのいいユーモラスな作品。


Aprile
ナンニ・モレッティのエイプリル
Aprile


監督 / ナンニ・モレッティ
製作 / ナンニ・モレッティ、アンジェロ・バルバガッロ
脚本 / ナンニ・モレッティ
撮影 / ジュゼッペ・ランチ
音楽 / ジョニー・マンデル
出演 / ナンニ・モレッティ、ニコラ・ピエポリ、シルビオ・オルランド、シルビア・ノノ、ピエトロ・モレッティ 他
1998年 / フランス、イタリア


自身を主人公にした軽快な日記形式エッセー映画。1996年4月18日、イタリアの歴史上初の左翼の勝利の日にモレッティと妻シルヴィアに息子ピエトロが誕生する。子供に関するエピソードがなんといってもとてもかわいらしい。胎教に悪かった、と『ストレンジ・デイズ』のセリフを夜中に思い出している姿はとてもキュート。政治の話もまったく重くさせないモレッティの巧妙さ。ラストのミュージカルはなんてしあわせな気分にさせるのだろう。とてもいい映画だと思う。当時あまり何も思わなかった『親愛なる日記』(1994)も今見たらすごくよいのかもしれない。気楽に楽しく、時には必死に、自分らしく毎日を暮らしてゆくこと。


M★A★S★H
M★A★S★H
MASH


監督 / ロバート・アルトマン
製作 / インゴ・プレミンジャー
原作 / リチャード・フッカー
脚本 / リング・ラードナー・ジュニア
撮影 / ハロルド・E・スタイン
音楽 / ジョニー・マンデル
出演 / ドナルド・サザーランド、エリオット・グールド、トム・スケリット 他
1970年 / アメリカ


実際に朝鮮戦争下でMASH(陸軍移動病院)を体験したリチャード・フッカーの著書を基に、アルトマンが描いた反戦コメディ。戦争映画はあまり得意ではないけれど、この作品は面白かった。ホークアイ大尉(ドナルド・サザーランド)の豪快さと色気をともなったかっこよさは抜群(かっこよさのベクトルはルパン三世)。そのうえ腕のいい外科医。反戦とはリアルな描写であることではない。単なるふざけた映画ではないのは、戦争による精神的バランスを必死にみんながとっているのが分かるからだ。ベトナム戦争の最中に製作されたこの作品の意味を考える。


[La Vie Revee Des Anges
天使が見た夢
La Vie Revee Des Anges


監督 / エリック・ゾンカ
製作 / フランソワ・マルキ
脚本 / エリック・ゾンカ、ロジェ・ボーボ
撮影 / アニエス・ゴダール
出演 / エロディ・ブーシェ、ナターシャ・レニエ、グレゴワール・コラン、パトリック・メルカド 他
1998年 / フランス


意識が戻らないサンドリーヌの書いていた日記の続きを書いていくという少女趣味的な匂い、苛立つマリーの痛々しさと共感。女だからこそ、女として、21歳という年齢の彼女たちの気持ちが痛い。日常の映画がフランス映画らしいといえばらしい。映画にリアリティを求めてるわけではないけれど、期待と不安と希望と失意と、普通の人生だけれど、劇的な瞬間はその場の一瞬だ。なにも正しくないし、なにが正しいわけではない。話したいことを話し、したいことをする。それが一度きりの人生。


Le Vent de la Nuit
夜風の匂い
Le Vent de la Nuit


監督 / フィリップ・ガレル
撮影 / カロリーヌ・シャンプティエ
編集 / ルネ・レヴェール
録音 / フランソワーズ・コラン
音楽 / ジョン・ケイル
出演 / カトリーヌ・ドヌーブ、ダニエル・デュバル、グザヴィエ・ポヴォワ 他
1999年 / フランス


カトリーヌ・ドヌーブ演じる人妻エレーヌは40代の設定に思うが、演技力でカヴァーしたのか当時のドヌーブは60過ぎていたのでは。けれど不倫関係にある年下愛しい人の腕をたまらなくキスする姿、アナーキズム万歳!と叫び割れたグラスで手首を切る姿には熟女ドヌーブの迫力を感じる。ガレルの映画はカメラの位置が気になる場所が多々あり、誰が主人公か分からなくなる。話している人物の顔は画面には映らない。その人物が去る時でさえ、カメラは話されていた相手のみを写す。時間の流れが一瞬前後し錯覚を覚える。過ぎ去った時間と今ある時間の対比。カメラによる時間軸の変化。前進するだけでなく、逆流・停滞する時間をガレルは知っていた。愛は矛盾を産む。セックスは激しいほど孤独になる。ガレルらしい。