Japanese movie vol.3


彼女だけが知っている
彼女だけが知っている

監督 / 高橋治
製作 / 小梶正治
脚本 / 田村孟、高橋治
撮影 / 川又昂
音楽 / 中村八大
美術 / 宇野耕司
編集 / 浦岡敬一
出演 / 笠智衆、水戸光子、小山明子、渡辺文雄、松本克平 他
1960年


のちに小津安二郎の『東京物語』の助監督となり、直木賞作家にもなった高橋治の第一回監督作品。主演女優には小山明子。年末の連続婦女暴行殺人事件。小山明子演じる綾子は、クリスマスの夜、恋人杉刑事と別れたあと暴行魔に襲われる。小山明子がとてもきれい。昔の女優さんは見た目も言葉遣いもきれいな人が多い。初期松竹ヌーベルバーグの一作品。中村八大が手がけるジャズな音楽も当時は相当洒落てたんだろうか。


浮雲
浮雲

監督 / 成瀬巳喜男
製作 / 藤本真澄
原作 / 林芙美子
脚本 / 水木洋子
撮影 / 玉井正夫
音楽 / 斎藤一郎
美術 / 中古智
出演 / 高峰秀子、森雅之中北千枝子、岡田茉莉子、山形勲、加東大介 他
1955年


落ちに落ちた腐った男に、そうと分かっていながら、傷ついても、やるせなくても、どんなに惨めでも、好きで仕方ないからどこまでもついていく女(高峰秀子)の悲劇の物語。結局男と女はいつの時代も変わらない。常に寂しさを浮かべる高峰秀子の表情が美しい。どこに行くあてもなく、一瞬の幸福を求めた女。"花のいのちはみじかくて苦しきことのみ多かりき"。


細雪
細雪

監督 / 市川崑
製作 / 田中友幸、市川崑
原作 / 谷崎潤一郎
脚本 / 市川崑、日高真也
撮影 / 長谷川清
音楽 / 大川新之助
美術 / 村木忍
出演 / 岸恵子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子、伊丹十三、石坂浩二 他
1983年


大阪・上本町の本家、兵庫・芦屋の分家、四季折々の風物を絡めながら蒔岡家の美しい四姉妹の一年間の出来事を描く。単純に関西弁(ここでは優美な船場言葉)や地名が感覚として分かることが面白さに拍車をかける。四姉妹が毎年桜の季節には京都嵯峨の料亭で落ち合い、満開の桜の下でおしゃべりをしながら歩くシーンが印象的。美しい着物の数々、華やかで上品でゆったりした生き方、憧れてしまう。


恋の門
恋の門

監督 / 松尾スズキ
アニメーション演出 / 庵野秀明(『不思議実験体ギバレンガー』)
プロデューサー / 小川真司(製作)、甘木モリオ、長坂まき子
原作 / 羽生生純『恋の門』(エンターブレイン刊)
脚本 / 松尾スズキ
撮影 / 福本淳
美術 / 都築雄二
衣裳 / 北村道子
出演 / 松田龍平、酒井若菜、松尾スズキ、忌野清志郎、小島聖、塚本晋也、尾美としのり、田辺誠一、片桐はいり 他
2004年


漫画芸術家(松田龍平)とコスプレイヤー(酒井若菜)の恋。スピーディーな展開、単純に見ていてすべてが楽しい。細かく出てくる有名出演者の数々。"漫画指導"には日野日出志の名前も・・・。見終わったあとに漫画を描きたくなってコスプレがしたくなる。


珈琲時光
珈琲時光

監督 / ホウ・シャオシェン
脚本 / ホウ・シャオシェン、チュー・ティエンウェン
撮影 / リー・ピンビン
録音 / ドゥ・ドゥージ
編集 / リャオ・チンソン
出演 / 一青窈、浅野忠信、萩原聖人、余貴美子、小林稔侍 他
2003年


敬愛する小津安二郎へのオマージュとして、ホウ・シャオシェンが、ささいな、いまそこにある日常を切り取った、穏やかでやさしい淡い作品。東京の下町の景色、神田神保町の景色、高崎の景色、いろんなものが美しく見えるホウ・シャオシェンの映像が好き。正直期待していなかった一青窈が自然体で素直な演技でよかった。おいしい珈琲を飲んだあとのような後味のよい映画。いつまでも続いてほしいと思った。


晩菊
晩菊

監督 / 成瀬巳喜男
原作 / 林芙美子
脚本 / 田中澄江、井手俊郎
撮影 / 玉井正夫
美術 / 中古智
音楽 / 斎藤一郎
出演 / 杉村春子、望月優子、細川ちか子、沢村貞子、上原謙、小泉博、有馬稲子、加東大介 他
1954年


芸者上がりの中年になった女たち。金貸し業をして女中と二人暮しだったり、子どもにお金をもらっていたり、女の人生は様々。始終愚痴を言い合って噂話をしてお金の話をして、そういうなんでもない日常のやりとりにささいな事件があり、また日常に戻る。女たちの会話で成り立つ作品のこのなんでもない会話と事件すべてが面白い。たまたま『晩菊』の前に『お吟さま』で有馬稲子を見たけれど、若さもあるだろうけれど『晩菊』の時のほうが美しくかわいくちゃっかりしたモダンガールで魅力があった。


お吟さま
お吟さま

監督 / 田中絹代
製作 / 月森仙之助、若槻繁
原作 / 今東光
脚色 / 成澤昌茂
企画 / 長島久子
撮影 / 宮島義勇
音楽 / 林光
美術 / 大角純一
編集 / 相良久
出演 / 有馬稲子、高峰三枝子、富士真奈美、仲代達矢、笠智衆 他
1962年


田中絹代が監督した作品で、出演者が有馬稲子、高峰三枝子と成瀬組ということで興味があった。千利休の娘・お吟の悲恋を一途に描く。「吟の魂は右近さまに差し上げました恋の女のいのちでございます」とうやうやしく告白。登場人物それぞれが秘めたる想いを持ち、わびさびの物語なんだと思っていたら終盤、恋の炎は燃え上がり、死をもってしてつらぬく愛もあるのよ、とお吟は泣き崩れる下女に諭すのだけど、いつの間にそこまで達観したのかちょっといきなりすぎ。たった数分の岸恵子のシーンが印象的。


めし
めし

監督 / 成瀬巳喜男
監修 / 川端康成
原作 / 林芙美子
脚色 / 井出俊郎、田中澄江
撮影 / 玉井正夫
美術 / 中古智
音楽 / 早坂文雄
出演 / 原節子、上原謙、島崎雪子、小林桂樹、杉葉子、風見章子、杉村春子、山村聡、中北千枝子 他
1951年


大阪が舞台ということで見てみたかった作品。原節子主演。結婚5年目の夫婦の倦怠期。昭和26年、男も女も、夫婦はいつの時代も変わらない。品があってうつくてとても庶民には見えない原節子が普通の主婦を演じる"究極の生活感"。その生活感はディテールに至るまでリアルに作った美術の中古智によるもの。単調な毎日から生まれる妻の不満や不安、夫への嫉妬をこんなに上手に表現する監督を知らない。


噂の娘
噂の娘

監督・脚本 / 成瀬巳喜男
撮影 / 鈴木博
音楽 / 伊藤昇
美術 / 山崎醇之輔
出演 / 千葉早智子、梅園龍子、伊藤智子、汐見洋、御橋公、藤原釜足、大川平八郎 他
1935年


没落する老舗の酒問屋を舞台にしっかり者の姉とおでんばな妹を中心に家族の心の葛藤を描いた作品。冒頭からおどろいたのは床屋の窓ガラスから見える早足で歩く女の背中から床屋の中の鏡に映る人物へのカメラのパン。これが戦前の作品なんて思えない。余計なものを一切入れずにあっさり描くいさぎよさ。蓮実氏曰く"陰影のはっきりした"美しさ。千葉早智子演じる邦江のうるんだ瞳が印象的。レベルの高いおもしろさに感動する。


修羅雪姫 怨み恋歌
修羅雪姫 怨み恋歌

監督 / 藤田敏八
製作 / 奥田喜久丸
原作 / 小池一雄、上村一夫
脚本 / 長田紀生、大原清秀
撮影 / 鈴木達夫
音楽 / 広瀬健次郎
美術 / 樋口幸男
出演 / 梶芽衣子、伊丹十三、吉行和子、原田芳雄、岸田森 他
1974年


修羅雪姫シリーズ第二作目。明治の革命の渦に巻き込まれる雪。母親の怨念をはらした後は反体制側として公安に因果応報。藤田敏八の意図なのか、一作目より描写がエグイ気がする。拷問の挙句ペスト菌を注射し、高熱と寒気と皮膚の変色で死にゆく様を長々と映す。そのペストで死んでしまった男の妻は気がふれて仇の目に小刀を突き刺す。突き刺しながらわめくシーンがまた長い。面白くないわけではないけれど圧倒的に一作目のほうが面白い。


修羅雪姫
修羅雪姫

監督 / 藤田敏八
製作 / 奥田喜久丸
原作 / 小池一雄、上村一夫
脚本 / 長田紀生
撮影 / 田村正毅
音楽 / 平尾昌晃
美術 / 薩谷和夫
出演 / 梶芽衣子、黒沢年男、赤座美代子、大門正明、内田慎一、楠田薫 他
1973年


因果応報。雪の降る夜、女囚監房で生まれた一人の女の子。母から託された怨念をはらすために娘・雪は修羅のごとく復讐にもえる。透き通るような白い肌。その顔や白い着物に飛び散る大量の血しぶき。下半身が飛び、手が飛ぶ。女はとうに捨てました、涙はとうに枯れました、とにかく梶芽衣子のかっこよさにつきる。さらにテンポのよさと少女時代の修行シーン。面白い。


死の棘
死の棘

監督・脚本 / 小栗康平
製作 / 奥山融、荒木正也
原作 / 島尾敏雄
撮影 / 安藤庄平
美術 / 横尾嘉良
音楽 / 細川俊夫
出演 / 松坂慶子、岸部一徳、平田満、木内みどり、松村武典、近森有莉、山内明、中村美代子 他
1990年


夫の浮気をきっかけに精神的に壊れていく妻と向き合う夫。演じる松坂慶子と岸部一徳の淡々としながらの緊張感と葛藤、そして錯乱ぶりがものすごい。妻が夫に「もう私の名前で呼ばないでください。(私を呼ぶときは)あいつの(浮気相手の)名前で呼んでください」というセリフ。手におえない異常な執着。そういう女の気持ちは分からなくもなく、泣いて叫んで、でも許しを請う。その一点のみを描き続ける重さ。追い詰めて追い詰めてその先にあるものは。1990年カンヌ映画祭グランプリ作品。


人間の約束
人間の約束

監督 / 吉田喜重、宮内婦貴子
製作 / 高橋松男、谷島茂之、斎藤安代
原作 / 佐江衆一
脚本 / 吉田喜重、宮内婦貴子
撮影 / 山崎善弘
音楽 / 細野晴臣
美術 / 菊川芳江
出演 / 三國連太郎、村瀬幸子、河原崎長一郎、佐藤オリエ、杉本哲太 他
1986年


ボケはじめた祖父母とその息子夫婦、そしてその子供という三世帯が同居する家族構成。痴呆性老人問題という重いテーマに絆や愛や迷いが絡み合う。失禁するシーンが多々あり老人でありながら女であることを望みささやかな乳房をアップで映し出す。たとえば美しい純粋な子供のような痴呆を描いた『ポーリーヌ』のような作品よりも何倍も強烈で真摯な作品。細野晴臣の音楽が耳に残る。


ジョゼと虎と魚たち
ジョゼと虎と魚たち

監督 / 犬童一心
原作 / 田辺聖子
製作 / 久保田修、小川真司
脚本 / 渡辺あや
撮影 / 蔦井孝洋
音楽 / くるり
出演 / 妻夫木聡、池脇千鶴、SABU、大倉孝ニ、荒川良々、西田シャトナー、真里アンヌ、新井浩文、上野樹里、江口徳子、新屋英子 他
2003年


サガンの小説もD[di:]のイラストもくるりの音楽もこの作品にとってはほんとに小さな宣伝材料であって、私にとって重要だったのはこの作品に含まれる少女趣味的なお伽話要素がファンタジックな香りを残しつつなんてきれいに昇華されているんだろうと感動したこと。


いばら姫またはねむり姫
いばら姫またはねむり姫
Briar Rose or the Sleeping Beauty


監督・脚本・アニメーション / 川本喜八郎
原作 / 岸田今日子
音楽 / スヴァトプルク・ハヴェルカ
撮影 / 田村実、ヤン・ミュレル
美術 / ヤン・ルジチカ
ナレーション / 岸田今日子
1990年 / 日本、チェコスロバキア


岸田今日子が原作とナレーションを担当。トルンカスタジオにて製作したためかトルンカ色が強い。本当のグリム童話版「眠れる森のお姫様」。針にさされる意味は処女喪失。


火宅
火宅
House of Fire


監督・脚本・アニメーション / 川本喜八郎
音楽 / 武満徹
撮影 / 田村実
美術 / 原口智生、小前隆、徳山正美
編集 / 相沢尚子
ナレーション / 観世静夫
1976年


ふたりの男に愛される女の苦悩。純粋で残酷なストーリー。炎も、武満徹の音楽も、美しい。


道成寺
道成寺
Dojoji Temple


監督・脚本・製作・アニメーション / 川本喜八郎
音楽 / 松村禎三
撮影 / 田村実
美術 / 壬生露彦、中川涼
1976年


旅の若い僧侶に恋をした女の物語。思いつめるあまり大蛇か龍かという姿で僧侶を追いかける。松村禎三の奏でる音楽と心は連動。話さない人形たちの言葉が聞こえ、表情を感じる不思議。圧倒。


鬼

The Demon


監督・脚本・製作・アニメーション / 川本喜八郎
音楽 / 鶴沢清治
撮影 / 田村実、吉岡謙
美術 / 壬生露彦 / 中川涼
1972年


川本喜八郎の作る鬼はただ恐ろしいだけでなく美しい。三味線と尺八だけの音楽はシンプルで格調高い世界を築き、背景の金蒔絵も幻想的で、そこにリアルさではなく8分という中で虚の鬼の恐怖や美しさを描ききったことに感動。


幸福の鐘
幸福の鐘

監督・脚本 / SABU
エグゼクティブ・プロデューサー / 樫野孝人、安永義郎、熊澤芳紀
コンサルティング・プロデューサー / 三木裕明、藤巻直哉、辻畑秀生
プロデューサー / 長松谷太郎、藤崎博文、小椋悟、久保田修
撮影 / 中堀正夫
照明 / 丸山文雄 美術/ 野口隆二
録音 / 山方浩
音楽 / 村瀬恭久
出演 / 寺島進、板尾創路、西田尚美、篠原涼子、益岡徹、塩見三省、鈴木清順  他
2002年


寺島進のたたずんでいるだけでかもしだされる哀愁感、板尾のまじ演技、篠原涼子のけだるさ(地?)。SABU監督の良さはテンポの面白さ。寺島進はゆっくり歩く。ひたすら歩く。歩きながらいろんな形の不幸や幸福に出会う。不幸とは。自分にとっての幸福とは。何かを与えられたり示唆されたりするのではないところが、ちょうどいい。


ハウルの動く城
ハウルの動く城

監督・脚本 / 宮崎駿
原作 / ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
音楽 / 久石譲
声の出演 / 倍賞千恵子、木村拓哉、美輪明宏 他
2004年 / スタジオジブリ


空を飛んだり、魔法が使えたり、火と話したり、誰もが想像の中でできることなのに、大人になるとしなくなる。楽しいことやうれしいことを素直に喜び、悲しみや驚き、感動に涙を流す。軽やかに描かれるあまりに普通のことに大人は感動する。キムタクハウルは素敵でかっこよくて、ソフィーは特別美人でもないけど少々の事では動じない芯の強い女の子。普通の女の子が王子様と結ばれる物語は永遠になくならない。だってそれって女の子にとって最高に楽しい物語だから。


月の砂漠
月の砂漠
DESERT MOON


監督・脚本・編集 / 青山真治
プロデューサー / 仙頭武則
プロダクションスーパーバイザー / 佐藤公美
撮影 / 田村正毅
照明 / 佐藤譲
録音 / 菊池信之
美術 / 清水剛
キャスト / 三上博史、とよた真帆、柏原収史、碇由貴子、細山田隆人 他
2001年 / サンセントシネマワークス


仙頭武則で佐藤公美で青山真治。崩壊した家族の再生。それぞれの人の心の根底にある理想、主義、期待、欲望、不安。家族とは役割分担が必要だという。しあわせは役割分担の上に成り立つという。家族として誰かと暮らす意味。消えた意味は意味でなくなりそこに残骸として残ったものは昇華しない。すべての音が無機質に、すべての風景が砂漠になる。


バグダッド姫
バグダッド姫

監督 / 芦田巌
1948年


下記4作品に較べると影で表現したり線で表現しなかったりと凝った技法が目新しい。フルアニメーションの力作。大作ながらその動きのせいか飽きさせない。


マー坊の大サーカス
マー坊の大サーカス

監督 / 千葉洋路
1941年


戦時の「マー坊」シリーズ。戦時中というだけあって悪しき者との対比が明確。悪者は徹底的にやっつけられる。時限爆弾、大砲という単語も続出。戦時中だったためか同じアニメーションの繰り返しが多数見受けられる。


now printing!
森の五匹の動物たち

監督 / 鈴木宏昌
1937年


5匹の動物達がいつもいじめられているクマをやっつける。モグラくんのかわいさに夢中。このころからアニメは非常にデフォルメされ、今のアニメの表情や動きに通じる表現が多数出てくる。


now printing!
太郎さんの冒険撮影

監督 / 相原隆昌、山本早苗
1929年


カメラをかついだ太郎は動物達と出会う。トラの様子が絵本「ちびくろサンボ」を思い出す動き。


ノンキなトウサン竜宮参り/夢の浦島
ノンキなトウサン竜宮参り/夢の浦島

監督 / 木村白山
1925年


新聞連載漫画で過激なノンキなトウサンシリーズの一本「夢の浦島」。1942年に弁士の解説を録音したべらんめえ口調のナレーション・セリフが面白い。カメ最高。1925年の作品は今でも通用するユーモア。


Nobody Knows
誰も知らない
Nobody Knows


監督・脚本・編集・製作 / 是枝裕和
撮影 / 山崎裕
美術 / 磯見俊裕
音楽 / ゴンチチ
出演 / 柳楽優弥、北浦愛、木村飛影、清水萌々子、韓英恵、YOU、串田和美 他
2004年


永遠ではない。取るに足りない何か、そこばくの焔、少しばかりの生石灰、ごみバケツの開いた蓋、カップラーメンの植木鉢、明るく輝いている窓。


blue
blue

監督 / 安藤尋
脚本 / 本調有香
原作 / 魚哺キリコ
撮影 / 鈴木一博
編集 / 冨田伸子
音楽 / 大友良英
出演 / 市川実日子、小西真奈美、今宿麻美、村上淳 他
2001年


市川実日子&小西真奈美。思いのほか楽しめたのは、これはいま私たちの世代版の『櫻の園』であり、現実と幻想と妄想とあこがれが交じり合う一瞬であり、原作・魚喃キリコとは別の世界を構築し、遠い視線で彼女たちを映すカメラはそのまま私の視線になったから。微小な物音に懸命に耳を澄まし、あの海へ続く道を、海の映像を、1分も1秒もとり逃がしてはいけない。


ハッシュ!
ハッシュ!
hush!


監督・脚本・原作 / 橋口亮輔
製作 / 山上徹二郎、石川富康、塚田博男
プロデューサー / 渡辺栄二
音楽 / ボビー・マクフェリン
撮影 / 上野彰吾
出演 / 田辺誠一、高橋和也、片岡礼子、秋野暢子、つぐみ、光石研 他
2001年


この気分の爽快さに自分でも驚く。朝子にも勝裕にも直也にもリアリティがあり素直に認めることができ、憧れさえ感じる。住む場所や仕事というレベルから何も固定されていないような生活と目的を見つけられずいつまでも子供のような大人であることに無自覚ではなく自覚があり意図的である気持ち悪さを感じる作品(たとえば『ざわざわ下北沢』)があるならば、『ハッシュ!』の浮遊感はデリケートでありながら強い。各々基盤があり意思があり、葛藤がある。それは主人公達が30過ぎくらいの年齢だということも関係あるのかもしれないけれど、訴えかけるような嫌味はなく、軽快で快感だ。


連句アニメーション「冬の日」
連句アニメーション「冬の日」

参加作家 / ユーリ・ノルシュテイン、川本喜八郎、大井文雄、野村辰寿、鈴木伸一、福島治、石田卓也、ラウル・セルヴェ、守田法子、島村達雄、奥山玲子+小田部羊一、アレキサンドル・ペトロフ、米正万也、久里洋二、うるまでるび、林静一、一色あづる、ブシェチスラフ・ポヤール、保田克史、片山雅博、マーク・ベイカー、伊藤有壱、黒坂圭太、横須賀令子、浅野優子、IKIF、王柏栄、高畑勲、ひこねのりお、森まさあき、古川タク、コ・ホードマン、ジャック・ドゥルーアン、湯崎夫沙子、山村浩二
2003年


36の連句を35人の作家がアニメに作り上げた作品。これだけの監督の新作を少しづつでも観られるていうのが貴重で、やっぱりノルシュテインやペトロフやドゥルーアン、それから山村浩二はいい。ノルシュテインの作り出す人物の仕草や息づかいが好き。山村浩二のユーモアが好き。クレヨンの重ね塗りをけずって絵を描く守田法子やパペットアニメーションの浅野優子とか今まで知らなかったけれど面白かった。


アカルイミライ
アカルイミライ

監督・脚本・編集 / 黒沢清
製作 / 浅井隆、小田原雅文、酒匂暢彦、高原建二
撮影 / 柴主高秀
美術 / 原田恭明
衣装 / 北村道子
出演 / オダギリジョー、浅野忠信、藤竜也 他
2002年


『ニンゲン合格』(1999)を思い出すいい作品。クラゲによってファンタジー要素が加わりクラゲに象徴的な意味を持たせることによってこの映画は近しい場所にあるように思える。黒沢清の映画はひとつなにかをこうして(意図的に違う方向へ)落とす気がする。未来はクラゲのように曖昧でこれからの未来に決定的な目的や目標も見出せずだからといって指針があるからこの先明るいわけでもなく、しかし悲観的でもなく楽観的でもなく葛藤をかかえて人間は生きてゆく。自分の考える隙間を与える映画は私にとって好きな映画。 曖昧なまま物語は終わり物語は夢で現実ではないと気づくけれど現実の小さな隙間を埋めるひとつの考えがまとまる。


櫻の園
櫻の園

監督 / 中原俊
製作 / 岡田裕
原作 / 吉田秋生
脚本 / じんのひろあき
撮影 / 藤沢順
出演 / 中島ひろ子、つみきみほ、白島靖代、宮澤美保、梶原阿貴、三野輪有紀 他
1990年


吉田秋生原作の同名漫画の映画化。創立記念日に恒例のチェーホフの戯曲「櫻の園」を上演する女子高校の演劇部員の開演までの数時間の話。そこに加わるのは切ないほど純粋な想いでありリアルな青春像であり17,18歳の女の子の心理として懐かしいと感じる。魚喃キリコ『blue』は評価が高いかもしれないけれど、私が好きなのは断然『櫻の園』。そこに宝塚的要素がふんだんにあることも関係ある思うけれど、女の子が女の子を好きなったり憧れたりする感情が『blue』よりもより的確で素直で正直だと思うし、なによりこの話の節々の(客観的には歪曲した)閉鎖的な美しさに私は泣けてきてしまうから。