Japanese movie vol.4


赤線地帯
赤線地帯

監督 / 溝口健二
助監督 / 増村保造
製作 / 永田雅一
脚本 / 成沢昌茂
原作 / 芝木好子
撮影 / 宮川一夫
美術 / 水谷浩
音楽 / 黛敏郎
出演 / 京マチ子、若尾文子、木暮実千代、三益愛子、町田博子、川上康子、進藤英太郎、沢村貞子、加東大介 他
1956年 / 大映


溝口健二の88作目にして遺作。東京・吉原の売春宿「夢の里」を舞台にした群像劇。様々な事情をかかえた女たち。『祇園囃子』とはうってかわって、売れっ子ナンバーワンの若尾文子は色っぽく美しくしたたかになり、失業中のダメ夫と赤ん坊をかかえた木暮実千代は演技で生活感を出すという域に達しているすごい女優さんなんだと再確認。彼女らだけでなく"吉原の女"になりきった三益愛子も京マチ子もみなが相乗効果ですばらしい。黛敏郎の妖怪風音楽はまあ面白いけれど(クラヴィオリンという電気楽器を使用しているらしい)作品とあっているかといわれるとどうかと思う。早坂文雄には到底かなわないことだけは確か。


祇園囃子
祇園囃子

監督 / 溝口健二
助監督 / 弘津三男
企画 / 辻久一
原作 / 川口松太郎
脚本 / 依田義賢
撮影 / 宮川一夫
美術 / 小池一美
衣裳 / 黒沢好子
編集 / 宮田味津三
音楽 / 斎藤一郎
出演 / 木暮実千代、若尾文子、河津清三郎、進藤英太郎、菅井一郎、田中春男、小柴幹治、浪花千栄子 他
1953年 / 大映


厳しいしきたりの花柳界で本物の芸者達の表の華やかさと裏の苦労を描く。『祇園の姉妹』といい『祇園囃子』といい溝口健二の描く花柳界で花柳界のことに興味を持つ。京都・祇園の路地を小走り、「おはようさんどす」と髪を結ってもらい、舞妓として一生懸命な若尾文子が初々しくてかわいい。溝口健二の映画のなかの女優さんたちは確実に活きている。細かく丁寧に上手に描かれた女の心情。若尾文子もいいけれど、小暮実千代は一本芯のある女の色っぽさ、女将役の浪花千栄子の貫禄。芸妓・小暮実千代が妹分として仕込んだ舞妓・若尾文子を守るために身体を売る。自分勝手な男に利用されもてあそばれても心は許さない。印象的な美しい映像は宮川一夫。すべてが完璧。


噂の女
噂の女

監督 / 溝口健二
助監督 / 弘津三男
企画 / 辻久一
脚本 / 依田義賢、成沢昌茂
撮影 / 宮川一夫
音楽 / 黛敏郎
美術 / 水谷浩
出演 / 田中絹代、大谷友右衛門、久我美子、進藤英太郎、浪花千栄子、峰幸子、阿井三千子 他
1954年 / 大映


京都島原で老舗の置屋と御茶屋を取り仕切る女将(田中絹代)とその娘雪子(久我美子)。東京帰りの娘・久我美子のモダンな洋装姿と、母・田中絹代のこなれた着物に煙管をふかす姿と対照的で面白い。女の強さや弱さ、成長、ドラマチックでないリアルな男女のやり取り、身勝手な男に翻弄される母とされまいとする娘。こういう話をこんなに面白い映画に仕上げてしまう丁寧さと進行の上手さに感服。ラスト、太夫が嘆く言葉がなんとも印象的でいい。


雪夫人絵図
雪夫人絵図

監督 / 溝口健二
原作 / 船橋聖一
脚本 / 船橋和朗、依田義賢
撮影 / 小原譲治
出演 / 小暮実千代、上原謙、柳永二郎、浜田百合子、久我美子、山村聡、夏川静江 他
1950年 / 新東宝


愛人を囲い財産を食いつぶす養子の夫とどうしても離れられず密かに思う男性ともプラトニックで結ばれることのない、ある旧華族令嬢の悲劇と破滅。深い陰影のあるモノクロの映像が木暮実千代の色気を際立たせているようで美しい。久我美子もきれいだけどこの木暮実千代と較べるとかわいらしいという感じ。箱根の芦ノ湖畔あたりの風景の映像は、たとえば『山椒大夫』を思い出すような、幻想的な風景の長回しがとても上手。


新・平家物語
新・平家物語 デジタル・リマスター版

監督 / 溝口健二
製作 / 永田雅一
企画 / 川口松太郎、松山英夫
原作 / 吉川英治
脚本 / 依田義賢、成沢昌茂、辻久一
撮影 / 宮川一夫
美術 / 水谷浩
編集 / 菅沼完二
音楽 / 早坂文雄
助監督 / 弘津三男、土井茂
出演 / 市川雷蔵、久我美子、林成年、木暮実千代、大矢市次郎、進藤英太郎、菅井一郎 他
1955年 / 大映


大映『新・平家物語』シリーズの第一作目。生涯90作品を手がけた溝口健二のたった2作のカラー作品のひとつ。相変わらず豪華なセットがすごい、すごいけれど正直『新・平家物語』についてはそれ以上何か心を惹かれるという感じではない。壮大なスケールの男社会を描いているせいか他作品と較べると魅力は多少減。時は保延三年(1137年)、平安末期で武士の身分は卑しく藤原一族による政治で世が乱れていた時代。細かい時代考証をしているというけれど(歴史に疎いのでよく分からないけれど)、平清盛(市川雷蔵)の極太眉毛メイクは時は単なる雰囲気?時信の娘・時子(久我美子)の艶やかな姿をもう少し見たかった。暴動しかけの延暦寺の僧兵たちを清盛がひとりで丸め込んでしまうラストはちょっと強引では。


山椒大夫
山椒大夫

監督 / 溝口健二
製作 / 永田雅一
企画 / 辻久一
原作 / 森鴎外
脚本 / 八尋不二、依田義賢
撮影 / 宮川一夫
美術 / 伊藤憙朔
衣裳 / 吉実シマ
編集 / 宮田味津三
音楽 / 早坂文雄
擬闘 / 宮内昌平
助監督 / 田中徳三
出演 / 田中絹代、花柳喜章、香川京子、進藤英太郎、河野秋武、菅井一郎 他
1954年 / 大映


民話を基にした森鴎外の小説「山椒大夫」の映画化。相変わらず早坂文雄の音楽にしびれる。舞台は平安時代末期。人攫いの罠にかかり母と別々になった安寿と厨子王は丹後の豪族・山椒大夫の荘園に奴隷として売られ10年もの間過酷な労働を強いられる。ほとんど逆光で撮影されたというモノクロのコントラストがとても美しく(水墨画のような山や水面に浮かぶ船の風景に息をのむ)、他作品でもそうなのだれど別離のシーンや泣き叫んだり関白に必死に直訴するシーンの緊迫さは感激するほどリアル。安寿が入水するシーンが泣けるのに対して妹を見捨てたように受け取れる兄・厨子王の勝手さが多少疑問。子供の頃の厨子王を幼い津川雅彦を演じているのだけど小さいながら顔も声も津川雅彦だった。ラストシーンはゴダールの『気狂いピエロ』で再現されているというけれど、正直覚えてないので見直してみたい。


歌麿をめぐる五人の女
歌麿をめぐる五人の女

監督 / 溝口健二
企画担当 / 糸屋寿雄
脚色 / 依田義賢
原作 / 邦枝完二『歌麿をめぐる女達』
撮影 / 三木滋人
音楽 / 大沢寿人、望月太明吉
美術 / 本木勇
録音 / 加瀬久
照明 / 村田政雄
出演 / 坂東簑助、田中絹代、坂東好太郎、川崎弘子、飯塚敏子、草島競子 他
1946年 / 松竹


水茶屋の娘であるおきたは勝気な女。その勝気な女を田中絹代が演じるのだけど、ひたむきでけなげなイメージのある田中絹代像を持ってる私としては意外な役どころ。浮世絵師の歌麿は色恋沙汰とは直接関係ない狂言回しのような役。映像や音声がだいぶ悪いのが残念。若干話が分かりづらいのと田中絹代以外の女優の顔の判別がつきづらいシーンが多々。そんなに長い作品ではないのにいろんなエピソードをつめこみすぎ?ラスト近くになってやっと田中絹代が光ってる気がした。


祇園の姉妹
祇園の姉妹

監督 / 溝口健二
助監督 / 高木孝一、森一生、坂本明
脚色 / 依田義賢
原作 / 溝口健二
撮影 / 三木稔
出演 / 山田五十鈴、梅村蓉子、志賀廼家弁慶、久野和子、大倉文男、進藤英太郎 他
1936年 / 第一映画社


京都の花柳界を舞台にした作品。しかし華やかな祇園の世界とは程遠い乙部の芸妓(祇園には"甲部"と"乙部"とあって、"乙部"には身を売ったりもする芸妓も多かったとか)を描く。京都の街の暗い路地に住む芸妓(芸娼妓)姉妹。妹おもちゃ役である山田五十鈴は京都出身なだけあってナチュラルな芸妓言葉で聞いていてとても魅力的。そして日本的な美しさと言葉巧みに男を騙して貧乏から脱出しようとするたくましさも合わさって爽やかなのに色っぽい。煙草をすう姿も艶やか。ラストの男たちにひどい仕打ちを受けてもくじけず毅然とした態度で怒りをあらわにする反骨精神にちょっと驚く。映画の中の物語、というよりももっとリアリティを感じる。


残菊物語
残菊物語

監督 / 溝口健二
総監督 / 白井信太郎
脚色 / 依田義賢
構成 / 川口松太郎
原作 / 村松梢風
撮影 / 三木滋人、藤洋三
音楽 / 深井史郎
長唄 / 坂田仙八
三味線 / 杵屋勝寿郎
鳴物 / 望月太明蔵
常磐津 / 常磐津文糸、常磐津文之助
浄瑠璃 / 豊澤猿二郎
美術監督 / 水谷浩
出演 / 花柳章太郎、森赫子、河原崎権十郎、梅村蓉子、高田浩吉、嵐徳三郎、川浪良太郎 他
1939年 / 松竹


大掛かりなセットも感激ものだけれど、とても映画的で長回しで構図の美しい作品という印象。セットと俳優がそのまま雰囲気のなかで溶け込んでいて、俳優の顔をほとんどアップで映さない常に引いたカメラが誰かに感情移入するのではなく物語自体に引き込む。尾上菊之助(花柳章太郎)復活の「積恋雪関扉」の場面がぞくぞくするほど良いし、ラストの道頓堀川で役者達が豪華な船に乗り込み船先に立ち、両岸のお茶屋に挨拶をしてまわる場面なんてそんな時代のミナミ自体や光景に興味をひかれる。これが戦前の映画かと驚くほど面白く完成度も高い。すごい映画。


近松物語
近松物語

監督 / 溝口健二
製作 / 永田雅一
企画 / 辻久一
原作 / 近松門左衛門
劇化 / 川口松太郎
脚本 / 依田義賢
撮影 / 宮川一夫
美術 / 水谷浩
衣裳 / 伊藤なつ
編集 / 菅沼完二
音楽 / 早坂文雄
出演 / 長谷川一夫、香川京子、南田洋子、進藤英太郎、小沢栄、菅井一郎、田中春男、石黒達也、十朱久雄 他
1954年 / 大映京都


近松門左衛門の姦通事件の浄瑠璃「大経師昔暦」の映画化。足を痛めたおさんが逃げる茂兵衛を泣き叫びつまづきながら追いかけ抱き合う迫真の演技に鳥肌を覚えるほど感動。すごい。同様にふたりが引き離される場面の体当たりの悲痛な叫びにもぐっとこみ上げるものがある。『雨月物語』と同じく宮川一夫のカメラは冴えわたり、尺八や拍子木を使った早坂文雄の音楽がすばらしい。香川京子の美しさも目を引くけれど、長谷川一夫がよい。


雨月物語
雨月物語

監督 / 溝口健二
製作 / 永田雅一
企画 / 辻久一
原作 / 上田秋成
脚本 / 川口松太郎、依田義賢
撮影 / 宮川一夫
音楽 / 早坂文雄
出演 / 京マチ子、森雅之、田中絹代、小沢栄、水戸光子、香川良介、上田吉二郎、青山杉作、毛利菊枝 他
1953年 / 大映京都


上田秋成原作「雨月物語」の中の"浅茅ヶ宿"と"蛇性の婬"の2編を題材にした小説の映画化。戦国時代を舞台に、人間の様々な欲を庶民に投影して描く。琵琶湖畔から船を漕ぎ出すシーン、源十郎が初めて訪れた時の朽木屋敷の様子、その女主人若狭、とても幻想的で美しく魅惑的。全体を覆う霊的な御伽噺の雰囲気。特に朽木屋敷はセットとは思えないくらいのリアルなお屋敷のセットは見とれてしまうほど圧巻。一瞬の魔力に誘惑された代償の大きさは失くしてみて初めて分かるという皮肉。ラストが泣ける。


ある映画監督の生涯 溝口健二の記録
ある映画監督の生涯 溝口健二の記録

監督 / 新藤兼人
製作 / 新藤兼人
脚本 / 新藤兼人
製作担当 / 山本文夫
構成 / 新藤兼人
撮影 / 三宅義行
応援撮影 / 黒田清己、下田久
録音 / 菊池進平
編集 / 近藤光雄、藤田敬子
出演 / 新藤兼人、永田雅一、入江たか子、成沢昌茂、柳永二郎、荒川大、田中絹代、乙 羽信子、京マチ子、山田五十鈴 他
1975年 / 近代映協


溝口健二を師と仰いだ新藤兼人による、溝口健二についてのドキュメンタリー。溝口健二ゆかりの人々39人に新藤兼人が直接インタビューをする。溝口健二入門編ではなく、溝口健二について私生活を含めより深く知るための愛のある作品。『東京行進曲』などのサイレント期の作品群の中のいまはもう目にすることのできないようなスチールの数々も想像をかきたててわくわくさせる。噂の田中絹代のインタビューが面白い。


放浪記
放浪記

監督 / 成瀬巳喜男
製作 / 藤本真澄、成瀬巳喜男、寺本忠弘
原作 / 林芙美子
脚本 / 井手俊郎、田中澄江
撮影 / 安本淳
美術 / 中古智
編集 / 大井英史
音楽 / 古関裕而
出演 / 高峰秀子、田中絹代、宝田明、加東大介、小林桂樹、草笛光子、仲谷昇 他
1962年 / 東宝


林芙美子の出世作の自伝的映画。"林ふみ子"役の高峰秀子がふてぶてしい憎たらしいけれど愛嬌もある始終しかめっつらでおかしな顔をしたへちゃなブス役を作りこんだのがすごい。行商人の娘からやがて作家になるまでの人生を描く。成瀬巳喜男作品の、雨を映したシーンだとか、部屋から外を映したシーンだとか、そういう何気ない風景の数々が好き。「花のいのちは短くて、苦しきことのみ多かりき」『浮雲』でも使われていたこの短歌、『放浪記』では一層真実味を増す。


乱れ雲
乱れ雲

監督 / 成瀬巳喜男
製作 / 藤本真澄、金子正且
脚本 / 山田信夫
撮影 / 逢沢譲
音楽 / 武満徹
美術 / 中古智
出演 / 加山雄三、司葉子、草笛光子、森光子、浜美枝、加東大介、土屋嘉男 他
1967年 / 東宝


加山雄三、司葉子主演。成瀬巳喜男の遺作。幸せ真っ只中の暗転。世間的にも許されない純愛に苦しむ二人を描くメロドラマ。今のメロドラマとは違い説明しすぎない話の展開、そして(やっぱり)幸せにはならないラスト。風光明媚な十和田湖畔、主演の司葉子の上品で歳相応の美しさ。繊細な役の加山雄三をはじめて見た。タクシーの中でおびえながら距離をあけて座る二人にものすごい抑えた官能がうずまいている。これぞメロドラマの空気感。


妻


監督 / 成瀬巳喜男
製作 / 藤本真澄
原作 / 林芙美子
脚本 / 井手俊郎
撮影 / 玉井正夫
美術 / 中古智
編集 / 大井英史
音楽 / 斎藤一郎
出演 / 上原謙、高峰三枝子、丹阿弥谷津子、高杉早苗、中北千枝子、伊豆肇、新珠三千代、三国連太郎 他
1953年 / 東宝


『晩菊』『浮雲』『めし』と同じく林芙美子原作、子どものいない倦怠期の夫婦の話。相手の女を本当に好きか嫌いか分からない流されるがままの夫を上原謙。『めし』と同じく優柔不断な夫といえば上原謙の公式。さびれた食堂の窓側で妻と愛人が対決するシーン、近くの高架で電車の通り過ぎる影が二人の顔をかすめる演出にしびれる。縁側の風景がとてもいい。最後まで修復されない夫婦の関係がなんともやるせない。


女が階段を上る時
女が階段を上る時

監督 / 成瀬巳喜男
製作 / 菊島隆三
監督助手 / 広沢栄
脚本 / 菊島隆三
撮影 / 玉井正夫
音楽 / 黛敏郎
美術 / 中古智
出演 / 高峰秀子、森雅之、団令子、仲代達矢、加東大介、中村鴈治郎、小沢栄太郎 他
1960年 / 東宝


高峰秀子主演映画。銀座でホステスをする女の生き様。脇役が豪華で森雅之、加東大介、中村鴈治郎などが固める。精一杯の努力と節約をして銀座の女としての顔を保つが、貧しい実家に手のかかる兄の家族と口のへらない母親。金を無心する周囲に「私はこうしてみんなに食い物にされていくのよ」と嘆く姿は、高峰秀子の自伝そのものと重なってしまった。この作品では衣装担当は高峰秀子。衣装選びの大変さや楽しさを綴っていた文章を思い出した。ヒロインはどうしても幸せになれない成瀬映画。切ない。


愛と希望の街
愛と希望の街

監督 / 大島渚
製作 / 池田富雄
脚本 / 大島渚
撮影 / 楠田浩之
美術 / 宇野耕司
音楽 / 真鍋理一郎
出演 / 藤川弘志、望月優子、富永ユキ、千之赫子、渡辺文雄、伊藤道子 他
1959年 / 松竹大船


当時27歳大島渚の記念すべき第一回監督作品。松竹が決めたこのタイトルより大島渚脚本時の『鳩を売る少年』というタイトルのほうが意を付いていた。裕福である者と裕福でない者の隔絶。生活の為に、帰巣本能のある鳩を何度も売る少年。詐欺まがいの行為で許されないと少年を雇わなかった大人。裕福な家の少女は助けたい一身で少年の鳩を撃ち殺す。それぞれのかみ合わない想いと善意と皮肉。「大島渚」の片鱗が見えるこの作品はまさに出発点。27歳でこんな作品を撮った大島渚はやっぱりすごい。


日本の夜と霧
日本の夜と霧

監督 / 大島渚
製作 / 池田富雄
監督助手 / 石堂淑朗
脚本 / 大島渚、石堂淑朗
撮影 / 川又昂
色彩技術 / 坂巻佐平
撮影助手 / 青木澄夫
音楽 / 真鍋理一郎
美術 / 宇野耕司
出演 / 渡辺文雄、桑野みゆき、芥川比呂志、氏家慎子、小山明子、津川雅彦 他
1960年 / 松竹大船


左翼運動、内部闘争、全学連と学生運動。結婚式を舞台に繰り広げられるディスカッション。新郎新婦もヤリ玉にあがり非難糾弾され過去の女性関係まで問いただされ、こんなに結婚式を台無しにする映画をはじめて見た。ものすごい長まわしに途切れることのない熱いディベート、俳優陣噛みまくりの一発撮りみたいな面白さ。セリフまわしに見てるこちらがハラハラする。安保闘争とかゲバとかよく分からないところも多いけどこの作品はヤバい。情熱的だけど暗すぎる。会社勤め人なのにこの過激さ。ちなみに大島渚はこの作品で松竹と衝突し退社(解雇?)。




監督・脚本 / 木下恵介
製作 / 小倉武志
撮影 / 楠田浩之
照明 / 豊島良三
録音 / 大村三郎
美術 / 平高主計
音楽 / 木下忠司
出演 / 水戸光子、小沢栄太郎 他
1948年 / 松竹大船


主要キャストが男(小沢栄太郎)と女(水戸光子)のみ、ほぼオールロケという実験的中篇サスペンス作品。善良な木下恵介のイメージとは違った趣向で意外だけれど面白い。殴ったりひどいことをしたりするどうしようもない男と縁を切れない女。いつの時代もずるずるした関係の男女は存在する。小沢栄太郎が嫌悪感すら覚える小狡賢いいやな男。こういう関係に全く共感するところはないのにクライマックスの絶叫の別れはそれまでの男女の葛藤の末路かと思うと人間の性、女の性を強く感じる。


清作の妻
清作の妻

監督 / 増村保造
助監督 / 岡崎明
原作 / 吉田紘二郎
脚本 / 新藤兼人
撮影 / 秋野友宏
音楽 / 山内正
美術 / 下河原友雄
出演 / 若尾文子、田村高廣、千葉信男、紺野ユカ 他
1965年 / 大映


日露戦争という時代を舞台にした、男と女のどろどろ純愛物語。狂気に満ち、思わず目をそらしたくなる恐怖すら覚えるこの憎愛劇はおそらく増村保造の真骨頂? 色気もすごいけど、徹底的に天涯孤独のお兼になりきった若尾文子がすごい。愛する人を肉体的に傷つける若尾文子の気の狂い方は同じ女として悲しくなる感情の表面化。テンポもよく時折シーンが外国映画のようで、1965年製作にもかかわらず映像的な古さはまったく感じない。愛するが故の葛藤、壮絶な愛情と憎悪から生まれる許しや受容。愛欲。男と女の極限の愛。これを美しいと言わずに何を美しいと思うか。


少年
少年

監督 / 大島渚
製作 / 中島正幸
脚本 / 田村孟
撮影 / 吉岡康弘、仙元誠三
音楽 / 林光
美術 / 戸田重昌
編集 / 白石末子
録音 / 西崎英雄
出演 / 渡辺文雄、小山明子、阿部哲夫、木下剛志 他
1969年 / ATG


当たり屋をしながら全国を放浪して生きていく家族4人の実在の事件を下敷きにした作品。10歳の少年の心の葛藤、寂しさからの一人芝居、死んだ少女に対する良心の呵責と涙。モノクロとカラーの多用が少年の心の暗雲を暗示する。10歳という少年が生きていくこと、両親の逮捕後に嘘をついたり黙秘をすること。「宇宙人になりたいけど僕は普通の人間の子どもや」弟に宇宙人や怪獣の話を聞かせ、雪で作った悪者を正義の味方になってやっつける姿。精一杯の家族の絆を保とうとするいたいけな努力。


東京行進曲
東京行進曲

監督 / 溝口健二
脚色 / 木村千疋男
原作 / 菊池寛
撮影 / 松沢又男 横田達之
出演 / 夏川静江、一木札二、高木永二、小杉勇、入江たか子 他
1929年 / 日活(太奏撮影所)


若き溝口健二のサイレント期の作品。本来105分の作品ということらしいけれど、現存しているのは25分のみという小唄レビュー映画。フランスの映画雑誌『cine'ma 05』の付録についていたというもので(蓮實重彦氏がどこかで書いていた)、字幕はフランス語。ブルジョアな青年二人とその二人に愛される芸者の物語。それぞれの心情が言葉がなくとも伝わってくるすばらしい作品。


カルメン故郷に帰る
カルメン故郷に帰る

監督 / 木下恵介
製作 / 月森仙之助
製作総指揮 / 高村潔
脚本 / 木下恵介
撮影 / 楠田浩之
音楽 / 木下忠司
美術 / 小島基司
出演 / 高峰秀子、 小林トシ子、 坂本武、 磯野秋雄、 望月美惠子 他
1951年 / 松竹


日本で最初の総天然色映画。浅間山麓で撮影された風景もきれいだけれど、ストリッパーのリリー・カルメン(高峰秀子)が半裸で草原をごろごろと転がったり、青い空の下でストリッパー仲間の朱美と踊ったり露出度の高いはしゃぎっぷりが一番の見所。『わたしの渡世日記』で読んだ様々な事情も面白いけれど何よりもこの作品が面白い。"わたしゃモダンな町娘 ちょいと散歩にニュールック"と歌う(頭の弱い役の)デコちゃんがかわいい。


西陣の姉妹
西陣の姉妹

監督 / 吉村公三郎
脚本 / 新藤兼人
撮影 / 宮川一夫
音楽 / 伊福部昭
美術 / 小池一雄
出演 / 宮城野由美子、 三浦光子、 津村悠子、 田中絹代、 宇野重吉、日高澄子 他
1952年 / 大映


監督をよく知らなくても脚本・新藤兼人、撮影・宮川一夫、キャストに田中絹代、宇野重吉というだけでわくわくする。芸者染香役の田中絹代はもちろんきれいだけれど、次女久子役の宮城野由美子がとても美しかった。時代が移り変わり行く中、京都・西陣織の織元の衰退、離散してゆく様子を描く。老いた妻と、亡くなった主人が囲っていた芸者とのお互いすべてを受け入れたやりとりは達観した女の境地。妻と愛人の関係としてこれほど思いやりのあるすばらしい関係はない。残った敷石をはがす職人たちと、満開の桜の明暗コントラストの中で家をあとにする宮城野由美子の姿が印象的。ロケは西陣界隈で行われ、当時の様子が垣間見れるようで楽しい。宇野重吉が日本刀を持って高利貸しを追いかけるシーンの撮影は西陣のどのあたりなんだろう。


蜘蛛の街
蜘蛛の街

監督 / 鈴木英夫
製作 / 三浦信夫
原案 / 倉谷勇
脚本 / 高岩肇
撮影 / 渡辺公夫
音楽 / 伊福部昭
美術 / 木村威夫
出演 / 宇野重吉、中北千枝子、三島雅夫、根上淳、千石規子、目黒幸子、伊沢一郎 他
1950年 / 大映


鈴木英夫監督第2作目。劇団民藝の創設者で高峰秀子も尊敬していた宇野重吉主演。どうでもいいけれど、この頃の宇野重吉は北朝鮮拉致被害者の蓮池薫さんにちょっと似ている(画像は根上淳?で宇野重吉ではないのであしからず)。本人の知らない間に犯罪事件に巻き込まれる一市民の苦悩と一発逆転劇。唐突な機転と展開でサスペンスなのにいまひとつサスペンスぽくないのも1950年代の作品群らしい。


ろくでなし
ろくでなし

監督 / 吉田喜重
製作 / 今泉周男
脚本 / 吉田喜重
撮影 / 成島東一郎
美術 / 芳野尹孝
音楽 / 木下忠司
出演 / 津川雅彦、高千穂ひづる、川津祐介、山下洵一郎、安井昌二、渡辺文雄 他
1960年


木下恵介監督の助監督を勤めた吉田喜重の監督デビュー作(当時27歳!若い)。吉田喜重は厭世的な若者を決して否定しない。結局は大人の言う通りの「ろくでなし」として生きてしまう。根っこの部分で他人に依存・固執・反発してしまう男の弱さ?若者と大人、いいか悪いか、金があるかないか。『勝手にしやがれ』に似たラストシーン。けれど吉田喜重はゴダールを見る前にこのシナリオを書いたとか。詳細は謎。これが『秋津温泉』につながると思うと見甲斐がある気がする。津川雅彦も川津祐介も若くて男前。


青春残酷物語
青春残酷物語

監督 / 大島渚
製作 / 池田富雄
脚本 / 大島渚
撮影 / 川又昂
音楽 / 真鍋理一郎
美術 / 宇野耕司
編集 / 浦岡敬一
録音 / 栗田周十郎
照明 / 佐藤勇
出演 / 桑野みゆき、川津祐介、久我美子、浜村純、氏家慎子 他
1960年


当時28歳の大島渚の2作目。激動の1960年代、自分勝手に欲望のままに生きる若い男女たち。夜遊び、ケンカ、同棲、簡単なセックス、社会の壁、若さの特権、若さゆえの無知、様々な青春の軌跡。ハッピーなだけが青春ではない。歪んだ社会に歪みきれずに敗北する悲劇。アップのショット、りんごをかじる音、足音の誇張、距離感を生み客観性を増す。パワー溢れる1960年の作品。すごい。


花つみ日記
花つみ日記

監督 / 石田民三
原作 / 吉屋信子
脚本 / 鈴木紀子
撮影 / 山崎一雄
美術 / 河東安英
音楽 / 鈴木静一
出演 / 高峰秀子、清水美佐子、葦原邦子、進藤英太郎、花沢徳衛、林喜美子、御舟京子 他
1939年 / 東宝京都


当時15歳の高峰秀子が見られる大阪・宗右衛門町が舞台の乙女映画。宗右衛門町の御茶屋の娘・栄子(高峰秀子)と東京からの転校生・みつる(清水美佐子)の友情物語。なんといっても高峰秀子がほんとうに愛らしい。少女映画特有の同性愛的な感情のゆれ具合。当時の女学生達の話し方。戦前の大阪の水の都と呼ばれた街並みも美しい。デコちゃんはいいなあ。ちなみに各ロケ地は以下。宗右衛門町の御茶屋は一番格式のあった"富田屋(とんだや)"。学校はウヰルミナ女学校(現在の大阪女学院)。教会は玉造にある教会。生国魂神社、戎橋。銀橋など。


秋津温泉
秋津温泉

監督 / 吉田喜重
製作 / 白井昌夫
原作 / 藤原審爾
脚色 / 吉田喜重
企画 / 岡田茉莉子
撮影 / 成島東一郎
音楽 / 林光
美術 / 浜田辰雄
編集 / 杉原よ志 br> 録音 / 吉田庄太郎
出演 / 岡田茉莉子、長門裕之、日高澄子、殿山泰司、中村雅子、戸辺みさ江、宇野重吉、小夜福子、神山繁、小池朝雄、名古屋章 他
1962年


岡田茉莉子の出演百本記念作品。岡山県の山奥の四季の美しさと着物姿の美しい岡田茉莉子、そして撮影がすばらしい。日本にもこんな映画があったんだと感動する映像美。斜めや後ろからの人物のショット、窓に小さく映る岡田茉莉子の横顔、光の使い方、細かいことろまで行き届いた美しさ。時代に取り残されたのは女のほうで、若き日に心中をしようと言った男は世間の波にうまく乗って生きてゆく。空ろな目で彼方を見て、最期まで女として自分自身に妥協できなかった岡田茉莉子に涙が溢れる。ダメな男とダメな男から離れられない女の不倫物語は成瀬巳喜男『浮雲』とよく対比されるようだけれど、高峰秀子も岡田茉莉子もいいけれど、『秋津温泉』のほうがすごいかもしれない、と思った。まれにみる良質ですごい作品。


あこがれ
あこがれ

監督 / 恩地日出夫
製作 / 金子正且
原作 / 木下恵介
脚本 / 山田太一
撮影 / 逢沢譲
美術 / 育野重一
編集 / 岩下広一
音楽 / 武満徹
出演 / 内藤洋子、田村亮、、新珠三千代、小夜福子、加東大介、賀原夏子、小沢昭一、乙羽信子、沢村貞子 他
1966年


純愛映画。当時のアイドル・内藤洋子はたいそう地味な女の子の役を演じ、脇役を加東大介、賀原夏子、沢村貞子らがかためるのでアイドルが目立たない。新珠三千代演じる先生のものすごいおせっかいぷりは見逃せない。賀原夏子の「お父さん!口に出してしまうと取り返しのつかないことになることもありますよ!」というセリフが実は最も印象的。ラストの海辺を田村亮と走るシーンも妙に中途半端。いろいろ言いたくなるのはきっと山田太一と製作会社の間に一悶着あったような想像をかきたてるから。それにしてもただのアイドル映画でもなく武満徹は手広いと思わせる作品。褒めすぎ?


恋や恋なすな恋
恋や恋なすな恋

監督 / 内田吐夢
製作 / 大川博
脚本 / 依田義賢
企画 / 玉木潤一郎
撮影 / 吉田貞次
音楽 / 木下忠司
美術 / 鈴木則文
出演 / 大川橋蔵、瑳峨三智子、宇佐美淳也 他
1962年


人形浄瑠璃の名作『芦屋道満大内鑑』と清元の古典『保名狂乱』を素材にし、かつアニメーションやCGを組み合わせ、色彩艶やかで、ストーリー性があるにもかかわらず幻想的でアヴァンギャルドな作品。内田吐夢の世界はなんてオリジナルなんだろう。平安の時、朱雀帝の御代。天文学者阿倍保名は狐の化身に愛する榊を重ね契りをかわす。仮面、暗示、ファンタジー、色とりどりの装束に舞台劇、こんなに色んな要素を組み込んだ時代劇を見たことがない。