Japanese movie vol.5


娘・妻・母
娘・妻・母

監督 / 成瀬巳喜男
製作 / 藤本真澄
脚本 / 井手俊郎、松山善三
撮影 / 安本淳
美術 / 中古智
編集 / 大井英史
音楽 / 斎藤一郎
出演 / 三益愛子、原節子、森雅之、高峰秀子、宝田明、団令子、草笛光子、小泉博、淡路恵子、仲代達矢、杉村春子 他
1960年 / 東宝


原節子に高峰秀子の名前だけで見たくなる作品。ほかにも森雅之に仲代達矢、杉村春子と豪華キャスト。さりげなくラストに登場する笠智衆がまたいい役どころ。めずらしく中流以上の家庭を描く作品だけど、見ていてつらくなるくらいお金、お金といやらしく絡み、嫁や姑の問題、なんやかやと問題がめじろ押し、様々な立場の女の生き方を描く得意の物語。成瀬映画にはふってわいてくるようなお金はなくて、何で生計たててるのかわからないようなぼんやりした登場人物は存在しない。綿密で土台のしっかりしたリアリティある設定が単なるドラマではなく映画として成り立たせる。ちょっと思うのは原節子もいまいちパッとしない役でさらに高峰秀子も相当パッとしない役で残念。劇中出てくるホームドラマの映像が妙にうますぎで面白い。


鰯雲
鰯雲

監督 / 成瀬巳喜男
製作 / 藤本真澄、三輪礼二
原作 / 和田傳
脚本 / 橋本忍
撮影 / 玉井正夫
美術 / 中古智、園眞
編集 / 大井英史
音楽 / 斎藤一郎
出演 / 淡島千景、飯田蝶子、新珠三千代、司葉子、木村功、中村鴈治郎、小林桂樹、加東大介、杉村春子 他
1958年 / 東宝


カラーワイド版(成瀬のはじめてのカラー作品らしい)でロケが多いので、白黒成瀬映画に慣れていると正直カラーワイドに関してはあまり成功しているような気がしない。戦後農家の旧世代・新世代の考えの違いや、農業離れの実態、恋愛の自由化、いろんな要素に加え登場人物の多さと複雑な血縁関係(近親結婚じゃない?と疑問に思う点があるのだけどそのあたりはなぞ)で130分充実のつめこみぷり。伝統やしきたりにこだわる父、それに反発する子どもたち、戦争未亡人の父の妹の不倫、戦後の新しい風が農家にも吹き荒れる様子を描くのだけど、中村鴈治郎や淡島千景、新珠三千代、小林桂樹、加東大介、杉村春子 のそうそうたる顔ぶれで冴えた映画になるなー。なかでもやっぱり中村鴈治郎がうますぎる。「お金」絡みではあるけれど、いわゆるダメ男やダメ男に引っ張られる女が出て云々という成瀬得意の物語ではないのだけど、淡島千景が不倫関係に陥るシーンでは得意分野なせいか妙にそこだけねっとりしていていい感じ。成瀬版社会派ドラマ。


あらくれ
あらくれ

監督 / 成瀬巳喜男
製作 / 田中友幸
原作 / 徳田秋声『あらくれ』
脚本 / 水木洋子
撮影 / 玉井正夫
美術 / 河東安英
編集 / 大井英史
音楽 / 斎藤一郎
出演 / 高峰秀子、上原謙、森雅之、加東大介、仲代達矢、東野英治郎、岸輝子、宮口精二、中北千枝子、坂本武 他
1957年 / 東宝


成瀬巳喜男の作品に登場するいつもの高峰秀子でなく、気性の激しい、そして行動力抜群のバイタリティあふれる役どころ。いままで見た高峰秀子主演映画でいちばんあわただしい役かも?まさに"あらくれ"な人生放浪記。ちょっと男運が悪いけどほだされやすく、でも身体をはって生活していく男勝りな高峰秀子がたくましい。見ていくうちにそんな彼女がだんだん憎めなくてかわいくも見えてくるのが上手。三浦光子との大喧嘩がものすごくて小気味いい。一番愛していたのがか弱い浜屋の主人ていうのがいいなー。生活感たっぷりのドタバタ映画なのに土台がしっかりしているせいで一級品の映画になる。


妻の心
妻の心

監督 / 成瀬巳喜男
製作 / 藤本真澄 、金子正且
脚本 / 井手俊郎
撮影 / 玉井正夫
美術 / 中古智
編集 / 大井英史
音楽 / 斎藤一郎
出演 / 高峰秀子、小林桂樹、千秋実、三好栄子、中北千枝子、松山奈津子、根岸明美 他
1956年 / 東宝


東宝オールスターズ的顔ぶれの出演陣でわくわくする。お決まりの家族間のお金の工面話。アングルと間の使い方がうまくて、子どもが遊ぶゴムボールのはずむ音、声の出る犬のおもちゃ、雨音、静寂のなかにひびく余韻の残るそれらの音の使い方が上手。高峰秀子と三船敏郎の雨宿りのシーンがいい。目をあわす、そらす、ふせる、何も言わなくても二人の絡み合う心情が画面にきめ細やかに描かれる。なんでこんな女性的なシーンを男性監督が撮れる(しかもすばらしく美しく)のか本当になぞ。夫役・小林桂樹も地味なのに憎めない素直な男性を演じていて好感。たぶん器用な俳優さんなんだと思う。"キッチンはるな"の人が良く陽気な兄妹は加東大介と沢村貞子。後で知ったのだけど、この二人は実の兄妹だということでそんなお楽しみもあったんだなーとまた楽しくなる。ラスト、夫婦の心のわだかまりが自然とほぐれていくのが絶妙で美しく気持ちがよい。ああ、こういうのが夫婦なんだなあと思う。いい映画だなー。


あにいもうと
あにいもうと

監督 / 成瀬巳喜男
企画 / 三浦信夫
原作 / 室生犀星
脚本 / 水木洋子
撮影 / 峰重義
美術 / 仲美喜雄
音楽 / 斎藤一郎
出演 / 京マチ子、森雅之、久我美子、堀雄二、船越英二、山本礼三郎、浦辺粂子 他
1953年 / 大映


グラマラスな肉体派・京マチ子。そもそも外観がすでにエロいので浴衣をはだけてぐったり寝ている冒頭の姿でスレた役どころにすっかりはまる。うちわで蚊をはらったり、足首をかいたりする何気ないネコみたいな京マチ子のやわらかい仕草と、久我美子のお堅い動きの対比が面白いし、上手。単なる兄妹愛というより微妙な心情の愛情を描く。家族みんなでほおばる巨大なぼたもちがおいしそう。久我美子を見て溝口健二『噂の女』のモダンな娘役や同じく溝口健二『新・平家物語』の可憐な娘役を思い出してなんだか印象深い女優さんだなーと思ったのだけど、当の久我美子の印象というか、久我美子を女優としてその役として印象深く引き上げた監督の技なのかも、とあとから思った。『稲妻』と同じく歩いていく後ろ姿で終わるラストが気持ちのいい余韻を残す。オンナは強い。


稲妻
稲妻

監督 / 成瀬巳喜男
企画 / 根岸省三
原作 / 林芙美子
脚本 / 田中澄江
撮影 / 峰重義
美術 / 仲美喜雄
音楽 / 斎藤一郎
出演 / 高峰秀子、三浦光子、村田知英子、丸山修、浦辺粂子 他
1952年 / 大映


2人の姉と1人の兄のいる末っ子の清子(高峰秀子)。しかし4人の兄弟はみんな父親が違う異父兄弟。厄介ごとが厄介ごとを招く、ささやかなしあわせとは縁遠い家族の様子を描く。バスガイドをする清子とともに銀座の大通りが映る場面なんかは当時の銀座を知るわけでもないのに印象に残るシーンだと思う。成瀬巳喜男のすごさはこういう話を安っぽくさせないところで、言わなくていいところは何も言わせないし、きちんと抑制して描き、登場人物すべてが活きていて、そしてなにより映画の構図が綿密で美しいこと。4人兄弟の母親役・浦辺粂子のリアルすぎる演技に脱帽。生活の貧しさやお金に対する執着、そして始終口から出るしみったれた文句や愚痴。高峰秀子を見ていても浦辺粂子に目がいくくらいの仕方のない母親ぶり。母と娘のやりとりに胸があたたかくなるラストなのに、物語自体、何の解決もされていなくて、そんなこともあった日々、という観点で女性視点で丁寧に描く成瀬映画はやっぱり面白いし好き。


夫婦善哉
夫婦善哉

監督 / 豊田四郎
製作 / 佐藤一郎
原作 / 織田作之助「夫婦善哉」
脚本 / 八住利雄
撮影 / 三浦光雄
美術 / 伊藤憙朔
編集 / 岩下広一
音楽 / 團伊玖磨
出演 / 森繁久彌、淡島千景、司葉子、浪花千栄子、小堀誠、田村楽太、三好栄子、森川佳子、万代峰子、上田吉二郎 他
1955年 / 東宝


船場の維康商店の放蕩息子柳吉と芸者の蝶子の泣いたり笑ったりの憎めない大阪人情劇。『新・夫婦善哉』(1963)を先に見てしまっているのでその以前の話という感じでやっぱり楽しい。甲斐性なしの森繁久彌の愛嬌のある憎めなさ、そんな男が大好きで怒ったり泣いたりすねたりする淡島千景のかわいらしさ、その二人のテンポのいい絶妙な粋なやりとりが心地いい。ダメ男をやらせたら森繁久彌を差し置いてほかにないくらいの演技力。アドリブ多いのかな。川島雄三よりからっとした感じなのは森繁久彌が演じるせいかも。森繁久彌のたたみ掛ける様なエンジン全開のリアル大阪弁に流暢な大阪弁で応える淡島千景が大阪でなく東京出身というのが驚き。「おっさん、はよ牛蒡あげてんかいナ」「そうだっか」「ほんまによろしうおまっせ」等、単語みたいな言葉しか出てこないのがもどかしいけれど、上品で豊かな船場言葉はとても好き。パワーがあってたくましい愛すべき大阪人。せんば自由軒のライスカレー、法善寺横町の風景、大阪らしいカットも楽しい。そして楽しいだけでなく映像も美しいところがまた憎い。


鴛鴦(おしどり)歌合戦
鴛鴦(おしどり)歌合戦

監督 / マキノ正博
脚本 / 江戸川浩二
撮影 / 宮川一夫
編集 / 宮本信夫
音楽指揮 / 大久保徳二郎
助監督 / 羽田守久
出演 / 片岡千恵蔵、市川春代、志村喬、遠山満、深水藤子、ディック・ミネ、香川良介、服部富子 他
1939年 / 日活


愉快なオペレッタ時代劇。戦前の日本にこんなすばらしい完成度の高いオペレッタがあったとは驚き。劇中の普通の台詞まわしさえ歌う序章のようなリズム感。撮影は宮川一夫。モノクロなのにものすごくカラフルな色、ちょうど『カルメン故郷に帰る』みたいな総天然色な色彩を感じる。オペレッタの楽しさや映画の楽しさを心から味わえる作品。オペレッタやミュージカルで歌が心に残るのはいい映画の条件だよね。


青い山脈
青い山脈、続青い山脈

監督 / 今井正
製作 / 藤本真澄
原作 / 石坂洋次郎「青い山脈」
脚本 / 今井正、井手俊郎
撮影 / 中井朝一
美術 / 松山崇
音楽 / 服部良一
出演 / 原節子、池部良、伊豆肇、木暮実千代、龍崎一郎、若山セツコ、杉葉子 他
1949年 / 東宝


まだまだ封建的な地方の女学校に赴任してきた美人の女教師役に原節子。原節子のまさに映画女優という美しさにくらくらする。時代を反映する清く美しい青春映画。とにかく登場する女性たちの仕草や言葉のなんと美しいこと。現代の私たちが見て反省すべき点が多々あり。高校生役の池部良は当時30をとっくに過ぎていたようでどうも老けすぎなのが気になった。女性の社会の進出またはその兆候を明るく真摯なまなざしで描く。ところで杉葉子が水着で寝そべっているシーンでは胸パッドもなくあからさまに乳首がわかるのだけどこれは意図的?


新・夫婦善哉
新・夫婦善哉

監督 / 豊田四郎
製作 / 佐藤一郎、金原文雄
原作 / 織田作之助、上司小剣
脚本 / 八住利雄
撮影 / 岡崎宏三
美術 / 伊藤憙朔
音楽 / 團伊玖磨
助監督 / 平山晃生
出演 / 森繁久彌、淡島千景、淡路恵子、浪花千栄子、小池朝雄、山茶花究、八千草薫 他
1963年 / 東宝


『夫婦善哉』(豊田四郎)の後日譚。船場にある維康商店の道楽者の維康柳吉。演じる森繁久彌が神業的にうまい。浪花女・淡島千景のかっこよさと人情味もたまらない。掛け合いの面白さ、絶妙な間に興奮。多分柳吉は森繁久彌しかいないし、蝶子は淡島千景しかいないと思わせる。古今東西、ダメ男に尽くす女がいて、『夫婦善哉』の柳吉と蝶子は中年にもかかわらずかわいくて愛しく思える。


雪国
雪国

監督 / 豊田四郎
製作 / 佐藤一郎
原作 / 川端康成 (『雪国』)
脚本 / 八住利雄
撮影 / 安本淳
美術 / 伊藤憙朔、園眞
音楽: 團伊玖磨
出演 / 池部良、岸恵子、八千草薫、森繁久彌、加東大介、久保明、田中春男、中村彰、浪花千栄子 他
1957年 / 東宝


川端康成の同名小説の映画化第1作目。池部良、岸恵子主演。舞台は越後湯沢の温泉町。画家・島村と芸妓・駒子の悲しく切ない不倫物語。次第に愛に狂う駒子の様子が岸恵子によって愛らしくかわいくやらしく見える。島村のやさ男ぶりも池部良の男前ならでは。「この指が覚えていたよ」 と池部良が言い、岸恵子が池部良の指をやんわりくわえる仕草がなんとも淫らでやらしくていい。直接的な表現がないのにそこかしこにやらしい雰囲気を感じる。


キクとイサム
キクとイサム

監督 / 今井正
製作 / 角正太郎、伊藤武郎
企画 / 市川喜一
脚本 / 水木洋子
撮影 / 中尾駿一郎
美術 / 江口準次
音楽 / 大木正夫
録音 / 安恵重遠
出演 / 高橋エミ子、奥の山ジョージ、北林谷栄、三国連太郎、織田政雄、多々良純、三井弘次 他
1959年 / 松竹


戦後1950年代後半の会津の小さな村。黒人の父を持つハーフの姉弟。母は死に父は行方知れずで祖母と暮らしている。差別という重いテーマでありながら子どもが必死で考え生きていく姿のリアリティは、単なる老人と子どもの登場するお涙頂戴ものレベルではなく、逞しさや本当の強さを感じるすばらしい作品。深い愛情とユーモアのある名作で傑作。ほんとに泣けた。


河内カルメン
河内カルメン

監督 / 鈴木清順
企画 / 坂上静翁
原作 / 今東光
脚本 / 三木克巳
撮影 / 峰重義
美術 / 木村威夫
音楽 / 小杉太一郎
出演 / 野川由美子、和田浩治、川地民夫、宮城千賀子、藤るり子、松尾嘉代、楠侑子 他
1966年 / 日活


『殺しの烙印』なんかと較べると、この映画はちょっと狂ってるけど大体まともで軽快に話が進んでいくので見やすい。田舎娘が女としてどんどんのし上がっていくエネルギーあふれるストーリー。こういう雰囲気を作り出せるだけでも魅力的。鈴木清順は野性味があってガッツもあってかつキュートな女性を見つけてくるのが上手なのかも。野川由美子がいい。


肉体の門
肉体の門

監督 / 鈴木清順
企画 / 岩井金男
原作 / 田村泰次郎
脚本 / 棚田吾郎
撮影 / 峰重義
美術 / 木村威夫
音楽 / 山本直純
出演 / 宍戸錠、野川由美子、河西郁子、松尾嘉代、石井富子、富永美沙子、野呂圭介、玉川伊佐男、和田浩治 他
1964年 / 日活


戦後の東京。レンジャー部隊のような野性味あふれる5人の娼婦と宍戸錠演じる骨太なイケメン男1人。泥まみれで汗がほどばしる映画のなかの熱気がこちらにもむんむん伝わる。


かちかち山
アニメーションミュージカル 新説おとぎばなし「かちかち山」「したきりすずめ」「ももたろう」

アニメーション / 久里洋二、和田誠、中原収一ほか
ミュージカルの詩 / 川崎洋、茨木のり子、高橋睦郎
曲 / 小林秀雄、八木正生、山本直純
歌 / 友竹正則、世良明芳、宮原徳子、小海智子、月まち子
合唱 / ボニー・ジャックス、スリー・グレイセス、ボーカル・ショップ、東京混声合唱団
伴奏 / プロコルデ室内楽団、八木正生クィンテット、新室内楽協会
1963年


その名の通り、日本的なストーリーとアニメーションとミュージカルを合体させててなんか見たことない面白さで楽しい。「かちかち山」のキャラクターがかわいい。


喜びも悲しみも幾歳月
喜びも悲しみも幾歳月

監督 / 木下恵介
原作 / 木下恵介
脚本 / 木下恵介
撮影 / 楠田浩之
美術 / 伊藤憙朔、梅田千代夫
音楽 / 木下忠司
出演 / 佐田啓二、高峰秀子、有沢正子、中村賀津雄、桂木洋子、三井弘次 他
1957年 / 松竹


佐田啓二と高峰秀子扮する夫婦は全国を巡る灯台守夫婦の人生記。日本の四季や風景の美しいこと。高峰秀子がやっぱり好きで、あの愛嬌のあるデコちゃん節のしゃべり方を聞くとうれしくなってしまう。佐田啓二も口下手で実直で優しい旦那さまを演じていて好感。子どもが巣立ち、再びふたりの生活になった老いた夫婦の後ろ姿のラストシーン、何を話してるのか声は聞こえないけれど、ほがらかで優しい気持ちになれる美しいシーンだと思った。


眠狂四郎 勝負
眠狂四郎 勝負

監督 / 三隅研次
企画 / 辻久一
原作 / 柴田錬三郎
脚本 / 星川清司
撮影 / 牧浦地志
美術 / 内藤昭
音楽 / 斎藤一郎
出演 / 市川雷蔵、加藤嘉、藤村志保、高田美和、久保菜穂子、成田純一郎 他
1964年 / 大映


下段に構えた剣が一周するまでにこれまで生きていた相手はいない(今回敵の台詞によってはじめて知った)という超スゴイ円月殺法はいまいちその脅威さが分からず、何でお金を得ているのかとか、結構簡単に女の人を手篭めにしたりとか、その漫画みたいな善悪入り混じる狂四郎の設定が楽しい。でもそれだけじゃなくて、采女の家で毒をもられるシーンの陰影のかっこよさは抜群で、今回も各シーンのふすまのモダンな柄に釘付け。


眠狂四郎 無頼剣
眠狂四郎 無頼剣

監督 / 三隅研次
助監督 / 友枝稔議
企画 / 奥田久司
原作 / 柴田錬三郎
脚本 / 伊藤大輔
撮影 / 牧浦地志
美術 / 下石坂成典
編集 / 菅沼完二
音楽 / 伊福部昭
出演 / 市川雷蔵、天知茂、藤村志保、工藤堅太郎、島田竜三、遠藤辰雄 他
1966年 / 大映


思わずチャンバラ映画だということを忘れてしまうくらいかっこいい映像。三隅研次の眠狂四郎シリーズを2本見て、三隅研次だからこういう眠狂四郎が撮れるんじゃないかと思った。カメラで字を追う、そんなことすら普通になったりしないかっこよさ。三隅研次の撮る時代劇は面白い。


眠狂四郎 炎情剣
眠狂四郎 炎情剣

監督 / 三隅研次
助監督 / 友枝稔議
企画 / 財前定生
原作 / 柴田錬三郎
脚本 / 星川清司
撮影 / 森田富士郎
美術 / 内藤昭
編集 / 菅沼完二
音楽 / 斎藤一郎
出演 / 市川雷蔵、中村玉緒、姿美千子、中原早苗、西村晃、島田竜三、水原浩一 他
1965年 / 大映


はじめて見た眠狂四郎シリーズ。眠狂四郎自体がが面白いのか三隅研次の力なのか、思ったよりかなり楽しんだ。三隅研次の撮る映像がものすごく映画的。市川雷蔵と中村玉緒を画面の端と端に配置するショットが抜群。そしてあらゆる襖の柄がすごく凝っていて相当モダンなのに驚く。やっぱり三隅研次の力?


剣鬼
剣鬼

監督 / 三隅研次
製作 / 田辺満
脚本 / 星川清司
原作 / 柴田錬三郎
撮影 / 牧浦地志
美術 / 下石坂成典
音楽 / 鏑木創
出演 / 市川雷蔵、佐藤慶、姿美千子、睦五郎、工藤堅太郎、戸浦六宏、五味龍太郎、内田朝雄 他
1965年 / 大映


「剣三部作」と言われる作品群の第3作目。市川雷蔵主演。いわゆるチャンバラ映画なのに、この色彩感覚はとても面白い。花造りと暗殺者としての才能と両方をあわせ持つ斑平が自らが育てた花畑のなかで人を切り倒していく姿が矛盾をはらんでいるようで悲壮感が漂い美しい。


フラガール
フラガール

監督 / 李相日
製作 / 李鳳宇、河合洋、細野義朗
プロデュース / 石原仁美
企画 / 石原仁美
脚本 / 李相日、羽原大介
撮影 / 山本英夫
美術 / 種田陽平
編集 / 今井剛
音楽 / ジェイク・シマブクロ
出演 / 松雪泰子、豊川悦司、蒼井優、山崎静代、池津祥子、徳永えり、三宅弘城、寺島進 他
2006年


昭和40年・福島県いわき市。炭坑の町の再生のために誕生した"常磐ハワイアンセンター"。松雪泰子も蒼井優も、さらにはしずちゃんも予想以上に良くて泣かされっぱなし。フラのダンスシーンがとてもいい。細かい設定が分からないこと自体は非常にどうでもよいことで、何がどうというより、単純に面白い映画だと思った。


淑女は何を忘れたか
淑女は何を忘れたか

監督 / 小津安二郎
脚本 / 伏見晁、ゼームス・槇(小津安二郎)
撮影 / 茂原英雄、厚田雄春
美術 / 浜田辰雄
衣裳 / 斎藤耐三
編集 / 原研吉
音楽 / 伊藤宣二
演奏 / 松竹大船楽団
出演 / 栗島すみ子、斎藤達雄、桑野通子、佐野周二、坂本武、飯田蝶子、上原謙、葉山正雄 他
1937年 / 松竹


栗島すみ子、吉川満子、飯田蝶子の女3人ならではの井戸端会議の楽しさ、桑野通子の奔放で小生意気な面白さ、帽子にトレンチコートに身をつつんだ格好良さ、見ていて素直に楽しい素敵で軽妙でお洒落な喜劇。「ばか、かば」かわいい台詞の数々。シンプルなストーリーにひとりひとりの登場人物が際立つから面白い。今も昔も変わらない夫婦の情景に幸福な気分になる。上手な映画。


晩春
晩春

監督 / 小津安二郎
製作 / 山本武
原作 / 広津和郎
脚本 / 野田高梧、小津安二郎
撮影 / 厚田雄春
美術 / 浜田辰雄
衣裳 / 鈴木文次郎
編集 / 浜村義康
音楽 / 伊藤宣二
出演 / 笠智衆、原節子、月丘夢路、杉村春子、青木放屁、宇佐美淳、三宅邦子、三島雅夫 他
1949年 / 松竹


笠智衆と原節子の共演する紀子三部作の第一作目。閑静な北鎌倉という舞台と、父と娘の静かで幸せな日常生活という組み合わせが絶妙。ローアングルで撮影される廊下から台所へ直線に抜ける視線、縁側のある部屋で笠智衆が物思いにふけるシーンは何度見ても好き。娘を思う父と、父を思う娘の微妙な心理描写。娘を嫁がせ、ひとり寂しく林檎を剥く父のラストシーンに胸がしめつけられる。見終わってからなんと穏やかな気分になれる映画だろう。


麦秋
麦秋

監督 / 小津安二郎
製作 / 山本武
脚本 / 野田高梧、小津安二郎
撮影 / 厚田雄春
美術 / 浜田辰雄
衣裳 / 斎藤耐三
編集 / 浜村義康
音楽 / 伊藤宣二
出演 / 原節子、笠智衆、淡島千景、三宅邦子、菅井一郎、東山千栄子、杉村春子、二本柳寛 他
1951年 / 松竹


原節子演じる独身28歳の娘・紀子の結婚話を中心に、それに気をもむ家族というストーリー。『東京物語』で年老いた義父だった笠智衆はここでは兄役。何気ないやりとりやカメラの配置が抜群。母親役・東山千栄子のふくよかさはやさしさがにじみ出ていて大好き。これ以上望んではいけない、いまはなんてしあわせなんだろう、公園で空に舞う風船を見上げながら話す父親と母親。いつしか子どもたちは風船のようにひとりで勝手に旅立っていく。


東京物語
東京物語

監督 / 小津安二郎
製作 / 山本武
脚本 / 野田高梧、小津安二郎
音楽 / 斎藤高順
撮影 / 厚田雄春
編集 / 浜村義康
出演 / 笠智衆、東山千栄子、原節子、杉村春子、山村聡、三宅邦子、香川京子、東野英治郎、中村伸郎、大坂志郎 他
1953年 / 松竹


尾道に住む年老いた夫婦(笠智衆と東山千栄子)が東京で暮らす子どもたちに会いに行く。親と子どもの関係、家族の絆、年老いること、様々なテーマを静かに絡ませ丁寧に描かれる物語。次男の未亡人役の原節子のつつましやかな物腰、次女役の香川京子の清楚で実直で素直な態度が美しい。笠智衆と東山千栄子の間でゆったり流れる時間、二人のやりとりがなんとも奥深い。尾道や東京の街並み、瀬戸内海の風景。当たり前で日常の出来事のなかのひとつ。とてもいい映画。


永遠の人
永遠の人

監督 / 木下恵介
製作 / 月森仙之助、木下恵介
脚本 / 木下恵介
撮影 / 楠田浩之
音楽 / 木下忠司
美術 / 梅田千代夫
録音 / 大野久男
照明 / 豊島良三
出演 / 高峰秀子、佐田啓二、仲代達矢、石浜朗、乙羽信子 他
1961年 / 松竹


九州・阿蘇山を舞台にした夫婦の愛憎劇。不本意な愛のない結婚をし何十年もの心の葛藤を繰り広げるさだ子(高峰秀子)と平兵衛(仲代達矢)。常に背後にある広大な阿蘇山の風景がいい。互いに「許し」あえる瞬間が感動的。若かりし田村正和も息子役として出演。


からっ風野郎
からっ風野郎

監督 / 増村保造
製作 / 永田雅一
企画 / 藤井浩明、榎本昌治
脚本 / 菊島隆三、安藤日出男
撮影 / 村井博
美術 / 渡辺竹三郎
編集 / 中静達治
音楽 / 塚原哲夫
出演 / 三島由紀夫、若尾文子、船越英二、川崎敬三、志村喬、水谷良重、小野道子 他
1960年 / 大映


チンピラに扮した三島由紀夫。女は黙ってオレの言うこと聞いてりゃいいんだ的な分かりやすいキャラクター&人情劇。一貫性のある悪役とか時代劇を思わせる単純な痛快さは今見ると新鮮かも。ギンギンにカッコつけて太すぎる眉の三島由紀夫の存在感は周りの引き立てかそれとも浮いてるのか非常に微妙なところだけどそれはそれでキャラクターの一つになってるのは増村保造がうまいから?ラストのエレベーターでのすさまじいナルシストな死にっぷりは松田優作のジーパン刑事殉職シーンに影響を与えてると聞いたけどまさに元祖。どうでもいいけど三島由紀夫が「オレは何人も女を知ってるが・・・」なんてセリフや、若尾文子をぶったたいて押し倒したりとか、ゲイなのに・・・とかちょっと思ったりした。


暖簾
暖簾(のれん)

監督 / 川島雄三
製作 / 滝村和男
原作 / 山崎豊子
脚本 / 八住利雄、川島雄三
撮影 / 岡崎宏三
美術 / 小島基司
音楽 / 真鍋理一郎
照明 / 下村一夫
出演 / 森繁久弥、山田五十鈴、中村鴈治郎、乙羽信子、中村メイ子、浪花千栄子、山茶花究、頭師孝雄、小原新二、環三千世 他
1958年 / 東宝


大阪の昆布問屋の父子二代の物語。大阪の老舗昆布屋である小倉屋をモデルにした山崎豊子の小説が原作。何しろ掛け合いがものすごく面白い。この大阪の商人の掛け合いがなければ作品が成り立たないくらいの勢い。川島雄三のこういうところがすごく好き。親子二役の森繁久彌も女房役の山田五十鈴もすばらしくうまい。夫婦の初夜に「何事堪忍」とくちびるをかみしめる主人公に思わず笑う。


風船
風船

監督 / 川島雄三
製作 / 山本武
助監督 / 今村昌平
脚本 / 川島雄三、今村昌平
原作 / 大仏次郎
撮影 / 高村倉太郎
音楽 / 黛敏郎
美術 / 中村公彦
衣装デザイン / 森英恵
配役 / 森雅之、三橋達也、北原三枝、左幸子、芦川いづみ、珠三千代、二本柳寛 他
1956年 / 日活


ゆらゆらと揺れて気の向くままの風船は、脇役の美しいシャンソン歌手役の北原三枝であったように思えた。タイトルと主人公がかみ合わない映画でありながら脇役の人生は川島雄三の得意な、流れ流れていく人間の性を描いている。元天才画伯、いまは実業家役の森雅之が木屋町のバーに勤めるるい子の中に何を見て何を求めていたのか。


わが町
わが町

監督 / 川島雄三
製作 / 高木雅行
助監督 / 松尾昭典、今村昌平
脚本 / 八住利雄
原作 / 織田作之助
撮影 / 高村倉太郎
音楽 / 真鍋理一郎
美術 / 中村公彦
出演 / 辰巳柳太郎、南田洋子、大坂志郎、殿山泰司、高友子、北林谷栄、小沢昭一 他
1956年 / 日活


大阪・天王寺を舞台にした織田作之助の同名小説の映画化。明治、大正、昭和と時代は移り変わって大阪の下町に住む佐渡島他吉の生涯を描く。大阪に住んでいるせいもあって昔の大阪の庶民の生活や、後半重要なシーンになる「四ツ橋沿いの"電気科学館のプラネタリウム"」は現在の中之島にある大阪市立科学館のプラネタリウムの前身だったりして、なんとも身近な雰囲気を感じて面白く楽しい。破天荒で明るく愛すべき人柄の佐渡島他吉を辰巳柳太郎が愛嬌たっぷりに熱演。青森県出身の川島雄三がこうして大阪下町人情物語をとってしまえるのが少し不思議。


洲崎パラダイス 赤信号
洲崎パラダイス 赤信号

監督 / 川島雄三
製作 / 坂上静翁
助監督 / 今村昌平
原作 / 芝木好子
脚本 / 井手俊郎、寺田信義
撮影 / 高村倉太郎
美術 / 中村公彦
編集 / 中村正
音楽 / 真鍋理一郎
出演 / 新珠三千代、三橋達也、轟夕起子、植村謙二郎、平沼徹、松本薫 他
1956年 / 日活


東京の遊郭「洲崎パラダイス」の入り口となる橋の手前の飲み屋が主な舞台。洲崎や神田のいわゆる絵に描いたような砂埃の昭和の風景。川の流れのようにふらりふらりと渡り歩く情けない男と女の人生模様。単なるダメ人生を描いているわけではなく、もっと本質的・根本的な人生の無常ついてを自然に物語るのがすごい。パラダイス手前にいながら橋の向こうのパラダイスの中は一切見せないのも面白い。


くもとちゅうりっぷ
くもとちゅうりっぷ

演出・脚本・撮影 / 政岡憲三
企画 / 熊木喜一郎
原作・作詞 / 横山美智子
撮影補助 / 本庄吉雄
動画 / 桑田良太郎、熊川正雄、土井研二、山本三郎、木村阿弥子
背景 / 村上博椒、岡夲庚
編集 / 吉村祥
作曲・指揮 / 弘田竜太郎
演奏 / 松竹交響楽団
歌 / 村尾謙郎、杉山美子
録音 / 東亜発声株式会社
1943年 / 松竹動画研究所


大戦中に製作されたという16分の白黒アニメ。(当時の背景を考慮すると)政治性があるアニメーションでありながら、歌いながら楽しそうに踊るてんとう虫の女の子を見ているとそんなことを忘れてしまう愛らしさがいっぱいで、激しい風や雨の嵐の迫力は1943年という時代を考えるとすごい技術。政岡憲三設計(!)によるマルチプレーンカメラによって撮影されたという、この流れるような美しいたった16分のアニメーション。すばらしい。


嵐が丘
嵐が丘

監督 / 吉田喜重
製作・企画 / 高丘季昭
助監督 / 中島俊彦
脚本 / 吉田喜重
原作 / エミリー・ブロンテ
撮影 / 林淳一郎
音楽 / 武満徹
美術 / 村木与四郎
出演 / 松田優作、田中裕子、名高達郎、石田えり、萩原流行、伊東景衣子、志垣太郎 他
1988年 / 東宝


吉田喜重がバタイユの「エミリー・ブロンテ論」に触発され、「嵐が丘」(エミリー・ブロンテ作)の舞台を中世の日本に置き換えたという作品。火の神を祭る山部一族に拾われた少年と山部の娘との運命の愛。死がふたりを別つとも男が鬼になろうともふたりの情念は消えない。松田優作の内に秘めた抑えた演技と、田中裕子の芯の強い女の強さを表した演技がすばらしい。下界と隔絶した、完全に非日常の世界を作り出したからこそ見える美学や真実。