Japanese movie vol.7


素晴らしき日曜日
素晴らしき日曜日

監督 / 黒澤明
製作 / 本木荘二郎
脚本 / 植草圭之助
撮影 / 中井朝一
特殊効果 / 東宝特殊技術部
美術 / 久保一雄
編集 / 今泉善珠
音楽 / 服部正
音響効果 / 三縄一郎
録音 / 安恵重遠
出演 / 沼崎勲、中北千枝子、渡辺篤、中村是好、内海突破、並木一路 他
1947年 / 東宝


うら若き中北千枝子がまんまるこけし顔で初々しい。成瀬巳喜男作品に脇役としてよく出演してるけど、主演で見たのは初。

戦後間もない昭和22年の東京は焼野原がそこかしこにある風景。雄造と昌子は貧しい恋人同士。手持ちのお金はたった35円の日曜日をどう過ごすかをドキュメンタリーのように撮った作品。ロケシーンはヌーヴェルヴァーグ風でなかなかすごい。ブランコシーンはのちの『生きる』にも繋がる良シーン。上がったり下がったりするブランコは人生そのもの。日比谷野外音楽堂でふたりの聞けなかった『未完成交響曲』が流れる中、突如画面の前にいる観客に向かって演劇調子で語りかけ盛り上げる終盤がいいなー。時代を考えると相当前衛的。


わが青春に悔なし
わが青春に悔なし

監督 / 黒澤明
製作 / 松崎啓次
脚本 / 久板栄二郎
撮影 / 中井朝一
美術 / 北川恵笥
編集 / 後藤敏男
音楽 / 服部正
出演 / 原節子、藤田進、大河内伝次郎、杉村春子、三好栄子、河野秋武、高堂国典、志村喬 他
1946年 / 東宝


原節子の黒澤映画デビュー作品、そして黒澤明戦後はじめての作品。京大・滝川事件とゾルゲ・スパイ事件を下地に、女性側(運動家の妻という立場)から深い愛情を描いた物語。妻という立場を主軸に置いているせいか、野毛がどういう運動をしていたのかほとんど分からないんだけどそれでいいのかも。令嬢から農家の嫁になって泥だらけになって農作業をする力強い生命力あふれた女性に変貌していく様がすごい。やっぱり原節子はど根性が似合うわー。

前半部分、ドアの前で思い悩む原節子の短いショットをつなげる手法が意外でおもしろいです。サイレント映画?!


お嬢さん乾杯!
お嬢さん乾杯!

監督 / 木下恵介
製作 / 小出孝
脚本 / 新藤兼人
撮影 / 楠田浩之
音楽 / 木下忠司
出演 / 原節子、佐野周二、青山杉作、東山千栄子、佐田啓二、村瀬幸子 他
1949年 / 松竹


没落した華族の令嬢・原節子と自動車修理業で成功した成金の若者・佐野周二の恋愛コメディ。この映画で原節子があわてて駆け込んだ戸口でコケるシーンが意外すぎておもしろい。

『安城家の舞踏會』(吉村公三郎/1947/松竹)でも華族の令嬢を演じた原節子。お嬢様役が似合わないわけじゃないけど、どうも骨格のせいか骨太に見えて小津や成瀬の描いたつつましやかな生活を送る貞淑な女性役の方が好き。

戦後4,5年のうちに制作されたこのコメディは映画の先に光が見えるのがとても好感が持てます。木下恵介の品の良さは好きだなー。


一番美しく
一番美しく

監督 / 黒澤明
製作 / 宇佐美仁
企画 / 伊藤基彦
脚本 / 黒澤明
撮影 / 小原譲治
美術 / 安部輝明
音楽 / 鈴木静一
出演 / 志村喬、清川荘司、菅井一郎、入江たか子、矢口陽子、谷間小百合、尾崎幸子 他
1944年 / 社団法人映画配給社


1944年、兵器になるレンズ工場に配属された女子挺身隊(じょしていしんたい)の物語。監督第2作品目。黒澤映画の男らしい映画をことごとく見ていないせいか「男らしい」映画以外の映画も別に偏見なく観られました。

終戦前に作られた作品なだけあって冒頭はプロパガンダ的なんだけど、見ていくにしたがってそんなことはすっかり忘れてしまうくらいタイトル通り純粋に美しい映画でした。時代が戦争中で舞台が軍需工場だったというだけで、当時の女性のひたむきさや献身さ、彼女らを気遣う周りの人々(工場長も温かい)、男性についてはほとんど描かれず戦場のシーンもない。ただ女性だけを描き、責任感や他人を思いやることをひたすら描きます。ひたすらひたすら描くためにそれがあざとさよりもどんどん純粋になっていく、これが黒澤明の力?黒澤流?

深夜にひとり工場で自分を奮い立たせるために歌を歌いながら仕事をする渡邉さんの姿を映すシーンは美しい。そのあと、起きて待っていて労いの言葉をかける工場長、という追い打ちで泣ける。逆に反戦映画なんじゃないかとも思うけどそれは謎。


女性の勝利
女性の勝利

監督 / 溝口健二
脚本 / 野田高梧、新藤兼人
撮影 / 生方敏夫
音楽 / 浅井挙曄
出演 / 田中絹代、桑野通子、徳大寺伸、松本克平、高橋豊子、三浦光子、内村栄子、若水絹子 他
1946年 / 松竹


田中絹代はやっぱり「楢山節考」や「おかあさん」みたいな役柄が似合うし、見たあともそう思うんだけど、女性の精神的解放を声高に叫ぶ弁護士役というのは最初まったくしっくりこないのにラスト近くの大演説大会ではしっくりこなかったのも忘れてしまうくらい引き込まれてしまいました。

「女性の地位向上」という戦後の時代の流れを汲んだ作品であるけど、田中絹代の言ってることはいまでもフェミニストが言ってることと大差なくて、病気の夫を亡くし年老いた母が取り残され困窮にあえぎ暗澹たる将来を悲観した母親が嬰児を抱きしめて窒息死させてしまう、という事件は現代でもありえる事件。嬰児を殺してしまった母親(三浦光子)が右往左往したり田中絹代の前で号泣したりするあたりの描き方は溝口健二らしいなーと思えます。

裁判中に検事から言い渡される、母性の欠如、母親は常に子どもを命にかえて守らねばならぬという世間の道徳観念、母親縛りの言葉の数々も現代と変わらない。いま自分が幼児たちの母親であるため、田中絹代裁判官の反論は昔から女性がずっと心の中で叫び続けていた代弁であり、溝口健二が女性でも母親でもないのに田中絹代に言わせたこの女性視点の台詞の数々に感心を超えて感動しました。1946年という戦後すぐにこんな力のある(田中絹代という女優を前面に立てて)フェミニズム映画を作ったという事実もすごい。ここまではっきりフェミ全開の映画もなかなかないのでは?


転校生
転校生

監督 / 大林宣彦
製作 / 佐々木史朗
プロデューサー / 森岡道夫、大林恭子、多賀祥介
原作 / 山中恒『おれがあいつであいつがおれで』
脚本 / 剣持亘
撮影 / 阪本善尚
音楽 / 林昌平
助監督 / 内藤忠司
出演 / 尾美としのり、小林聡美、佐藤允、樹木希林、宍戸錠、入江若葉、志穂美悦子、山中康仁、中川勝彦 他
1982年 / 松竹


山中恒『おれがあいつであいつがおれで』を尾道を舞台に映画化。小学生のときに読書感想文を書いた記憶があるわー。

小林聡美当時17歳の体当たり演技は確かにすごいし、尾美としのりの演技もすばらしい。一夫が一美に見えるし、一美が一夫に見える!美女美男でもない小林聡美と尾美としのり、いっぺんにふたりのファンになり、尾道の路地や階段がほんとによく描かれていて、尾道にも行きたくなります。

本の設定よりも年齢が高めなため性的要素が格段に上がってるのにこのさわやかさ。ラスト、一夫の8mmカメラに映る一美。追いかけるのをやめ、来た道をスキップして戻りまた振り返る。このラストシーンのインパクトは絶大。


愛染かつら 総集編
愛染かつら 総集編

監督 / 野村浩将
原作 / 川口松太郎
脚色 / 野田高梧
撮影 / 高橋通夫
作詞 / 西條八十
作曲 / 万城目正、竹岡信幸
音楽 / 万城目正
歌 / 霧島昇、ミス・コロンビア
出演 / 上原謙、田中絹代、藤野秀夫、葛城文子、森川まさみ、河村黎吉、吉川満子、小島和子、坂本武 他
1938-1939年


当時、社会的現象を巻き起こしたという『愛染かつら』シリーズ。"前編""後編""続編""完結編"とあったものをフィルムがすべて現存しておらずいま見れるのはつなぎ合わせた総集編のみ。実は完結編のラストは中国が舞台。総集編のラストはどの部分なのか不明だけど白衣の天使の歌手デビューというところで終わっています。フィルムがいかにズタズタだったかということ、よくここまで上手につなぎ合わせたなと感心。

津村病院のボンボン(上原謙)と子どもがいることを隠して働く看護師(田中絹代)との恋を描くメロドラマ。看護仲間にはすべるように口から出てくる身の上話で自分の味方につけ、言い寄る上原謙に子どもがいることをひたすら隠す田中絹代。えっ言わずに駆け落ちの約束しちゃうの?というとんだやり手の田中絹代。そのうえあれよあれよとまさかの歌手デビューという想定外なストーリー。朴訥な外見の田中絹代が思いがけず性悪なのも面白いし、桑野通子の気のいいモダンガールぶりも『兄とその妹』(島津保次郎/1939)以来に見て楽しい。昔々のメロドラマは現代でも楽しく見られます。


お早よう
お早よう

監督 / 小津安二郎
製作 / 山内静夫
脚本 / 野田高梧、小津安二郎
撮影 / 厚田雄春
美術 / 浜田辰雄
衣裳 / 吉田幸七
編集 / 浜村義康
音楽 / 黛敏郎
出演 / 佐田啓二、久我美子、笠智衆、宅邦子、杉村春子、設楽幸嗣、島津雅彦、泉京子、高橋とよ、沢村貞子、東野英治郎、三好栄子 他
1959年 / 松竹


昭和34年当時の庶民のほのぼのとした生活。おなら芸に精進する少年たち、近所の噂話に明け暮れる憎めない主婦たち、テレビが欲しくて「ダンマリ戦術」を決め込む兄弟とその親たちとのやりとり。小津安二郎にかかるとささやかな日常も楽しくて美しくて愛しいものになる不思議。これまたすばらしいホームコメディ。大好き。

杉村春子と三好栄子の最強の嫁姑コンビは終始愉快で、笠智衆はいい味出してるし、画面の構成は本当に緻密でバランスがよく、屋根と屋根の間から撮る堤防の景色はとくに好き。


にあんちゃん
にあんちゃん

監督 / 今村昌平
企画 / 坂上静翁
原作 / 安本末子
脚本 / 池田一朗、今村昌平
撮影 / 姫田真佐久
美術 / 中村公彦
音楽 / 黛敏郎
出演 / 長門裕之、吉行和子、二谷英明、松尾嘉代、中村武、前田暁子 他
1959年


昭和28年九州佐賀。炭鉱で働いていた父親が亡くなってしまい残された4人の子供たち在日朝鮮人の極貧生活。人としてほとんど底辺での生活で兄弟は散り散り。でもセンチメンタルにならない程度にみな兄弟のことを思い暮らしています。人間が生きること、エネルギーにあふれた人物描写で当時の生活の苦しい人々を描き出します。兄弟のなかでいちばん前向き思考のにあんちゃん高一の頼れる兄貴らしさはすがすがしくて格好いい。あんちゃん長門裕之も若々しい。しかし殿山泰司はいつ見ても殿山泰司でいったい何歳なのか年齢不詳……。

実話を基にしてるんだけど、結局この兄弟の末っ子の末子(映画の基となった日記を書いた人物)は早稲田大学へ進学、にあんちゃんは慶応大学へ進学したらしく、どん底からそこまで這い上がった彼らの反骨精神はすごい。


姉妹
姉妹

監督 / 家城巳代治
製作 / 立野三郎
原作 / 畔柳二美
脚本 / 新藤兼人、家城巳代治
撮影 / 木塚誠一
美術 / 山崎正夫
音楽 / 大木正夫
録音 / 安恵重遠
出演 / 野添ひとみ、中原ひとみ、藤武敏、月優子、河野秋武 他
1955年


野添ひとみと中原ひとみの姉妹が中原淳也のイラストから抜け出たように可憐。信 州を舞台に、庶民の貧困や首切り、結核やわが子の身売り、果ては夫の妻へのDVそ してシングルマザー、盛りだくさんの社会問題が詰め込まれているんだけど(社会 派たる所以)、これが重たくならないのは野添ひとみ中原ひとみ姉妹の視点で描か れているから。中原ひとみと同級生の女の子とのキスシーンはこの映画のなかで断 トツに華。


兄とその妹
兄とその妹

監督 / 島津保次郎
脚本 / 島津保次郎
撮影 / 生方敏夫
美術 / 金須孝
出演 / 佐分利信、三宅邦子、桑野通子、河村黎吉、水島亮太郎、坂本武、上原 謙、笠智衆 他
1939年 / 松竹


昭和14年を舞台にした戦前の良質なホームドラマ。たぶん小津安二郎が島津保次郎 の作品を模しているんだけど、『麦秋』を彷彿とさせるシーンが各所にありました (年代的に逆だけど)。まんまなのは兄嫁・三宅邦子に銀座で買ったアイスクリー ムをお土産で渡すシーン。桑野通子を原節子に置き換えて、アイスクリームでなく てケーキを買ってくる(しかも兄嫁はやっぱり三宅邦子)シーンが『麦秋』にあり ます。おもしろいわー。タイトルには兄と妹しかないけど、佐分利信の妻である三 宅邦子をあわせた3人の距離感がとてもすてき。長火鉢の前で紅茶にトーストという 朝食だったり、銀座で買ってきたアイスクリームのお土産はドライアイス付だった り当時の意外と西洋色の強い食文化や、当時の日本家屋や東京の風景なんかを見れ るのも楽しい。桑野通子は才女でモダンで愛嬌のあるかわいい妹で、三宅邦子はい つもの芯のある家庭的な女性で、佐分利信がときどき見せる妻と妹へのやさし さ。ピクニックのロケもモンタージュ映像も戦前だと思うと革新的。戦前にこんな すてきなホームドラマが存在することに驚きます。戦後だけじゃなく戦前の日本映 画のレベルの高さはすごいよ。


紀ノ川
紀ノ川

監督 / 中村登
製作 / 白井昌夫
原作 / 有吉佐和子 「紀ノ川」
脚本 / 久板栄二郎
撮影 / 成島東一郎
美術 / 梅田千代夫
音楽 / 武満徹
出演 / 岩下志麻、司葉子、田村高廣、東山千栄子、丹波哲郎、有川由紀、沢村貞子、穂積隆信 他
1966年


有吉佐和子原作。司葉子、岩下志麻、田村高廣、東山千栄子、丹波哲郎出演。和歌山の紀ノ川沿いの旧家に嫁ぐ、明治・大正・昭和を生きた女の太平記。こういう女の一生を描いた作品、私は案外好き。東山千栄子のやんわりゆったりしたしゃべりの冒頭はいいなー。司葉子が豪華な道具とともに紀ノ川を下って嫁入りするシーンは嫁入りシーンベスト3には入ろうかという素晴らしい美しさ。良妻賢母で家に尽くし夫に尽くす所作ふるまいの上品な司葉子は見ていて心地いい。老けていく演技も思いのほか自然でよかった。和歌山の紀ノ川沿いの当時の文化も見ていて楽しい。武満徹の不穏な音楽も作品を際立たせていました。

心が穏やかになるレベルの高いいい映画。


生きる
生きる

監督 / 黒澤明
製作 / 本木荘二郎
脚本 / 黒澤明、橋本忍、小国英雄
撮影 / 中井朝一
美術 / 松山崇
編集 / 岩下広一
音楽 / 早坂文雄
演奏 / キューバン・ボーイズ、P.C.L.スイングバント、P.C.L.オーケストラ
出演 / 志村喬、日守新一、田中春男、千秋実、小田切みき、左卜全、山田巳之 助、藤原釜足、小堀誠、金子信雄 他
1952年


志村喬のオーバーすぎる演技も含めて、見終わったあとはいろんなシーンがじんわり心に残る映画。志村喬の「あの……その……」という話し方もこの映画の味。出演者全員に突出した特徴を感じるので劇中会話がおもしろい。突然の葬式の場面転換で、1時間半にもわたって故人についての雑談と各所に挿入される映像で故人を浮かび上がらせていく。すべては巡査の雪の中のブランコ語りにたどり着くまでの布石。目的を持って「生きる」こと、時間の浪費をしながら「生きる」こと。ダンスホールやカフェでのピアノ演奏のシーン、ハッピーバースデイのメロディーに乗せて階段を駆け下りるシーン、雪の降る夜ブランコに乗って低い低い声でぼそぼそ歌うゴンドラの歌、どれもいい。なかでも息子に胃がんのことを伝えようとするも伝えられない、背中を丸めて俯いた志村喬の侘しさや寂しさは胸に突き刺さってきて秀逸。

黒澤明で見たのは前年の『白痴』(1951)のみ。時代劇モノを見てないのでこの作品の良さがいまだ黒澤明らしいのかわからないけれど、とにかく映画にパワーがある。画面の印象やセリフの余韻は名人芸。登場人物の感情の塊がものすごい濃度で目の前にある感じ。


安城家の舞踏会
安城家の舞踏会

監督 / 吉村公三郎
製作 / 小倉武志
原作 / 吉村公三郎
脚本 / 新藤兼人
撮影 / 生方敏夫
美術 / 浜田辰雄
音楽 / 木下忠司
出演 / 滝沢修、森雅之、原節子、逢初夢子、神田隆、津島恵子、清水将夫、日守新一 他
1947年 / 松竹


戦争終結と共に訪れた名門華族である安城家の崩壊という悲劇。安城家最期の記念に華族を象徴する舞踏会を開くこと。元婚約者に往復2回おまけに1回ひっぱたかれたあとの森雅之の高笑い→ピアノの前に座り華麗なショパンの革命を弾く、遠山を追いかけて逢初夢子が砂浜でごろごろ転げまわったり、大きな身体の原節子がお父様に向かって猛ダッシュの末タックルしたり、森雅之、逢初夢子、原節子の3兄弟のおもしろシーンが散りばめられています。そして妙にさわやかなラスト。なんというか誰にも感情移入できないけどへんな映画。

『楢山節考』の宮口精二も実年齢40代にもかかわらず相当なおじいちゃんだったけど、この作品の殿山泰司も当時32歳とは思えぬ老け役でなかなか衝撃を受けます。


楢山節考
楢山節考

監督 / 木下恵介
製作 / 小梶正治
原作 / 深沢七郎
脚色 / 木下恵介
撮影 / 楠田浩之
美術 / 伊藤憙朔
出演 / 田中絹代、高橋貞二、望月優子、市川団子、宮口精二、伊藤雄之助、東野英治郎、三津田健 他
1958年 / 松竹


信州の姥捨て伝説を基にした深沢七郎の同名小説の映画化。『喜びも悲しみも幾歳月』の大ヒットで、木下恵介が思いのたけをぶつけてやりたい放題やったという(噂の)本作品。すべてを撮影した3年かがりで製作したセットはかなりのスケール。歌舞伎仕立てでナレーションはすべて長唄、というかなり実験的な色合いの強い映像でおもしろいです。主演の田中絹代が、老いても立派な前歯を石臼に打ち付けて歯を折るというシーンがあるのだけど(老いて歯が立派であることは恥ずかしい)、このシーンのために本当に前歯を折って挑んだり、監督も女優も凄まじい入れ込み様。田中絹代は正直華はないのでこういう老いた役のほうが見られます。メロドラマが得意の木下恵介らしい箇所もたくさんあるんだけど、深沢七郎の原作を読んでないものの原作はそうでもないんじゃないかと勝手に想像。ラストの姨捨駅の実映像がなんだか異質なんだけど、あれは必要だったの?

女優度の話ではなく、受ける印象が田中絹代と石原さとみって似てる。たぶん同性受けはあまりよくないと思うんだけど男性受けはいいよね、なんでかなー。


おかあさん
おかあさん

監督 / 成瀬巳喜男
製作 / 永島一朗
製作補 / 青山硯
脚本 / 水木洋子
撮影 / 鈴木博
美術 / 加藤雅俊
編集 / 笠間秀敏
音楽 / 斎藤一郎
助監督 / 石井輝男
出演 / 田中絹代、香川京子、三島雅夫、中北千枝子、榎並啓子、片山明彦、岡田英次、加東大介 他
1952年


戦争のため貧しくなった家族の単なる明るい再生物語としないところが成瀬巳喜男の奥深さ。がんばればがんばるほど幸福が逃げてゆく、家族がひとりひとり消えていくという、書くと恐ろしいほど重たく暗い物語。けれど家族の死についてはごくあっさり描き、長女香川京子と次女久子の明るさと、しっかり者の田中絹代おかあさんの前向きさで乗り切っていきます。ただ絹代おかあさんはどこか寂しそう。ハッピーエンドにもならず、かといって不幸のどん底で終わるわけでもなく、物語は誰にも寄り添わないという、ドラマチックな演出を排除して浮かび上がる登場人物たちの心理描写がほんとうに上手。楽しいシーンも散りばめられており、パン屋の信二郎がふたりでピクニックだと思ってはりきって作ったその名もピカソパンはクリーム、蜜、あん、ソーセージ、カレーが次々に出てくる楽しいパン!泣けるシーンはさらにあり、次女久子がおかあさんの似顔絵を壁に張ってるんだけど、その似顔絵を絹代おかあさんが見つめるところ、久子が養女としてもらわれていく前日にみなで向ヶ丘遊園地に行き、最後にみんなでごはんを食べてるときに「おかあちゃん、楽しかったね」という久子の言葉、その久子がもらわれていく日に「忘れものをした」と言っておかあさんの似顔絵を取りに帰るところ。家族を守ために何があっても取り乱したりしない絹代おかあさんの態度にまた泣ける。メロドラマ的じゃない成瀬巳喜男の作品もまたすばらしいなー。

余談だけど、旦那さんが亡くなって仕事のために子どもの面倒が見られない叔母さんのために、貧しいながらも叔母さんの子どもを預かる(長期間だと思われる)というのは当時はごく自然な助けあいだったんだなーと思いました。


お引越し
お引越し

監督 / 相米慎二
製作 / 伊地智啓、安田匡裕
プロデューサー / 椋樹弘尚、藤門浩之
企画 / 岡部晋一、吉野俊太郎、堀井博次、大木達哉
原作 / ひこ・田中
脚本 / 奥寺佐渡子、小此木聡
撮影 / 栗田豊通
美術 / 下石坂成典
編集 / 奥原好幸
音楽 / 三枝成章
照明 / 黒田紀彦
助監督 / 橋本匡弘
出演 / 中井貴一、桜田淳子、田畑智子、須藤真理子、田中太郎、茂山逸平、青木秋美、森秀人、千原しのぶ、笑福亭鶴瓶 他
1993年


正直この映画がこんなにおもしろくて深みのある映画だと知らなかった。相米慎二監督の子どもの撮り方(描写)がすばらしくて、当時11歳の田畑智子がほんとにいい。中井貴一と桜田淳子の夫婦もいい。そこかしこに泣けるシーンがあって、驚きの傑作。両親の離婚をあの手この手で阻止しようとする少女の心の葛藤。ラスト近く森の中を彷徨う幻想的な長い過程は少女が乗り越え大人になる過程。「おめでとうございます!」は印象的でいいシーンだなー。ラストのラストまで心憎い演出で楽しいです。しかしほんとに長回しな監督!いつまで回し続けるんだろう、と思ったシーンが何箇所もあった。その臨場感はすごい。


我が家は楽し
我が家は楽し

監督 / 中村登
製作 / 小出孝
原作 / 田中澄江
脚本 / 田中澄江、柳井隆雄
撮影 / 厚田雄春
美術 / 熊谷正雄
編集 / 浜村義康
音楽 / 黛敏郎
出演 / 笠智衆、山田五十鈴、高峰秀子、岸恵子、岡本克政、福井和子、佐田啓 二、楠田薫 他
1951年 / 松竹


笠智衆、山田五十鈴、高峰秀子、岸恵子、佐田啓二という豪華キャストによる、貧しいけれどそれぞれを思い合う仲の良い家族のドラマ。笠智衆が出てるだけで不思議に上等なホームドラマになるんだなー。心やさしいお父さん役やらせたら誰もかなわない、なんて雰囲気のいい人。お母さん役は山田五十鈴なんだけど、山田五十鈴て芸達者だと思うけど何か腹黒いものを感じてしまう……。しかし笠智衆と山田五十鈴ののろけあいという貴重なシーンもあります。そしてこの作品の当時27歳の高峰秀子はきれい!デビュー作だという妹役・岸恵子は高峰秀子にすっかりかくれちゃうくらい高峰秀子がきれい。当時『カルメン故郷に帰る』と同時公開だったそうで、この対比はおもしろい。

ホームドラマといえば小津映画。小津映画と何が違うというと見た目の画面の構成、一番は話の展開に事件性があることかも。


私は二歳
私は二歳

監督 / 市川崑
製作 / 永田秀雄、市川崑
企画 / 藤井浩明
原作 / 松田道雄
脚本 / 和田夏十
撮影 / 小林節雄
美術 / 千田隆
編集 / 中静達治
アニメーション / 横山隆一
音楽 / 芥川也寸志
助監督 / 中村倍也
出演 / 鈴木博雄、中村メイコ、船越英二、山本富士子、浦辺粂子、渡辺美佐子、京塚昌子、岸田今日子、倉田マユミ 他
1962年


原作は松田道雄『私は二歳』というエッセイ。『私は赤ちゃん』とあわせて原作も読むべし。この映画はエッセイを上手につなげた2歳の太郎(たーちゃん)目線の物語。意外にもパペットアニメーションや抽象アニメーションの挿入があったりして実験的でおもしろい。市川崑はこんな映画も撮れるんだね。


泥の河
泥の河

監督 / 小栗康平
製作 / 木村元
原作 / 宮本輝『泥の河』
脚本 / 重森孝子
撮影 / 安藤庄平
美術 / 内藤昭
編集 / 小川信夫
音楽 / 毛利蔵人
助監督 / 高司暁
出演 / 田村高廣、藤田弓子、朝原靖貴、加賀まりこ、桜井稔、柴田真生子、初音礼子、西山嘉孝、蟹江敬三、殿山泰司 他
1981年 / 木村プロダクション


昭和31年、堂島川と土佐堀川が合流する安治川が舞台の作品。安治川の道路よりも低い位置にあるちいさな定食屋の8歳の男の子と、対岸に浮かぶ郭(くるわ)舟で暮らす8歳と10歳の姉弟との交流。男の子たちに限っては普通すぎるくらい普通の子役の見た目と演技が好感。灯油につけたカニを燃やすくだりの子どもたちの心理描写が秀逸すぎて、胸が痛くなります。大阪に住んでいるせいで大阪が舞台の作品は土地勘もあるし親近感があっておもしろい。

心優しいお父さんには田村高廣は阪東妻三郎の息子であり、田村正和の兄。この息子想いの田村高廣がよかった。ぜんぜん知らなかったんだけど、すごい家族だね!


もず
もず

監督 / 渋谷実
製作 / 若槻繁、渋谷実
企画 / 佐々木孟
原作 / 水木洋子
脚本 / 水木洋子
撮影 / 長岡博之
美術 / 松山崇
音楽 / 武満徹
出演 / 有馬稲子、淡島千景、川津祐介、永井智雄、山田五十鈴、日高澄子、乙羽信 子 他
1961年 / 松竹


小料理屋の女中すが子(淡島千景)のところに娘さち子(有馬稲子)が現れて十数年ぶりに再会。母と娘の愛憎劇が幕を開けます。しかしどろどろした陰湿な感じではなく、コミカルな部分も多いのでなかなか楽しめます。淡島千景当時37歳、有馬稲子当時29歳で母娘!淡島千景をはじめ乙羽信子に山田五十鈴、桜むつ子に清川虹子、芸達者の女優が集まって、姦しく辛辣な会話のレベルの高さは必見。こういう絶妙な掛け合いほんと好き。山田五十鈴の鬼ババアぶりもおもしろい。乙羽信子は『裸の島』と180度違うおもしろオバサン役。川津祐介も若いわー。テンポの早い悲劇の幕切れなんだけど、死ななくてもいいんじゃ?という最後は微妙な思いが残りました。女優陣の演技はかなりおもしろい映画です。そういえば淡島千景も有馬稲子も宝塚出身だねー


女優須磨子の恋
女優須磨子の恋

監督 / 溝口健二
企画 / 絲屋寿雄
原作 / 長田秀雄
脚本 / 依田義賢
撮影 / 三木滋人
美術 / 本木勇
編集 / 板根田鶴子
音楽 / 大沢寿人
助監督 / 酒井辰雄、岡田光雄
出演 / 田中絹代、山村聡 、東野英治郎、千田是也、青山杉作、毛利菊江、東山千栄子、朝霧鏡子 他
1947年 / 松竹


島村抱月と舞台女優・松井須磨子の悲恋を描いた作品。女の目から見て、街角の女性たちから田中絹代が「あれが松井須磨子よ」「きれいね」と言われるのはかなり違和感。田中絹代てそういう美女役か?溝口健二はそりゃ好きだろうけど。溝口健二得意の長まわし多数だけど、なんというかたぶん他の作品がもっといいショットでもっと丁寧な内容であるがゆえに、溝口健二の作品としてはそれほど評価が高くないのかも。劇中劇である「人形の家」「復活」は意図的にか和風な田中絹代に金髪のカツラというちょっとおもしろショットなだけに、最後の「カルメン」はそれらすべてを払拭するすばらしい(だろうと思わせる)舞台。少し写るだけの劇中劇なのにすべてを見たいと思わせる完成度。

『白痴』の東山千栄子も相当意地が悪そうなオバサンだったけど、『女優須磨子の恋』の東山千栄子も小津安二郎『東京物語』を思い出すと、イメージが違って倒れそう。みんな女優だわー。


白痴
白痴

監督 / 黒澤明
製作 / 小出孝
企画 / 本木荘二郎
原作 / ドストエフスキー「白痴」
脚本 / 久板栄二郎、黒澤明
撮影 / 生方敏夫
美術 / 松山崇
衣裳 / 田口ヨシ江
編集 / 杉原よ志
音楽 / 早坂文雄
助監督 / 萩山輝男、小林桂三郎、野村芳太郎、中平康、生駒千里、二本松嘉瑞
出演 / 原節子、森雅之、三船敏郎、久我美子、志村喬、東山千栄子、柳永二郎、千 秋実 他
1951年 / 松竹


鬼気迫る原節子と白痴であり子羊のようだと称される森雅之。小津映画の、たおやかでつつましい原節子とやさ男の森雅之のイメージが強すぎてこの映画の役どころに最初かなり面食らう。白痴とはいえ森雅之がこの世のものとは思えない不思議な人でいまいち魅力的だという部分までには感情がついていなかったももの、原節子、森雅之、三船敏郎、久我美子という俳優陣の、全編を通しての相当ピリピリしたテンションの高さと熱演ぶりはすごい。映画というより舞台。精神の高揚感? 種類は違うけどベルイマン映画を思い出した。

フィルムをズタズタにカットされたというわりには、はしょったのは分かるものの、話の内容は分かるし、この作品の持つすごさは十分伝わります。しかしドストエフスキーの原作を読んだことがないけど、札幌を舞台にしてナスターシャ=那須妙子、ていうのは冗談? 助監督に野村芳太郎や中平康が名を連ねていたりして、へー!と思う。

見所はラスト近くのムルナウのノスフェラトゥばりの原節子。こんな原節子はじめて見た!


人間の條件
人間の條件 第1部純愛篇/
第2部激怒篇


監督 / 小林正樹
製作 / 若槻繁
原作 / 五味川純平
脚本 / 松山善三、小林正樹
撮影 / 宮島義勇
美術 / 平高主計
音楽 / 木下忠司
出演 / 仲代達矢、新珠三千代、淡島千景、佐田啓二、石浜朗、山村聡、宮口精二、小沢栄太郎 他
1959年 / 松竹


人間の條件 第3部望郷篇/
第4部戦雲篇


監督 / 小林正樹
製作 / 細谷辰雄
企画 / 若槻繁
原作 / 五味川純平
脚本 / 松山善三、小林正樹
撮影 / 宮島義勇
美術 / 平高主計
音楽 / 木下忠司
出演 / 仲代達矢、新珠三千代、佐田啓二、渡辺文雄、安井昌二、桂小金治、岩崎加根子、倉田マユミ 他
1959年 / 松竹


人間の條件 第5部死の脱出篇/
第6部曠野の彷徨篇


監督 / 小林正樹
製作 / 若槻繁、小林正樹
原作 / 五味川純平
脚本 / 松山善三、小林正樹、稲垣公一
撮影 / 宮島義勇
美術 / 平高主計
音楽 / 木下忠司
出演 / 仲代達矢、新珠三千代、高峰秀子、中村玉緒、笠智衆、内藤武敏、岸田今日子、金子信雄、山内明、川津祐介 他
1961年 / 松竹



五味川純平の同名小説の映画化。全6部、すべて見ると9時間半という大作。昭和18年、南満州鉄鋼会社に勤める正義感の強い主人公の梶(仲代達矢)は、徴兵免除と引き換えに満州の採鉱場の労務管理を引き受ける。物語はここから怒涛のすさまじい展開を繰り広げます。当時の日本国軍がどうだったとか、描かれる暴虐がどの程度リアルなものか分からないし、自虐的でエグいんだけど、すごい力強い映画。どうすることもできない壮絶でヘビーすぎるラストシーンは胸ぐらつかまれてひっぱたかれるような勢い。自分を慕ってついてきた寺田の殺され方にブチ切れ、犯人を鉄の鎖でメタメタに殴りつけ殺す仲代達矢の顔が見事。どんどん強靭な男になっていった男の意識の破壊。

確かに陰々としていて気持ちのいい作品ではないけど、見ていられるのは仲代達矢、佐田啓二、笠智衆、川津祐介、新珠三千代、淡島千景、高峰秀子、中村玉緒なんかのキャストの豪華さに加え上手さなんだと思いました。よくこんなに集めたねー!そうそう、撮影を担当した宮島義勇をはじめて意識したんだけど迷いのない画面構成でかっこよかった。