花輪和一


月ノ光

月ノ光  描き下ろしの表題作を除くと収録されているのは初期の短篇。絵物語の挿絵風とか幼年雑誌のイラスト風の濃厚な画風のものが多い。
 お話も、近作のような謎めいたものではなく、ストレートにひどいエログロナンな話が多い。タイトルからして「肉屋敷」「豚女」「因果」。
 「月ノ光」は中世を舞台にした救いのないお話。本筋とはあまり関係ないところで登場する宇宙人のエピソードがたいへん面白い。

青林堂
判型:A5
ISBN初版発行定価
なし1980/10/10\1400
月ノ光・新装判
 新装判が出たのは結構なことだったが、箱入り装丁は無理にしても、表紙の図版はオリジナルと同じにしてほしかった……。

青林堂
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
4-7926-0253-X C0079 P1200E1996/02/23\1165

新今昔物語 鵺

鵺  ああ、貴族になりたい。貴族になれば毎日たらふく食って遊んで楽しいことばかりだ。いばりちらして、下々の者を苛んだりなどして、おもしろおかしく生きるのだ……。

 現代の日本と比べてみれば中世は、生まれがモノを言いすぎる、えらく不公平な時代だ。貴族や侍ばっかりでは社会はなりたたない。その他の人たちの方が圧倒的に多いのは当然のことだ。けれども学校で習う歴史や古典は鳥瞰的に過ぎて、平安時代はまるでみんな日記や和歌に興じていたみたいだし、鎌倉時代は政争と斬ったはったばかりという印象が残っても不思議はないと思う。
 この短編集は逆に、地べたをはいずり回る被支配階級の側からの視点で中世を見ている。わりとメッセージ性は強く感じられる。といっても、堅苦しく直截に造反有理を説くものではない。貴族だの長者だのがおよそくだらないことに血道を上げる様や、虐げられた者たちが不可思議な超越的な方法で救いを得るファンタジーを描いている。
 貴族の大バカな生態を描いた「蟻地獄」「外術」「三二九一九六九六」「亀男」などが前者、表題作「鵺」や「信奇山」ははっきり後者に属する。
 特に印象に残るのは「鵺」「亀男」。
 「鵺」は、戦火に焼かれる平安京の牛飼い童一家が、どうにもならない現実から、ものすごい方法で救済される作品。「亀男」は、侍の家に生まれた男が争いに満ちた世間を捨て、ついでに人間であることも捨てて亀になろうとするという作品。救いは世界の外からしかやってこないし、世界の枠組みの外に出ることでしかなされない、という絶望的なお話ではある。しかし、そう考えることで楽に生きることができると思うのだ。そしてそれは何も作品の舞台である中世だけに限ったことではなく、現代に生きる者にとってもきっと意味のあることだろう。

双葉社
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
4-575-93063-6 C0079 P760E1982/12/24\738

護法童子

護法童子  本篇の主人公は童子・童女の二人組で、花輪和一作品にはめずらしく、図案的にデフォルメされた珍妙な人相をしている。二人は心を一つに合わせると合体して護法童子となり、霊力を使うことができる。この二人が諸国をうろついて、毎回怪異怪人怪物と遭遇し、事件を解決するというのが作品の大まかな骨格だ。
 いつものことだが続出するお得意の怪物・怪人の類がどれも素晴らしい。人間の慰みものになっている人魚と海人の気色悪さ、蝦夷に崇められている遮光器土偶みたいな宇宙人の可愛らしさ、砂金を奪うため蛇のコスプレをする貴族などなど、挙げればキリがない。
 最終回では一応それらしくまとめているものの、二人組の旅には目的意識はあまり感じられない。一貫した骨太なテーマを追うスタイルの作品ではない。けれども事件を解決する方法が、いわゆる勧善懲悪的なものもあるし、落とし咄的なものもあれば、どうにもやりきれない苦痛をせめて軽くする、といったテイストのものまで多彩で飽きない。
 特に印象に残ったのは、「水子沼」。沼の底では母親に産み捨てられた水子が、寒々しい生活を送っている。その彼らが自分を捨てた母を恋うるお話。水子は見知らぬ実の母のかわりに、貝だの岩だのを母にみたて、自分を受け入れてもらおうとする。やっていることはかなり不可解なのだが、真摯な様があわれを誘う。

双葉社
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
1なし1985/06/24\780
2なし1986/05/24\780

赤ヒ夜

赤ヒ夜  1971年から1986年までの作品を収録。
 長い期間にわたって描かれてたものの寄せ集めなので、妙にヴァリエーションに富んでいる。
 人物画にちょっと日野日出志みたいな印象を受ける「かんの虫」「繭」などの初期作品、挿絵風の「赤ヒ夜」、
気色悪いけど脱力してしまうような現代物「醜悪ゴキブリ男」、おなじみの光沢宇宙人+中世モノなどなど。
 絵柄も、舞台設定も様々だが、いずれにしても、まんべんなく業が深くてどぎつい。そしてひどい話のわりにはコミカルだ。

青林堂
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
4-7926-0147-9 C0071 \850E1985/12/20\850

朱雀門

朱雀門  虫、魚、獣など、人間でない生き物を小道具に使った作品を多く収録した短編集。教訓を含んだ話は少なく、わりとストレートにグロテスクで人間のあさましさを表現した作品が多い。
 尻に狗が生えた貴族が主人公の「狗尻」や、なぜだか巨大なダニをたからせることを美徳とする館における超越的中途半端人情話「崇親院日記」等々。その中で、「市魚」がなんといっても格別だ。
 主人公の父親が、シーラカンスみたいな巨大な魚を餌付けし、嫁として娶る。不思議なことにそれは世間にも受け入れられ、奇妙な夫婦の間には半人半魚の子供まで生まれる。その異常な状況に居たたまれなさを感じていた主人公だったが、自らにもウロコが生えてくるに及んで「まあいいか」と納得してしまう。
 やたら力を入れて不思議かつ人間性を否定した残酷な状況を描写しておきながら、何の解決もしない。人間社会に対する深い諦念を表現してるのかもしれないし、周到なギャグなのかもしれない、崩壊一歩手前の怪作だ。

日本文芸社
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
4-537-03054-2 C0079 \1200E1986/10/10\1200
朱雀門・新装判  日本文芸社版の『朱雀門』から「不倫草」を除き「猿」「感応」(ともに『猫谷』所収)および単行本初収録の「茸の精」を加えた新装判。
 巻末に花輪和一の著作リストがついているのがファンには便利。また、「崇親院日記」は4色カラーのまま収録されている。

青林工藝舎
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
4-88379-004-5 C0979 \1300E1998/07/24\1300

浮草鏡

浮草鏡  新田義貞の鎌倉侵攻を背景に、アナーキーでスーパースーパーガールな山芽が無軌道に活躍する!というお話。
 山芽は、父母にかけられた呪いを解くべく、薬草を求めて旅に出た。しかし目的はさっさとどうでもよくなってしまう。行き当たりばったりに商売を始めたり、盗みを働いたり、人殺しをしたりなどして旅を続ける。
その途上で出会う変てこな人物との交流やら戦いやらを描いた連作短編。
 旅の目的をさっさと忘れてしまう山芽の性格のせいか、前編とおして明るめの話が多い。とはいっても人死にもあるし、心を病んだ方々も続々登場なさるのではあるが。

双葉社
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
なし1987/05/20\780

猫谷

猫谷  ほとんどの作品の舞台が中世であることや、いつに変わらぬ重厚な画面の肌触りに、同じような素材を繰り返し用いてはいても、語り方や題材への焦点のあて方でだいぶ印象は異なってくるもの。
 うだつのあがらない貴族が、みずからは絶命し、魂を虫に込めることによって魂の救いを得ようと試みる。ファンタスティックなアイデアを中心に据えた作品「生霊」は落とし話風。
 同じように、濃厚な描写で奇妙な風習をリアルに描く「猿」は全体としては間抜けな味わいを醸し出す。
 逆に「感応」では、部分的な描写はかなり笑えるにもかかわらず、執着心が人間を滅ぼすという主張を強く感じさせる。
 神や仏といった超越的存在が、目に見える救いをもたらさないということを相補う形で語る「へそひかり」「慈肉」。
 それでもなお、そうしたものに託された思いが救いをもたらすと語る、描き下ろしの「軍荼利明王霊験記」。
 同じ問い掛けに対しても、作品ごとに答えは異なる。その逡巡に深さを感じる。

 ともあれ、随所に挿入される左右頁をぶちぬいた鳥瞰図の有無を言わせぬ迫力を味わうだけでも読む価値がある。執拗に描きこまれたペン画は驚嘆に値する。
 どの方向に向いているかは分からなくても、この画面にこめられた力が凄まじいことだけは誰にも分かるはずだ。
 しかし、残念ながらこの単行本も入手困難なのかもしれない。

青林堂
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
4-7926-0193-2 c0079 P980E1987/10/03\951

コロポックル

コロポックル  小樽の小さな町で一人自然に親しむ少女は、ある日フキの葉の下にコロポックルを見つける。
 コロポックルと仲良くなった少女のまわりには、不思議な出来事が起こるようになる。亀が空を飛び、山の神様にお使いを頼まれる。
 やがて少女は、コロポックルと力を合わせ、現実世界と夢の国とを結ぶ寝台特急「北土星」を復活させる、スピリチュアルな冒険の旅に出る。
 猜疑心や罪の意識を乗り越えて成長した少女は、夢の世界へ深く深く降りていく。 いくぶん大人しめのあまりクドくない線で描かれているから、ヴィジュアル的にはちょっともの足りないところはあるのだが、モチーフやストーリーがとにかく素晴らしい。
 北海道の大自然と、蒸気機関車の迫力、ロマンティックな冒険。それらが、「古き良きもの」であり、現実にはここにないのだと意識すると悲しくなってしまう。素晴らしいものを素晴らしく描くのがこんなにも悲しいものだとは。
 作中、少女は恐怖やら感動やらに沢山の涙を流している。粘土の汽車「北土星」の復活走行には、つられて涙を流してしまいそうだ。
 なお、表題作の他に掌編を4つと、蒸気機関車についてのエッセイマンガを収録している。

講談社
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
4-06-176600-7 C0379 P500E1990/12/18\485


御伽草子

御伽草子  タイトル通り、おとぎ話に題材をとった作品を多く収録している。グロテスクなアレンジを施されたおとぎ話の他には、より強烈なオリジナル作品を収めている。特に印象に残るのは「蓮邸」と「水人」。
 「蓮邸」とは、老人に修行をさせ、辛い浮世を解脱させる集団のこと。毎日身を粉にして働く父親を楽にしてやりたいと思った娘が、父親を蓮邸に入れる。そこでは人間の尊厳を無視した拷問のような修行が強いられる。馬鹿者の娘は、助けを求める父親の声を無視して蓮邸の一員としてそのカルトな活動の一端を担う。
 最初は抵抗していた父親が力尽きて自我を喪失していく様が実に興味深い。
 「水人」は、単行本『猫谷』収録の「軍荼利明王霊験記」にも通じる作品。
 仕合せと書いた石を毎日投げて幸福を願う娘と、苦痛を感じない「ばか」になることを夢見る、因業親父に束縛された若者が、水人という妙ちきりんな生き物のとりもつ縁で結ばれ、それまでのどん底人生と訣別する。
 理不尽な不幸を超越的な方法で解決する、現実世界への底深い絶望を感じさせる不可思議な救済譚。

双葉社
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
4-575-93247-7 c0079 P800E1991/03/27\777

水精

水精  これも舞台はすべて中世。
 注目は、表題作の「水精」。
 頭も根性も悪い貴族の一家を襲う妙ちきりんな惨劇を描いた快作。
 表面的には継子を大切にすることで「仏の家」であることをアピールしようと企む一家は、裏でさんざっぱら彼女を虐待している。外では必要以上のみすぼらしさを装っているが、実はすごい金持ち。家の中では砂金にまみれてのたうつなどという変態的な悦楽に溺れている。
 その秘密を知った継子を亡き者にしようとした時、水精が水を呼び、一家を破滅させる……。というわけのわからない話だが、コミカルな台詞まわしや、継子いじめの濃厚な描写と絶妙に調和してなんだか納得させられてしまうのだから不思議だ。
 人間の悪想念を具体化したような「まどわし神」との関わりを描いた連作「まどわし神」も収録。霊蟻や白蛙などの抜群の造形も要チェック。

ペヨトル工房
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
4-89342-164-6 C0079 P1200E1991/11/30\1165


天水

天水  都で食うや食わずの生活をしていたみなしごの少女・棗はある日、河童と出会う。二人は仲よくなり、ともに暮らすようになるのだが、なにせ河童さんはもののけ。不思議なことがいろいろ起こるようになる。物語の序盤は、様々な怪異を二人が切り抜けていく様を描いたわりと軽めのファンタジー。
 物の怪との接触のうちに、母親が生きていることを知った棗が母を探し出すところから、物語の舞台は都の外へ移る。それとともにお話の方もヘヴィーになっていく。
 生き別れの母・梅は借金のかたに奴隷的労働を強いられていたのだが、棗は河童さんと力をあわせてそれを救い出す。救い出せたのはいいのだが、母と棗はかわるがわる窮地に陥る。片方が呪われて救われたと思ったら今度はもう一方が地獄行脚の試練に遭ったりなどして、なかなか幸せになれない。
 作者がお縄を頂戴してしまった関係で連載は27話で打ち切りとなり、18話以降が単行本未収録となっている。
 27話が終わった時点で、親娘は離ればなれのまま。
 いつの日か、是非二人を会わせてやって下さいましね……。

講談社
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
14-06-176721-6 C0379 P530E1994/02/23\515
24-06-176741-0 C9979 P530E1994/07/22\515

刑務所の中

刑務所の中  銃砲刀剣類等不法所持火薬類取締法違反で執行猶予なく懲役3年の刑を受けた作者の留置場および刑務所体験漫画。
 被害者のいない犯罪を原因とした拘置であり、家族もなければ職業も自由、もともと社会との関わりが薄かったであろう花輪和一にとって、ムショ暮らしは悔恨に満ちた悲惨なものではない。淡々としてはいるけれども興味深いものだったようだ。
 そんな、かなり受刑者らしからぬ視点から、異常なくらい細かな部分まで観察された刑務所生活のエピソードをまとめた短篇集。
 受刑者の立場からの犯罪観とか、娑婆に出た後の不安などにも触れられているが、それはヴォリューム的にはかなり少ない。力点はむしろ刑務所内での衣食住の描写に置かれている。
 特に食事については執拗だ。朝昼晩のメニューをこと細かに紹介したり、刑務所の年末年始特別メニューの図解、時折支給される甘いもの”甘シャリ”への愛などなど。
 刺激が少ないことを除けば、あまり辛いこともなくそれはそれで楽しそうだし、刑務所暮らしも悪くないかも、とすら思えてしまう。
 もちろんそれは馬鹿げた考えであるので、麦飯食いたさに罪を犯したりするなどの実践は控えていただきたい。
 事実、読んでいたら甘いものが無性に食べたくなり、チョコレートを買いに走ったのだが、そんな自由はムショには当然ない。酒もタバコも駄目だし。

 題材も分かりやすいし、これでもかという細かな作画もてんこもりなので花輪和一入門用にも最適。

青林工藝舎
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
4-88329-065-7 C0979 \1600E2000/07/25\1600

ニッポン昔話

ニッポン昔話  ビッグコミックオリジナル増刊号に掲載された昔話に題材を取った作品の他に描き下ろし「ニッポン未来話」を収録。箱入り、直筆シリアルナンバー入りの豪華な造本となっている。
 業深い話はほとんどなく、わりと素直なアレンジの作品が多いので、濃い話を期待すると肩透かしを食らうことになるかもしれない。
 一寸法師や桃太郎がピカピカと金属的に光る謎のクリーチャーとして描かれているのは、慣れていない人には十分新鮮かもしれない。  しかし、高価でもあり、やはり初めて読む人向けではない。 

小学館
判型:A5
限定5000部
ISBN初版発行本体価格
4-09-179351-7 C0079 \3600E2001/01/10\3600

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