鬼頭莫宏


ヴァンデミエールの翼

ヴァンデミエールの翼  生まれ故郷の狭い村しか知らない少年・レイの前に現れた自動人形ヴァンデミエール。レイの目に彼女の姿は外の世界の可能性を象徴しているように映った。
 しかし実際にはヴァンデミエールは慰み者。まだ一人の男としての自由をかち得ていないレイと同様に旅芸人一座の座長にがんじがらめにされた無力な存在にすぎなかった。
 恋と自由を手に入れるため、彼自身と彼女を縛るものを振り切るため、レイは逃走を試みる……。
 ロマンチックな道具立てとほろ苦いストーリー、マンガ的デフォルメは激しいながらも繊細で美しい絵。アフタヌーン四季賞受賞作にしてシリーズ第1話「ヴァンデミエールの右手」は完璧な傑作だった。思わず目頭が熱くなるほどに。

 その後のシリーズは違う場所、違う時を舞台に一話完結形式で進むのだが、最終話でかつての少年レイが老人として登場したりするなど、シリーズ各話はすこしづつつながりを持っている。
 全体としてみると、ヴァンデミエールを狂言回しに「ある時代」(19世紀)をまるごと描こうという試みなのかもしれない。単行本2巻収録の描き下ろしの終章では神にも等しい造物主が死んで自由を得、自らの意志で行動しはじめるヴァンデミエールの姿が描かれており、キリスト教的世界を舞台にした物語だ、ということを考えるとそういう印象は強まる。訴えかけてくるテーマは時代を超えて普遍的なものではあるけれども。
 全エピソードを通じて登場するヴァンデミエールとその姉妹、彼女たちを作った創造主については手がかりは多数示されているがその謎について明快な解答は与えられておらず、深読みを誘うしかけになっている。
 単行本カバー袖で鬼頭莫宏は作品をパズルのピースに例えているが、ピースがどこに嵌まるのかを考える役目はもちろん読者に委ねられている。実際に作品に接して自分なりの答えを考えていただきたい。

 ヴァンデミエールをはじめとした魅力的なキャラクターや各所に覗ける興味深い暗喩も見どころだが、見落として欲しくないのは月刊誌ならではの豪勢な頁使いとコマ割りや構図の妙だ。 頁を縦に(細長く)二分したり、枠線にオーバーラップする形でここぞ、という場面に再三描かれるキャラクターの全身像には特に魅力を感じる。

全2巻
講談社
シリーズ:アフタヌーンKC
判型:B6
ISBN初版発行本体価格
4-06-321069-3 C9979 \457E1997/04/23\457
4-06-321078-2 C9979 \457E1997/12/18\457

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