松本次郎


ウェンディ

ウェンディ  1996年から1997年にかけて講談社の週刊モーニングに連載された作品が待望の単行本化。
 「ウェンディ」、というタイトルからわかるように、このマンガは児童文学「ピーターパン」を下敷きにしているのだが、現代日本の高校生を主人公に据えているため、必然的にかなりの差異が生じている。
 楽しさ満点のはずのネバーランドは、欲望を垂れ流すだけのいかがわしくて後ろ暗い場所。
 ウェンディは飛べないし、ピーターパンは身体にタトゥーを彫り込み、セックスと暴力に明け暮れている。
 幼いながらもネバーランドの優しいお母さんになることを期待されていたご立派なウェンディに対して、愛美は夜遊びはするけれど母の愛情を求める高校生。
 「ピーターパン」のラストでウェンディはもう、ネバーランドに行こうとしない。御伽の国は彼女の思い出の一つとして片付けられてしまうわけだが、本編の主人公・愛美は御伽の国をぶち壊し、その象徴であるピーターを現実に連れ帰ってしまう。
 それはつまり、かつては現実に完全に従属していた御伽話がいまや、現実の一部としての正当な地位を手に入れた、ということなのか?あるいは、もはや御伽話や妄想すら逃げ場所にならないというのか?

 ……などと、つまらないことは考えずとも、主人公とともに予想外の展開に身を委ねてめくるめくドラマに酔いしれるだけでも十分。混沌としているが、逆にそれが心にひっかかり、何度でも読みたくなる。
 後半に入ってパワーダウンしてしまうのは残念だが、線の多い、力強い絵はたいへんに魅力的だ。頁いっぱいに使った大ゴマを見るためだけでも買う価値あり。

太田出版
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
4-87233-521-X C0979 \1400E2000/05/29\1400

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since 2000/05/28