吉田基已


水と銀

水と銀  なによりもまず印象に残るのは、その丁寧な作画だ。カケアミ度のかなり高い、描きこんだ画面や人物のいきいきとした表情。単行本では冒頭の数頁しか再現されていないのは残念だが、カラー頁がまた、実に美しい。
 ストーリーの方も絵柄を裏切らないウェットで繊細なもの。
 極楽とんぼの美大生・亜藤森が、ある晴れた日にレインコートを着込んだ不思議な少女を見つけて恋に落ちるというのが物語のはじまり。
 少女が、なぜレインコートを着ていたか、という疑問を中心に「だれかに必要とされる心地よさ」が語られる。
 第1話だけをみれば、主人公がいい加減な男と純真な女の子であるだけに、ちょっと現実ばなれし過ぎ、と見えなくもない。しかし、第2話、第3話と回を重ねていくごとに中心となるキャラクターが変わり、作品世界の奥行きは増している。
 第1話ではクールな面が強調されていた哲生が、こと自分の恋愛となると、スマートに立ち回れない第2話。ねっとりと絡みつくようなラブストーリーだ。
 自分に正直でいようとするあまりに周りから孤立し、頑なになってしまった少女が心を開いていく、という第3話では哲生も森もかなり奥に引っ込んでダシを利かせる構成。砂を噛むような、ハードボイルドな日常を送っている方に是非読んでいただきたいエピソード。
 一話一話の頁数が多めなのもいい。キャラクターの性格がしっかり把握できる。それにつれ、作品世界への親しみも沸いてくる。
 読んでいると、第4話の森の台詞にあるような、「出会った人とかものとか風景/音 匂い/きれいなもの汚いもの」を感じる力が養える気がする。日常にすり減った心のひだが、回復しそうだといったら大げさにすぎるか。

 なお、雑誌掲載分に加えて描き下ろしの「バス停まで」が収録されている。掌編とはいえ、これも読みのがすには惜しい出来。「雑誌で全部読んだからいいや」と思っても買おう。

講談社
シリーズ:モーニングKCDX
判型:A5
ISBN初版発行本体価格
4-06-334315-4 C9979 \648E2000/07/21\648


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since 2001/02/10