それでもやっぱり、アーケードゲーム基板!

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(1)

時は1988年。
ファミコン全盛期のこの時代に『ハイスコア』という月刊のファミコン雑誌があり、
自分はそこで新作アーケードゲームの攻略記事を約1年間ほど書いていた
時期がありました。当時のハイスコア編集部の一角には(ファミコン雑誌
なのに)何故かアーケード業務用のテーブル筐体が常設してあり、中の基板が
ほぼ毎週の様に入れ替わって様々なゲームがフリープレイ(=無料)で愉しめ
るという、ネットゲームなど無い時代のゲーム好きには夢の様なスペースが
あったんですね。どうしてそんな一画が編集部に設けられていたかと言うと
その雑誌の編集と記事作成に関わっていたY津さんという中古基板屋さんが
編集作業の傍らで販売用の基板をメンテナンス目的で設置していたからで
(※ 古い基板は年に一度くらいは通電した方が状態を保てるため。フリー
プレイで置いておけば出入りの多い編集部に居る誰かがプレイする=不具合も
発見し易い訳です)、そんな彼から中古のゲーム基板と中古筐体を安値で
譲って貰った事が自分の基板集めの原点でした。インターネットもオンライン
ゲームも無かったあの当時、自分の部屋にゲーセンと全く同じ業務用の基板と
筐体があり、それを真夜中でも早朝でも好きな時に立ち上げて好きなだけ
遊べる非現実感たるや、それはもうとてつもないインパクトがありました。

(2)
現在レトロなアーケードゲームをプレイするなら家庭用ゲーム機の移植版
ソフトやMAMEで充分と思われる方も多いでしょう。実際、基板は入手するにも
それなりに値が張り、大きくかさばるため保管も厄介で、維持と稼動にも
或る程度の電気知識と工作技術が求められるため、家庭用ゲームソフトの
つもりで扱うとROMが壊れて修理不能になる事もあります。でも正しく
扱えば現在も移植版が出ていないゲームがいつでも愉しめたり、ノーデス
モードにして通常まず有り得ないプレイを試せたり、テストモードにして
好きなシーンの曲を延々楽しんだり未使用曲を聴けたりもするのですが、
しかし経験上、自室で基板を立ち上げる事で深く胸に沁みるのは
五感全体でそのゲームの記憶が甦る事ではないかと思います。

通電すると大抵の基板はまずROMチェックの表示が画面に浮かび上がるの
ですが、これは家庭用ソフトではまず見ない業務用基板ならではの画面でしょう。
中にはこの時にしか流れない曲もあり、初代グラディウスの99minカウントダウンが
有名ですね。そうして起動チェックが終わると" 1981. ORCA COPORATION "
とか" 1987 BY IREM CORP. "といった「発売年のみの年度表示」と
「オリジナルのメーカー名」が入った純正タイトル画面が浮かび上がる興奮。
筐体を持っていれば自身が一番無理の無い姿勢でジョイスティックを握って
ボタンを押せるフィット感とマウント感があるうえ、ゲームを始めると
効果音や音楽が筐体に共鳴して耳だけでなく指先からも音の振動が伝わって
くるなど、そのゲームをしていた当時の自分がそのプレイを五感で愉しんで
いた事に気付かされるんですね。このノスタルジックな恍惚感は家庭用の
移植版ソフトをテレビ画面でお手軽にプレイする事では決して得られない
ものですし、あの時代にこれを体験した世代にしか分からないかもしれません。
でもこの感覚が甦るからこそ、オリジナルのゲーム基板と筐体は未だに
レトロゲームのファンを魅了してやまないのだと思います。

(3)
一番多い時には約40タイトルほど持っていたゲーム基板も、大きく
かさばる事でどうしても生じる保管場所確保の困難によって1枚、
また1枚と手放してしまったため、現在ではどうしても手放せなかった
約20タイトル程度が押入れ天袋の1つを埋め尽くす形で眠っています。
もはやコレクターでもないので珍しい基板を持っている訳ではありませんが、
手許に残っている基板周辺の小物(※ インストラクションカードやPOP等)も
併せて画像を載せていますので、眺めて懐かしんで下されば幸いです。



『R-TYPE』 / アイレム 1987年

1980年代を代表する超傑作シューティング。
その純正基板です。勿論ロムもアイレム純正で、取扱説明書、
1P・2P側のインストカード、そして店頭用POP(未組立て)も
全て業務稼動当時オリジナルのまま残っています。
無いのは店頭用B1サイズのポスターくらいでしょうか。

このR-TYPEは当時ゲーセンで、そして自宅で、それこそ人生を
捨ててやり込みまくったゲームのひとつです。メモした紙を紛失して
しまったので正確なスコアは覚えていませんが、全2周クリアで200万点超えを
達成した事が4回だけありました。もちろん7面後半でフル装備を捨てて
わざと死に、復活で稼ぎまくった訳ですね。特に2周目の7面後半、フル装備を
捨てた丸裸のR-9に向けて全方位のザコ敵から高速でばら撒かれ続ける弾の嵐、
それをかいくぐって無事に7面ボスのエリアに辿り着いた時の安堵感と達成感は
たまらないものがありました。何度プレイしても全く色褪せない素晴らしい
世界観と魅力を持つゲームだと思いますし、プレイを重ねる度に純正の
オリジナル基板で所有する喜びが増してゆくのを感じます。

←の掲載画像には、当時の業務用チラシ(※ 一般向けに配られたものではなく、
業界やゲーセン経営者に向けた基板販促用のもの)も載せました。
これは1988年・春のAOUショーにプレス取材(※ 月刊ハイスコアの記者として)で
入った時にアイレムのブースで貰ったものか、もしくはアイレムの
東京支社に新作ゲームの取材で行った時に貰ったもの(※ 社屋1階のロビーに
他のゲームチラシと一緒に挿さっていた)かの、どちらかだったと思います。
ゲーム三昧の日々を過ごしていた10代後半・1988年の懐かしい一品です。


『フェニックス』 / タイトー 1980年

タイトーの「フェニックス」・・ですが、元は米国のアムスター
エレクトロニクス(Amstar Electronics)社が1980年に制作した
シューティングゲームで、これを日本でタイトーがライセンス生産
していた基板です。ゲーム自体は全5面のループとなっていて、
最終的に彗星帝国の中央に居る親玉のエイリアンを倒すというもの。
これ↓ですね。
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家庭用ゲームではPlayStation 2用のソフト『タイトーメモリーズII 下巻』に
移植・収録されていたのが唯一だったと思いますが、これはその
タイトー製のオリジナル基板というわけです。

このフェニックスは20年以上前、名古屋にあった中古基板屋さんの
通販で買ったものなんですが、未だに疑問に思っているのが
この基板の製造番号(シリアルナンバー)なんですね。
これ↓です。


つまりコレ、あの当時全国のゲーセンに沢山出回っていたタイトー製
フェニックスの、製造番号00001番機の様なのです。

ただそんな貴重な番号を持つ機体が、自分の様な中途半端な基板ファンの
手許にあるのもおかしな話です(※ 購入時もそうしたプレミアを売りにして
いなかったし、そういう価格でもありませんでした)。
実際、よく観察すると下側のサブボードには「PNN00002」と基板に直接
プリントされた文字があって、これは板(ボード)番号の可能性もある
わけです。つまり番号シールが貼られている側のメインボードがPNN00001
という部品名で製造され、下側のサブボードがPNN00002という部品名で
製造されただけ、という可能性ですね。

でも当時の基板のシリアルナンバーは基板に直接印刷されるのではなく、
こんなふうに製造順に一つずつ番号が割り振られたシールで貼られている
のが普通なので、このシールがシリアルナンバーである可能性も
否定出来ない訳です。

という訳で←の画像の通り基板もロムも全てタイトー純正ではあるものの
製造番号の謎が残る一台なので、どなたか同じフェニックスのタイトー基板
をお持ちの方が居られましたら、そちらの基板でこの部分のシール番号が
どうなっているか教えて戴けないでしょうか?

これ、マジで御連絡お待ちしています。m(__)m


『ルート16』 / サン電子 1981年

サン電子が1981年に放った迷路型レースゲームの傑作です。
当時ゲーセンでハマった同世代の方も多いんじゃないでしょうか。
同時期の似た様なゲームにナムコの『ラリーX (※ 及び、難度調整
されたニュー・ラリーX)』があってそちらも人気でしたし、知名度と
しては後にファミコンで発売された『ルート16ターボ』の方が高いの
かもしれませんが、個人的にはやっぱりこのアーケード版オリジナルの
方が好きですね。ゲーム画面はこんな感じ↓です。
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これは約20年ほど前、現在も仲の良い中古基板屋さんから個人売買で
譲って戴きました。もちろん基板もロムも全てサン電子の純正品ですが、
彼(基板屋さん)によるとこの基板は基板自体が純正で残っているよりも
挿さっているロムが全て純正で残っている事の方が極めて珍しいのだ
そうです。その理由はタイトーの『スペースインベーダー』が後に登場する
タイトーの新作ゲームに改造(※= コスト削減の為に再利用)し易かった
のと同じで、このルート16もルート16の後に出たサン電子の新作ゲームに
改造(=再利用)されまくった為なのだとか。それ故、メーカーに回収されず
全く改造もロム交換もされずにルート16のまま使命を終えた完全純正の基板は
滅多に現存していないのだそうです。御覧の通り若干の経年劣化はありますが
小さなサブボードが載った一枚基板のシンプルな外観は21世紀の今見ても
非常に美しいと思います。

惜しむらくはインスト・カードで、自分は子供の頃よく目にしていた
ピンク色のもの(←画像中に載せてます)がオリジナルだと思っていたら、
どうやらこれは当時コピー基板が大量に出回った時に刷られたパチ物の
インストだった事が判明(泣)。後にオリジナルの純正インストを持って
いる方に実寸のカラーコピーを貰ったので、←の画像中ではそれと比較
したものも載せています。


『クラッシュローラ (クラッシュローラー)』 / クラール電子 1981年

これもまたアーケードゲーム黎明期を代表するタイトル。
こんな感じの↓迷路塗りつぶし系のゲームですね。
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当時はインベーダーハウスだけでなく、駄菓子屋の店頭でもよく見掛けた
TVゲームだと思います。基板、ロム、インスト・カードの全てがクラールの
純正品ですが、実はこのオリジナルのインストには「クラッシュローラ」と
書かれており、よく言われる「クラッシュローラ"ー"」と、最後のラーを
伸ばさないないのがメーカーの公式名称となっています。

またこの基板は製造後のルーツが分かっているのもトピックで、千葉県・
習志野市にあった個人経営のゲーセンが当時新品で仕入れ、店頭で長く
業務稼動させていたものを、ゲーセン廃業時に自分が安く引き取らせて
戴いたんですね。つまり僕が2代目のオーナーという事になります。
←に掲載した画像には基板と一緒に"Crush Roller"と書かれた黄色い紙が
写っていますが、これはそのゲーセンで稼動していた古いアップライト型筐体に
貼り付けられていたものです。劣化したテープの貼り跡から、その小さな
オンボロ筐体や店内の様子が何となく想像出来るのではないでしょうか。(^_^)


『バイオアタック』 / タイトー 1983年

FOX VIDEO GAMES(当時の20世紀フォックスの傘下)の許諾を受けて
タイトーが日本国内向けにライセンス生産していた、80年代初頭の
シューティング・ゲームです。タイトー純正の3枚基板+サブボードで、
ロム、インストラクション・カードも全て当時の純正品です。約35年前の
ものながら、どれも比較的良い状態で残っていると思います。

あまりメジャーなタイトルではないので御存知無い方も居られるかと
思いますが、全6面で構成されるゲーム内容は映画「ミクロの決死圏」的な
もので、人間の体内が舞台です。自機でウイルスの駆除と病巣の治療を
しながら面が進むんですが、自機の酸素(OXYGEN)が0になると残機数が
どれだけ残っていても即ゲームオーバーになるという、
ややクソゲー的な側面も持っています。σ(^_^;)
こんな感じの↓画面ですね。
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後にこのコンセプトによく似た「Xマルチプライ(1989年・アイレム)」
という傑作シューティングもありましたが、その先駆けでしょうね。

博多に住んでいた中学生時代、部活(ブラスバンド部)の帰りに仲の良い
数人の先輩達とよく立ち寄った駄菓子屋にこのゲームが置いてあり、
当時は毎日の様にプレイしていました。老夫婦が経営する木造の狭い店内、
先輩が食べているうまい棒とベビースターラーメンの香り、夏休み特訓を
終えた後の夕方の陽射しなど、このゲーム画面とサウンドを耳にすると
瞬時にあの時のノスタルジックな情景が思い浮かんで胸熱くなります。
或る意味、そうした個人的な時間旅行をいつでも好きな時に味わいたいが故、
ややクソゲーながらも手放さずにいる大切な一台です。

『ジャンプバグ』 / セガ 1981年

1981年にセガが放ってヒットしたアクション・シューティングゲーム...ですが、
元々はアルファ電子と豊栄産業(= 後のバンプレスト)が共同開発して
セガから出した、というのが正確なのかな。
当時はゲーセンで、駄菓子屋で、どこでも大人気のゲームでしたね。
これはプレイした事がある同世代の方もきっと多いでしょう。(^_^)

ビジュアル面では何故かワーゲン・ビートルが自機であったり、
その面の世界観に全くマッチしていない意味不明の敵キャラが
出てくるという突飛さを持つ一方、ゲーム的にはシューティングに
迷路攻略的な要素(= ピラミッド面)も入れるなど、テレビゲームの
方向性と可能性を探っていた80年代初頭の熱っぽさが色濃く感じられる作品です。
こんな感じの↓ゲームですね。
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この基板はどこで手に入れたんだったかなぁ・・。
随分と昔から持っているんですが、どうやって手に入れたのか
全く覚えていません。たぶん完全な純正基板ではないと思いますが、
タイトル画面ではちゃんと" SEGA 1981 ALL RIGHTS RESERVED "と
企業名とリリース年表示が出るので、ロムの一部は純正品が使われて
いるのかもしれません。もしくはオリジナルが何らかの原因で故障して、
それを数世代前のオーナーさんが修理した姿なのかもしれないですね。

またメインボードの四隅が丸く削られていますが、これは大判の1枚基板が
筐体内部の基板収納スペースに収まらず、以前のオーナーさんがその時稼動
させていた筐体の収納スペースに合わせてやむなく削った痕跡だろうと推察します。
見た目の通りのオンボロですが、音声面はアーケード基板ならではのものがあり、
エミュレーター版より遥かに鋭くて雑味の無い高解像なゲーム音が出てくる事を
特記しておきましょう。