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02/10/01(TUE)
【単行本・小説】 上遠野浩平「ぼくらは虚空に夜を視る」 徳間デュアル文庫 [bk1][amazon]
買ってあったものの積読だったナイトウォッチシリーズ既刊3作を一気読みしてみました。なかなか面白い。
ほんの少し喧嘩っ早いだけのきわめて普通な高校生、工藤兵吾はいきなり虚空に放り出された。
一応書いてみたものの、ストーリーを説明することにほとんど意味はない気がします。このシリーズはいわば、周囲の世界への違和感、漠然とした未来への不安、理由のわからない苛立ちなど、思春期に生じるさまざまな感情をシミュレートするために用意された物語だと思うからです。
人類の絶対的な敵として君臨する虚空牙が曖昧で観念的な、まるで一種の概念(=未来への不安)のように描かれているのもそのためですし、実世界の人類たちがおかれている状況が(いくら遠未来の物語とはいえ)現実味に欠けたきわめて想像しにくいものとして描かれている(=周囲への違和感)のもその目的のためだと思います。
そんな世界の中で展開される幻影の学園物語は、主人公工藤君の熱い台詞も、気恥ずかしいお約束的青春展開も、虚空の絶対零度にさらされることで、まるでひどく醒めたもののように状態変化してしまう。ここらへんの感覚は非常に奇妙でたいへん興味深かったです。また、戦闘シーンにおける歪んだパースペクティブ、ミクロ←→マクロの急激な変化など、極端から極端への強引な移行が物語にスピード感を伴なった異様な迫力を付加してるのかな。
同じようにミクロ←→マクロ変化でみせる作品としては、古橋秀之「タツモリ家の食卓」シリーズ(→感想)がありますが、あれはホームドラマにスケールの極端な拡大縮小を持ち込んだ物語で、まだドラマ性に趣が置かれているのかも。作品の方向性としていちばん近いのは、高校生ラブストーリーのツマとして地球丸ごと犠牲にしてみせた、高橋しん「最終兵器彼女」なのかもしれません。
しかし、なぜに工藤君はクラスで孤立してるのか? みんな、優しくしてやればいいのに……
【単行本・小説】 上遠野浩平「わたしは虚夢を月に聴く」 徳間デュアル文庫 [bk1][amazon]
ナイトウォッチシリーズ第2作。学園を舞台にずっと続けていくのかと思ったらそうでもなかった。
職業:探偵である荘矢夏美は友人である売れっ子作家妙ヶ谷幾乃に呼び出された。仕事の依頼があるというのだ。彼女の仕事場まで出向いた夏美の前に醒井弥生と名乗る少女があらわれてこう言った。 「あの人が、いなくなってしまったんです。誰だかは思い出せないんですが……」
誰だか、どんな人間だったのか、ほとんど思い出せないし、そんな人間がいたという痕跡は周囲のどこにも見当たらない、ただその人間に自分が強い好意を抱いていたことだけは漠然と憶えている。その人間を探して欲しいという弥生からの奇妙な依頼に端を発する「夢と消えてしまった記憶」を巡る物語なんですが、この作品についてもストーリーの説明に意味があるのかな……
前作と同じく、思春期少年少女が抱く感情を核に、その思いを表現するためだけのために、物語世界、人物設定、ストーリー全てを使役させるような無茶な作りが面白い作品です。
ただ、上遠野浩平の文章にもうちょっと「言葉の魔術」みたいなものが宿ればいいのになとはずっと感じています。ざっと書いた感じがなくなればいいなあ。この人の作品に、そんなに夢中になれないのはたぶんそこに理由があるのではないかと思ってます。もちろん、水準以上のレベルには達していると思うのですが……
ところで、前にも書いたかもしれませんが、上遠野作品と森博嗣作品では作りが非常に似てると感じていて、
・ 何回も何回も同じことを繰り返し書く。(上遠野の場合は「感情」、森の場合は「思考」)
・ ともに小説というよりは「上遠野浩平」または「森博嗣」で、大きな絵の一部分だけを拡大して1つの作品として仕上げてみせる。1作品だけで完結してる印象を受けない。
・ ↑に関連して、シリーズ間にある種のリンクが存在する。
・ そして、それはきちんと明言されない。
・ 解かれない謎を残す。
・ 現実味に乏しくても気にしない。
・ 要所要所にピンポイントで印象に残るキーワードを入れて、あとはざっと流すという文章設計。
あたりかな。「どこか物足りない」感じがちょうどいいのかもしれません。
【単行本・小説】 上遠野浩平「あなたは虚人と星に舞う」 徳間デュアル文庫 [bk1][amazon]
シリーズ最新作。今まででいちばん面白かったような気が。
ちょっと怒りっぽい少女、鷹梨杏子はぷんぷん怒りながらひとりぼっちで戦う。戦闘対象は
学園ものに復帰(?)。キョウこと杏子のためだけに用意された世界の中で繰りひろげられる戦闘シーンの歪んだパースペクティブ描写がとても素晴らしく、非常に感心しました。
しかし、いちばん面白く感じたという点については「対象不定な苛立ち」という近作のテーマ、「虚人使い」と「ナイトウォッチ」の駆け引きの面白さ、感傷的なラストの引き、それらすべてが非常にわかりやすい作りをしていただけ、という気もして、これら3作きちんと客観評価できているかは心もとありません。
ただ、これらシリーズ3作通して読んで感じたことは、さまざまな点でもうちょっと味が濃いほうが好みだなあということでした。ナイトウォッチvs虚空牙シリーズの連作中編(全5章くらいで750枚とか)の各章を取り出して長編に仕立てた感じ。もちろん、ライトノベルという枠組みではそれが正解だと思うのですが、ジャンル気にせずに読んでる身の上としてはちょっと物足りない気がします。普通、3冊同時レビュとかできないしな……
02/10/02(WED)
【ANIME】 あずまんが大王 第26回(完結) (→公式)
ついに卒業式。もう3年経ったのか…… 「初めての卒業」、「万感」、「悲しみ」、「母校」、「みんな」の5話。
「終わりよければすべて良し」というか。そんな印象の最終回でした。「ちよすけ、はじめて卒業の朝」、「榊、噛みネコとの邂逅」、「大阪、へーちょ」とネタは滞りなく進行していきます。卒業式、うわ――! 人がいっぱい描いてある!! 合格決定していないよみさんは気が立っておられですな。しかし、すごい人数の学校だな……(数えてないけど)2,000人くらいは余裕でいたような。すごいビッグな体育館だ。1学年15クラスくらいあるのか? 「仰げば尊し」斉唱はいい感じ。財布を落として泣く教師。 「ぶちこわしじゃ――ん!」 募金。 「皆さ――ん、卒業おめでとう!」 おいおい、ともはどこからせり上がってきてるんだい? もらい泣くかおりん、騙された! なぜに神楽が代表? もう出番少ないからね…… 普通に口から息吐けよ。 「あんたらはだいじょぶだろ」 最後にしてはじめていい台詞! かおりんマジギレ。というか、この娘だけ卒業後なしのつぶてになりそうだね…… 机を持ち帰りたがる神楽。 「え、あれ……!?」 よみスペサル突入。大阪印の呪い。どろどろどろ〜 しんみり演出に突入しはじめましたよ。ちよすけ上履きシーンとかなかなかよい。ちよすけ効果も打ち消し、よみへろへろ〜 ツッコミも殺人級ですよ。あれ? ともの凄いカットがあったな…… うおお、いい感じのラストでしたね。
個人的な印象としては作画クオリティもコンスタントに高かったし、声優陣も頑張ってるような気がしたけど、各話各話の演出意図がばらばらだった作品、というのがあります。1話だけ取ってみると出来はいいんだけど、原作をどのように料理すればいいのかかという方向性が全話通して見えてこなかった。高レベル安定していたものの、シリーズ構成としてみれば迷走がほのみえる作品というか。みていてとまどいを覚えることもありました。でもまあ、よかったですね。よかったよ。しかし、よりによって最終回の放映時間変更はDVD買わせろ戦略か?


【ANIME】 プリンセスチュチュ 6.AKT「夢見るオーロラ」 (→公式)
→第6話ストーリー
感情の一部分だけ勝手にもどされても、そりゃ錯乱するわな、というお話なんですが……
今後のストーリー展開に対する布石といった印象の回で、今まで何の疑問もなくみゅうとの心の欠片を取り戻していたチュチュに「感情を取り戻すことが本当に本人のためになるのか?」という問いが突きつけられる回でもあります。
巡業で町にやってきたバレエ団の看板女優の心にみゅうとの「不安」が忍び込む、というお話なんですが、チュチュに変身したあひるが直接彼女と対峙するわけでもないあたりにちょっとした工夫が見られます。そのままやると3話「プリンセスの誓い」(→感想)とほとんど変わらない展開になるからね。
へこんだり舞い上がったり落胆したりと猫先生の活躍もめざましい。町に入った瞬間、物語の影響から電気ナマズに変貌してしまったバレエ団団長のくだりなんかもシュールでよい。物語としては中休み的な回ではあるんですが、クオリティは高位安定、ということで。


【ANIME】 プリンセスチュチュ 7.AKT「からす姫」 (→公式)
→第7話ストーリー
面白いなあ。よかれと思ってしたことがみゅうとを苦悩させていたことを知って、プリンセスチュチュである自分を捨て去ろうとあひるが考える、という展開がまずあるのですが、そんなあひるの行動も、時空間を捻じ曲げて(!)強引に物語に介入してきたドロッセルマイヤー氏の手によって無理矢理に操作されてしまう。つまり、登場人物たち全員はこの変態爺の掌の上で踊らされているわけで……ものすごく鬼畜な設定ですね。いったいエデルさんは何者なんでしょう?
みゅうととチュチュが(無事)踊って、一段落かと思いきや、もう一波乱、妙に色っぽいコスの黒プリンセスが登場するわけで…… そんなまんまな外見で「誰!?」もないだろうにと思うのだが…… カッコいいですなあ。総合レベルの高さでは群を抜いてます。そのうちふぁきあも変身するんでしょうね…… 猫先生的には出番の少ない回でした。


02/10/03(THU)
【単行本・小説】 エラリイ・クイーン(訳:大庭忠男)「九尾の猫」 ハヤカワ・ミステリ文庫 [bk1][amazon]
中期〜後期クイーンはほとんど読んでいないのだった。ライツヴィルものくらいはせめてコンプリートしたい。
凶器である絹の紐だけを現場に残していく連続絞殺魔<猫>の暗躍によって、ニューヨーク全市はパニックに陥った。事件の目撃者もいなければ容疑者を特定できるような証拠もない。事態を重く見たニューヨーク市長は事件の特別捜査官としてエラリイを抜擢した。一見無作為に選ばれているように思える被害者たちになにかつながりはあるのか? 被害者たちの
面白くてあっというまに読了。エラリイvs.無差別殺人犯<猫>の頭脳戦が展開される内容は、本格ミステリというよりはむしろサイコスリラーの雰囲気で、この作品が1949年の昔に書かれたというのはなかなかすごいと思う。今読んでも古びた印象を受けなかった。また、ニューヨーク全市を暗躍する殺人犯が敵役ということで物語のスケールがでかい。なんせ<猫>の恐怖にかられた人間たちが大規模な暴動を起こすわ、ニューヨーク市長直々の命を受けて特別捜査官に任命されたエラリイが記者たちのフラッシュを浴びたりする。閉空間を舞台に物語が進行してきた今までの作品とはちがって、とても新鮮に感じられた。
被害者たちの見えない共通点を探り、容疑者を導き出す、いわゆるミッシング・リンクものの先駆的作品であるのだけれど、作品の完成度がいきなり高いため、後発の作品はさぞや苦労しただろうな……と思った。これではよほどひねらないと新しく感じられなくなる。苦心惨憺した例としては、たとえば、我孫子武丸「メビウスの殺人」とか。
構成も大胆で、被害者5人までをダイジェストですませてしまう序盤の展開はすさまじく現代的であるし、簡潔な描写なれども第3被害者オライリー氏の境遇にやりきれない思いを抱いてしまうくらいきちんと感情移入ができる。これはなかなかすごい。
ところで、ラストシーンにおけるエラリイも痛々しくてよかったが、殺人現場を線で結び「大発見! 絵が出来た!」みたいなことをいうヴェリー部長刑事のお茶目さには驚いた。そんなの、できたからといってなんになるというのだ……
02/10/04(MON)
【単行本・小説】 倉知淳「占い師はお昼寝中」 創元推理文庫 [bk1][amazon]
渋谷のおんぼろビルで「霊感占い所」を営む辰寅叔父とその姪っ子である美衣子のふたりが相談に訪れるお客さんの悩みを適当なご神託で解決する連作短編集。
「三度狐」、「水溶霊」、「写りたがりの幽霊」、「ゆきだるまロンド」、「占い師は外出中」、「壁抜け大入道」の6編を収録。
30半ばにして暇さえあれば日がな惰眠を貪り「ぼくに霊感なんてものはないよ」と言い切ってしまうインチキ占い師の辰寅叔父が、お客さんを悩ませる怪異の裏にある真実を見抜き、ことが上手く運ぶようにアドバイスするという、いわゆる安楽椅子探偵ものなのですが、この人の作品らしく飄々とした筆致で綴られる物語が楽しいです。いくら日常の謎ものとはいえ…… と思わざるをえない拍子抜けな真相もこの人らしいかな。
善人だとばかり思っていた人の心の奥底に潜む悪意があばかれたりするせいもあってか、ともすれば下手な猟奇殺人ものより後味が悪く感じられたりする日常推理ものですが、この作品についてはその心配は皆無でしょう。驚き、というよりは脱力、という種類の意外な真相ばかりで、しかし腹は立たない。そこらへんの匙加減が非常に上手い作品だと思います。
自分のドッペルゲンガーがいるらしいという主婦の相談をあつかった「ゆきだるまロンド」、なりゆきから留守番の美衣子が血まみれ幽霊事件の真相に挑むことになる「占い師は外出中」がいいかな。前者は「これ、加納朋子?」みたいなラスト2ページに爆笑したたいへんいいお話で、後者はある意味すごい真相と駄洒落オチに脱力のお話であります。
創元推理文庫の連作短編にありがちなパターン(この人の「日曜の夜は出たくない」、若竹七海「ぼくのミステリな日常」、加納朋子「ななつのこ」とか)で〆てないのも潔くてよいと思います。「ああいうのってサービスなの?」と個人的には感じていて、それはよほどの意味合いがない限り、短編は短編として独立して楽しめるほうがいいと考えているからなのです。
【ANIME】 円盤皇女ワるきゅーレ 第12話「ワるきゅーレ夢幻騎行」(完結) (→公式)
秘密裏にとり行われようとしている婚姻式典の真相をワルキューレ本人に尋ねるべくヴァルハラ本星に乗り込んだ秋人たちだったが……という展開の続きで、(安いけど)完璧にソツがない脚本。パーフェクト! レギュラー陣全員にきちんときちんと活躍の場用意してるし。しかし、ライネのおミソぶりに笑って、この娘さんはとっくの昔に勘当されてるんじゃないだろうか。
そして、驚愕の真相(w 前半の展開はいったいなんだったのか! ひょっとして、前言撤回なのか! 明菜さんは悲惨じゃないのか! なんやかやあって、情緒不安定な娘さんだったのですね……というオチ。OPだけ出演の残り皇女さんたちがオパーイ見せまくって終了。めでたいね!
(安かったけど)非常に安定した出来の作品で、何も考えずに楽しむにはもってこいだったのではと思います。後半の作画ヘタリがなければ完璧だったのに。個人的には、ライネさんの登場あたりからかなりよくなったと思っていて、「あっはーん」とかもう、素晴らしかった(w

02/10/05(SAT)
【単行本・小説】 シェイマス・スミス(訳:黒原敏行)「Mr.クイン」 ハヤカワ・ミステリアス・プレス [bk1][amazon]
凄腕の犯罪計画プランナーとして暗躍する男、Mr.クインの非情なる殺人ビジネスを描いたアンチ・ヒーロー小説。第2作「わが名はレッド」の前にこちらも読んでおこうと思って手にとってみました。
とても面白く、ひきこまれてあっという間に読了してしまいましたが、なんか奇妙な小説ですね。
主人公であるMr.クインは自らが表舞台に出ることのないよう細心の注意を払って(実際に手を染めるケースもあったが、基本的には)犯罪計画立案のみを担当する”影の仕掛け人”なわけで、実行犯として現場に居合わせることが少ないわけですが、彼の一人称で書かれている物語には知るはずのない犯罪の様子までが平気で書かれていたりするわけです。
監視モニタからの映像や盗聴、実行スタッフからの報告などを材料に、彼が再構成した物語であるとのエクスキューズは入るわけですが、それにしてもそんなの報告されたはずないぞ……という光景まで描写されているので、まるでMr.クインが神の視点を持って物語を支配しているかのような錯覚にとらわれます。
今回、Mr.クインが担当するのは、大手不動産会社を経営する一家を事故に見せかけて殺害、その全財産を乗っ取るという計画で、下ネタジョークを連発しながら独自の論理と倫理を駆使して飄々と仕事にあたるMr.クインの姿は冷酷な犯罪者というよりは凄腕の犯罪職人という印象です。
彼が準備段階で仕掛けるトラップの姿は見えます。されどそれらの罠が計画の中でどのような効果を持つのか、どのような意味を持つのかについては秘密のまま。しかしひとたびトラップが発動するとそれらパーツの1つ1つが連鎖コンボを形成して次々と標的に襲いかかりダメージを与えていくわけで、例えるならば、「刻命館」、「影牢」、「蒼魔灯」あたりのトラップバトルゲーム上級者のプレイを見ている感覚にいちばん近いでしょうか。一見無意味に思えるトラップ群が奇跡のように連鎖してターゲットのHPをぎりぎりまで削り、指数級数的に得点アップしていく時の興奮に似ています。プレイヤー視点がMr.クインで、ギャラリー視点が麻薬王トナーであり読者であるという構図かな。
とても面白い小説だと思いますが、前述の視点の問題など、わりに荒っぽくアバウトに描かれたものだという印象も同時に受けます。あと、狩る側/狩られる側、登場人物に2種類の思考パターンしか出てこない話(クインの息子2人のタイプに顕著)なんで、心理的深みはありません。
もっとも、それらは物語をわかりやすく痛快なものにするために機能していて、マイナスではなくむしろプラスに働いているものなのですが…… それはたまたま上手くいっただけ、という気もちょっとだけしています。
・ ところで実行犯トップであるマグワイヤが(こいつは心底鬼畜だと思う)ストーンウォッシュのジーンズ穿いてたりと、ダブリンを牛耳る麻薬王の犯罪グループにしては妙に貧乏くさいですね。殺害予定の人間から事前にボーナスとして借金しておいたり(当然踏み倒す)と、なんだかセコいし。これは映画なんかの映像イメージが強すぎるせいなのでしょうか?
・ よくよく見ると記号化された被害者たちの姿が靴裏に刻まれてたりと、遊び心に溢れたカバーデザインは秀逸。
【単行本・小説】 法月綸太郎「一の悲劇」 祥伝社文庫 [bk1][amazon]
法月綸太郎作品補完のため暇をみてちょっとずつ旧作を読みすすめていく。かなり面白かった。
自分の息子と間違えて近所の子供が誘拐され、あげく身代金の授受に失敗、子供は死体となって発見されてしまう……というなんとも身の置き所に困りそうな境遇に置かれた男の一人称で書かれた物語で、だから「一の悲劇」。自分の失敗から他人の子供を死に追いやってしまったという罪悪感に責め苛まれる男の心情描写が全編にわたりえんえんと続く。
プロットとしてなかなかよくできた印象の作品で、こと犯人のアリバイ工作については、あえてそのトリックを選択したのだろうなと思わせる動機面も含めてきわめて秀逸なものだと感じた。文庫版あとがきによれば、人物設定、ストーリー展開の面でパトリック・クェンティン「二人の妻をもつ男」を参考にしたらしいのだが、どれくらい共通点があるのだろうか。
作家・法月綸太郎的には探偵・法月綸太郎をラストでもっと煩悶させたかったのではないかという気がするが、これはあくまで記述者・山倉史郎の物語なので、その点でちょっと遠慮したのだろう。
【単行本・小説】 法月綸太郎「二の悲劇」 祥伝社文庫 [bk1][amazon]
こちらも。「一の悲劇」は一人称、では、ということで「二の悲劇」は二人称で書かれている。
殺害後、台所のレンジで顔を焼かれるという無残な姿でOLの死体が発見され、彼女のルームメイトが失踪するという事件を扱った作品ながら、本格ミステリというよりは、悲劇的な恋愛を軸に描いた青春回顧小説との印象を受ける。
そもそも二人称で書かれた小説(この「二の悲劇」の場合、全パートではないが)があまり思い浮かばないが、今まで読んだ本の中では、ジェイ・マキナニー「ブライト・ライツ、ビッグ・シティ」(絶版なのか)を「きみ」の物語でなく「ふたり」の物語として、痛々しいミステリに再構成しなおした感じだろうか。
沈黙期を経て発表された作品で、あとがきに「これは病人の書いた小説です」みたいなくだりもあることから、混乱した頭脳で書かれたような物語冒頭の二人称パートに困惑してしまう人もいるかもしれない。しかし、これは判然としない記述の真相がしだいに明らかになっていくという構成であるので「法月綸太郎、大丈夫だろうか?」などと心配するには及ばない。すべては計算し尽くした上で書かれたものなのだろう。
終盤における読者の心理誘導の手管は秀逸の一言で、ラスト1行を読んだ時にはせつなさが炸裂した。
02/10/06(SUN)
「寝るサエキトモ、ココモと消え去るね」
加藤隆史さんの「グラン・ヴァカンス」評を読んで、ちょっと感動しました。
たしかに、<夏の区界>を吉原の遊郭、ジョゼとジュリーのふたりをその名主と花魁、と考えれば、設定にも納得いくような気がします。仮想世界における遊廓を精神的に浄化することが作品の主要テーマというのにも、なるほど。
個人的には設定の古さが理由よりはむしろ、何をやりたかったのか読者への見せ方が巧みでない(「その質が小説世界からは乖離してしまってる印象を受けました」)から個人的な評価が低くなったわけですが、心の中で感じていた疑問への解答の1つになりました。
【ANIME】 第3期ギャラクシーエンジェル 第1話「捜索おやじ風創作おじや」/ 第2話「元祖エンジェルパフェ全部入り」 (→公式)
はじまったはじまった。
ちびっこ宇宙刑事+「私の…メガネ君」という両極端ショタコンビ、ギャラクシーツインスター隊とその上官であるメアリー少佐(眼鏡教師)を新メンバーとして加えてはじまった新シリーズ。なに? 今回は2クールもあるの……!?
第3期ギャラクシーエンジェルOP 「ギャラクシー☆ばばんがBang!」全カット+ダジャレ解説
第1話「捜索おやじ風創作おじや」
饅頭の奪い合いが原因でエンジェル隊はあっさり解散(情けない……)、5人のメンバーたちは新しいそれぞれの人生を歩みはじめていた。(フォルテ → バーの用心棒 / 蘭花 → 女子プロレスラー / ミント → ナース / ヴァニラ&ノーマッド → 花売り / ミルフィーユ → ウェイトレス)
エンジェル隊解散ののち新結成されたギャラクシーツインスター隊(ココモ・ペイロー@三瓶由布子+マリブ・ペイロー@サエキトモ)の大活躍を横目に、平穏な窓際生活を満喫しようとしていたウォルコット中佐であったが、あまりに何もしなかったせいか(……)リストラの危機に陥る。自らの生活設計のため、中佐はエンジェル隊を再結成すべく宇宙を東奔西走(?)する…… というお話。
うわあ、意外に面白い。この作品に過度の期待は禁物禁物と毎回思うけど、正直これだけお気楽な内容だとやっぱなごむわ―― 細かいギャグも目一杯詰め込んであって見てて退屈しません。こんな安定作品になるとは思ってもみませんでした。
新キャラのショタコンビ+眼鏡教師については保留かな。5人と完全に絡むキャラになるのか、シリーズ内での取り扱いがまだ未知数なんですよね。昼行灯キャラなウォルコットさん+ツッコミ&銃の的なノーマッドで充分だと個人的には思う。



第2話「元祖エンジェルパフェ全部入り」
なんやかやあってエンジェル隊の面々は(宝くじの賞金たかるべく)ミルフィーユのもとに集結した。その眼前に液状ロストテクノロジーが出現し、ついにエンジェル隊は再結成した! という展開の続き。
すぐ解散した。
わかりやすく利害関係でしかつながりがないところが素晴らしい。そして、栗鼠+虎パーティー、さようなら――という展開に液状ロストテクノロジーが再びあらわれた! ほがらかに自分の都合で解釈するミルフィーユによって再び集められるエンジェル隊の面々(フォルテはん → 保母、蘭花 → 遠洋漁業、ミントたん → アイドル、ヴァニラ → 農夫 なぜに……)であったが、なんかうやむやのうちに終わった。決まらないオチだなあ、おい…… あいかわらずわけわかんない。でも面白い。困ったものだ。
ところで、最後のオチまかすにはショタコンビはまだ力不足だと思うな……


02/10/07(MON)
「凱旋歌と、歓声が!」

そんなに大層なものでもありませんが…… ちょうど正午くらいでしょうか。
ちなみに↑は捏造で、都合良く踏めるはずもなかった。
1,000,000hit記念企画も考えていたんですが、予想を超えるカウンタの回転にまるで準備が間に合いませんでした。間の悪いことにガラクシ開始時期とかぶってしまったんですよね……
【単行本・小説】 ジム・トンプスン(訳:三川基好)「ポップ1280」 扶桑社 [bk1][amazon]
なぜか積読だったのだけれど、手にとってみたらものすごく面白かった。
人口わずか1280人というアメリカ南部の田舎町ポッツヴィルを舞台に、無軌道に悪行を重ねる保安官ニック・コーリーの一人称によって描かれるパルプ・ノワール。
悪にひた走りながらも、そんな自分自身には無自覚な主人公ニックの精神の乖離具合がポイントなのでしょうか。
彼の行動原理すべては快適な生活が保証される保安官という地位にしがみつくためという1点に向かっていて、地位を脅かす存在に対しては躊躇なく情け容赦ないふるまいに出るニックですが、その一方で黒人差別に反対するようなことを口にしてみたり(時代設定は第1次世界大戦末期)、しかも口先だけのものでもなくどうも本当にそう考えているふしさえある。そして、そんなことを言いながらも平気で裏腹な行動に及んだりする。瞬間瞬間の思考が乖離していてまったく一貫性に欠けているのと同時に、その瞬間の自分を正当化するための理由までもがきちんと用意されていたりします。その理由はもちろんニック自身にしか通用しない、たいへん身勝手なものであるのですが。
きわめて無軌道に展開されるニックの悪行は、まるで頭のてっぺんのほうで何者かの啓示を受けているかのようで、どこか心ここにあらずのように感じられます。そして、そんなニックの奇妙なつかみどころのなさが、物語のクライマックスにおけるとんでもない展開につながっていったりして、これにはたいへん驚きました。まさかこの話がこんなふうに着地するなんて!
魂が空洞だから全てを過剰に摂取して、でも暗黒は埋められない。虚ろな人間がその虚ろを誤魔化すべく、のべつくまなし飛ばしつづける(殺人混じりの)ブラックジョークが予想を超えてとんでもない領域にまで達してしまった、という印象の物語でした。こんなのがあるんですね。
・ 吉野仁による巻末解説によれば、オリジナル原稿ではラスト2行が黒く塗りつぶされていたらしくて、その内容についても掲載されているのだけれど、この邦訳版でも実際に同じことをしてみてもいいように感じた。このラストもいいけれど消された2行を付け足したほうがわかりやすい。でもそこまで書かなくても…… と思うので。
・ 同じく吉野仁氏による巻末解説にてちょっとふれられていますが、トウェイン作品にみられる皮肉まじりのユーモアセンスと近いものがあるかも、と感じました。
・ (参考) →三川基好インタビュー◇ポップ1280を訳して
02/10/09(WED)
【単行本・小説】 田中啓文「蓬莱洞の研究 私立伝奇学園高等学校民俗学研究会その1」 講談社ノベルス [bk1][amazon]
とうとつに新シリーズ。あれ、鬼刑事は……?
本格伝奇と学園青春小説と駄洒落(なぜだ……)の融合という、いかにもこの人らしい作品で、瀬田清の手によるポップで可愛らしいイラストに「これが田中啓文の本?」と驚愕したりしますが、中身はやっぱりいつもの通りなので、人によってはがっかりしたり安心したり大喜びしたりするでしょう。コンスタントにただ楽しいだけの小説であります。なごむ〜
魑魅魍魎の跋扈する「常世の森」なる原始林が裏手にあるという奇怪な学園を舞台に、ボーイッシュな大食い古武道少女と民俗学マニアの二重人格少年、そして個性豊かな民俗学研究会の面々が襲いくる怪異に立ちむかうという学園伝奇シリーズ。
さまざまな伝承に田中啓文独自の駄洒落を駆使した強引な解が与えられるという作りはUMA(未確認生物)の正体解明をテーマにした「UMAハンター馬子」シリーズ(→感想)とほぼコンパチといえましょう。
小説現代増刊メフィストに発表された中篇「蓬莱洞の研究」、「黒洞の研究」に、書き下ろし「大南無阿弥洞の研究」を加えた3編を収録。
・ 「蓬莱洞の研究」(→メフィスト掲載時の感想)
ブラバンとまちがえて民俗学研究会に入部してしまうという無理矢理にも程がある展開からスタート。「常世の森」で生徒たちが次々失踪するという事件を扱ったもので、大食い+伝奇+駄洒落というこの人にしか書けないだろうお話ですが、雨天ののち竜が目撃されるという伝承についてそれなりきちんとした解答を提示しているような気がしてなかなか面白いと思います。ただ気合が入りすぎたのか若干長すぎる気もしますが。
・ 「大南無阿弥洞の研究」
「常世の森」に木霊する巨大生物の鳴き声、そして「蛭女山祭」なる奇怪な名前の学園祭でなぜかお好み焼きの屋台をやることになった研究会の面々だったが…… というお話。書き下ろしがいちばん短いのはいつものことですが、世にもくだらない学祭風景と日本の古神を巡る伝承、謎の巨大生物などの物語要素バランスがよくて、この本の中でいちばん楽しめた話だった気がします。
・ 「黒洞の研究」(→メフィスト掲載時の感想)
新歓合宿に出かけた研究会の面々が連続殺人事件に遭遇するというお話で、これはいかんせん駄洒落がすぎる気がしました。とほほほ。
02/10/10(THU)
【単行本・小説】 石田衣良「うつくしい子ども」 文春文庫 [bk1][amazon]
この人の小説ははじめて読んだのですが文章がものすごく巧くて驚きました。さらっとした言葉の列なりなのになぜだか惹きつけられるものがあります。
緑に囲まれたニュータウンを揺るがす猟奇殺人事件。9歳の少女が吊られた死体となって発見されたのだ。そして、事件の犯人として補導されたのは13歳になる「ぼく」の弟だった。なぜ、そんなことを…… 少年Aになった弟のこころの奥底にあったもの、そして事件の真実を求め、「ぼく」は調査をはじめた。
13歳の少年が引き起こした猟奇殺人事件、その波紋が彼の兄弟家族にどのような影を投げかけるのかという、書きようによってはいくらでも書き込めそうな題材(もちろん事件の内容は異なるのですが、例えば、宮部みゆき「理由」とか)を270ページ弱、原稿用紙換算でだいたい450枚強くらいの比較的短めな長編としてあっさりまとめています。小説としての構造にしても、そこで用いられている表現にしてもすべてが腑に落ちる感じで、小説が達者な人だな、という印象を受けました。
たとえば、渦中にいる「ぼく」、外から客観的に見る新米新聞記者、視点の位置を内部/外部と切り替えながら物語を進行させていくことによって事件を立体的に見せるところ、「ぼく」を植物マニアという設定にすることで文章に緑の瑞々しい表現を附加し、ともすれば陰惨なだけの物語になりそうな作品を爽やかなものに仕上げているところ、ところどころ印象的なフレーズを楔のように打ち込んでおくところなどは、特に珍しい手法ではないものの、処理の巧みさにたいへん感心しました。
正直、「もっと書き込んだほうが衝撃的になるのでは?」と思う部分も少なからずあるのですが、そこをあえてさらっと流してしまうそのバランス感覚が重要なのかもしれません。
クスノキのしたの集会のシーンはきれいでとても印象に残りました。物語への希望の潜ませかたも上手いですね。
【ANIME】 灰羽連盟 第1話「繭 空を落ちる夢 オールドホーム」 (→公式)
原案・脚本・シリーズ構成:安倍吉俊、というか100% 安倍吉俊ワールドだ……
背中に灰色の羽根を生やして頭上に光輪を浮かべた、天使でも人間でもない不思議な存在、灰羽(はいばね)な娘さんたちの集団生活を描いた物語、のようです。(まだ未知数)
彩度を抑えた色彩設定や独特のギミックセンス(フライパンから光輪が出てくるところとかいい感じ)、壁に囲まれた街から出られないという微妙に閉塞した世界設定、思わせぶりで謎に満ちた台詞回し、のんきな雰囲気と痛々しい展開のコントラストなど、安倍吉俊センス全開な作品ですね。音楽もたいへんよろしゅうございます。
しかし、世のアニメはなぜゆえここまで天使天使してますかね? ここ最近の天使含有率はパーセンテージ相当高いはず。はっ! そういえばガラクシだってエンゲルだった!


・ アシスタントドッキリを西原理恵子にやられたところともかずが監督。
・ しかし、「Fly Me To The Moon」が流れそうなEDではあることだ。
・ まだ2話できてないって、それは大丈夫なのだろうか……(10/10)
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