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あびゅうきょ「晴れた日に絶望が見える」
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ジョナサン・キャロル(訳:浅羽莢子)「沈黙のあと」
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03/02/22(SAT)
【単行本・小説】 ジョナサン・キャロル(訳:浅羽莢子)「沈黙のあと」 創元推理文庫 [bk1][amazon]
ぼくは自分の息子リンカンの頭に銃を突きつけている。ぼくはすくみあがっていて、でも、銃口を頭に押し当てられた当の本人は、愛している人間に触れられてるかのように微笑んでいる。なんでこんなことになったのか、聞いてくれ――
文庫化されているキャロル作品の中ではこの1冊だけ読んでいなかったので補完。売れっ子独身漫画家がある日出会った美しく活発で個性的な母子。彼は母親リリーを愛し、彼女の息子リンカンも大好きになった。リリーも自分を愛してくれる。すべてはこれ以上ないくらいにうまくいっていて、本当に幸せだった。しかし、その幸福も長くは続かなかった。ひとつの綻びから崩壊ははじまって、そして…… というお話。
「なんだか、変だな……!?」 という不吉な予兆、いままであったはずの現実世界が足元から音を立てて崩落していくさまを描かせたら、やはりキャロルはうまい。主人公である漫画家のマックスと母子リリーとリンカン、彼ら3人のアツアツぶりがえんえんと描かれる作品前半から嫌な予感は果てしなくあるけれど(キャロルだから)、まさか、ここまでやるとは…… 作家としてのキャロルの性格の悪さには本当に舌を巻きます。降参。
ファンタジーというか、超自然的要素がほとんど登場しない、キャロル流サイコ・サスペンスといってもいい内容で、シャーマンのヴェナスクをはじめとするシリーズレギュラー陣もほとんど登場しません。ハリー・ラドクリフが話の中にちょこっとだけ登場、フィンキー・リンキーの番組が流れる、それくらいかな? ただ、ラストの展開などをみると、これまでの作品と同じく、ダーク・ファンタジーと呼びたくなってしまうこの作者独特の手ざわりみたいなものがあって、なんかこう、禍禍しい童話を読んだような、ひじょうに嫌なものがあるんですよね。(ふと思ったんですが、藤子・A・不二雄「笑ゥせぇるすまん」に似ていないこともないような) 世間に溢れる凡庸な残酷描写や悪意の表現とはこれほどまでに隔たっているのに、なぜ、これほど恐ろしいのか? 本当に不思議であります。
作品全体の味わいとしては第2作「我らが影の声」(→感想)とちょっと似ている気がしますね。
ところで、萩原香氏による巻末解説はシリーズ全作品のストーリー展開をほとんど最後まで説明してしまうという、ほとんど掟破りに罪深いしろものなので、これより前の作品で未読なものがある方はクリップなりテープなりホッチキスなり使って封印しておいたほうが無難ですね。「炎の眠り」ラストの台詞をそのまま書いてしまってるのが個人的には許せません。いわゆる「最後の一撃」得意とする作家なんだから、これ書いてしまったらダメでしょう。
03/02/24(MON)
【ANIME】 オーバーマン キングゲイナー 第22話「アガトの結晶」 (→公式)
こ、これは素晴らしい。ここにきてアスハム兄さんが情念溢れる凄まじいキャラに変貌しました。子安マンセー! すげえよ、アンタ…… という感じでしょうか。とくにクライマックス近く、怨嗟の念に満ち満ちた、まるで自らの魂を悪魔に捧げるかのような絶叫シーンには演技者としての凄みを感じましたね。
そして、もちろん作画も素晴らしい。こんないいものが観られるとは…… 脚本は浅川美也、作画監督は、第1話、第2話、そして「変化ドミネーター」(→感想)担当した吉田健一と、「炸裂! オーバースキル」(→感想)、「奮戦! アデット隊」(→感想)ほか担当の中田栄治。最強コンビなのかもしれません。魚眼レンズで瞬間的に歪めたみたいな顔面アップ多用した空間の見せ方がすごい。アスハムとキッズ・ムント総裁の殴りあいなんか、アニメというメディアでなければ表現できないものだと思います。あ、キングゲイナーとブラックドミ軍団の空中戦なんかも目眩くものがありました。くらくらします。
アスハム兄さんひとりで大活躍でもなく、お前は神か! と説教したい、「くらえ! アガト・グラビティィィ!!!」 な、キッズ・ムント総裁はじめ、いまだに精神状態不安定な突撃嬢ちゃんことシンシアさんもテンション高すぎでした。もはやなんの躊躇もなくカップルシート乗り込みなゲイナー君&サラさんは仲よろしくてええですね。クライマックスにむけて物語は盛り上がっていきます。
しかし、ここにきて、アスハム兄さん株がここまで急上昇するとは思いませんでした。最後にはお亡くなりになってしまいそう(or 廃人になってカリンのもとに帰還)な気がしますが、ヤッサバ隊長と同じく、いつまでもぼくたちの心の中に生きつづけることになるでしょう。



【単行本・実用書】 大塚英志「キャラクター小説の作り方」 講談社現代新書 [bk1][amazon]
ザ・スニーカー誌における同名連載を1冊にまとめたもの。うーむ、これは……
身も蓋もない内容という点においては「物語の体操」(→感想)と同じで、実際の内容も共通している部分は多いように感じます。神話や昔話からの換骨奪胎でストーリーは問題なし / 見た目でわかりやすいキャラ立てを / 既存キャラからのパクリもトッピング乗せれば大丈夫、とか、そんな感じかな。
ただ、巻頭文にて、 「受験参考書のように講義します」「いわゆる『私小説』については、ひとまず脇に置いておいて下さい」 とことわって、内容は、大昔からある物語からのパターン還元による作話法という本当に基礎的な内容をひたすら講義しているにもかかわらず、その向こう側に大塚英志の政治的な思惑も同時に透けて見えるアンヴィバレンツな部分もあって、いったい誰のための本なのか、誰に訴えたいのか、よくわからない本でもあります。あとがきにおいて「実用書」と銘打ってるわりには余分なところが多いかなあ。
最終講 → あとがきの流れは、「群像」誌に掲載された笙野頼子の「ドン・キホーテの侃侃諤諤」、「女の作家に位なし!? ―――ドン・キホーテの寒中見舞い」に対する反駁のために書かれているとしか思えなくて、スニーカー大賞に応募するような若人相手に出した実用書としては、これは…… と思います。そもそも「文学フリマ」にしてもそうで、「群像」2月号掲載の大塚英志「もうぼくは『文学』を引き受けることに躊躇しません」にて使うための材料として1回だけ主催してみました、あとはどなたか引き継いでください、つまりは参加した創作小説/評論系同人サークルの人たちの活動をそのまま自分の理論武装のための手駒として使ってるようで、どうにも心情的にひっかかる部分があります。
「群像」誌における論争においては、文学的なバックボーン、才能の絶対量、そして文章芸、笙野頼子と比較したら大人と子供の差以上のものがあって、手のひらの上で遊ばれてる印象。必死になるのはわかるんですが、あきらかに対象が異なる本の中にそれを持ち込むことはよしたほうがいいと思います。
屈折した文学コンプレックスや政治的思惑を本の中に持ち込まず、たとえば、D・R・クーンツ「ベストセラー小説の書き方」、久美沙織「新人賞の獲り方おしえます」シリーズ、最近出た本では、ローレンス・ブロック「ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門」、野崎六助「ミステリを書く! 10のステップ」あたりの割り切った即物性こそを目指すべきだったと思います。( そういえば、若桜木虔「プロ作家養成塾―小説の書き方すべて教えます」の内容もきわめて実践的で悪くなかったような)
この手の本の中では、中条省平「小説の解剖学」(→感想)が好みですね。ちょっと読み物っぽいかな。
03/02/25(TUE)
【単行本・漫画】 あびゅうきょ「晴れた日に絶望が見える」 幻冬舎コミックス [bk1][amazon]
あびゅうきょ(→公式ページ)、ひさびさの単行本。アワーズライト誌に不定期連載されていた「影男」シリーズ全6作に、シリーズ前身となるガロ掲載の短編「絶望トンネル」、月刊コンバットコミック掲載の「空の追想」、「空の追想 特別編」、ガロ掲載の「神世の翼」が収録されています。(→単行本詳細はこちら)
なんといっても「影男」シリーズが圧巻。このシリーズの中には、あびゅうきょ作品に通底するほとんどのテーマが含まれているといっても過言ではないような気がします。
黒いベールを前身にすっぽりかぶること無しには他人と対峙することも適わないアニメ・ゲームヲタクの主人公が、少女とともに廃墟を彷徨しつつ、自己の内面を吐露するというとんでもない内容で、観念的かつ異様な世界が展開されていくという点においてはTV版エヴァンゲリオン最終2話を想像していただけるといちばんわかりやすい気もしますが、なんせ主人公38歳独身無職だからなあ。しかも救いの天使として降臨しそうな少女たちにも顧みられることはなく冷たくあしらわれてそのまま終了。「絶望」以外の言葉が思い浮かばないすさまじい作品であります。
ちなみに各話タイトル。「晴れた日に絶望が見える」、「絶望男は希望羊の夢を見るか?」、「『ぜ』は絶望の『ぜ』」、「絶望年代記」、「果てしなき絶望の果てに side A / side B」。うわあ。
まるで魚眼レンズで歪めたかのような空間描写、突如天から飛来する異形のもの、少女の語る観念的な言葉たち―――とは裏腹にどこまでもダメな屑人間、影男の弱音など、見るべきところがありすぎです。すごいページはたくさんあるんですが、勾玉で頭飾った少女が神刀構えてるバックに「神罰」と書かれた戦闘機が迫るカットなんか、かなり脳にきました。 「さあ!! お前の逝くべき処は決まった!! ド――ン!」 「覚醒」 ってのもいいですね。麻薬的。どこまで本気なんだろうか……いや、完全本気なんでしょうね。読め! そして、あびゅうきょの絶望の深さを知って震えろ! という感じでしょうか。
【単行本・漫画】 森薫「シャーリー」 エンターブレイン [bk1][amazon]
森薫(→公式ページ)、漫画描き白亜紀時代 → 縄文・弥生時代あたりの(あとがきにおける本人談)メイド漫画を1冊にまとめた短編集。県文緒(あがたふみお)名義でコミティア参加していたころの作品ですね。(→詳細)
ビーム編集部で「メイドの人」と呼ばれてることについてはなんら意外性を感じないのですが(というか、それ以外どう呼べばいいのだ)、でも本人的にはちょっと不本意らしい、でもやっぱり、メイドメイドメイドだよね……
現在の「エマ」における完成度からみれば、まだまだ微笑ましいところはある作品集ですが、連続したコマ割りで登場人物の心情をきめこまやかに描きだすその筆致は「シャーリー」第1話からすでにあらわれてます。13歳のメイドさんがはじめて着たメイド服に感動して姿身の前でくるっと回転してよろこぶ、みたいなシーンにふつう4ページも使いません。ゆっくりと流れる時間の描写が巧いですね。
クールで性格キツめなメイドさんとその雇い主であるイタズラ好き子爵の攻防戦を描いた「メアリ・バンクス」も素晴らしくて、静から動へのコントラストと、しっとりとした〆がいい感じであります。
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