| 憧れの先輩を追いかけてWAC(婦人自衛官)になった朱野。彼女はそのことを同僚である乙犬には知られたくない。何故なら彼は自分を仕事で認めてくれる数少ない同僚だからだ。
そんな / 下らない理由で / 彼は / きっと自分を/ 馬鹿に /するだろう
『どいつもこいつも』1巻は朱野と乙犬の恋愛に関するエピソードを軸に物語は展開していく。2巻以降は1話完結の形で自衛隊ちょっといい話(ウソ)が描かれることになるのだが、雁須磨子の漫画におけるキャラ造形/ストーリー展開を語るにあたってここでは主に1巻の内容から引用することにする。
まず主人公である朱野。彼女はその後自衛艦として志願した理由を乙犬に知られ、必死でフォローしようとする。ここで私たちは「朱野はその先輩との仲を乙犬に誤解されたくなくて弁解してるのに違いない」と思う。私たちが思わなくても乙犬はそう思った。しかし朱野が追いかけてきた藤堂先輩は女性なのである!(朱野は女子高出身)つまり憧れの先輩というのは文字通り憧れの先輩でそこに恋愛的感情はない。朱野にとって理想の人であった先輩の進路とまんま同じ道をたどって来てしまったのである。たぶんほとんど考えなしで。しかも彼女が自衛官になって3年、憧れの東堂先輩には何の連絡も取らず、全く会えずじまいのままなのだ。
ここで読者は当然疑問を持つだろう。
Q.「朱野ってひょっとしてかなりスカポンタンな人間ですか?」
A.「Yes.」
朱野は自分の中に生じる感情について、それが何なのかを全く理解していない人間である。実際、彼女が乙犬に抱いている感情は立派な恋愛のそれなのだが、彼女は恋愛という感情についてどういうものなのか全く理解していないのだ。
その後、彼女は乙犬に告白されるが情緒不安定になりながらもふってしまう。理由は上と同じく「あんたとはいい仕事仲間でいたいから〜(泣)」である。しかもそれから乙犬が機工(朱野、乙犬は武器。機工はもっとエリートな部署)を目指すと聞くと自分も(無理なんだけど)目指そうとしてみたりする。理由は「あんたに置いてかれたくなかったのよね」である。なんじゃそりゃ?乙犬君じゃないけど「おまえってひょっとして不思議少女なのか?」である。
しかしそれはストーリー上の欠点にはなっていない。そもそも自分自身のことをきちんと理解している、なんて考えている人がいたらソレはたいていの場合大マチガイで自分で考えている自分と他人から見た自分との間にはとてつもなく大きなギャップがあるのが普通だ。朱野は、動かしにくく感情があやふやでわかりにくいという点において、物語内のキャラクターとして不適格な存在かもしれない。しかし、私たちに非常に近しい存在という意味においてリアルなキャラクターである。
しかも朱野だけでなく、『どいつもこいつも』に出てくる登場人物ほとんどがこんな感じなのである。とほほ。朱野の一番親しい友人である江口はOL→カード破産→入隊という謎の経歴を持つ女。強い結婚願望があるがべつに誰にもアプローチせず。もう一人の友人、後輩である戸波留は筋肉フェチで盗撮マニアで自衛官を天職とか言い切る変わった子だが江口と同じく誰にもアプローチしないまま。つまり異様なまでに日々に流されやすい人ばっかりなのだ。
その他、新しく来た上官である立花もどうやったら新しい職場のみんなと打ち解けるかばかり気にしていて、しかもそれが空回りばかりしている人だし、唯一まともっぽい乙犬でさえも自己満足と自己責任の区別ができてないただ熱血してるだけの若造だ。
つまり登場人物の誰もがきちんとストーリーが展開しやすいような形で創造されたキャラクタではなく、そんなキャラたちをなかば無理やりストーリーにはめ込んでいるのである。当然のごとくストーリーの流れは複雑(乱雑?)を極め、各エピソードは収拾がつかないままに積み重なっていく。
だいたいからして、この1巻での見せ場であるだろう乙犬の告白シーンでさえもたいへんぞんざいに描かれている。他におおぜい隊員がいる食堂でいきなり、である。ムードもへったくれもない。しかも横では落書き顔の江口が「何?何がおきているの?」「こわい、こわいわ。」とか言ってる。顔に縦線入れて(笑)。
エキセントリックになりすぎず、普通にへっぽこな登場人物たちを動かしてどうでもいいようなストーリーを描く才能。そういうものを描く作家の中では雁須磨子が今イチバン面白いのではないだろうか。
ちなみに雁須磨子の作風を有川祐のそれと比べて論じる人が多いような気がするが(昔は僕もそう思っていた)どちらかというと佐々木倫子のそれのほうが近い気がする。へっぽこ集団劇の正当継承者として。『どいつもこいつも』はポスト『動物のお医者さん』だ!チョビはいないけど乙犬がいるし。
↑ウソ
同時収録作品について
『地獄の玉三郎』 ……… 「とりかえしのつかないことってどんなことよ」 家出した長男がそのまま事故死して帰らなかった出来事を機にある意味時間が停止してしまった小渕沢家。玉三郎と名のる少年がやってくることで少しずつ小渕沢家の時間は動き始めていく…。珍しくシリアスムードの作品だがいい感じでまとまりそうな長女のぞみとの会話が最後の最後でひっくりかえるあたりがこの人の味。
さいごに2巻以降の一話完結作品も面白いです。各キャラそれぞれが暴走してて。個人的には脱柵/
コスプレ /ミニスカポリスの回とか。でもぜったいに実際の自衛隊はこんな感じじゃないけど。間違いなし。
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