◆ 今の漫画はつまらないのか? ◆


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本当につまらないの?

 年を重ねるごとに周りで漫画を読む人が減っていく。年齢が高くなるにつれて漫画を卒業していく人が多いようなのだ(ちなみにこういう人たちは小説からも卒業していってしまうが)。そういう人たちがよくいう言葉に「最近の漫画はつまらなくなった」というのがある。本当にそうなのだろうか?
 「最近の漫画がつまらない」という意見には俺は全面的に反対である。昔の漫画に比べて、描画技術レベルは明らかに上がっているし、ストーリーや演出面でも進歩している。それなのになぜ「最近の漫画はつまらない」といわれてしまうのだろうか。


雑誌数の増加と作品の分散

 その原因として一番大きいのは雑誌数の増加だろう。昔は少年誌を何冊か読んでいれば、そのときの旬の漫画はだいたいフォローできた。そういったメジャー少年誌があらゆる意味で花形の時代だったのだ。しかし、現在は昔よりもはるかに多くの雑誌数が出ている。現在は面白い漫画がたくさんの雑誌に分散するようになってきたのだ。そしてその面白い漫画たちをフォローするにはたくさんの雑誌を読むしかなく、読者の面白い漫画探しにかけるべき労力は結果として増大している。これについてこれなくなった人たちが漫画を読むのをやめ、「今の漫画はつまらない」というわけだ。


少年誌の地位低下とマイナー誌のメジャー化

 また、少年誌の相対的な地位低下もこの才能の分散傾向に拍車を駆けている。これに関して、大粒な新人が少年誌から出なくなってきたという現象も見られる。これは少年誌の過酷な囲い込み体制が新人に嫌われるようになってきているというのがあるのではなかろうか。とくに少年ジャンプにその傾向が激しい。アンケート至上主義だの、作者を使いつぶすだの、それが本当かどうかは別として、新人が自分のデビュー先として選ぶにはマイナスイメージが強すぎる。
 さらに青年誌だけでなく、もっとマイナーな雑誌、例えばH漫画雑誌などでデビューしてもそこそこ売れて、そこそこ食っていくことができるようになってしまった今、過酷な少年誌をメインフィールドにしなくてはならない必然性も低くなってきている。
 最近では、個人的な感想としてH漫画雑誌から有望な新人が出てくることが多くなったような気がする。これはデビューまでのハードルの低さと、自分の好き勝手に描きやすいという状況が新人に好まれるからだろう。そういったのびのびとした環境で育った若手を大手の青年誌などが吸収していくというケースも目立つ。


作品の専門化

 作品のレベルの向上というのも分散傾向の原因の一つだ。作品のレベルが向上すると、読者を選ぶようになるというのはたしかにある。高度なギャグはある程度の素養がないと理解できないのと同じように。高度な漫画的文法を理解するためには、それなりに漫画をたくさん読んでいないといけない。作品のレベル向上は読者のさらなるマニア化を要求するのである。
 また、読者の趣味の多様化に合わせて、一つの作品が扱う範囲が専門化していったというのもある。昔の作品はそれこそ「愛あり、ケンカあり、友情あり、スポーツあり……」といった感じで総合的な作品が多かった。「俺は鉄平」とか「ハリスの旋風」みたいな総合スポーツ漫画を見ると、それがよく分かるだろう。しかし、現在の漫画は野球なら野球、恋愛なら恋愛に特化することにより、そのジャンル内で高いレベルを追求するようになった。野球漫画の戦術のハイレベル化などを見るとよく分かる。それなりの高いレベルでの知識を盛り込まないとリアリティが感じられなくなったのも事実だ。
 このように漫画のジャンルが特化していくと、当然その漫画の対象読者層が狭くなっていく。野球漫画の戦術のハイレベル化を先ほど例に挙げたが、あまりレベルが高くなると野球の知識のない人にとっては、何がなんだか分からなくなる。このようにある漫画の対象読者層がピンポイント化したことにより、一人の読者にとって1冊の雑誌の中でヒットする漫画が少なくなってきてしまったのだ。そのピンポイントな部分から外れてしまった漫画はとたんに「つまらない漫画」となってしまう。これも「今の漫画はつまらない」という一因だろう。


今漫画業界に求められるもの

 最近、漫画業界の不調が伝えられている。上記のような分散傾向により、面白い漫画を探すのがたいへんになったというのもその原因の一つだろう。
 現在も秀でた作品は確かに存在する。しかもたくさん。しかし、それが読者の目に届きにくくなっているのもまた事実だ。このような状況で必要になってくるのは、「今、面白い漫画は何なのか。そしてそれはどこにあるのか?」という情報だ。5W1HのなかのWhatとWhereである。一つの作品を掘り下げるよりも、よりたくさんの作品の名前が出ることのほうが大事だ。
 最近では、新聞などにも漫画書評コーナーができたりしているが、まだまだ足りない。面白い漫画との出会いを増やしてくれる機会はたくさんあればあるほどいいのだから。もっともっと信頼できる、面白い漫画情報提供の場が必要だ。もちろん読者にはそれぞれ好みがあるので、各読者が「このレビュワーのいっていることなら信頼できる」という人をそれぞれに持てるくらいの数の漫画レビューとレビュワーがあってほしい。実はこのホームページを開いた目的の一つはそこらへんだったりする。
 そういった面白い漫画の所在と内容紹介をするレビューが増えれば、地味ながらもきっと漫画業界を支える力になると俺は思う。