海明寺裕単行本リスト  H系その1

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■作家名:海明寺裕(かいめいじ・ゆう)
■作者Webページ:海明寺 裕の部屋
■オンライン書店で「海明寺裕」を検索:bk1 / Amazon.co.jp


「eXpose」 [Amzn]

「eXpose」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-914989-83-2 C9979
■価格:900円
■初版発行:95/08/20
■判型:A5
■併録:「名犬プッシー」

 三和出版系では初の単行本である。

 美人だけど性格の悪い中学校の女教師が、さんざん叱りつけていた生徒の健一によって放尿シーンを盗撮され、その写真をネタに復讐、調教されるという話。これ以降の海明寺裕SM系作品に共通していることなのだが、調教といってもSEXシーンは一回も出てこない。フェラチオさえないのである。言葉で追い詰め、人前で恥ずかしい格好を強い、最後は家畜としての烙印を押す。これが海明寺裕世界のパターンである。この作品でも、女教師はまず脅迫され、次は恥ずかしい格好をするように屈伏を強いられる。そして、家財道具をすべて運び出され慈善団体に寄付されてしまうなど、経済的にも追い詰められていく。さらに周囲の反応も冷淡である。ほかの生徒や先生たちは手の平をかえしたように奴隷となった女教師を蔑みはじめる。集団での蔑視が物語の中で実に効果的に作用している。そんなこんなで女教師は自分が奴隷だと思い知らされ、屈従の中で奴隷であることへの意義を見出していく。

 舞台も、最初の時点では普通の学園であったのに、ラストシーンでは調教された「家畜」たちの競売が行われる舞台へと、ごく当然のごとく変わる(なお競売での先生のお値段は100円こっきり。そのあたりの冷淡さもたまらない)。ここらへんで読者は、自分たちが「普通と信じている」この社会と、作品世界がどこらへんまでリンクしているのか分からなくなってくる。夢と現の境界が曖昧になってくるのだ。調教対象である女教師から社会的立脚点を奪うと同時に、読者がどの程度まで語り手を信頼していいのか、その立脚点も同時に与えず読者を幻惑し続ける。信頼できない語り手である、海明寺裕の技巧が光る。

「後宮学園」 [Amzn]

「後宮学園」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-914989-92-1 C9979
■価格:900円
■初版発行:96/04/20
■判型:A5
■併録:「ブルーセーラ」

 それまで何も知らない普通の女子中学生として暮らしていたちえみが、名門中学校に編入することが決まる。で、転校初日、学校に行くといきなり女教師の叱責が待っていた。今まで着ていた服は没収され、すけすけのセーラー服が与えられる。女教師がいうには、ちえみは自分を人間だと思い込んでいる「ま●こ」だというのだ。

 後に判明することだが、ま●ことは人間に奉仕させるために飼われているペットのことで、外見はほぼ人間と変わらない。最初はそれを否定するちえみだが、女教師に鼻を引っ張られるとその部分の皮が破れ、犬のような鼻と三つ口が現れる。普通の世界ならそんなことあるわけないのだが、それがさも当然であるかのように扱い、話をさっさと進めていってしまう。この程度のことで立ち止まっていたら、以降の話にはついていけないのだ。

 話が進んでいくうちに、人間だと信じていた自分の母親も実はま●こであったことが判明する。そして、ちえみも自分がま●こであることに得心がいき、自分の幼馴染みであった「人間様」の健一君に飼われるのを夢見るようになる。

 この作品では、自分の信じていた世界が突如としてゆらぎはじめ、ガラガラと崩れ去っていく様が描かれる。「eXpose」ではまだ段階を踏んでいたが、こちらでは第一話から主人公は異世界に飛び込んでいき、今まで信じていた自分を全否定され次から次へと世界観を揺さぶられ続ける。この世界には人間と同じ姿をした奴隷(ペット)が存在し、何が奴隷と人間を隔てるか(主人公には、そして読者にも)分からない。しかもそれは生まれたときから決まっているらしいのだ。そして「それはそういうものであり」、受け容れるほかない。根本的な部分は説明されないままに、お話は着々と進んでいく。まだまだ読者は海明寺的幻惑世界に足を踏み入れたばかりなのだ。

 あと、巻末に同時収録されている「ブルーセーラ」は「虚構列伝」に近い、うそっぱち伝記ものである。セーラ服の発明者である、世良富久子の数奇な生涯を描いた物語である。ときに写実的な作画をまじえ、実に「それっぽく」描かれた作風はなかなかにひねくれていて面白い。

「ボディ・ショップ」

「ボディ・ショップ」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-88356-004-X C9979
■価格:900円
■初版発行:97/01/20
■判型:A5
■併録:「聖母の乳」「あてんしょんぷりーず▽」「栄光なき変態たち 第1話 ブレーズ・パスカル」(▽はハートマークの代用)

 この巻で調教されるのは、名門中学校に編入した少年の母親と妹である。正体を隠している(読者にはバレバレであるのだが)実の息子の手によって、母親と妹は自分がま●こであることを思い知らされ、従順なペットであることを思い知らされていく。なぜ息子は人間様で、それを生んだ母や血を分けた妹は奴隷ではないのか? そのあたりは一切明かされず、話は冷淡に進む。

 どちらかといえば、この作品は前2作の踏襲部分が多いので多少飽きてくるところもあるかもしれない。「ボディ・ショップ」における特殊事情はやはり調教する側が肉親であるということだろう。母親の調教がメインで語られるのだが、自分がま●こであること、ま●この存在自体についてまったく知らなかった母親に対して、息子はすべてを承知している。「自分だけが何も知らされていない」、それがゆえにある日突然、自分の信じていた世界がすべてひっくり返る。もしかしたら、そういったことは現実にもあるかもしれない。うっすらとした、そして根源的な恐怖がこの作品にはある。

「K9」

「K9」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-88356-015-5 C9979
■価格:920円
■初版発行:97/11/20
■判型:A5

 女子高で数学を教えているプライドの高い女教師が、ヌード写真をインターネットで公開されると脅され、調教される。脅迫者はパソコン通信のチャットでねちねちと調教の命令を伝えてくるのだ。そして、いつものような調教の過程を経て、女教師は自分が人間奉仕用の家畜である「K9」(CANINE=ケイナイン。前作までの「ま●こ」のようなものだと思えばいい)であることを悟るようになる。

 この作品で特徴的なのは、調教者がいっさい姿を現さないことだ。調教者はつねに匿名であり、文字でしかコミュニケーションがとれない。調教者が男なのか女なのか、一人なのか複数なのか、近くにいるのか遠くにいるのか、そんなことさえまったく分からないのである。ひょっとしたら、この調教劇も錯乱した女教師が自分の頭の中で妄想したストーリーなのかもしれない。今までの作品以上に、現実世界とのとっかかりが少なく、「腰の据わり」が非常に悪いのだ。これまではとりあえず、被調教者にも調教者というすがるべきものがあったのに、今回はそれさえもない。曖昧でもやのかかったような状況の中で、立脚点がまったく得られない。

 海明寺裕は自身、NIFTY SERVEでフォーラムの協力スタッフを務めるなど、パソコン通信にも精通している漫画家だが、それだけにネットワークの匿名性という武器をうまーく使っている。チャットで女教師がご主人様と会話しているときも、ミスタイプで心の動揺をさりげなく示すところも芸が細かい。このミスタイプも実際にやっちゃいそうなミスタイプであるだけに、現実感がある。そういう細部ではリアリティを持たせつつ、大枠ではどんどん現実と非現実の境目をとっぱらっていく。海明寺裕の底意地の悪さを思い知らされる。

「volunteer Breeding」

「volunteer Breeding」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-88356-023-6 C9979
■価格:920円
■初版発行:98/07/20
■判型:A5
■併録:「栄光なき変態たち 第3話 A・L・ラヴォアジェ」

 この作品は、平凡な一家庭に息子の担任がやってくるところから始まる。担任の女教師によれば、この一家はK9の家庭であるという。帰国子女だった母親は、K9というものがそもそも何か分からない。彼女が実際に調教されていく様子を通じて、K9の社会的役割などが描かれていく。どちらかというと、この作品はK9世界の構築、説明に主眼が置かれているような感がある。ここで語られるK9像は「人間のパートナーとして全てを捧げて奉仕するボランティアを行う、法律でも明確に役割を定められた『イヌ』」である。架空世界を構築し、それを諄々と説きあかしていくさまはSF的ですらある。

 とはいえ、読者を幻惑するテクニックは健在。それまでK9については見たことも聞いたこともなかった母親であるのに、「自分がK9である」と知らされた瞬間から彼女の周りの世界も一変する。町には人間様に連れ歩かれたK9が何匹も、ごく当たり前のように通行し、人間様に奉仕している。認識がゆらいだ瞬間に、世界もまた姿を変える。ひょっとしたらこれは夢かもしれない。幻かもしれない。しかし、その答えを海明寺裕はけして語らない。「そうであるかもしれませんよ」といいながら、ニヤニヤとうすら笑いを浮かべるのみだ。