海明寺裕単行本リスト  H系その2

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■作家名:海明寺裕(かいめいじ・ゆう)
■作者Webページ:海明寺 裕の部屋
■オンライン書店で「海明寺裕」を検索:bk1 / Amazon.co.jp


「girl Hunt」

「girl Hunt」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-88356-029-5 C9979
■価格:920円
■初版発行:99/01/20
■判型:A5
■併録:「K9通信 もっとK9を」全国K9施設協会会報

 K9シリーズの単行本も3冊め。今回はクラスの優等生であった高野冴(15歳)が、遅い初潮を迎えた日を境に、K9としての扱われ、訓練を受けさせられるようになる。その日まではK9の存在さえ見たことも聞いたこともなかった少女だが、ある瞬間から世界がK9でいっぱいだったことに気付く。これは「volunteer Breeding」などと同様のパターンである。「自分に疑いを持った瞬間、世界もそれに合わせて突然(過去に遡及して)姿を変える」というのは、おそらくこのK9世界を読み解くキーポイントなのではないかと思う。

 今回のお話では、K9を取り巻く社会的システムの有り様がさらに明らかになる。訓練もだんだん組織的になっていく。快感を飴、羞恥を鞭として、訓練は進められる。服を着用してはならず、尻にはしっぽをかたどったアクセサリーをつけられ、四つん這いで歩くことを強要される。反論は許されず、叱責の繰り返しにより「K9はそういうものであるのだ」という意識を徹底させられる。その過程のクールさ、甘えのなさは無機的でさえあり、K9が血統書付きの犬や猫のように、ブリーダーによって「製造される」生産物であることに気づかされる。

 物語の後半、冴はK9のクラブ「優等生クラブ」に入部させられ、部活動をすることになる。そのクラブでは、K9の「品評会」であるセンバツや全国大会に向けて「より良いK9となるべく」活動が行われる。全国大会にはTV放送もあり、その訓練の成果、人間に対する奉仕の技術などが競われる。要するにドッグショーみたいなものだ。こういった大会からも、K9は社会システムの中にきっちり組み込まれた存在であることが分かる。

 この一連のシリーズでは、人間(だったもの)が調教されるさまやエロ描写よりも、むしろその世界観の構築に重点が置かれている。それを補強するための怪しげなウンチク、細かい世界設定など、SF的な空気をふんだんに持っている。海明寺裕によるK9世界(というか人間世界の中にK9がいる構図)の描写は、まだまだ終わりを迎えていない。さらに物語が進んでいくと、この世界はどのような完成を見るのだろうか。はたまた崩壊するのか、夢のように曖昧になっていくのか。いずれにせよ楽しみである。

 なお、併録の「K9通信 もっとK9を」は、コミティアやコミケなどで海明寺裕と小杉あや(海明寺裕のアシスタントもつとめる)が発行した同人誌、「K9公式ガイドブック」に内容が似通っている。ひょっとしたら同人誌の原稿をそのまま収録したのかな?と思ったが、確認してみたところリライトはかけられているようだ(同人誌とこの単行本、どっちが元かはよく分からない。恐らく同人誌のほうが元本であろう)。同人誌のほうがページ数も多く、この単行本の「K9通信」には収録されなかったような内容も含んでいる。興味のある方は、コミケで海明寺裕のサークル「空色の猫目石」を訪れてみてほしい。

「puppy Love」  [bk1]

「puppy Love」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-88356-058-9 C9979
■価格:920円(本体876円)
■初版発行:2000/07/20
■判型:A5
■収録……( )内初出
「puppy Love」 (フラミンゴ1999年9月号〜2000年4月号)

 この作品でもますますK9世界は、広さと深みを増している。今回は「イヌ」の飼い主として目覚めていく少年・ヒロシが主人公。彼の生きている時代は、法律により「イヌ」に着衣が義務づけられていたために「イヌ」を「イヌ」として知らない子供が増えていた。ヒロシもその一人だったが、法律の「改正」によりイヌがそれとハッキリ分かるように、その存在を見せるようになる。

 この少年が、イヌと人間の関わり合いを理解していく過程を通して、海明寺裕はK9世界の構造を一つ一つ語っていく。今回は、これまでの作品のなかで読者がいろいろと疑問に思っていたことも、さりげなく明らかにされる。とくに目立つのがオスのK9の存在に関する言及。それからK9のさまざまな犬種などなど。K9と人間を分けるものは何か、K9を飼う人間は人間そっくりのそれらに対して欲情するものなのか。こういったことが語られることによって、K9世界観はさらなる重厚感を獲得している。

 このシリーズの場合、一話一話がどうこういうよりも、全体として構築され続けている世界観の奥行きと広がりにこそ魅力がある。端々のディティールがしっかりと描写され、それが積もり積もって驚嘆すべき一大絵巻となっている。これほどの作品を生み出した土壌であるフラミンゴだが、2000年中に休刊してしまった。実に惜しい。

「奴隷立國」 [Amzn]

「奴隷立國」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-88356-069-4 C9979
■価格:920円(本体876円)
■初版発行:2001/02/25
■判型:A5
■収録……( )内初出
「奴隷立國」第1集〜第5集、第8集 (フラミンゴ2000年5月号〜2000年10月号)
「奴隷立國 番外編」 (COMICアイラ vol.2)
「オークション」 (COMICアイラ vol.1)
「奴隷立國」は、フラミンゴ掲載の海明寺裕わんこシリーズとしては最終作になる。というのは雑誌が休刊してしまったからなのであるが。

 今回のシリーズでは、大戦で敗戦した国が自らの意志で「権利としての人権は永久にこれを放棄する」という憲法の言葉どおりに奴隷国家となっていくさまを、外国のドキュメンタリー番組がレポートするという形をとっている。これまでのシリーズと違って語り手の視点は外部のものとなっていて、これにより個人の経験の範囲にとどまらず、国家の全体像を語る形となっている。そのおかげで作品世界の仕組みを広く、包括的な形で詳細に読み取れるようになっている。

 この国が敗戦した後の歴史的経緯、人々(だったもの)が奴隷となるのを受け容れた経緯、奴隷の成り立ち、王室……といったもろもろへの描写は非常にこと細かであり、いつにも増して作りが周到で読みごたえがある。この奴隷を使役している人間たちと奴隷の関係性を考えると(例えば息子が人間で、母が奴隷として差し出される)、何やら頭がくらくらしてきたりもするが、そのトリップするような感覚も魅力の一つだ。

 海明寺裕自身は、アシスタントの小杉あやによるおまけ漫画によると『力ずくとか薬とか使わずに人間があたりまえのように奴隷になる「制度」が好きなのさ』と語っていたとのことだが、わんこシリーズの中でもとくにこの作品は、社会システムに関する設定が入念に行われているように見受けられる。こういった作品世界のルール設定に尽力しているあたりは、やはり非常にSF的だなあと思わされる。

「コレクション 〜美肉の蒐集〜」

「コレクション」 ■出版社:桜桃書房
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-7567-2614-3 C9979
■価格:本体924円+税
■初版発行:2001/05/08
■判型:A5
■収録……( )内初出
「調度品」:[no.1 the Interior][no.2 秘書のつとめ][no.3 学習デスク]
「奴隷英才教育」
「M.E.M」
「隷嬢キャスター真璃子」
「送り狼」

 海明寺裕としては初の桜桃書房からの単行本。だいたいの作品は「夢雅」掲載で、残りは「G:drive」などのアンソロジーに掲載された作品。今回とくに目立つのは「調度品」シリーズ。今までの人間型ペット路線からさらに進んで、今度は人間家具も描いている。といっても「家畜人ヤプー」とかみたいに人間(的なもの)を無機的に扱うのではなく、あくまで人体的感触、生体反応は生かしてあるのだけれど。そんなわけでここで扱われる人間家具は、人間とモノの中間的存在といえるだろう。

 表紙には「調度品に堕ちてゆく少女の悲嘆!!」とか書いてあるけど、実際のノリはもっとクール。「それはそういうモノだから裸なのであり、素材となる少女たちもそういうモノとして受け止めている」という感じ。なぜ彼女たちがそういうことになっているのかといった説明はとくにしない。もう動かしがたい前提についての説明はなく、前提に従って行われていくことについてはきっちり説明する。ここらへんは実に海明寺裕らしい、SFチックなアプローチといえる。あと、アンソロジー方面で描かれた作品は、海明寺裕にしては珍しく本番してます。まああんまり実用を期待して……という感じではないものの。

 2001/5/1現在、bk1では取り扱いしてないようだけど、もしかしたらそのうち入荷するかもしれないんで、とりあえずISBNコードでリンクだけは張っときます。→[bk1]