たかもちげん
Gen Takamochi

祝福王

全8巻 講談社

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 宗教について真っ向から掘り下げた、たかもちげん一世一代の傑作、と俺的には思っている。

 桑折という、とある地方の盆地の旧家、吉見家に生まれた正平は人を引きつけずにはおかない類まれなるカリスマと、未来を予知する力を持った少年だった。しかし、育ての親には拒絶され、またその強すぎる力のため、人並みの平凡な生活を営めなくなっていく。そんな中、大人に成長した正平は、新興宗教団体の教祖にまつり上げられる。大きすぎる力は彼に、教祖以外の道をたどれなくしていた。

 西方宗という600万人の信徒を要する大教団の管長を従えて、世にその力を示した正平の前に煉獄宗という怪しげな教団の教祖が現れる。その教団に正平の実の母親がいたのだが、母は正平の代わりに受苦するということで煉獄に赴く。母を追い求め、続いて煉獄へと踏み込む正平。

 ここから始まる煉獄編がスゴイのだ。もう正気の沙汰とは思えない描写が連続する。煉獄に落ちた亡者の身体はびっしりとウロコで覆われているのだが、そのウロコが1枚1枚丹念に手で描き込んである。しかもその模様まで。そして、身体中にびっしりウロコを貼り付けた人間が1ページに何人も何百人も出てくるのだ。
 さらにはこの煉獄に落ちた亡者が海のようになっているのだが、その人々が一人一人手で描き込まれている。この人の海が見開きでビッシリ展開される。おそらく一見開き1000人くらいは描き込まれていたのではないか。

 どうしてそこまで執拗に……とか思うのだが、このころのたかもちげんは、きっと何か大きなものに衝き動かされていたのであろう。さらに登場人物の目の光がみんな尋常でない。とくにトゥーパとパーロゥという創造神の二人(人間でないから、二人といっていいのかどうかはよく分からないけど)。どこ見てるんだお前は、といった視線の漂わせ方、そしてよく分からない唐突な展開。もうここらへんは圧倒されるほかない。

 で、こんな感じでちょっといっちゃった感じの展開が目立つこの作品なのだが、では「タダのイロモノなのか」というとそんなことは決してない。最初にいったように、これは傑作なのである。上記のような迫力のある描写はもちろんなのだが、それを通して導き出された最後の結論が実にすばらしいのだ。

「自らを祝福せよ」

 これが最後の祝福の言葉である。
 要するに自分を祝い、肯定しろということなのだと思う。ああ、実に素晴らしいじゃないか。ラストシーンに向かうところは何度読んでもトリハダが立つ。かっこいいのだ。
 僕は正直なところ宗教は信じてはいない。誤った信仰のされ方をされている宗教はあるが、宗教というものが人類の作り出した最も優れた装置の一つであることはたしかだと思う。この「祝福王」はたかもちげんが彼なりに宗教というものを真剣に見つめて、出した一つの結論なのだろう。

 そんなわけで、ぜひぜひ読んでいただきたいこの作品だが、たぶん単行本は今では絶版なのではないかと思う。ただ、古本屋ではよく揃いで見かける。なお、このページに貼ってある画像は最終第8巻の表紙だ。裏表紙は1巻1巻、別の印を結んでいる手が描かれている。

●単行本データ
出版社:講談社 シリーズ:モーニングKC 判型:B6 価格:各巻500円
巻数モーニングKC初版発行ISBN
12331991年1月23日ISBN4−06−102733−6 C0379
22341991年1月23日ISBN4−06−102734−4 C0379
32461991年4月23日ISBN4−06−102746−8 C0379
42561991年7月23日ISBN4−06−102756−6 C0379
52671991年10月23日ISBN4−06−102767−0 C0379
62721991年12月16日ISBN4−06−102772−7 C0379
72781992年2月22日ISBN4−06−102778−6 C0379
82841992年4月23日ISBN4−06−102784−0 C0379