しりあがり寿
Kotobuki Shiriagari

真夜中の弥次さん喜多さん

1〜2巻(マガジンハウス)

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 一時期、どうも低迷気味に思われたしりあがり寿だったが、この「真夜中の弥次さん喜多さん」で盛り返すどころか、新たな高みへと一気に昇りつめた感がある。このホームページを読んでくれているような漫画好きは、すでにこの作品を知っているという人も多いと思うが、これだけのスゴイ漫画をここに書かないというのでは男がすたる。そんなわけで強く激しくオススメしたい傑作だ。

 東海道五十三次をモチーフにしているのだが、この弥次さん喜多さんはホモの恋人同士。喜多さんは世界に疲れ果て、ドラッグに逃避してボロボロになっているが、お伊勢さんにたどり着けばきっと回復するというわずかな希望にすがって二人は旅を続ける。ドラッグのせいか、別の原因か、すっかり何がリアルで何がリアルでないのか分からなくなった二人を、幻想的だが甘くはなく、もの悲しい世界が待ち受ける。
 次々と襲う別れ、苦難、悲しみ。そのすべてを越えて二人は歩く。ときにはその苦しさに耐えかねて、逃げ道はなく苦しみが増すだけだと分かっていながら、またドラッグに手を出そうとする喜多さん。そして、それを止めようとして喜多さんの精神世界に飲み込まれていく弥次さん。

 辛さと悲しさに満ちあふれたこの世界。リアルとは何か。ひょっとしたらそんなことはどうでもいいのではないか。生と死はそんなにかけ離れたものなのか。愛とは。東海道をたどりながら、外側よりもはるかに広い内的な世界に分け入っていく二人。その姿がやけに悲しくて、それでいながら崇高な感じさえして思わず涙が出てくる。
 魂をゆさぶる、しりあがり寿一世一代の大傑作。今、この漫画を読んでおかなきゃダメだとさえ思う。ああ、言葉じゃうまくいえない。とにかく読むべし、読んでください。絶対に面白いからだまされたと思って。だますつもりはこっちには毛頭ないし。これは間違いなく漫画史に残る傑作だと思う。漫画史に残らなくても、俺は絶対に忘れない。

 マガジンハウスから出た2巻の帯には「ついに完結!?」と書いてあるが、コミックビームの97年12月号から「弥次さん喜多さん in Deep」というタイトルで新連載が始まるらしい。アスキーは実に大きな魚を釣り上げたといえる。

●単行本データ
「真夜中の弥次さん喜多さん」 マガジンハウス MAG COMICS
巻数ISBNコード初版発行価格
1ISBN4-8387-0805-X C007996/06/20930円
2ISBN4-8387-0913-7 C007997/10/23950円