岡野玲子
Reiko Okano

両国花錦闘士

全4巻 小学館

オススメ漫画トップページに戻る
 「両国花錦闘士」(りょうごくおしゃれりきし)は、数ある相撲漫画の中でも妙なことに関してはトップクラスだろう。
 連載当時は千代の富士晩年、貴花田が台頭し始めた相撲ブームのまっただなか。このころには、前川たけしの「はっけよい」とか、なかいま強「うっちゃれ五所瓦」など数々の相撲漫画が生まれた。中には岡村賢二の「蹴速の闘魔神」といった畸形な作品も含まれていたが。そして、畸形なことではこの漫画も負けてはいない。「蹴速の闘魔神」が剛なら、こちらは柔だ。

 岡野玲子は今では「陰陽師」のほうが有名かもしれないが、坊さんがロックをする「ファンシイダンス」などヘンな作品もけっこうある。表面上は静かな、落ち着いた描写なのだが、キャラクターたちはけっこう根性のねじ曲がったような行動をとる。

 主人公は昇竜という、現在売り出し中の若手力士。顔は美形、ソップ型(ヤセ型のこと)で筋肉質。自分の筋肉の美しさを鏡に映してホレボレとするようなナルシストである。この昇竜を何を思ったか、芸能プロダクションの女社長であるタカビー系の女、桜子が見そめてしまう。実際の相撲シーンは非常にあっさりと描かれていて、むしろ重きは土俵外にある。美男子好きの桜子や、ナルシスト昇竜、イジメられっこの雪之童、本当は野球記者になりたかったのに相撲雑誌に回されてしまった淳子、それぞれの思惑が絡み合い、よく分からない場外戦が淡々と進んでいく。

 この漫画が相撲漫画として特殊なのは、それぞれの力士の行動原理。昇竜は「土俵上でいかに自分をかっこ良く見せるか」、雪之童は「みんなに好かれたい」といったことしか頭にない。脇役の力士もヘンな奴らばかり。桜子の力士に対する姿勢も文字どおり、男芸者に対するソレである。新聞記者の淳子は肉のカタマリの中に突然投げ込まれ不平タラタラだが、その世界に慣れてしまいそうになるのを必死で拒んでいる。

 土俵上の勝敗とか、実力を付けるとかいうのとは別の次元、岡野玲子的世界でうごめくこのトドの大群の生態をぜひぜひ味わっていただきたい。それから、「両国花錦闘士」には読切で未収録分がある。「私は踊るお前のために」というタイトルで、昇竜が桜子のためにテレビの「相撲部屋対抗歌合戦」でバレリーナの格好をして踊り狂うという話だった。かなりヘンだったのでもう一度読みたい。なんかの単行本に収録されないもんだろうか。

●単行本データ
巻数ISBNコード初版発行
1ISBN4-09-182381-5 C037990/12/01
2ISBN4-09-182382-3 C037991/02/01
3ISBN4-09-182383-1 C037991/05/01
4ISBN4-09-182384-X C037991/08/01