「マイナス」の表紙じぇす沖さやか
Sayaka Oki

マイナス

全5巻 小学館・ヤングサンデーコミックス 判型:B6

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 ヤンサン回収騒ぎの原因となり、不本意な形ですっかり有名になってしまった感がなきにしもあらずな「マイナス」だが、非常に面白い作品だったので紹介する。

 主人公は美人女教師の恩田さゆり。「他人に嫌われたくない」ということだけを行動原理として生きてきた彼女は、他人の反応ばかりが気になってしまう。ちょっとしたことでも「相手に嫌われてしまったのではないか」という想念に苛まれ疑心暗鬼になり、他人に嫌われないようにと思うあまり行き過ぎた行動を繰り返す。

 徹底したマイナス思考で自分を追い込んで行った恩田だが、2〜3巻のあたりでそれがピークに達する。自分を呪う女生徒・ヨシエの機嫌を取るために、ヨシエを裏切った親友を学校の屋上で殺害する。実はその親友とヨシエはその直前に仲直りをしていた。自分を許してくれないヨシエに逆上した恩田はヨシエをも殺害してしまう。この事件は自殺として扱われ、恩田が罪に問われることはなかった。これを機に恩田は図に乗り、他人を支配するという方向に目覚め始める。最初は恐怖、次は尊敬で。その尊敬にも充たされず、次に他人の力を利用するという方向を見いだす。こうして、結局は他人の顔色ばかり伺う自分に逆戻りしてしまった恩田は、次第に過去の悪行がバレて窮地に追い込まれていく。

 以上がストーリーの簡単な要約だ。他人に流されるまま、自分では何一つ意志決定をしないで生きていくことによって、転がり落ちるように窮地へと追い込まれていく恩田の姿を見ていると非常にいたたまれない。実に居心地の悪い、ハードな物語だ。
 他人に嫌われないように、他人の顔色ばかり伺っていく負のエネルギーのすさまじい爆発がこの作品の特徴で、コミカルなエピソードもあるが、全体に流れるトーンは悲痛。どんどん主人公を追い詰めていくさまは圧倒的なものがある。

 ラストはちょっとあっさりと終わった感じがあるけど、恩田が自分で物事を判断し生きていくことに目覚め、力強く前向きな締めくくりになっている。

 なお、回収騒ぎの原因となった話は生徒とキャンプに行って遭難し追い込まれた恩田が、同じく遭難した子供を焼いて食ってしまうという話だ。人肉食がひっかかったのだが、描写は淡々としていてそれほどの衝撃はない。いちおうその掲載分は、単行本に収録されていないので切り抜いて保存してあるが、そんなに大したものじゃない。人肉食といって猟奇的なものを期待すると肩透かしを食らうことになる。
 むしろ、その前に掲載された3巻収録の生徒殺害のシーンのほうがよっぽどショッキングだ。本編とはあんまり関連性のないエピソードということもあり、読めなくてもそんなに悔しいってほどの話じゃなかった。人肉食の話ばかり取り沙汰されるというのは、この作品にとっては不本意な評価というほかない。むしろその前後の話のほうがよっぽど面白いのに。

巻数ISBNコード初版発行本体価格
1ISBN4-09-151781-1 C997996/08/05485円
2ISBN4-09-151782-X C997996/09/05485円
3ISBN4-09-151783-8 C997997/02/05485円
4ISBN4-09-151784-6 C997997/03/05485円
5ISBN4-09-151785-4 C997997/07/05486円