「PRINCESS OF DARKNESS」表紙 田沼雄一郎
Yuuichiro Tanuma

PRINCESS OF DARKNESS

全1巻 白夜書房 ホットミルクコミックス10
ISBN:ISBN4-89367-380-7 C0079 本体価格:971円
初版発行:94/01/05 判型:A5 4色カラー含む

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 エロ漫画読みの間では非常に有名な傑作なので、「何を今さら」と思われるかもしれないが、エロ漫画はあまり読まないという人や最近読み始めたという人にはぜひ読んでもらいたいので紹介することにした。
 余談だが、この「PRINCESS OF DARKNESS」も含めて、白夜書房(コアマガジン)は単行本を表紙を変えて再版することがある。そして、そのときに「増補改訂」までしやがるのだ。そんなわけで最初のバージョンを持っている人も、増補改訂版を買わなければいけないということがよくある。俺は最初の版と増補改訂版を持っているが、ここで紹介しているデータは増補改訂版のものだ。たしかコアマガジンになってから、またしても再版されたはずだが、さすがに3冊めを買うというのもどうかと思ったので俺は買うのを見送った。

 主人公の少女・黒原まきは中学1年生。身体が細くて背は小さく、性格も引っ込み思案なごく普通の少女。普段はまったく目立つところもない大人しい彼女に次々と襲いかかってくる不幸。ときにはクラスメイトにレイプされたり、銀行強盗の慰みものにされたり。そんな彼女にとって唯一の友達といえるのが、祖父から伝わる一冊の本。まきの心が悲しみの暗黒面に満たされたとき、その魔法書「アルハザード」は開く。まきはアルハザードによって解放され、圧倒的な力を持つ魔女のような存在に変身する。そして残酷な復讐を、彼女を傷つけた人々にもたらすのである。

「アルハザード」という名前でピンときた人もいるかもしれないが、この作品はラヴクラフトのクトゥルー神話の影響を受けているが、あまりそれは色濃くない。前半のこれでもかこれでもかという凌辱描写、そして後半まきが変身してからの残酷な復讐、そのカタルシスがこの作品の肝だ。
 単行本の後半、黒原まきを見つめ恋する平凡な少年・白倉くんの登場でさらに物語は面白くなっていく。今まで一人ぼっちだったまきへの、白倉くんの純粋な想い。それを踏みにじる周囲の人間たち。また、襲いかかってくるさらに強力な敵。陰部にコンクリートのかたまりをねじ入れられるといった、胸をかきむしりたくなるような痛々しい運命がまきに降りかかる。田沼雄一郎の強弱のついたダイナミックな描線が、凌辱シーンの迫力を倍増させており、まきが実にかわいそうだ。
 しかし悲惨なばかりでは終わらない。戦い終わってまきと白倉の虐げられし者同士が寄り添い、ささやかな二人の居場所を見つけ静かに、そして美しく終わっていくラストシーンは実に感動的。この世の中の「悪意を持つ者」に対する痛快なまでの復讐劇、残酷な凌辱描写、そしてラストに向かうこまやかな心理描写。どれをとっても一級品。絵も回数を重ねるにつれ、どんどんうまくなっている。とくに単行本用に描き下ろした序章や完結編のあたりなんかは非常に素晴らしい。

 最初の版が出たのが1990年だから、すでに7年以上の月日が経っている。しかし、今読んでもいささかも古びていない。田沼雄一郎、初期の傑作としてぜひぜひ押さえておいてもらいたい。また、現在(1998年2月)ホットミルクで連載中の「SEASON」も非常に面白い(単行本1巻はコアマガジンより発売中)ので、こちらもオススメだ。