藤澤勇希
Yuuki Fujisawa

球鬼Z

秋田書店・ヤングチャンピオンコミックス 全2巻
判型:B6

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「球鬼Z」

 ヤングチャンピオン掲載作品。藤澤勇希は、昔スピリッツで「演神」という、悪役俳優の物語を描いていた人だが、そのころからハッタリの利いた大仰なストーリー展開を得意としていた。そして、この「球鬼Z」ではそれがさらにエスカレートしている。

「球鬼Z」はジャンルでいうなら野球漫画の部類に入る。しかし、野球漫画のセオリーや文法といったものにはまったく乗っかっていない異端の作品だ。
 主人公は、プロ野球チーム、パンサーズに所属する「Z」と名乗るナゾのピッチャー。本名・経歴は一切不明。顔も、画像を見れば分かるようにフェイスペインティングしているため、その正体は誰も知らない。日本人離れした(といってもZの国籍に関する言及はないが、言葉の流暢さからしてたぶん日本人であろう)ガッチリした体格で、ものすごい豪速球を投げるZだが、監督の命令は一切無視。登板するのは、自分の気に入った相手のみ。しかも一試合につき一打席分だけ。サインなんかはまったくなし。ど真ん中にストレートを放るのみ(といってもど真ん中のストレート以外の投げ方は、彼は知らないのだが)。その驚くべきスピード、威力を持った球で、バッタバッタと敵をなぎ倒していく。
 Zはスポーツの快感など求めてはいない。ただ、勝負の緊張感、悦楽を追求しているだけだ。だから一般的な論理など、もちろん通用しない。

 俺が見るに、藤澤勇希は恐らく野球に対する知識はほとんどないっていうか、野球が好きではないのだろう。野球に関してはたぶん門外漢なのだ。バッターやピッチャーのフォームの畸形さからもそれが推察できる。それだけに、野球好きな人では描けないような恐ろしく歪んだ世界を創り出している。
 試合の展開などまったく無視。個人の勝負だけしか描かない。チームの勝ち負けは完全に眼中の外だ。基本的にバッターとピッチャーの勝負であり、この作品ではZの後ろで守っている野手、球を受けている捕手はただそこにいるだけだ。まともに名前が出てくる選手だっていない。そして、勝負にからむメインのキャラクターたちは、無駄なまでに力強く、さらに邪悪でさえある。ここで行われていることは、野球ではなくただの殺し合いにも近い。

 それを象徴するのが、1巻後半から始まる「ジーザス」という名の打者との勝負である。ジーザスもまた、Zと同じく野球などやろうとしてはいない。合衆国海軍で「人間兵器」と呼ばれた特殊工作員である彼は、凶悪な打球で投手を破壊することのみを狙っている。Zと、毒グモのような邪悪な顔つき、常軌を逸したフォームのジーザスの対決は馬鹿馬鹿しくも力強く、迫力満点である。
 野球漫画としては規格外の作品だが、それだけに強烈な魅力を持っている。これだけ常識外れだとあっぱれである。読むとスカッとするぞ。


巻数初版発行ISBNコード価格
198/09/30ISBN4-253-14597-3 C9979定価540円(本体514円)
299/01/10ISBN4-253-14598-1 C9979定価540円(本体514円)