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「福神町綺譚」

「福神町綺譚」 ■著者名:藤原カムイ (ふじわら・かむい)
■出版社:集英社
■シリーズ:ヤングジャンプ・コミックス
■判型:A5ハードカバー
■巻数:全3巻
■オンライン書店bk1で購入する場合はこちら

 自分がプロジェクトに関わっていたこともあり、うちのホームページ内では散々取り上げてきたので「何を今さら」と思う人もいるかもしれないが、やはりオススメしておこう。
 壱巻の帯にも「本邦初!!双方向萬画見参!!」とあるように、「福神町綺譚」は読者参加型(インタラクティブ)を狙って作られた作品である。その登場までの過程は、以前(1998/04/21)に書いた「福神町に関する覚え書き」を読んでいただきたい。作品のプロジェクトの進行舞台となったニフティのホームパーティができたのが1995年の1月だから、4年の歳月を経てようやく福神町は単行本という形になった。

 福神町は大正3年、東京大正博の会場がすっぽり異世界に飛ばされ、現実世界とは分離した独自の時の流れを歩んできた町である。そこには、大正の世の人々が夢に見たような憧れの事物から分化し発展した文化がある。もとはこちら側の世界であったものから発展したので、多少の共通点はもちろん遺している。そのため一度も見たことのない奇妙な事物などが存在するんだけど、こちら側の人々から見ると妙に懐かしい雰囲気をたたえている。この町では人々の記憶は一定周期ごとに前触れなくリセットされる。それはまるで、福神町の大動力源であるぜんまいがほどけきってしまったかのように。

 読者は自分がどのようなキャラクターでどういう職業に就くかを選択し、住民登録するという形式で、こんな時間と記憶が交錯する摩訶不思議な世界に参加していく。住民登録はインターネットのWebページからも可能である。福神町への参加は主にインターネットを利用して行う。「福神町綺譚」のホームページから飛べる掲示板で自分のアイデアを書き込んだりすると、それを藤原カムイが吸い上げて漫画にするといった具合だ。1999年に入ってからとくに顕著になったのだが、ここらへんの掲示板に書き込んだ人のハンドルネームがちょくちょく漫画に登場してきている。かくいう俺も登場した(プロフィールのページ参照)。

 福神町は、作者だけで作品世界を作るという行為に遊び足らなくなった藤原カムイが、読者まで含めて大掛かりに遊べる世界を構築しようとしたものといえる。遊びだから、参加者が新しい遊び方を考え出したり、人のまねっこをしたりするのも可なのだ。実際にミニコミや同人誌もいくつか作成されている。その世界観の利用はある程度、読者側が自由に行って、独自に拡張していっても可なのである。

 現在連載中の「福神町綺譚」だが、漫画としてのクオリティは藤原カムイ入魂の作品だけあってさすがに高い。細かい部分まできっちり描き込みがされ、アングルなども凝っており、狙い通り不思議で懐かしい世界観を作り上げている。その凝った描写にはうならされる。また単行本の装丁もハードカバーの気品のあるもので非常に美しい。
 ただ、正直なところ世界観が不思議すぎてなかなか入っていけない読者も多いだろう。単行本の値段も高いし。福神町は作り込まれた箱庭であり、「外」よりも広くなり得る可能性を秘めた「内」ではあるのだけど、世界としてはかなり閉じている。この敷居の高さについては、実は発足当初のニフティのホームパーティ時代から存在した問題で、そこまで作り上げた設定をつかむのが初心者には難しいというのがあったのだ。これは福神町を舞台にした、入っていきやすい物語がまだ一つしかないという点にも起因している。例えばJ・R・R・トールキン「指輪物語」では、子供向けの「ホビットの冒険」という作品が前段階としてあり、中つ国世界の入門編を味わってからスムースに大人向けの「指輪物語」に移行していくことができた。福神町には膨大な設定があるだけに、いきなりそれをつきつけられるとツライってところがある。その点は現在連載中の「福神町綺譚」が、どれだけ間口を広げていけるかにかかっている。
 ここまで物語的なことについては言及してこなかったが、実は単行本壱巻の時点ではオムニバス的に福神町のさまざまな事象やらキャラクターを中心とした物語が展開されるに止まっているので、全体を統一する大きな物語はなかったりするのだ。そこらへんは読者が入っていくさいには弱い点ともいえる。

 このほかにもいろいろ問題点はあって、その中でも大きいのが参加形式の問題。参加者の数が多くなればなるほど、意見やアイデアも多岐にわたるため、どうしても捨てなくてはならない部分が出てくる。それでインタラクティブといえるのか、といったこともでてくる。本当は参加者側も藤原カムイが吸い上げてくれるのを待っているだけでなく、自分で表現していったほうが面白いのだけど、なかなかそうもいかない。とりあえずは、そのアイデアを出したり参加したりする過程をどれだけ面白くできるか、要するに参加窓口である掲示板などを面白く盛り上げていくっていうのがカギかなあという気がしないでもない。
 また読者の創作を許すとはいっても版権問題もあるし、そのほかにもクリアしなくてはならない壁はいろいろだ。目指す地点が高いだけに、越えなくてはならない壁もまた高いのである。それだからこそ、やりがいが大きいってもんでもあるんだが。
(以上1999/04/26)

巻数ISBNコード初版年月日価格
ISBN4-08-782585-X C09791999/04/251800円+税
ISBN4-08-782593-0 C09792000/04/251800円+税
ISBN4-08-782082-3 C09792001/05/231800円+税


▼福神町関連のリンク

福神町ホームページ
福神町民の福神町民による福神町民のためのページ。ここまで福神町プロジェクトを陰で支えてきたびぃさんが製作。福神町がここまできた過程は彼の存在抜きには語れないでしょう。
藤原カムイ
ご存じ有名漫画家。福神町プロジェクト提唱者でもある。
福神町綺譚@FRANKEN
現在ではこちらが活動のメインになっているようです。