「MAD JAM」 岩田康照
Yasuteru Iwata

「MAD JAM」
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 1999年6月現在、ヤングサンデーで「球魂」を連載している岩田やすてる(この作品のころは「岩田康照」)の昔の単行本がこの「MAD JAM」である。最初にいっておくが、この作品、傑作とはいえない。怪作とはいえるかもしれないが。しかし妙に味がある。印象に残る。憎めない。

 主人公は「ジャンゴリ」というヘヴィメタバンドのボーカリストのカスバ。ジャンゴリは実力はかなりのものがあるのだが、喧嘩っぱやいカスバのせいでほとんどのライブハウスで出入り禁止を食らっていた。彼らが最後に行き着いたのは、彼らのような行き場を失ったものが集まる暴力が支配する店、モードレット。ここを舞台に彼らはバンド活動を繰り広げていこうとするのだが、この店をシメているライバルバンド「ジャンゴリ」、それからNo.2「ファシオ」と衝突し、激しいバトルを繰り広げることになる。

 とまあそんな感じで、一言でいえばバンド漫画である。そして、ライバルたちと闘うというのは一般的なのだが、こいつらはちっとも音楽で勝負したりしやしない。もうとにかくケンカ。拳を交えて勝ったほうが優れたバンドなのである。主人公のカスバは日本人離れした声域を誇り、実力も大したものではあるのだが、それでも勝負方法はケンカ。実際に音楽そのものもやってはいるのだが、「ライブなんてもンは、練習2気合い8くらいでちょうどいいんじゃ!!」とうそぶく彼は、もうとにかく気合い、気合い、気合いでヘヴィメタ野郎どもの魂を揺さぶる。

 絵柄は脂っこくパワフルだが、筋回しは力が入っているわりに妙に間が抜けている。ジャンゴリからして演奏が終わると観客に「ありがとー」とか叫ぶし、いかつい観客どもも「アンコール」を繰り返す。薄暗い暴力ライブハウスが舞台なのに、なんかやってることが妙に軟派だったりするあたりの取り合わせが珍妙。このナチュラルなズレっぷりが岩田康照の味だ。その持ち味は「球魂」でもいかんなく発揮され、かなりインチキくさい卓球漫画になっている。そんなわけで岩田康照のルーツを探りたい人は、この「MAD JAM」もぜひ併せて読んでいただきたい。