「I've a rich understanding of my finest defenses」 「I've a rich understanding of my finest defenses」
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 2000年5月のコミティア東京にて入手した同人誌。

 小野夏芽の作品は、パッと見ただけで他と一線を画している。シンプルでありながらパーフェクトに欧風(イタリアン風味)な空気を感じさせる、実に雰囲気のある描線。力が適度に抜けていながらとてもシャレている。ハッとするほどにカッコイイのだ。

 この「I've a rich understanding of my finest defenses」は、ニューヨーク市警の警察官の物語である。その中で「緊急出動部隊」的な役割、つまりレスキュー隊的な作業をする「ESU」((Emergency Service Unit)所属するビクターとスタン、それからESUではないがヒラの警官であるキースの3人を中心にお話は展開する。
 キースは非常に有能な警官で同僚からは慕われており、人命救助を何回も経験しているが、剣呑な性格のためESUでの評判は最悪。以前、ESUのミスをマスコミの前で罵ったことがそれに拍車をかけていた。そのとき罵られたESUのチームのうちの一人がスタンである。ビクターは新入りのESU隊員で、自分の娘がキースに救助されたことがあるという縁を持っていた。最初、ビクターはキースのことを嫌っていたが、キースのことを知るに伴いその印象は変わっていく。

 小野夏芽の描く作品は、作画の実力の高さはもちろんだが、なんといっても人間がよく描けている。例えば、前作「MATE」はオーストラリアン・フットボールの選手たちを扱った物語だったが、この作品においても選手はただの「フットボールというゲームをするためのコマ」でなく、家族もいれば恋人もいて怒りも悩みもする、実に「生きた人間」として描写されていた。そしてそれは今回の「I've a rich understanding of my finest defenses」でも変わらない。それぞれの登場人物は、ドラマを成立させるためだけに存在しているわけでなく、それぞれの私生活、来歴、故郷などのバックボーンをちゃんと持っている。魅力的な人間による、魅力的なドラマを小野夏芽は記録し続ける。
 ドラマがあってそのために人間を生み出すというよりも、むしろそれぞれの人物たちが生きている世界がまず頭の中にあり、そこから印象的なシーンを切り出してくるといった雰囲気だ。今回の話は上記の3人が中心ではあるが、それ以外のキャラクターたちにもおそらくそれぞれに設定がきちんとあるのだろう。だからこそ彼らの織り成す物語は、厚みがある。

 そして同人誌としては異例なほどにボリュームがあるのも特徴。正確に数えたわけではないが200ページ超のドラマを、一瞬たりとも飽きさせず読ませる。目を瞠るほどのセンスとしっかりとした物語、そしてボリューム感のある読みごたえ。抜群である。

 同人誌なので入手性はあまり高くない。KENNEDY U.S.M.が、コミティア東京に参加していないこともけっこうある。でも、コミティアに行くつもりがちょっとでもあるなら、このサークル名は覚えておいてほしい。そしてカタログを開いたら、まず「KENNEDY U.S.M.」を探すのだ。