「ピエタ」表紙画像 榛野なな恵
Nanae Haruno

「ピエタ」
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 愛なき家庭で育ち心を閉ざしたまま育ってきた理央と、あふれんばかりの愛を注がれるもそれに違和感を感じてきた佐保子。それぞれにこの世界の中で孤立していた二人の少女が、お互いを見出し惹かれ合い、一人ぼっちを二人ぼっちに変えていく、そんな物語である。理央は、ショートカットでキリリとした、同性たちからキャーキャーいわれるような端整な姿形をしている。彼女は、自分が世界の中でまったく必要のないもののように常々感じていて、何度も自殺を図っている。佐保子は、育ちの良いお嬢さま然として静かな物腰。外見的にも正反対っぽい二人だが、初めて目が合ったときから、お互いを強く意識するようになる。一見強そうでありがら実はもろい理央は佐保子に甘えることにより心を開き始め、また佐保子も自分を慕ってくる理央の存在によってそれまでの息苦しさを払拭していく。

 この二人を取り巻く環境は厳しい。とくに理央サイド。彼女を邪魔者扱いし、家庭から排除しようとする父の後妻が彼女を追い詰めていく。そんな状況もあってか、理央と佐保子は、よりぴったりと寄り添う。その関係を同性愛と呼ぶのではいまいち安すぎる。一人の孤独な人間同士が、自分を生かし続けるために必要なパートナーを見出す物語というほうがより作品のイメージに近い。性交渉に頼るわけでなく、二人の関係は清く、そして深い。元から自分の一部だったものを取り戻そうとするかのように、彼女たちは切実にお互いの存在を求める。

 作品全体に、ガラス細工のように硬質な気高さ、そして壊れそうな危うさがあり、物語はギリギリの緊張感の中で展開していく。息苦しいほどに清浄で、濃密。デリケートでかつ圧倒的に美しい。丹念に積み重ねられた物語は読みごたえも抜群で、読者を引き込んでやまない。読む場合は、なるべく2巻まとめて一気に読んでもらいたい。十分に読む環境を整えたうえで。本気で取り組むに値する作品なのだ、これは。