オススメ漫画レビュー
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単行本データ | ||||||
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巻 | ISBNコード | 初版年月日 | 価格 | 収録 | 購入 | |
1 | 4-06-328735-1 | 2001/01/23 | 本体648円 | 1〜5話 | [bk1][Amzn] | |
2 | 4-06-328778-5 | 2001/10/23 | 本体648円 | 6〜11話 | [bk1][Amzn] | |
3 | 4-06-328863-3 | 2003/01/23 | 本体648円 | 12〜16話 | [bk1][Amzn] | |
4 | 4-06-328937-0 | 2004/02/23 | 本体667円 | 17〜26話 | [bk1][Amzn] |
■出版社:講談社
■シリーズ:モーニングKC
■判型:B6
■作家名で検索:[bk1][Amzn]
思えば、最近空を見上げることが少なくなった。いわゆる「激動の昭和」が過ぎ、平成が来て、気づけばもう21世紀だ。昔夢見た未来は、今や現在となった。少なくとも年号のうえでは。子供のころは、21世紀になれば人間は皆宇宙に行っているものだと思っていた。当然自分も。しかし、宇宙の旅をしているはずだった2001年現在、宇宙という言葉を聞くことが昔よりも少なくなっているような気さえする。今やすっかり遠くなり、自分たちからは隔てられてしまった感のある宇宙空間。でもやはり、胸の奥に「そこ」への憧れをくすぶらせている人はけして少ないはずだ。そんな人はこの作品は読まねばならない。というか普通読む。
この作品のまず素晴らしい点は、宇宙空間の描写にちょっと珍しいくらいリアリティ、説得力があるということだ。ところで地球ももちろん宇宙にあるわけだが、ここでは便宜上、地球の大気圏を離れた空間を「宇宙空間」と呼んでいる。確かに宇宙空間は、人間にとって住みにくい場所だ。ただこの作品世界においては、そこは高々度旅客機も通過するような場となっている。そして主人公格である熱血日本人・ハチマキや、その同僚のユーリ、フィーたちにとってはそこで働き、そして生きる、まぎれもない生活の場である。この作品では、地球外生命体が攻めてくるといったような非日常的なことは起こらない。あくまでそれまで暮らしていた地球との延長線上に宇宙がある。もちろん非常にしっかりした線で、細かなところまできちんと描き込む達者な作画のおかげもあるけれども、それだけに留まらぬリアリティ、説得力をこの作品が持ち得ているのは「生活の場としての宇宙」をきちんと描写していることも要因の一つだ。
そして「宇宙で生きる」ということの意味に、この作品はもう清々しいほど真っ正面から向かい合っている。とくにハチマキが母船から吹っ飛ばされ、死にかけた後、精神的な後遺症に悩まされる中で自らの宇宙観を問い直していくPHASE5「IGNITION −点火−」(第1巻収録)はそういった点で傑作といえるだろう。
漫画的な技量も素晴らしい。前述したとおりの精緻な作画、そして時に大胆な構図や大ゴマを使いこなし、作品を盛り上げる演出力も一級品。1話1話のボリュームは50ページ前後あるが、それをまったく飽きさせることなく読ませる構成力も見事というほかない。この作品の第1巻が幸村誠にとって初単行本化であるというのが、にわかには信じがたいほどにクオリティが高い。ただ一つだけ残念なところがある。作品的にはまったく文句がないのだが、単行本サイズがB6であるというのはあまりにもったいない。とくに宇宙を舞台とした作品であるだけに、そのスケールを感じさせるためには最低でもA5、欲をいえばB5にしてほしかった。
ともあれ繰り返すが、宇宙にロマンを感じる人間は、全員読むべし。ここには第一級の宇宙がある。
(以上2001/01/24)
2004/04/25追記
「プラネテス」は結局のところ全4巻、26話で幕を閉じた。いちおう第一部・完ということになっているが、再開するにしてもけっこう時間を置くことになると思われる。シリーズを通してみると、第1巻、とくに第1話で見られた「宇宙を目指す」というストイックさから、回数が進むにつれ「宇宙で暮らしていく人間のドラマ」という色が強くなっていった。途中、物語も方向性がブレた感もあった。しかし「宇宙を目指す」ということと「エゴ」「愛」の狭間で悩んで悩んで悩み抜いたハチマキの人間としての成長模様は読みごたえがあった。宇宙を目指す冒険者としての視点、一個人であり生活者としての視点、その中間あたりを漂ったハチマキの出した結論は、個人的にはうまくいえないけれども納得できるものではあった。
「プラネテス」アニメ版 公式ページ [Amzn:DVD 1/2/3/4/5/6/7/8/9]
ところで「プラネテス」は全26話でアニメ版が放映されたが、こちらもなかなかいいアニメ化だった。原作とはまた違ったテイストで、こちらはタナベにかかるウエートを増やし、宇宙で生きる若者たちの青春ドラマというテイストを色濃く打ち出した。アニメ版のほうは、原作版で見られた方向性のブレがなく、全体を見据えながら伏線を張り、ラストでそれが回収されていくという心地よさも味わえる物語に仕上げてきた。原作の内容をしっかり踏まえ、丁寧に消化しつつも、また違った魅力をひき出せたという意味でとても良いアニメ化だったと思う。未見の方にもぜひお勧めしたい。