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「サトラレ」

「サトラレ」表紙 ■著者名:佐藤マコト (さとう・まこと)
■出版社:講談社
■シリーズ:モーニングKC(1巻)、イブニングKC(2巻〜)
■判型:B6

 モーニング新マグナム増刊掲載作品。すでにご存じの方も多いだろうが、この作品、あっという間に実写映画化までされてしまった。ビクーリ。2001年3月、全国東宝洋画系劇場にてロードショー。映画の公式サイトはhttp://www.satorare.com/

 映画はさておき、ここで取り上げるのはもちろん漫画のほうである。

 他人の考えていることを知る能力を持つ人々。こういう人たちは昔から「サトリ」と呼ばれてきた。その反対が「サトラレ」。つまりまるでラジオか何かのように、考えていることが外に発信され他人に伝わってしまうような人間のことだ。それは彼らが天才的な能力を持っていて、その精神エネルギーが強すぎるために脳から思念があふれ出てしまうのだと解釈されている。実際サトラレの能力はすさまじいものがあるのだが、自分の考えていることが全部人に知られてしまうという事実は、彼らを多いに傷つけ、ときには死をも選ばせてしまうほどのプレッシャーを与える。そんなわけで彼らの才能を惜しんだ国家はサトラレを保護するための法律を制定し、周りの人々にも対象者に「自分がサトラレである」ということを「悟らせ」ないままにしておくべく協力させるにしている。「サトラレ」は、そんな特異な状況下で繰り広げられるドラマを描いた作品だ。

 この作品を読むと、まずその設定に引き込まれる。思念が自分のコントロールできる範囲を超えて外に流出してしまう人がいる。現実世界と違う部分というのは、結局のところその一点に集約される。こういった変わった設定の場合、今までの漫画だったら「その才能を狙ってヒミツの組織が暗躍」……みたいなことになる場合が多かった。まあ実際この物語の場合も「サトラレに対してだけヒミツ」の組織は暗躍しているんだが、その活動は大掛かりだけど地味だ。争いにするわけでなく、周囲の人々まで含めた状況を暖かく包み込むように丁寧に描き込んでいくというアプローチをとっている。

「こういう人がいたらどうなるか」というところからスタートして、「それなら周りの人はこう対応するであろう」というのをシミュレートし、それを細部まで行き渡らせて物語を構築する。一種の思考実験的なアプローチともいえそうだが、そこから導き出される結果を、しっかりと良質の物語にまとめ上げていく手際はまったくお見事。例えば第一話は、サトラレの恋を描いたエピソードなのだが、好かれてしまった女の子の苦悩、それからリアルタイムで伝わってくるサトラレの妄想やら失望、ちょっとした喜び、そしてその思念を受け取ってしまった周囲の人々の反応などをさまざまなサイドの人々の対応を描いている。そしてオチは思わず笑ってしまう、でも暖かなものに仕上がっていて、思わずポンと膝の一つも打ちたくなってしまう。そして第4話。医者を目指しているサトラレの姿を描いた「サトラレに向かない職業」は、彼の悲しみがダイレクトに伝わってきて泣かされる。ここらへん、なんともええお話で完成度抜群だ。

 このお話では何人かのサトラレが出てくる。恋煩い中の研究者サトラレ、医者を目指すサトラレ、子供のサトラレ、将棋少女なサトラレ、独りぼっちで暮らすサトラレ。「サトラレというものをこういう状況に置いてみたら果たしてどうなるだろう」というシミュレーションをさまざまな状況でやっているわけだが、そのいずれもが興味深く鮮やかなエピソードになっているのはまったく大したものだ。とはいえよく考えてみると、サトラレ自体の境遇はとくに珍しいものではない。実際、自分の思念が周りにダダ洩れであることに(一部を除いて)気づいてないわけだから、彼ら自身はごくフツーの人間なのである。むしろ珍しい状況に置かれている(ことを自覚している)のは、サトラレ周辺にいる人々のほうだ。たった一人のサトラレと、それを取り巻く大多数のサトリ。この作品は、「サトラレ」の物語であると同時に、「サトラサレ」の物語でもある。隠されることのない思考と、それを受け取る側の対応。両方の思いやりが感じられて、なんだか人間がいとおしくなってくるような、とてもいい作品。
(以上2001/02/24)

蛇足:ちょっと気になっているんだけど、サトラレの思念ってどうも言葉で飛んでいるみたいなのだが、じゃあ外国に行った場合は何考えてるんだか細かくはサトラレないのかな? そこらへんのシミュレーションもしてみていただけるとありがたい。

単行本データ
ISBNコード初版年月日価格収録購入
14-06-328739-42001/02/22本体505円1〜6話[bk1][Amzn]
24-06-352003-X2002/01/23本体505円7〜12話[bk1][Amzn]
34-06-352011-02002/07/05本体505円13〜19話[bk1][Amzn]
44-06-352024-22003/03/20本体505円20〜26話[bk1][Amzn]
54-06-352039-02003/09/22本体514円27〜34話[bk1][Amzn]
64-06-352059-52004/03/23本体514円35〜42話[bk1][Amzn]