オス単:2002年9月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。

 日記形式だと、どうしても日にちが過ぎてしまうと大量の過去ログの中に個々の作品が埋もれてしまうため、このコーナーではダイジェスト的にまとめてみました。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則としてしませんので、普段日記を読んでくださっている方にとっては読む意味がないかもしれません。手抜きといえば手抜きなんですが、まあその点はご容赦ください。

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でもどんどん入れていきます。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、わりと省略しがちです。


▼強くオススメ

【単行本】「屈辱er大河原上」1巻 坂本タクマ 新潮社 A5 [bk1][Amzn]

 非常に帯のデカい屈辱的第1巻。あまり単行本化を喜ぶと、「単行本も出ないような作品だと思われていたのか」と作者が屈辱を感じるかもしれないので、出て当たり前と受け止めるよう努めたいと思う。

 それはともかく大河原上だ。大河原上は断固として人の下につく屈辱を嫌う男。その姿勢は徹底していて、缶ジュースの自動販売機で身を屈めることさえ屈辱的としそれを避ける方法を探し求めるといった具合。はたまた他人の結婚式なのに、一番上座(つまり新郎の席)を強奪し満座の人間に説教をかますといった具合。とはいえ屈辱を嫌うだけで現実的な能力がそんなにあるわけではないので、苦杯をなめることもしばしば。とくに大家の婆さんと、使いたいときに限って出てこないアイテム筆頭であるホッチキスは天敵。そんな男の日常が綴られていくギャグ漫画であるというわけだ。

 で、これが屈辱的なことにたいへん面白い。大河原上の無法な振る舞いやヘンな顔、アクションに思わず笑わされてしまう屈辱。でもなんだかんだ平和な世界にまったりさせられてしまう屈辱。坂本タクマの柱コメントが面白く文才を羨望してしまう屈辱。大河原上の「屈……」といううめき声がつい伝染ってしまう屈辱。そして語尾に「屈辱」とつけてしまい、あらためて屈辱という感情を呼び起こされてしまう屈辱。皆さんもぜひ購入して、この屈辱を共にしていただきたいと思う。

【単行本】「高速回線は光うさぎの夢を見るか?」 華倫変 太田出版 A5 [bk1][Amzn]

 マンガ・エロティクスFに発表された作品を中心とした短編集なのだが、これを読んで改めて華倫変という作家の才能に惚れた。作画技術的に優れているわけではないけどなんだか落ちつかなげな画風は味があるし、なんといってもストーリー構成が素晴らしい。とくに多重人格の少女・岡田三奈さんと、彼女とよく話しをする少年・西野の触れ合いを描いた連作、「あぜ道」「下校中」「木々」には感動させられた。岡田三奈さんは、持って回った言葉遣いに特徴があるサバサバした性格の「芳子」、淫蕩な「ミレマ」、気の弱いオリジナル人格に近いと思われる「玉江」の三つの人格を持っており、それぞれのスタンスで西野と関わりを持っている。3人と西野の気持ちが響いてくるラストシーンは、なんとも切なくてかなり泣き泣き。

 それから自殺願望を持った少女がインターネットで100日後に自殺することを予告し、その100日間を描いていく「高速回線は光うさぎの夢を見るか?」は、少女自身の電波的な危うさから来る言動や、不特定多数のウォッチャーの適当な意見などがぐるぐると渦を巻き、頭の中がぐちゃぐちゃにされるようなお話。一見クレイジーな感じではあるが、物語は破綻しておらずしっかりコントロールが利いている。それからアルコール依存症の女性を描いた「酒とばらの日々」、カルト宗教にハマった女性を主人公にした「とかく現世はくだらなすぎる」あたりも、自分をあえて傷つけていくような女性たちの姿が印象に描かれている佳作。華倫変の作品は天性のものなのかもしれないけれども、お話の運び方がすごくうまいと思う。テクニカルでセンスの良さを感じさせる。ほかの誰にも似ていない個性を持っているのでやっぱり強い。そんなわけで今後の活躍にも激しく期待している。

【収録作品】「忘れる」「あぜ道」「下校中」「木々」「ねむる部屋」「コギャル 危ない放課後」「酒とばらの日々」「とかく現世はくだらなすぎる」「高速回線は光うさぎの夢を見るか?」

【単行本】「Rainbow Life」全2巻 里見満 集英社 A5 [bk1:1巻/2巻][Amzn:1巻/2巻

 この作品は、オールマンで連載されていたときからすごく好きだった。一言でいえばゲイたちの青春物語ということになる。主人公は非常に男らしいゲイの青年・コージ。第一話のサブタイトルからして「オレはGAYだ!」である。そして生粋のタチであったコージが、なんだかすごい美貌の持ち主である一夜の恋人にケツバージンを奪われた後、諸手を挙げて「サイコーだぜ!!」と叫ぶシーンなんか、もう非常にサバサバしてて痛快。とかいうとイロモノ的な作品に思われるかもしれないが、この作品の場合は、現代に生きる「ゲイという性別」の持ち主である男たちを非常に真っ正面から真摯に描いている。その逃げない、悪びれない姿勢がすごくいい。

 作者自身もバイであることを公言しているけれども、それだけに描写はしっかりしているし、現代のゲイたちの生の姿を垣間見ることができて興味深い。男女の恋愛モノでもちょっと見られないくらい、正々堂々とした純愛漫画である。あとこの漫画は言葉がいいねえ。「ああ!!ホモだよ!! 文句あっか!?」とか「男同士に愛なんて要るか!!」とか、「オレとナオキは互いのザーメンをぶちまけあってその真実を確認しあったんだ…」とか、実に男らしいセリフが満載。その気がない人でも面白く読める快作。

【単行本】「でじこのチャンピオンカップ劇場」 コゲどんぼ 秋田書店 新書判 [bk1][Amzn]

 DE-JI-KO-DA-NYO〜。というわけで、週刊少年チャンピオン誌の読者コーナーで展開されていた「デ・ジ・キャラット」漫画を集めた単行本。「萌え」がどーのこーのと巷でいわれるでじこではあるが、たぶんこの単行本読んで「萌え〜」とかいう人はあんまいないんじゃないかなあ。単純になんだかいい具合に力が抜けててドタバタやりまくるギャグ漫画としてきちんと面白い作品だと思う。きっちり描いてあるでじこより、崩したりヘンな顔してたりなでじこのほうが見てて楽しかったりするしー。非常にいい感じでエンターテインメントしてると思う。ただ惜しむらくは判型が小さすぎ。ただでさえちまちま描き込んでいる作品なのだから、これを新書判にされちゃうと読みにくい。どうせ固定層は絶対買うタイプの漫画なんだからさー、せめてB6、できればA5にしてほしかった。

【単行本】「快速!FREE NOTE Book!!」 すがわらくにゆき ワニブックス A5 [bk1][Amzn]

 コミックガム、ポプリクラブ、コミックライズに掲載された作品を収録した単行本。基本的に4ページのショートなんだけど、これ読んで、すがわらくにゆきってけっこう引き出し多いなあと思った。いつもの編集さんとぽいーんといーんいってる日記漫画的な奴はなくって、今回はぐだぐだなショートギャグあり、シュールなゆかい漫画あり、日常の一風景漫画あり、ラブコメあり、胸が締め付けられるような切ない話ありで、毎回バラエティに富んでいる。あとショタ。この人は、甘えん坊っぽくて可愛い男の子をよく描く。絵柄もいろいろ振れ幅があって、見ててすごく楽しい。肩の凝らない軽い絵柄だけど、描線の一本一本からセンスを感じさせるものがある。もっとたくさん作品描いてくれるといいのになーと常々思う。

【画集】「おひるね」 YUG ワニマガジン社 変型判 [bk1][Amzn]

 この人くらい素直に「可愛い」って言葉が出てくる絵を描く人も珍しいなと思う。丸顔でつるつる柔らかそうな顔をした女の子たちが、それはまあ可愛く可愛く描かれている画集なり。なんかこの人の絵は、隅々まで甘くて邪気がなさげで、どうしたらいいものかと思うくらい。裸とか描いても邪な感じが全然しない。優しい系の美少女絵では一つの完成形といっていいのではないかと。だから今度はそのうち画集ではなく漫画で単行本を出していただけないかと強く思う。けれども絵だけでもすごくいいんだにゃー。素直に感心したっ。

【単行本】「シャイニング娘。」1.First Shining 師走の翁 ヒット出版社 A5 [Amzn]

【単行本】「シャイニング娘。」2.Second Paradise 師走の翁 ヒット出版社  A5 [Amzn]

 2巻が出たので、読まずにとっておいた1巻と合わせてまとめ読み〜。この作品については何度も紹介したが、国民的アイドルグループである「シャイニング娘。」の面々が次々と犯されていくという物語である。メンバーは矢内鞠をリーダーに、匣アイ、壱岐鞘華、二翻巻(ゴットー)、椎田香檻、槌ののみ、保陀刑、阿部なつみ……と、どこかで聞き覚えのあるような面々が勢ぞろい。多忙を極める彼女たちがストレスを解消するため「悪魔」を名乗るカウンセラーに依頼を持ち込んだところ、スタジオライヴで犯されたり、匣&槌でデリヘルをやらされたりと、もうぐっちょぐちょなタイヘンな目に遭わされていく。その激動の10日間を描いたものなのだが、これが本当にすごい。

 まず「シャイニング娘。」の面々がそれぞれに特徴がとらえられているばかりでなく、漫画的にきちんと可愛い。そして内容もかなりみっちりしていてエロい。しかも単行本2巻分使っていることからも分かるとおり、ボリュームもバッチシ。実のところ師走の翁については、この前の単行本「宴」より前は「うまい」とは思ってもすごく気になるというほどではなかったのだが、最近の充実ぶりは本当素晴らしいと思う。絵もうまくなったしエロく見せる技術もアップした。さらにエロの密度の高さ、汁っ気たっぷりのみずみずしさは特筆に値する。そしてこの人が何よりいいなと思うのは、サービス精神がすごく旺盛なところ。後書きでの遊びやカバー裏まですごく充実しているしトレカまで付いてるし、本編のほうも画面の端々までエロかったり可愛かったりするものを詰め込んでくる。おかげで画面的にはゴチャゴチャしてるんだけど、最近はそれでも読みにくくないレベルできていると思う。

 この作品を読んでいると「作者は娘。のみんながすごく好きなんだな〜」ということが伝わってくるので、単純なアイドルな凌辱モノみたいに殺伐とはしない。お話的にもいいねえ。さまざまなエロエロ体験を通じて娘。たちが一回り成長し、最後は前向きに「みんな頑張ろう!」って感じで締めくくられてて、正直ちょっと感動さえする。ここしばらくの間に読んだエロ漫画の中では、最も印象に残った作品の一つ。楽しませていただきました!


▼一般

【単行本】「天の鷹」 谷口ジロー 双葉社 A5 [bk1][Amzn]

 元会津藩士で、戦に敗れた後、アメリカ大陸に渡った二人の男が、白人たちによって居住地を次々と奪われていくインディアンの部族たちと行を共にし、誇りを守るため戦い抜いていくさまを描いた作品。谷口ジローの精密なタッチで着々と語り進められる物語は、派手ではないけれども凄みがある。日本でも敗れ、そしてまたアメリカでも勝利なき戦いに身を投じる二人の日本人の姿は、義に殉じるもののふの心意気と悲哀を感じさせる。1巻できっちりまとまった力作。ところでこの単行本には「谷口ウエスタン最新刊」といううたい文句のついたシールが貼られてたんだけど、扉絵が見えなくなっちゃうんで帯にしてほしかった。

【単行本】「りんりんD・I・Y」1巻 大石まさる 少年画報社 B6 [bk1][Amzn]

 「りんちゃんクッキーのひみつ」の続編。今度はりんちゃんが中学生になり、さらにいとこの花梨が一緒に住むことになって、二人がコンビを組んでザリガニを釣ったりイモ判作ったりなんだりと、まあDO IT YOURSELFでなんかやるというお話になっている。それにしてもこの人はマイペースというかなんというか。なぜいきなりDIYなのかはよく分からないし、ときには立ち食いソバにチャレンジとかいうだけの回もあってあんまりDIYっぽくなかったりもするのだが、まあとにかく毎回実にマイペース。それでも楽しく読める作品になっちゃってるあたり、自分のモノを持ってる人ってのはやっぱり強いなあとか思ったりする。

【単行本】「ジャイアント」1巻 山田芳裕 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 おーもーしろいなー。日本のドラフトにかからなかった巨漢野球選手・巨峰貢が、単身アメリカに渡りシングルA(つまりプロリーグとしては一番下)のチームに滑り込む。それまで巨体に似合わぬちまちましたバッティングしかさせてもらえなかった巨峰だが、アメリカののびのびした野球スタイルの元、雄大な自分の持ち味を存分に発揮して水を得た魚のごとく暴れ回る。とにかくデッカい選手がデッカいバッティング、デッカい守備をする様子が異様に痛快な作品。「デカスロン」で培った、めちゃくちゃデフォルメの利いた描写が冴えていて、とにかく気持ちがいい。巨峰のバットがとらえた球がひしゃげ、次の瞬間爆発的な勢いで吹っ飛んでいくさまは理屈抜きに痛快。まあ個人的には力だけの野球よりは、日本プロ野球の森監督時代の西武ライオンズみたいな抜け目なさと力強さがうまい具合にミックスした野球のほうが好きではあるのだが、でもこういうシンプルで豪快なのももちろんカッコイイし見ていて面白い。巨峰の今後のステップアップが楽しみ。

【単行本】「遠藤浩輝短編集2」 遠藤浩輝 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 たいへん長らく待たされたがようやく第2集が発売。今回は「Hang」「女子高生2000」「プラットホーム」と、描き下ろしの「ボーイズ・ドント・クライ」が収録されている。この中ではやはり「プラットホーム」が非常に良い。父親がヤクザで、彼と彼の生き様をトレースするかのようにヤクザになった兄に反発しながら生きていく少年・貴幸の物語。貴幸は父の情婦の娘の早紀に想いを寄せていたが、早紀は母の死後は同じく貴幸の父の情婦となる。そんな事情もあり憎悪していた父に、年齢を重ねるごとに似てくる自分を否定したい貴幸は、何者にもなれぬまま少年時代の日々を過ごす。やり場のない感情、自分では現実をどうにもできない青春の挫折を描いた物語はたいへん青臭いといえば青臭いのだけれども、遠藤浩輝の硬質で冴え冴えとした筆致によって非常に緊張感のある作品に仕上がっている。

 遠藤浩輝は最初っから非常に完成度が高い作品を描いていた作家なので、パッと見にはその成長ぶりが分かりにくいけれども、だんだん作風もこなれてきているし少しずつ伸びているとは思う。でも初期の作品の、今より若干固い描線のほうが、突き刺さるようなインパクトがあったように思えてしまうのも確か。こういうこといわれるのは作家にとっては嫌だろうけれども、そう思ってしまうのはこちらとしてもどもこもならんところではある。現在アフタヌーンに連載中の「EDEN」はだいぶ長期連載になってしまったけれども、今後も短編集に収録されているようなキレ味抜群な短編もときどきは描いていってほしい。一枚絵でハッと手を止めさせられてしまう遠藤浩輝ならではの印象的な見開きは、尺の短い話のほうがより生きるのではないかと思うので。

【単行本】「お三十路の町」1巻 東陽片岡 小学館 A5 [Amzn]

 どこで描いても変わらない、いつもどおりの東陽片岡。ボロアパートや安飲み屋や橋の下で繰り広げられる、ごくごく平凡な人間たちのドラマともいえないようなドラマ。ここに出てくる人たちは向上心とかないので、見ていてすごくホッとする。見栄を張ることもガムシャラになることもなく、激しくありのまんま。これほどまでに肩肘張ってない作風というのも珍しい。この人の作品はしみじみ好きだ。

【単行本】「外道校長藤堂源三郎DC」 小野寺浩二 大都社 B6 [bk1][Amzn]

 小野寺浩二って男らしいなあ。このお話は、自分の学校の生徒とかを見て、過剰に触発された萌えゴコロを持て余し続ける熱き校長の物語である。まあ要するにいつもこの人が描くようなダメ人間大行進という感じの作品。この人の場合、萌えを描くにしても「萌えの対象」のほうではなく「萌えの主体」のほうをメインに描く。そのせいか作品が妙に男くさく、ヘンにねじ曲がったところがない。なんというかノリがすごく少年漫画っぽい。オタクネタをやるにしても、個々の商品なり作品なりについてぶちぶち豆知識を入れていくみたいな細かい内向きの閉じたスタンスじゃなくて、ちっちゃいことはすっとばして外側に向かっているのがいいと思う。もしかしたらこの人は、パッと想像されるほどにはベタなオタクじゃないのかもしらんなーとか思っていたりするんだけどどんなもんだろうか。

【単行本】「エビアンワンダー」1巻 おがきちか 少年画報社 B6 [bk1][Amzn]

 悪魔と契約をし地獄のエネルギーになる邪悪な魂を狩る「銀符」と呼ばれる存在であるフレデリカと、その弟であるハウリィの道中を描いたファンタジー系のアクション。軽やかで上品な絵柄で気の利いたストーリー展開を見せる作品。最初のほうはいまいち物語が頭に入ってこないようなところがあるのだが、回を重ねるにつれてだんだん読みやすくなっていっているように思えた。それだけに掲載誌であったアワーズライトがなくなっちゃったのはかえすがえすも惜しい。

【単行本】「人間以上」 駕籠真太郎 久保書店 A5 [bk1][Amzn]

 長らく絶版になってて入手困難だった駕籠真太郎の初単行本「人間以上」が、久保書店の「リターンフェスティバル」シリーズの一環として復刻。今回は旧版では未収録だった「脳下垂体の機会論的世界観に関する一考察」を初収録。このころの駕籠真太郎はまだ絵は今のように洗練されておらず、内容的にもストレートで、内蔵をズルズル引っ張り出しておもちゃにしたりとかいうグロ系のネタを多用した狂騒的なスプラッタギャグといった趣が強い。でもそれだけに、素直に人を嫌な気持ちにさせるパワーはあって読んでてかなり刺激的。最近はわりときれいめなネタが多い駕籠真太郎だが、たまにはこういうグログロな作品もまた描いてほしいなーと思う。

【単行本】「純の魂」 早見純 青林工藝舎 A5 [bk1][Amzn]

 この単行本でも陰湿でねっとりとした早見純の変態的ワールドの魅力は出ているけど、わりとあっさりめの作品が多いので、早見純の単行本としては比較的インパクトが弱いかな〜という気はした。まあこの内容でそういう風に感じちゃうところが早見純ならではという気もするけれども。なおこの単行本では、巻末企画で早見純と二十代ギャル×3による座談会が収録されているんだけど、これが妙に味がある。早見純は嘘つきまくりだし、ギャルたちの合いの手もなんか微妙にポイントを外してるような気がするし。


▼エロ漫画

【単行本】「猛獣注意」 第六天魔王グレート 一水社 A5 [Amzn]

 「筋肉」。それがこの人の作品の特徴。エロ漫画作家は数あれど、これだけ筋骨隆々した女性ばかり描き続ける人は珍しい。ゴツゴツと鍛え上げられた筋が浮かび上がりまくった女体(および男体)の迫力は、初めて見るとけっこう驚かされる。ちなみに作画技術はかなり達者だと思う。線がしっかりしてて力強く、かつ洗練されてもいる。そしてお話もこれがけっこう面白い。男も女も基本的にマッチョなのだが、その心根は一本芯がビシッと入っている。一見怖そうな顔つきなのだが、基本的に善人揃いであるのがいい。暑苦しげな絵柄なのに、読後感は非常に爽やかなのだ。例えばこの単行本ではメイン的扱いである、ゴリゴリ筋肉でメイドやら看護婦やらの格好をする宇喜多彩美さんなんかは、行動も言葉遣いも粗暴だけれど妙に憎めない。これまたパワフルな男である忠勝にほれ込む様子は、ふとした拍子に可愛く思えてしまうほど。性格も豪快でサバサバしてて、ヒネたところが全然ないのがいい。特異ではあるけど、なんだかほのぼのしてもいる面白い作品。

【単行本】「ムーちゃんが来たよ」 草津てるにょ ワニマガジン A5 [Amzn]

 この人がこんなお馬鹿っぽい作品を描くとはけっこう意外だった。ストーリーは、酔っ払った父親が100円で飼ってきた成人女性用の愛玩動物「エコペット」からHなことをされていくうちに、ヒロインの美和子がだんだんそのペースに巻き込まれていっちゃう様子を描くといった内容。このエコペットというのがなんだか「お風呂もいっしょ寝るのもいっしょ、いつもいっしょのムニュ・ムニュ」といった感じの罪のない外見をしているのだが、飼い主にちんちん突っ込んだり、夢まで制御したりとけっこう曲者。夢の中までHな妄想に支配された美和子は、だんだん何が現実なのやら分からなくなってきてしまうといった具合。んでもってお話がぐだぐだになって、なんだか思いもよらぬ結末へと行き着く。一つひとつのHシーンは、草津てるにょらしく女体がつやつやしててたいへんエロく実用的。乳首がツンと立ったりするところの表現とか、すごくソソる。それだけにこういうオチで来るとは……とたいへん意表を衝かれた。でもちゃんとお話としては意外なまとまりを見せていて、草津てるにょの長編としては今までで一番面白かったかもしれない。エロ描写については「夢幻画境」とかのほうが人間×人間なんで好きだけど。

【単行本】「BLIND」 天竺浪人 ワニマガジン A5 [Amzn]

 激漫および商業誌未発表作品を収録した短中編集。これはかなりいい。一本一本のページ数が短編というには多めなのでかなりボリューム感があるし、内容も天竺浪人らしさが遺憾なく発揮されたダークなものとなっていてかなり楽しめた。

 例えば、さまざまな男とつき合って飽き果てた女が不細工な男とある日突然結婚し、その中で目隠しをした状態でのSEXの魔力にズルズルと引き込まれていく「BLIND」なんかは、視覚情報が閉ざされ周囲の状況が曖昧になっていく過程の描写がとても巧み。そして今描かれていることが現実なのか、主人公の女性の妄想なのか、彼女を抱いているのは果たして誰なのか、だんだん判然としなくなっていく様子はエロチックでもありミステリアスでもある。

 また自宅にクラスメートから送られてくるエロビデオにより、イジメられっ子が追い詰められていく様子を描いた「END」なんかも緊張感にあふれた秀作だ。最初はあまり彼に関係ないクラスメートの凌辱シーンから始まり、担任の先生、そして彼が好きだった女の子……とエスカレートしていく様子は真綿で首を絞めるようだし、輪姦している側もクラスメート男子であり彼はその仲間からは外されているという状況によりイジメられっ子の孤立感を際立たせていくという手法もねちっこい。しかもビデオの中で散々馬鹿にされながらも、それを見てヌイてしまうという屈辱。「無修正エロビデオ、しかも超ハードなものが送られてくる」という本来なら嬉しいはずの状況を、人間を追い詰めるためのアイテムとして使っちゃうという発想は面白いしそのアイデアの調理の仕方も非常にうまい。

 一本ごとのボリュームもあってお話としても読みごたえ十分だし、意外と高い実用性、ダークな読後感なども刺激があって良い。天竺浪人の技量の高さを再確認させてくれる1冊。

【単行本】「アルビレオ観測所からの監察」 しろみかずひさ 司書房 A5 [Amzn]

 「アルコールラムプの銀河鉄道編纂集」というサブタイトルがついていることからも分かるとおり、三和出版から出ていた「アルコールラムプの銀河鉄道」上下巻および「天気輪の丘で視た世界」から作品をより抜き、単行本初収録作品を加えた短編集。この人の作品は以前からとても好きで、このページでもしろみかずひさコーナーを作ろうと思いながらずるずる来ちゃってるわけなのだが、11月下旬に「なぶりっこ」上下巻が富士美出版から発売されるらしいので、そのときにでも……と考えてはいる。

 しろみかずひさの作風は実に独特。まず線からして均質で乱れがなく、ちょっと珍しい不思議な質感を持っている。お話のほうはそれ以上といっていいくらいにオリジナリティがあって、その物語はときに非常に激しくて読む者を驚かすほどだったりするのだが、いずれの作品も研ぎ澄まされた緊張感に満ちている。この人ほどに自らの愛を、真剣に狂おしくぶつけてくる作家というのも、エロ漫画において、というか漫画界においては非常にまれであろう。その愛は、しろみかずひさ自身の中に生まれた絶対的な何かでもある、「麻理果」と呼ばれる女性に向けられている。彼女はしろみかずひさ作品のほぼすべてに登場する人物で、作者自身の愛──それは信仰に近いまっすぐなものであったり、憎悪にも似た歪んだものであったりする──が捧げられている。その思いの切実さは余人には立ち入りようのない次元にあって、はたから見ていると崇高にさえ映る。

 この作品集ではとくに、くじら座の星τ(タウ)に向かう宇宙船内で二人で寄り添うように生きる少年と女性型ロボット麻理果の哀しい愛の物語「τ」と、生体実験用の少年と女性研究者の別れを描いた「Cygnus」がとてもいい。しろみかずひさ作品の多くは、失われていく、あるいは失われてしまった何かへの追憶が冴え冴えとした描写で描かれていて、センチメンタリズムを強く刺激される。作者は直球勝負できている。だからこちらとしても真っ向から受け止めたくなる。

【収録作品】「τ」「Secret Marriage」「TOILET2」「まりか32」「不協和音」「Cygnus・prologue・」「Cygnus・intermezzo・」「Cygnus・epilogue・」

【単行本】「ほおずり」 ほしのふうた 茜新社 A5 [Amzn]

 いつも書いていることだけど、ほしのふうたは素晴らしい。もうホント好き好き。ロリ系作家の中では今一番好きかもしれない。とにかくこの人の描く少女はかわいい。なんだかもう本当に無邪気で、笑顔が芯から楽しそうで。ただ遊んだり飛び回ったりしているシーンだけでも見てて楽しくなる。しみじみいい。

 そしてカラッと明るい絵柄でありながら、エロシーンもけっこう実用的だったりするんだからまた素晴らしい。柔らかそうな体をしなやかに曲げて、本当に気持ち良さそうにほわーんと表情を崩す様子は見ててかなりグッとくるものがある。ロリではあまりヌケない俺だけど、この人の場合はけっこうイケる。こういった作品はいつ買えなくなるか分からないご時世なんで、買えるうちに買っておくことをオススメいたします。

【収録作品】「林道」「カゼひきれいなちゃんの日曜日」「妄想バレリーナ」「みるくちゃんのおふろ時間」「まっクラおばけ」「光 −ひかり−」「回遊魚」「はじめてのぴゅッ♥」

【単行本】「ABILITY」4巻 MARO ワニマガジン B6 [bk1][Amzn]

 生まれついての悪党、巳月竜司先生大活躍の壮大なる叙事詩「ABILTY」もこれにて最終巻。いやー、最後までバカで面白かったなあ。最初はタダのSEX好きな借金取りの兄ちゃんにすぎなかった巳月竜司が、最後には兄弟喧嘩の果てにアメリカとかぶっつぶしちゃうしー。そのうちパワーアップして毒も祟りもきかない最強人類になっちゃうしー。ラストシーンのおめでたさも素晴らしい。よくわからんバイクに乗ったままSEXしつつ「俺の気筒の感じはどうだ?」と、最後までどうにもオヤジくさいセリフで締めてくれて満足。巻末になぜか時代劇編が収録されていたり、なぜか3コマずつしかない「4コマ劇場」が収録されていたりと脱力感抜群。この人絶対天然だ……。


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