OHPトップ > オスマントップ > 2002年10月の日記より
このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。
日記形式だと、どうしても日にちが過ぎてしまうと大量の過去ログの中に個々の作品が埋もれてしまうため、このコーナーではダイジェスト的にまとめてみました。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則としてしませんので、普段日記を読んでくださっている方にとっては読む意味がないかもしれません。手抜きといえば手抜きなんですが、まあその点はご容赦ください。
なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でもどんどん入れていきます。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、わりと省略しがちです。
▼強くオススメ
【単行本】「暁星記」1〜2巻 菅原雅雪 講談社 B6 [bk1][Amzn:1巻/2巻]
とても壮大でわくわくしてくるし、ものすごく読みごたえがある。舞台は人間が入植してから1万年が経った金星。樹高2000メートル以上の木々が星をびっしりと覆う中、巨大な生物たちの脅威にさらされつつも、かつての文明の恩恵を受けることなくほそぼそとした生活を営み続ける人々の生き様を描いていく物語。主人公はスズシロという狩猟を生活の中心としている村の若者・ヒルコ。精霊のとりついた「シシザル」と呼ばれる生き物に見込まれた彼は、森全体を支配する王になるべく導かれていくことになるが、その行く手には数々の困難が待ち受けている……といった具合。
巨大な木々で空が見えないほどの、まるで海のように深い森に覆われた金星という舞台設定は非常に大がかりだが、物語もそれに見劣りすることなく本格的。1巻の最初のほうはヒルコもやんちゃっぽくて比較的コミカルな感じだが、だんだんとストーリーは深刻さを増していき、2巻の途中から始まる第II部では一気に過酷な展開を見せる。ただ異世界で冒険するってだけでなく、ヒルコの活躍を描きながら、男系社会で虐げられてきた女たちの粘り強い改革といった深いテーマについても語り、骨太な物語を織り成していく。スケールが大きく筆力も十分。今、モーニング本誌での連載は中断中だが、早く続きが読みたい。かなり期待している。
【単行本】「少年少女」1巻 福島聡 エンターブレイン B6 [bk1][Amzn]
コミックビーム連載の、一話完結式短編連載をまとめた単行本。この巻には「触発」「大車輪」「美しい骨」「自動車、天空に」「OPEN THE DOOR!」「宇宙パンダに情けはあるか!?」「錯綜」が収録されている。モーニングで連載された「DAYDREAM BELIEVER」のころからすごく漫画がうまい人だというのは承知していたけれども、この作品は味わいこそ違うもののこれまた大変に良い。ストーリーの引き出しも多いし、内容的に見ても粒揃い。とくにタイトルどおり少年少女がメインに扱われているだけあって、青春モノ好きにとってはこたえられないような作品が多い。「DAYDREAM BELIEVER」のときは「すごさ」を感じたが、この単行本はむしろ「うまさ」が際立っている感じがする。
収録作品の中ではとくに、廃車をヘンなふうに改造してばかりいる世棄て人的な人物と、彼のことをずっと見つめ続けていた女性の物語である「自動車、天空に」が気に入っている。ゆったりとしたムードもいいし、厳しい現実にも触れつつ、あくまで二人の距離感は崩さないでお話を進めていく奥床しさがいい。あと見せ場であるタイトルどおりなシーンもすごく気持ちがいい。あと「触発」とその後日談である「錯綜」なんかも、読後感がよろしい佳作。「触発」は、ふとしたはずみで誤って友達の少年を突き飛ばして井戸に転落させ死亡させてしまった少女が、自分なりに落とし前をつけるための決意をするというストーリーで、テーマ的にはヘヴィながらも前向きなお話。「錯綜」は、その少女と死亡させてしまった少年の弟との、ちょっとむずがゆい感情を描いた作品。
このほかにもホラーっぽいものや、青春の挫折的なものなど、話のバリエーションは多い。いずれにせよ、描線がしっかりした作画はすごく好きだし、構図取りやセリフのセンスなど、技量はとても高い。ただ、ガツガツとしたところがなく抑制がすごく利いている作風なので、技量のわりに地味に見えちゃうところはあるかも、と思った。
【単行本】「少年少女ロマンス」 ジョージ朝倉 講談社 新書判 [bk1][Amzn]
ジョージ朝倉絶好調。また新単行本が出た。で、読んでみたけど、こりゃまた面白いなあ。お話は以下のような感じ。いつか王子様が自分の目の前に出現すると信じて疑わないちょっとヤバめな女子・蘭が主人公。そんな彼女のクラスにやってきたすげーかっこいい転校生男子・右京。でも彼の正体は、小学生のころ彼女をイジメつくしたあと転校していったヤツだったのだ……。王子様お姫様幻想に浸り、周りも引くようなお姫様ロングヘアーやふりふりした服で出現する蘭も蘭だが、実は蘭にベタボレで彼女のために王子様修行をして帰ってきたけどやっぱり「好きな子に意地悪してしまう」というクセの抜けない右京も右京。女もバカなら男もバカ。でもバカだけに恋も愛もやたらまっすぐ強力で、ジョージ朝倉らしいぐいぐい読ませる物語となっている。実に単刀直入で明快で、しかも驚くことにすごくロマンチックでもあったりする。愛の言葉もカッコイイ。とても面白かった。
【単行本】「じかんはどんどんすぎてゆきます」 雁須磨子 太田出版 A5 [bk1][Amzn]
マンガF、マンガ・エロティクス、エロティクスF掲載作品を集めた短編集。いちおう多少エロチックな本で描かれた作品群だが、どこで描いてもこの人は変わらないというか、マイペースの極み。淡くて不思議な色使いな表紙と同様な雰囲気で、この人の描くキャラクターは、みんながみんなふわふわと、どこか薄ぼんやりしているというか天然ボケというか、な不思議なノリをしている。そんな感じなのにノリとしては妙に落ち着いてはいて、その様子がなんだかすごく気持ちがいい。単行本タイトルからしてそうだけど、作風自体もゆるゆるで、適度にぬるい風呂にぼーっとつかっているかのような解放感がある。ある種ナチュラルドラッグ的というか。そういう独自のムードを持った人だけに、作品はどれ読んでも雁須磨子味になっちゃうし、これがまた面白い。何が面白いのかというと「はて?」という感じでもあったりするんだけど、この飄々とした筆致は貴重だと思う。
【収録作品】「テイメラレシシャ」「まっしろけ」「ものがげのこわいかお」「しゃりんしゃらん」「じかんはどんどんすぎてゆきます」「彼女が学校で」「あにいもと」「ワンコインクリア episode1」「ワンコインクリア episode2」「蟻」「毛糸玉」
【単行本】「ラブホルモン」 坂井恵理 講談社 B6 [bk1][Amzn]
待望の初単行本。それまで彼女も全然いなかった平凡な少年・堀込くんが、「ラブホルモン」という、ある一定時間相手を本当に好きになる効能を持った惚れ薬を服用して売春している少女・日野あざぎに一目惚れする。しかし相手は自分よりもはるかに経験豊富で、さらに奔放に振る舞ってはいるもののラブホルモンという薬の力に頼らざるを得ないような、心理的な欠落部分を抱えている。この二人を中心として、堀込くんの幼なじみで浮気性の女の子のカオルもからめつつ、「恋愛とは何か」「擬似的な恋と本当の恋は違うのか」といったテーマも掘り下げていく作品。坂井恵理の作画は端整で可愛らしく、一見ライトな雰囲気だけど、テーマ自体はけっこう深くなかなか読みごたえのある作品に仕上がっている。この道具立てを使えば、もっとダークな部分までギチギチにキッツく掘り下げることもできないではなかったと思うが、作品としては良いバランスを保っているし、何より気持ち良く読める。坂井恵理についてはデビュー当時の読切がかなり気に入っていたので、いずれそこらへんもなんかしらの単行本にまとめていただけるとありがたい。
【単行本】「篠房六郎短編集 〜こども生物兵器〜」 篠房六郎 講談社 B6 [bk1][Amzn]
シャープさと重厚感を兼ね備えた、非常に達者な絵柄がまずググッと目を惹く篠房六郎の短編集。アフタヌーンで四季賞を受賞し高い画力とめくるめく構成で読む者を驚愕させた「やさしいこどものつくりかた」をはじめ、「生物兵器鈴木さん」、それから現在連載中の作品の原型となった前後編の「空談師」を収録している。
やっぱり一読してスゲーと思うのは「やさしいこどものつくりかた」。希代の錬金術師の家に住まう父と子、それからメイドが繰り広げる物語は、最初はユーモラスに始まったと思ったらだんだん悲痛な色合いを濃くしていき、胸が締め付けられるようなラストへと至る。キャラクターに関する情報が少しずつ明らかになるのに合わせて、最後まで盛り上がり続けるお話はボリューム感もあって圧倒されるものがあった。「生物兵器鈴木さん」は、元気のいい小学生さんたちのお話で、やんちゃで微笑ましく楽しく読める作品。それから「空談師」は、ネットゲームの世界を恐ろしくリアルに描いた作品。まとめて読むと意外な展開の連続で、雑誌掲載時よりも面白く読めた。どの作品もいずれもキレと力強さがあって面白かった。
【単行本】「空談師」1巻 篠房六郎 講談社 B6 [bk1][Amzn]
で、こちらが現在アフタヌーンで連載中の作品。読切版の「空談師」と同じくネットゲームの世界を扱っているが、こちらは舞台が異なる。「PK(Player Killer)」といわれるほかのユーザーが操っているキャラを殺したことのある奴らが集まって、黒白二組に分かれて争うというルールで構成された町が舞台。そこに迷い込んでしまった非PKの少女が、恐ろしく強い一人のPKと出会い、そこからいろいろな思惑に巻き込まれていくというお話。
正直なところ、1巻の時点ではお話の展開が早くないしハッキリとした目的が与えられていないこともあって、この作品がどういう方向へと向かっていくのかいまいち判然としないところがある。そんなわけでもう少し様子見を続けたいところ。ただネットゲームという舞台の扱いはけっこううまいと思う。こういうバーチャルな世界を扱った作品は、死んでもキャラがロストするだけだしーという感じがして生身の人間が闘うよりも軽くなってしまいがちなのだが、その分死んだはずのキャラが生き返るとかヒットポイントについての設定だとか、普通の作品のキャラではできないこともやっている。ネットゲームであることは意識させつつも、その世界ならではのリアリティは確保できてはいると思う。
【単行本】「おとぎのまちのれな」1巻 はっとりみつる 講談社 B6 [bk1][Amzn]
「イヌっネコっジャンプ!」のはっとりみつるの最新作。もののけがいるという伝説のあるちっちゃな地方都市「おとぎの」在住の女子高生、御前れなは、最近不意にエッチな気分になっちゃって止まらなくなるという状態が続いていて困っていたのだが、それはどうも「ケガリチョタ」と呼ばれるもののけが原因らしい……といった感じで、もののけおよびエッチな気分を巡るドタバタコメディといった作品。
んでもってこれがなかなかにエロい。セックスとかそのものズバリなシーンは今のところないんだけど、れなが発情しているシーンのドキドキした感じがよく出てる。はっとりみつるの作風は非常に健康的で元気がいいだけに、そのありあまるエネルギーがそのまま性欲につながって悶々と爆発寸前という感じ。寸止め寸止めでいくのがかえっていい。さらにもののけの秘密とれなの関係をかぎまわる、妹のみことがからんできて非常にドタバタとお話が展開中。「イヌっネコっジャンプ!」同様、なかなか先の読めない作品だが、ワクワク浮き立つものはあるし、とても気軽に読めて楽しい。それにしてもれなはソソるなあ。
【単行本】「少年エスパーねじめ」2巻 尾玉なみえ 集英社 新書判 [bk1][Amzn]
悲運の最終巻! というほど悲壮ではないです。迷惑な超能力の使い手であるねじめが、るきじという少年宅に住みついてトラブルを起こすというお話。いちおうねじめをはじめとした白エスパーと、変態集団みたいな感じの暗黒エスパーが戦うという大筋的なものはあるものの、わりとそんなことはどうでもいい感じにお話は展開。最終回からしてそんなのとはまったく関係ないネタだもんなー。まあ何はともあれごちゃごちゃと、独特のヘンなリズムのギャグが満載でたいへん面白いです。あと「マコちゃんのリップクリーム」「純情パイン まねっ子撃退法〜その傾向と対策〜」も併録されている。
【単行本】「みちくさ」 ほしのふうた 東京三世社 A5 [Amzn]
最近単行本化ペースが早い。で、今回もとてもかわいくてかつHでたいへんに良い。ちっちゃい娘たちの無邪気で元気の良い様子、はしゃぎっぷり、柔らかそうな身体のライン。いずれも良い。ロリ系作家の中では、今一番好きだな〜。というわけでコミックスリストのページなんかを作ってみました。あんまり単行本ごとの印象の違いはないので、個々の本についての感想とかはつけておりませぬが。今後はこんな感じの作家別コミックスリストページも、またちょこちょこ作っていければいいなーとか思っております。最近日記しか書いてなかったから。
【単行本】「華札」 OKAMA ワニマガジン社 A4 [bk1][Amzn]
うおー、きれいな本だなあ。全編フルカラーなんだけど、各ページの彩色もやたら美しい。もちろん絵そのものもすごく達者。内容は人間のお公家さまに恋をしてしまったキツネのお話。驚異的に絵がきれいなだけでなく、ストーリーのほうも上出来。人間の、キツネの恋模様を実に美しく描き出している。その美しさがまず目を射るところではあるのだが、Hシーンもこれがなかなかのもの。艶やかで淫ら。正直なところOKAMAがこんなにエロい描写をする人だとは思ってなかった。昔と比べると大きなおっぱいを描くのが格段にうまくなっている。パラパラ眺めて画集的に楽しむこともできるし、ストーリーを楽しんだり、実用に供すこともできると思う。値段は1500円するけれどもそれに見合うだけのものはある。
【単行本】「プロキシマ1.3」 粟岳高弘 FOX出版 B6
粟岳高弘初単行本。リンク張りたいんだけどbk1にもAmazonにもまだない……(10月31日朝7時の時点)。成人向けだからbk1に入らないのはしょうがないとして、AmazonについてはいつもだいたいFOX出版の本はデータベースに登録されるのが遅いんだよなー。そんなわけでFOX出版の紹介ページのほうにリンクを張っておく。そちらのページの紹介にもあるけれど、「プロキシマ1.3」はカラフル萬福星に掲載された作品を中心に、粟岳高弘の商業誌発表作品のほとんどを集めた単行本。エロ漫画ではあるんだけど、作風としては少々変わっていて、少なくとも「いかにも美少女漫画」という感じではない。でもこれがちゃんと面白い。
SF風味は確かにあるんだけど、別段設定とかがすごくきっちりしているわけでもなさそう。でも雰囲気はすごくある。それは作品世界が「なんらかの風変わりなルールに乗っかって作られているな」という感じがあるから。女の子たちにからむのが、普通の人間だけでなくぶよぶよした感じの異生物とかがけっこう出てくるのだが、何かそれが当然のごとく受け容れられるような空気がある。それプラス、良い意味での田舎っぽさ。とんがってないマイルドなSF風味あふれる世界観は、妙に肌になじんで心地よい。登場する少女たちもいい。なんというか、クラスで一等目立つというタイプじゃないけれども、愛敬があって心惹かれるタイプの女の子という感じで、かなりフツーっぽい。そんな女の子たちが開けっぴろげにHなことをしているものだから、手に届く範囲でいけないことをしているような感覚があって思わずそそられてしまう。意外と実用的でもある。
お話的にも、何気なく描いたらくがきから反物質を生ぜしめてしまう少女と彼女の世話係の青年のお話とか、「瓜頭」と呼ばれるへんな生き物に調教されているメイドさんの話だとか、オリジナリティに富んだものが多い。なかなか珍しい感触の作品を描く人だけに個人的注目度は高い。エロさでいえば同人誌で弘岳粟高名義で描いている諸作品のほうが高いかなーという気もするので、こちらもそのうち単行本かなんかにまとまるといいんじゃないだろうかと思った。
▼一般
【単行本】「ブルー・ヘヴン」1巻 高橋ツトム 集英社 B6 [bk1][Amzn]
超豪華客船の乗組員が、難破船から男二人を救出してしまったところから始まる惨劇。そのうちの一人・李盛龍は、他人を破壊することにしか楽しみを見出せないように育てられてきた「鬼子」であった。この男を中心として海上の巨大な密室で繰り広げられるバトル・ロワイアル……といった趣の作品。血みどろな展開を予感させる物語は、序盤からかなりハッタリが利いてて刺激的。ヌルまったところが全然なく、人間のエゴをどんどん暴き出していくスリリングな作品になっていきそうで楽しみ。
【単行本】「殴るぞ」1巻 吉田戦車 小学館 B5平 [bk1][Amzn]
タイトルと吉田戦車ということから分かるとおり、かわうそやかっぱくん、いじめてくんらが殴り合うストリートファイト漫画である……などというはずもなし。本当はごく普通、というと語弊があるかもしれないが吉田戦車としてはスタンダードな感じの4コマ漫画である。スピリッツで4コマというと真っ先に思い浮かんで来るのが「伝染るんです。」だが、さすがに読むほうも慣れているのであのころほどのインパクトはない。でもこれ、なんかちゃんと面白かった。というかときおり爆笑しながら読んだ。ギャグとしては落ち着いてきてるし地味になってるかもしれないけど、吉田戦車の言語センスとか、シュールだけどオシャレになりすぎないものを見つけてくるセンスとかは相変わらず一流。安心して読める。登場キャラでとくに好きなのは考える犬。主人が散歩に連れていってくれなかったので噛むことを計画しながら、さらに先回りして彼が怪我をしたときの薬の補給までしておくとか、そういうもってまわった思慮深さがたまらない。表情も味わい深い。この人はやっぱりなんともいえない微妙な顔を描かせたら、漫画界でもトップクラスだと思う。
【単行本】「100万円!ベガスくん」 肉柱ミゲル エンターブレイン A5 [bk1][Amzn]
100万円の国からやってきたヘンな生き物・ベガスくんが、いつも赤いヘルメットをかぶった赤ヘルくんの家に住みつき、100万円のパワーを使って活躍するというほのぼのギャグ漫画。ここでいう100万円とは、「1万円札が100枚集まったもの」ではなく、あくまで一つのものとしての100万円。100万円が2個あっても、それは200万円ではなくあくまで「二つの100万円」。りんご5個となす5個を足しても10個ではなく「りんご5個となす5個」であるがごとく、100万円は100万円なのである。その魅力に人々は幻惑され、ときにひれ伏し、ときに心を狂わせる。まあそんな感じで、ベガスくんは100万円を駆使するドラえもん的存在であるわけだが、一見毒気のない絵柄なのに「100万円さえあればなんでもできる。なんでもうまく行く」といったイカれた価値観が作品内に充満していてかなりシュール。あと赤ヘルくんの言動とかもときどきやけに暴力的だったりして、意外な刺激にあふれている。おおひなたごうが帯にコメントを寄せているけど、何かおおひなた作品に近いテイストはあると思う。
【単行本】「2人暮らし」1巻 市川ヒロシ 講談社 B6 [bk1][Amzn]
別冊ヤングマガジンでひっそり連載中の作品。無口な彼氏と天然な彼女の同棲生活を描いたギャグという感じなんだけど、これがけっこう面白い。彼女は悪気は全然ないんだが、たいへんマイペースで世間知らず、かつ底抜けに衝動的で、その行動に彼氏は喋りはしないけどいつもショックを受け続ける。彼氏の実物大人形を顔の部分だけ大量に作ったり、冷房が壊れたときに凍った新巻鮭を彼に抱かせてみたりとか。地味なんだけど独特のリズムを持ってて、読んでるとふいとツボにハマッて笑ってしまう。ヤンマガ系はショートギャグで面白い人が多いけど、市川ヒロシもまたいい感じのモノを持った人だなーと思う。
【単行本】「ジェット上司」1巻 ながしま超助 双葉社 B6 [bk1][Amzn]
あの「ぷるるんゼミナール」で一部に旋風を巻き起こしたながしま超助の最新作。かつてとある広告代理店を業界トップにのしあげた伝説の男「浅野W」が、11年の眠りから目覚め復活。バブル期のノリそのままに……っていうかバブル期でもこんな奴いねーよというメチャクチャな適当さで会社および部下(と浅野Wが勝手に呼んでいる)斉藤らに迷惑をかけまくるという作品。伝説のサラリーマンではあるのだけれども、仕事はいい加減だわ女と見ればセクハラの嵐だわ、その行動はとにかく豪快かつ下品。でもなんかこの作品は、読んでて妙にスカッとする。「バブルのころはこういうのあったよなー」とかいう言葉でなんでも片付けちゃう大ざっぱさが素晴らしい。ちまちまクサクサしたところが全然ない、スコーンと抜けた馬鹿馬鹿しさがすごくいい。この明るさ、嫌味のなさはながしま超助天性のモノだと思う。引き続きこの人については注目していきたい。
【単行本】「順風」 三本美治 青林工藝舎 A5 [bk1][Amzn]
表題作の「順風」シリーズがとくに面白い。上京してきたものの本当にやる気がなく、だらだらし続ける男・純平が、とある編集プロダクションでバイトを始める。しかしやっぱりやる気がないし働きたくないから、適当にちんたらやっている。そのうち職場がいやになってやめて、自費出版で雑誌を作ったりするものの、結局やる気がなくすべてにおいて自分に都合よくしか考えない性格も災いし、何も身につかない。そんな男の暮らしを実に生っぽく描く。絵的にはまあはっきりいって上手ではなく、ヘタウマとかいわれそうな部類なのだが、これが妙に読める。ダメ人間の本格的なダメさが伝わってくるとともに、それでもなんだかんだそんな人間を生かしておいちゃう出版界の鷹揚さ加減を見ていると、なんだかものすごく気が楽になる。解放感がある。「これからもテキトーにやろう」「努力なんかしてるヒマは無い」「これからも気合いを入れて楽に生きよう」といった言葉に強烈なインパクトを受ける。やる気なくかつ無能であることは、別に自慢できたことではないし社会的に容認されているわけでもないが、それでもそういう人はいるし、いるものはもうどうにも仕方がない。そういった現実をそのまま受け入れる大らかさを感じさせるいい本だと思う。
【単行本】「恋愛ディストーション」4巻 犬上すくね 少年画報社 B6 [bk1][Amzn]
アワーズライトが休刊してしまったためこれにて最終巻。恋愛のいろいろなシーンを切り出してきて、うまいこと物語にしちゃう腕は大したもの。その切り出し方もけっこう独自な視点のものが多く、正統派な恋愛モノでもまだまだいろんな発見があるじゃんと思わせてくれる、恋愛漫画再発見的な連載だった。もの柔らかな可愛い絵柄でありつつ、ドキッとするような鋭さを秘めていたりして油断がならない。カバーを外した中表紙を見ててますますそう思ったりした。まだいろいろ企んでいたっぽいな、と。
【単行本】「小桧山中学吹奏楽部」 米根真紀 ラポート B6 [bk1][Amzn]
出たのはちょっと前で、気になりつつも買いそびれていたのだが、先日ネット書店で注文して購入。内容はタイトルどおり、とある中学校の吹奏楽部の面々の物語。中心となるのはコルネット担当の本牧さんという女子。楽器はまだうまくないけど、2年になって後輩もできて張り切っている。んでもってそのほかの部員もいろいろと登場し、楽しくわりとのんびり目にお話は展開。ちょっと恋もあり。えーと、これはまだ続きがあるのかな。よく知らないけど、この巻ではまだ音楽も恋もほとんど進行しておらず、物語的には序の口といったところ。でも部活動という、学生ならではの居心地良い空間の雰囲気は伝わってくるし、絵柄もスッキリしてて気持ち良く読める。
▼エロス
【単行本】「てんねん」 まだ子 シュベール出版 A5 [bk1][Amzn]
消しはひっじょーに薄いH漫画ではあるが、成年マークが付いてないのでbk1でも買える。マンセー。そんなわけで零式でぽちぽち描いていたまだ子の、待望の初単行本。これはなかなかにいいもんです。こなれた線による明るくかつマイルドなタッチで、あられもないHシーンを連発。こういう柔らかい絵柄によるエロって個人的にはけっこうヒット率が高く、さらにやってる内容も絵柄の印象よりもわりと過激。でもガッツンガッツンハードコアなんて感じでは全然ないので、間口的にはけっこう広いのではないかと。女体描写にも線の柔らかさは発揮されてるけど、一番いいのはなんといっても女の子たちの表情だなー。気持ちいい状態になっちゃってトロンとした目つきで嬉しそうに喘いでいる様子がたまらない。もっとこっち方面でいろいろ描いて、次の単行本も出るといいなあ。とくにドレグラに掲載されている「娘。」的な漫画なんかは旬を逃さないうちにお願いしたい(もう逃しかけかもしれないが).
【単行本】「シュガータイム」 あんみつ草 三和出版 A5 [Amzn]
ミルクコミックさくらなどの表紙などが印象に残るあんみつ草の初単行本。絵を見ると、ああこの人かと思う人も多かろうかと思うので、作者Webへもリンク。「恋愛ディストーション」と続けて読んだせいか、なんか地続きな感じがちょっとした。もちろんこっちのほうはH漫画雑誌に掲載された作品なので、Hが基本にある時折鬼畜っぽいお話もあるけれども、基本的には後味の良い恋愛譚が主体。整った柔らかい絵柄は見ていて気持ちがいいし、口当たりが良い。
【単行本】「まじわりについての考察」 愛澤銀次 司書房 A5 [Amzn]
司書房系では最近けっこう気になってる人。絵はまだそんなにうまくはないというか全然垢抜けてないんだけど、叙情的なストーリーには見るべきところあり。とくにとある男がエロ映画のポスターをドキドキしながら眺めていたころの少年時代を回顧する「まじわりについての考察〜鈴木君の思い出〜」と、不器用で無口だけど優しい男と彼女を包み込むような大柄な彼女とのラブストーリーを丹念に描いた「まじわりについての考察〜田中君のモノローグ〜」はいいと思った。技量的には物足りないんだけど、描きたいものをちゃんと持ってそうな人という感じはするんで、描き続けていればそのうち技術は身につけてきそうな感じはする。まあ問題は続くかどうか。たぶんそこが一番難しい。