オス単:2002年12月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。

 日記形式だと、どうしても日にちが過ぎてしまうと大量の過去ログの中に個々の作品が埋もれてしまうため、このコーナーではダイジェスト的にまとめてみました。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則としてしませんので、普段日記を読んでくださっている方にとっては読む意味がないかもしれません。手抜きといえば手抜きなんですが、まあその点はご容赦ください。

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でもどんどん入れていきます。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、わりと省略しがちです。


▼強くオススメ

【単行本】「ラスト・ワルツ」 島田虎之介 青林工藝舎 A5 [bk1][Amzn]

 正直予想をかなり大きく上回る面白さだった。カッチリとしたコミカルな描線の作画が印象に残っていたんだけど、ストーリーのほうもかなり良かった。この作品は、最初は草サッカーチームのメンバーそれぞれが出会ったちょっと不思議なお話を描いた読切シリーズ的にスタートする。ブラジルで作られた伝説的なバイク、チェルノブイリに入った消防士の唯一の生き残り、アメリカにわたったバイキング、ガガーリンの陰で宇宙に行けなかった飛行士……と、扱われるモノゴトはさまざま。途中まではそれでずっと進むのだが、中盤で折り返し、各話の後日談的なことが始まってだんだんお話とお話が結びついていく。そして最後に向かうにつれ、それが一点に収束していく展開は見事で読んでてゾクゾクさせられるものがあった。一編一編も気が利いたホラ話として楽しめるんだけど、一見関係ないかに思われたお話同士が相互作用して面白さが倍増していく様子は快感。完成度の高いよくできた1冊。

【単行本】「マル被警察24時」 小田扉 実業之日本社 A5 [bk1][Amzn]

 無事単行本になってホッとした。マンサンで週刊連載されていた刑事モノの作品。1話4ページで全50話。最初は初の週刊連載ということでどうかと思ったが、最後までまったく息切れしなかった。最初は老刑事の赤山と、若くてちょっと抜けた黒川のコンビによるおとぼけギャグ漫画であった。それがしばらく続いた後、ラストに向かって15話分くらいはシリアスっぽい刑事ドラマとなっていく。序盤のお気楽展開は笑えるし、後半のシリアス展開がこれまたいいのだ。渋さの中にも飄々とした小田扉ならではの風味がある。そしてけっこう感動させられもしてしまう。最後のほうはとくに老警察犬のホルモンがいい味を出してくる。なんか見ていてすごく楽しい。小田扉の描く犬の表情はとてもいい。あと悪役であるマカナイと過原。これもシブい。連載当時、女性刑事「藤蜂子」のことをずっと「藤峰子」と勘違いしていたのも今となってはいい想い出だ。

【単行本】「strawberry shortcakes」 魚喃キリコ 祥伝社 A5 [bk1][Amzn]

 正直に告白すると、読み始める前は「そろそろこういうオシャレっぽいのにも食傷気味になってきたかな」とか思っていた。でも読み終えるころには「ごめんなさい、私が間違っておりました」と思うようになっていた。よくできてます、この作品。内容については、現代の東京で生きる4人の女たちの生き様を描くとでもいったらいいだろうか。それだけじゃなんの説明にもなっていないのだけど。4人といってもこの4人の人生が重なり合うのは、そのうちのルームメイト同士である2人についてだけで、あとはまったく別の暮らし。それぞれの立場で悩んだり、モノを考えて生きている。考えるのは仕事のことであったり、東京での居場所のなさについてであったり、好きだけど友達にしかなれない男のことであったり、自分は恋ができないことについてであったり。描かれているシチュエーション自体は、本当にごく平凡といってもよく、その痛み自体もよくあるモノではあろうけれども、それをすくい取る手つきの繊細さは見事というほかない。シャープでクリアな作画も実に効果的。やっぱり魚喃キリコはカッコよかった。

【単行本】「ヘウレーカ」 岩明均 白泉社 B6 [bk1][Amzn]

 カルタゴとローマの間に挟まれたシラクサ市が、カルタゴについてローマと戦う。その中でアルキメデスの発明がさんざんローマを苦しめていくのだが……。アルキメデス自身はすでに年老いてボケかかった時代のお話であり、物語は主にスパルタからの流れ者、ダミッポスの視点で語られる。アルキメデスの発明が次々とローマの軍を撃退していくさまが壮観で、まず読者をグッと物語に引き入れる。ところがその効果のあまりのデカさは無残な結果を生む。アルキメデスはボケているのであまり深刻さは漂わせていないけど、彼が望んでいなかった発明の使われ方、その大きすぎる効果、また彼がたどった運命などを照らし合わせると世の無常も感じたりする。1巻と短いけれども無駄がなく読後の余韻も深い、よくまとまった作品に仕上がっている。

【単行本】「ぼくトンちゃん」 いましろたかし エンターブレイン A5 [bk1][Amzn]

 ブタ仙人のもとで修行を続ける不器用な男と牛山とトンちゃんという小さなクマの日々を描いたお話。トンちゃんは意外とかわいくて作品全体はほのぼの。しかしラストあたりはいかにもいましろたかしという感じで、牛山の姿に哀愁が漂っていたりする。気楽に読めるけど余韻も案外深い。

【単行本】「いましろたかし[傑作短編集]クール井上」 いましろたかし エンターブレイン A5 [bk1][Amzn]

 いやあ素晴らしいですね、これは。いかにも人生やる気なさ気な人たちを描いていることが多いのだけれど、それぞれの作品がなんとも沁みる。とくにパチンコだけで年収600万円と人もうらやむ生活を送る「ダウナー打法!パチゴロマモちゃん」のマモちゃんが、胸の中に抱え続ける空虚、退屈なんかはリラックスして読めるのにずーんと来る重みもある。ある種のどうにもならない「人生」ってもののいたたまれなさ、やりきれなさとかが伝わってくる。深いな、と思う。

【収録作品】「ダウナー打法!パチゴロマモちゃん」「ドライブ」「釣れんボーイ習作 夏の思ひ出」「釣れんボーイ外伝 エサをやる」「釣りキチ三平」「猫対カラス」「おへんろさん」「非国民」「新世紀トコトコ節」「僕の会社訪問」「ゴッドドリーム」「クール井上」

【単行本】「ガタピシ車でいこう!!」3巻 山本マサユキ 講談社 B6 [bk1][Amzn]

【単行本】「六本木リサイクルショップシーサー」 山本マサユキ 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 今年の山本マサユキの躍進ぶりは著しいものがあった。「ガタピシ車でいこう。」の1巻が出たのが5月。それからあれよあれよという間にもう4冊目。気楽な作風に見えるけれども、以前コミティアのカタログ用にインタビューさせていただいたときに、そのプロ意識の高さに驚かされた覚えがある。実際ヤンマガ系列の本誌、別冊とすごく精力的に活動していて、自分の居場所をしっかりと作り出していく様子には目覚ましいものがあった。

 で、本のほう。「ガタピシ車でいこう!!」のほうは安定株。とか思ってたら次巻予告に「こいつで最後だ!!」の文字が。やっぱり風林火山(今回は火の巻)で終わらせてしまうのね。実体験をうまい具合にお話の中に溶かしこんだ作風は見ていて非常に楽しかっただけに、もっと続けてもいいかな〜という気はするが。なお3巻には読切「R2救急隊」と、単行本限定描き下ろし連載の「香奈ちゃんとFIAT500」も併録。「香奈ちゃんとFIAT500」のほうは、めきめきラブコメ度が高まっている。

 「六本木リサイクルショップシーサー」は、就職に失敗した青年がクセモノ揃いのリサイクルショップに店員として引きずり込まれ、いろいろな騒動に巻き込まれるというドタバタコメディ。慌ただしく展開するお話はとても楽しい。後半の展開はわりと急速なのでちょっと驚いたけど。あと、スーパーハッカーな女子高生、トト子ちゃんのサービスシーンも眼福。山本マサユキ描くところの女の子はたいへん良い。ガリガリ描き込んでいるわけではないけど、パッと目に飛び込んで来るキャッチーさがある。ちゃんと目立つように演出してるな、と思う。なお「香奈ちゃんとFIAT500」はこっちにも登場している。

【単行本】「皆殺しのマリア」1巻 作:TKD+画:竹谷州史 エンターブレイン A5 [bk1][Amzn]

 カッコイイなあ。常にイライラしているヴォーカリストのマリアが、怒りを歌に込めてブツケるも、状況はなかなか彼女に利することなくイライラは募るばかり。女性ヴォーカルを描いた作品の中で、これだけ主人公がパワフルでエネルギッシュなものはそうない。美人だが人相は悪く、行動はエキセントリック。歌う姿はエロティック。でもその才能がフェイクであるといわれたりするのもかなり異色。普通こういう作品の場合、主人公の才能がホンモノであることのほうが多いわけだが、そういった幻想はない。そういう面も彼女のフラストレーションを加速させるばかり。荒々しくて邪悪でエロティック。このアクの強いキャラクターがどういう道を歩んでいくのか、今後も注目。

【単行本】「教祖タカハシ」 ジョージ秋山 ソフトマジック A5 [Amzn]

 怪作……というか怪人だよなー、ジョージ先生は。物語のほうは、会社では窓際、家庭では妻と子供にハブにされ、心臓の具合も悪いショボくれた中年サラリーマンが、マンションの一室で人を教えている教祖タカハシの導きで救済されていくというもの。雁の舞という呼吸法というか踊りみたいなものの効果もあって彼は健康を取り戻していくんだけど、妻のドドミはずっと悪妻のままだし、不倫もドロ沼状態になっていくし救われているんだか救われていないんだかという状態。まあ本編の内容もほうも異様なんだけど、圧倒されるのは巻末に収録されているジョージ秋山のインタビュー。もう完全に酔っ払い状態。宗教の話してると思ったら突然「キャバクラの話に切り替えていい?」とか言い出すし、おしっこに行っちゃうし、途中で寝るし。神とは何かと聞かれて「神も仏も無えよっ!!」と答え、それに対し無いものをなんでみんな信じるのかと問われたら「「無いもの」って何が??」と返す。直前に自分がいったことさえまったく覚えてない。インタビュー中にレミーマルタン飲んだくれてるし、最後は男性編集者に対して腰を使い出すし、もう何が何やら分からない。「オレにブチ込まれたら終わりだよ。セックスの濃さを知らねえな!オリはな、…なんだか分かる?……麻薬だよ。」とまあ終始こんな調子。ハッキリいってこのインタビュー読むだけでも本を買う価値はあると思う。ジョージ先生、ヤバすぎる。こういう人だからああいう作品を描くんだなあ。


▼一般

【単行本】「花」 松本大洋 フリースタイル A4 [bk1][Amzn]

 劇団黒テントの公演用に脚本として描かれ、ペン入れしたものがビッグコミックスピリッツ1998年7/6号、7/13号に掲載、さらに雑誌掲載時のものに大幅な加筆・修正を施した本。やけに装丁がカッコイイなと思ったら、これ平野甲賀がやってるんですな。なるほど。

 内容のほうは精霊を呼ぶ舞のときにつけるための面を作る、「面打ち師」の家に生まれた兄弟の物語。兄のユリは天性の面打ちの才能を持つが外に出ることを拒否し家にこもり続け、弟のツバキは才能には恵まれないが兄に憧れなんとかそれに近づこうとする。しかし両者の間には超えられぬモノが確かに存在する。真っ暗な森、そこに潜む精霊たち、捧げられる舞、異形の面など、構成アイテムがそれぞれ非常に神秘的。内容自体は分かりやすいとはいわないけれど、表現の冴えにはいちいちハッとさせられるし、霊的なモノの描写には凄みもある。松本大洋の筆には淀み、濁りがなくてたいへんカッコイイ。

【単行本】「アイシールド21」1巻 作:稲垣理一郎+画:村田雄介 集英社 新書判 [bk1][Amzn]

 パシリで鍛えた超俊足を見込まれた少年・セナが、非常に横暴な先輩の蛭魔妖一によってアメフト部に引きずりこまれ、だんだんアメフトの面白さに目覚め男としても成長していくという物語。最近の週刊少年ジャンプの若手陣の中ではかなりの有望株で、実際絵はうまいし面白い。村田雄介は読切で掲載されたときから目を惹く存在ではあったけど、うまい具合に伸びて来ているなーと思う。ちょいときれいに洗練されすぎてるような印象もあり、ここからさらにブレイクしていくにはプラスアルファとなる何か過剰なモノがもう一つ欲しくはあるけれど、完成度が高いことは間違いない。とりあえず、ヒル魔以外にもアクの強いキャラがもっと出てくるといいなと思う。

【単行本】「茄子」3巻 黒田硫黄 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 これにて最終巻。最後まで飄々と鮮やかで、面白かったなあ。高い表現力、落ち着いた味のある雰囲気、変幻自在な構図取りなど、揺るぎない実力をしみじみと感じる。最終巻では例の茄子作ってるおっさんの周りを中心に、けっこう大人な事情もかいま見せて、ストーリー的にも深めてきた。このおっさんのエピソードだけ拾い読みしてまとめて一気に読むのも良さそう。そういう構成の単行本が1冊あってもいいかもしらんですな。本当に出したらあこぎな商売と取られそうだけど。

【単行本】「ジェット上司」2巻 ながしま超助 双葉社 B6 [bk1][Amzn]

 最後までパーッと華々しく馬鹿だった。爆笑した。1巻でバブル期から続いた長い眠りから復活した伝説の広告マン浅野Wだが、この巻ではリストラされてかつての部下だった斉藤の部屋に居候を決め込む。そして就職先として流れ着いた先が行列のできるラーメン屋。しかしここでもラーメンの修行なんかはすこぶるいい加減で、店主がラーメンバカで童貞であることにばかり注目。「巨乳ラーメン」構想といい、やることなすこととにかく下らない。なんでこんなに気持ち良くスコーンと抜けた馬鹿漫画を描けるんだろう。天性の才能であると思う。

【単行本】「ぷろぶれむちゃいるど」 高柳ヒデツ 大都社 B6 [bk1][Amzn]

 週刊少年チャンピオンで連載された「ぷろぶれむちゃいるど」に、読切「ア・ブ・ナ・イおねーさん!」と「しゃんぷうTAITO」の2本をプラスした単行本。「ぷろぶれむちゃいるど」は、実家がボロ道場を経営しているけど自分は弱っちいカンペーのところに、鍛錬は全然したことないけどメチャ強なまりやという、女装した女の子が転がり込んで来るところからスタート。んでもってカンペーのクラスメートには、園崎さんという彼のことが好きな空手少女がいて……といった具合。力強さとキュートさの共存する高柳ヒデツの絵は魅力的で、けっこう面白くなりそうだったのだが連載は中断。そんなわけでこの単行本についても尻切れ状態なまま。雑誌掲載分9話のうち収録されたのは5話分と、こちらも状態としてはいまいち。残念だー。

【単行本】「トゥルー・カラーズ」 さそうあきら イースト・プレス A5 [bk1][Amzn]

 全ページカラー。1話4ページの短編連載で、各話は色の名前がタイトルとなっていて、その色にちなんだショートストーリーを描いている。普通の赤、青、緑……といった扱いやすそうな色ではなく、例えばアイボリー、浅葱色、ターコイズグリーンなどを取り上げている。一見料理しにくそうな色も少なくないが、それぞれ鮮やかにお話をまとめあげる腕前はさすがと思わせるものがある。職人ですなあ。

【単行本】「私がいてもいなくても」3巻 いくえみ綾 集英社 新書判 [bk1][Amzn]

 これにて最終巻。ハキハキしてて一見みんなの人気者のようでいて、自分の存在意義を見出せない主人公の苦悩を描く……と書くとなんかすごい重苦しいな。でもまあそういう話ではある。主人公である晶子はなかなかこれといった定職を持てず、兄を溺愛する母の眼中になく、彼氏とは別れ、高校時代の同級生で今は漫画家をしている真希のアシスタントをするも、真希の彼氏である日山もからんで仲がこじれ……といった具合。やりたいこともできることも見出せないでいる宙ぶらりんの状態。というと非常に鬱々としているように聞こえるけれども、その重さを過剰には意識させずお話を進めていき、読む者を引かせることがない。技巧は冴えまくっているのに、作品としてのありよう、立ち姿はごく自然でなんとも感心するばかり。かっこつけてないのにカッコイイ。強烈にかまえたりしないしテンポがいいから抜群に読みやすく、描かれていることがスムーズに染み渡ってくる。

【単行本】「続 お父さんは急がない」 倉多江美 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 すごくのんびりしていていい。万年4段の囲碁棋士で、300年は生きたいと常々語っているのんびりした父親と、彼を見つめる娘さんやその家族の生活をゆっくり描いた作品。お父さんのあまりのゆっくりさ加減がほのかにおかしく、またちょっと羨ましくもある。描線もいい具合に枯れてて読んでいると非常にリラックスできる。


▼エロ漫画

【単行本】「どうにかなる日々」 志村貴子 太田出版 A5 [bk1][Amzn]

 マンガ・エロティクスFに掲載された「どうにかなる日々」全4話と「無毛信仰」に、麗人で掲載された「ハッピーなエンド」「先生のくせに」を加えた作品集。掲載誌からも分かるとおり、若干エロめなことも取り扱ってはいるものの、基本的にはいつもの志村貴子ペース。ちょっぴりヘンなモノゴトをスパイスにしてはいるが、概して平凡な日常を独自のリズムで描写。「どうにかなる日々」は夫と別れた元人妻が、居酒屋で出会った青年の家に転がり込んでそのまま居着いてしまう。まあ滅多にあることではないけど、だからといって世間的に大事件かっつたらそうでもない。志村貴子作品は万事この調子。激するでなくかといって沈み込むわけでもなし。淡々としたリズムで、ちょこちょこ心のどこか心地よい部分をくすぐりつつお話は進んでいき、最後は小粋に締めくくる。自分ならではのスタイルが確立されているし、テンポの良い語り口も小気味良くてたいへん読みやすい。

【単行本】「甘美少女」 おがわ甘藍 松文館 A5 [Amzn]

 最近の松文館の本は、例の逮捕事件以来、作品内容よりも修正のドギツさに目が行っちゃうようなモノが増えて来つつあったのでちょっと心配していたが、この本は意外にも修正が薄かった。引いたカットでのタテスジ程度だったら無修正なコマもあり。

 で、この単行本でもおがわ甘藍らしく、可憐な少女の肢体が非常にエロチックにねちっこく描かれていていやらしかった。声をあげるときにおもわず人差し指を下唇にあてたり、自分の髪を口に含むことで声をかみ殺すなど、なんかもう今どきの娘さんらしくないおしとやかな動作がたまらない。ほっそい身体をくねらせて、快感にたえる恥じらいのポーズがなんともエッチいのだ。線自体もまろやかさが増して来ているような。あとセリフの大仰さとかも独特の味がある。「時には(手が滑って)薔薇水晶の如き乳首に指が触れる事があってもこれ全て仕事熱心であるが故」とか。こういう男側のねちっこいセリフ回しが、少女たちの可憐さをさらに引き立てているような気がする。

 あとストーリー面では前中後編の3話構成の「チェンジング・ツアー」が良かった。ロリコンで少女たちをさんざん金で買っていた男が、その金の力で一週間限り、自分の人格を少女の身体に移し替えるという体験をするというものだ。つまり今まで犯す側だったほうが犯される側に回るという体験を描いているのである。「願わくば自分自身が少女になってしまいたい」という偏執的な欲望、そしてほろ苦い結末は、単純な「少女をやれて嬉しいな〜」といった作品とは一線を画している。「少女の身になって考えてみろ」というのを本当にやっちゃっている作品といえる。

【単行本】「いたずらスイッチ」 ほしのふうた 久保書店 A5 [Amzn]

 2002年はほしのふうたの単行本がいっぱい出た年だった。これが実に4冊め。どれもすごくかわいくていい本ばかりだったんだけど、これもまたいいなあ。とくに今回は表紙がとても良かった。いつものツルツルしたコート紙でなくて、和紙みたいなざらざらした触感の紙を使っていて暖かみがある。絵柄的にも、いかにもこの人らしい元気良さが出ている。収録作品についてはほしのふうたコミックスリストのほうに追加したとおりで、あまとりあ社の貧乳シリーズに収録された作品がメイン。楽しくて明るくてかわいくて元気良くて、そしてけっこうHでもあり。お話もいいと思う。とくに今回いいなと思ったのは「ゆきだるまのヨ〜デル」。動く雪だるまと女の子が楽しそうに遊ぶという内容のファンタジーをサイレント劇でやりつつ、Hなこともちゃんとしている楽しさにあふれた作品だ。邪気のなさとHさが、まったく違和感なく共存しててたまりませぬ。

【単行本】「おませなプティ・アンジュ」2巻 月野定規 ワニマガジン社 B6 [bk1][Amzn]

 いやー面白かったなあ。人間のタイスケの家に、翼をなくして天界に帰れなくなった天使のアンジュと、悪魔娘の麻耶が住みついて、そのうえさらにアンジュの召使のラヴィアンも加わり、呑気な日常生活が繰り広げられる。最初はアンジュのほうがヒロインだったのに、最後のほうでは麻耶がすっかり主役の座に。基本的には馬鹿漫画で、この巻でも「ナジカ電撃作戦」のパロとか突如やりだしたりするのだが、エロシーンも華やかかつ何気にけっこうエッチぃし、さらに後半に行くに従ってトロける甘いラブラブ風味もだんだん増してくる。何はともあれ麻耶がいいのだ、麻耶が。パッと見気が強そうで、わりとすぐぽーっとなってしまうお人好しさ加減がたいへんかわいらしい。表題作のほかに快楽天1999年7月号に掲載された「らぶ’ずみらくる」も掲載されているけど、この人はずいぶん絵が柔らかくなったなあと思った。

【単行本】「しりちち」 まぐろ帝國 富士美出版 A5 [Amzn]

 ときにぶっ飛んだ作品を描くまぐろ帝國の3冊め。エロ漫画的な作画力はけっこうなものがあって、汁気が多く押しも強い画風によるエロ描写は、けっこういやらしい作品を描けるだけのポテンシャルは感じさせるだけのものはある。ただこの人はギャグをやりたがりな人で、常に読者をなんとかして驚かしてやろうと企んでいる感じ。例えば今回の巻頭作である「魔法の萌エリスト リリカル☆リリンカ」なんかは、男子トイレでオナニー中の少女の前にいきなりマサカドの生首が現れて、彼女をエロエロでセーラームーンライクな魔法少女にしてしまうという、かなり唐突な展開。いちおう連作ではあるが終わり方も弾けている。とりあえず、常に「フツーのエロ漫画なんて描いてやるもんか」という意欲が感じられるのは買い。ただこの単行本に限っていえば、もう少し暴れてほしかったような気もする。

【単行本】「肉嫁」 みやびつづる 司書房 A5 [Amzn]

 こりゃまさにみやびつづるですなあ、と思うお話だった。この単行本は短編集でなくて続き物。みやびつづるに期待されている、人妻、熟女、調教……という要素がてんこ盛りで非常に濃密な世界。

 地方の横溝正史的世界にありそうな旧家で、なんかやけに絶倫の家長・富蔵が息子・一郎の嫁であるみつ子さん(および自分の妻)を激!色責め中。それを目撃していた息子の弟・光ニがそれに興奮して、いみつ子さんを自分のモノにしようと迫る。んでもってお話は親父譲りの絶倫である光ニのペースで巨乳人妻をねっちり調教……というのをメインに進んでいく。光ニは顔はもっさり、しかもデブ。たいへん垢抜けない田舎のにーちゃんといった感じの容貌なんだが、それがもうねっちりみっちり、暑苦しくエロエロに熟れた人妻を責めまくるわけだ。実は隠しキャラとしてロリ系のも一人いるけど、まあみやびつづるだけにそれはあくまで添え物。基本的には熟女責めを激しくいやらしく。ただお話としては一本調子で途中でダレてたりもするし、作者あとがきでも「お話が最後まで決まっていたので作業的になってしまった」みたいなことが描かれている。エロ責めのコアが巨根・ザ・グレートに集約されてしまっているので、やはり単調になってしまうのは否めないか。個人的には多人数責めとか媚薬とか羞恥プレイとか、そういう変化球ももう少し駆使してほしかったところではある。


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